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ようこそ絶望学園(前編)

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ようこそ絶望学園(前編)◆AJINORI1nM


 ドラえもんは、未来に帰った。
 朝、目が覚めると、ドラえもんはどこにもいなかった。
 机の引き出しも、タイムマシンなんてない普通の引き出しに戻っていた。
 ドラえもんがいないへやは、がらんとしていて、いつもより広く感じる。
 だけど、すぐになれると思う。
 涙なんて流さない。
 さみしくなんてない。
 ドラえもんがいなくたって、ひとりでちゃんとやれるんだ。
 約束したんだから。
 ひとりでちゃんとやれるって、ドラえもんと約束したんだから。

「起きろーッス。朝ッスよー。起きる時間ッス」

 だれかがぼくをゆすってる。
 だれだろう?
 聞いたことのない声だ。

「う~ん……」

 のび太が眠たい目をこすりながら体を起こす。
 いったいだれがぼくを起こしにきたんだろう、と部屋を見渡し、驚いた。

「………え?」

 目を開けると、そこは野比のび太の部屋ではなかったのだ。
 どこかのホテルだろうか。
 一般人にもそれと分かる、一級の内装が施されている。
 その一室にあるベッドの上に、のび太は眠っていたのである。

「ふ~、起きてくれて良かったーッス。
 もうすぐ学園長と凶育委員長から新入生の皆さんに挨拶があるんで、少しの間だけ待ってて欲しいッス」

「ペ、ペンギン!?」

「ペンギンじゃないッスよ。オイラはプリニーっス」

 のび太は目を丸くして、人語を話しプリニーと名乗るそれを見た。
 ベッドの横に立つそれはペンギンのような見た目をしている。
 しかし、ペンギンとは違い背中には蝙蝠のような小さな羽が生えており、
 腹部は中身が出てしまうのを防ぐかのように縫いつけられている。
 着ぐるみ、という言葉が似合いそうな外観をしているが、そうではない。
 大きさは小学校低学年よりも低く、中に何者かが入っているとは考えられないのだ。
 ならばこれは生物なのか。それとも遠隔操作されているロボットか、意思持つぬいぐるみか。
 何れ(いずれ)にせよ、のび太を起こしたのはこのペンギンもどき、プリニーであるようだった。

「んじゃ、これでオイラの役目は終わったんで帰るッス。さいなら~ッス」

「あ、ちょっと!」

 プリニーはそれだけ言うと姿を消してしまった。
 一瞬の出来事だった。
 少しだけ動いたかと思うと、次の瞬間には消えていたのだ。

「一体全体……何がどうなってるのさ………」

 のび太は部屋の中を改めて見渡した。
 テーブル、棚、ベッド、机と椅子。
 粘着テープクリーナーとメモ帳、ゴミ箱も備え付けてある。
 扉は二つあり、どちらか一方が外に続く扉で、もう一つがシャワー室か何かへと繋がっている扉なのだろう。
 壁にはテレビが埋め込まれており、電源が付いていない為、
 真っ暗な画面は部屋の中を反射する事しかしていなかった。

 ここまでならば、宿泊施設にあるような一般的な設備だ。
 何故このような場所で眠っていたのかと言う疑問を除けば、取り立てて変わっているような所は特に無い。
 しかし、明らかな異常が一つだけ。
 壁の一つ、その一面の数箇所に分厚い鉄板が打ちつけられていた。
 鉄板の位置からして、恐らくは窓に当たる場所を塞いでいるのだろう。

「な、何なんだよ……これ……」

 鉄板は大きな螺子(ねじ)で厳重に打ち付けられており、
 まるで牢獄に閉じ込められているような嫌な圧迫感をのび太に与えていた。

 目覚めれば見知らぬ部屋に居た。
 喋る奇妙な生物(?)。
 壁に打ち付けられた複数の分厚い鉄板。

 不思議な事なら今まで何度も経験してきたのび太であったが、
 それ等はドラえもんが関わっての出来事である。
 ドラえもんが帰った今となっては、そんな事、起こる訳がない。

「と、とにかく外に出なくちゃ……」

 二つある扉のどちらかは外に続いている筈だ。
 そうでなくては困る。
 外に出る為、まずは手前の白い扉を開けようとのび太が動き出したその時───

 『キーン、コーン…、カーン、コーン…』。

 ──学校のチャイム音が部屋の中に響き渡った。
 何の変哲も無い、極普通のチャイムだ。
 にも関わらず、妙な不安を感じるのは気のせいだろうか。

 チャイムが鳴り終わると同時に、
 部屋の壁に備え付けてあったテレビの電源が勝手に点いて、砂嵐の画面が映った。
 徐々に砂嵐の画面は鮮明になっていき、一つのシルエットが浮かび上がってくる。

「あー、あー…! マイクテスッ、マイクテスッ!」

 テレビから響いた、能天気な声。
 聞き覚えのある、懐かい声。
 まだ画面はちゃんと映っていないが、のび太がこの声を聞き間違えるはずがない。

「ドラえもん!!」

 画面から聞こえた声は、確かにドラえもんの声だった。
 画面に映るシルエットも、どことなくドラえもんに似ている気がする。
 なので、のび太はそのシルエットがドラえもんなのだと確信してしまった。
 きっとぼくをこんな所に連れてきたのもドラえもんの仕業に違いない。
 考えてみれば、しゃべるペンギンなんてドラえもんのひみつ道具でも無くちゃこの世に存在するわけがない。
 ほら、テレビがきれいに映ってきたぞ。

「大丈夫? 聞こえてるよね? えーっ、ではでは…」

 しかし、そこに映し出されたのは───

「新入生のみなさん、これより、入学式を執り行います」

 ──ドラえもんではなかった。
 奇妙な配色をしたクマのぬいぐるみだ。
 右半身が白で、左半身が黒。
 大きさはプリニーと同じくらいだ。
 画面後ろに舞台幕が映っているので、モノクマが居るのはどこかの体育館のステージの上なのだろう。

「失礼な! ヌイグルミじゃないよ!
 ボクはモノクマだよ!
 キミたちの…この学園の…学園長なのだッ!
 そっちの言ってることは全部聞こえてるんだからね!」

 画面に映るモノクマが突然叫んだ。
 当然、のび太は何も喋ってはいない。
 それなのにどうしてモノクマは叫んだのか。のび太には理解できなかった。

「だからさぁ…ヌイグルミじゃなくて……モノクマなんですけど!
 しかも、学園長なんですけど!
 もう、入学式なんだからオマエラ静かにしてよね。
 体育館にオマエラを集めて式を始めなくて、本当によかったとボクは思います。
 入学式はこのままで行うので、悪しからず」

 先程からモノクマは、『みなさん』や『オマエラ』と複数形でのび太に語りかけている。
 のび太と同じ状況の人物が他にも居るのだろう。
 しかし、のび太はそれに思い至らない。
 頭の回転が遅いせいかもしれないが、別の事を考えていたからだ。
 モノクマの声は、ドラえもんとそっくりどころか全く同じ声なのだ。
 だから、あのモノクマというのはドラえもんがどこかから操作している未来の道具に違いない。
 もう会えないなんて言ってお別れしたから、直接会いづらくてこんなまどろっこしい事をしているのさ。
 のび太の顔はにんまりと綻んでいる(ほころんでいる)。
 一生会う事はないと思っていたドラえもんと、また会える。
 そう思うだけで、心の中が温かい気持ちでいっぱいになった。

「ドラえもんったら、照れてるのか知らないけど、こんなことしなくったって直接会いに来れば──」

「ご静粛にご静粛に…えー、ではではっ!」

 のび太の声はモノクマの声によって遮られたが、気にはならない。
 入学式、とドラえもんは言っていた。
 多分、何か面白いことを始める気なんだ。
 たまにあるのだ。
 ドラえもんが未来の道具を使ってのび太を驚かせるという事が。
 今回のこれも、そういうものなのだろう。

「起立、礼! オマエラ、おはようございます!」

「おはようございますっ!!」

 だったら、とことん付き合おう。
 せっかくの再会なんだから、楽しまなくちゃ損だ。
 のび太は笑顔を浮かべて元気よく挨拶を返す。

「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います!
 まずは、凶育委員長から、オマエラに向けてお言葉があります。
 それでは凶育委員長、お言葉をどうぞ!」

 モノクマの言葉と共に、カメラが移動する。
 誰か、この映像をカメラで撮影している者が居るようだ。
 カメラはステージ右側から歩いてくる、いかにも教育者然とした女性を映している。
 左右に結んだ金髪を、大きく縦巻きにしたロールヘア。
 アーチャー族の伝統衣装に身を包み、手には教鞭を握っている。
 両の耳は、人間離れした尖り方をしていた。

 “変わった人だなあ”、とその女性の両耳を見ながらのび太は思った。

「学園長より紹介を預かりましたが、アタクシが悶侮省、由緒まがまがしき凶育委員会の委員長ざます。
 まずはみなさん、この酷立絶望学園へのご入学、おめでとう、と言っておくざます」

(なんだかスネ夫のママみたいな人だなあ。それに絶望学園なんて、変な名前の学校)

 凶育委員長は一呼吸置くと、どこか憂いに満ちた表情で話を続けた。

「アタクシは、昨今の凶育現場の現状を嘆いていたざます。
 凶師の質は年々落ちていき、それに比例するかのように、これからの社会を担う生屠達もどんどん腑抜けていく一方。
 凶育者として、凶育委員長として、これは見過ごせない由々しき事態ざーます!
 アタクシの夢は、いつか必ず不良を一人残らず無くして、全生屠を優等生にして社会に羽ばたかせること。
 改造手術で無理矢理にでも不良生屠を優等生に変える、ということもしてきましたが、
 それは塩味のコーヒーに砂糖を入れるような行為と、とある無免許凶師に言われてしまったざます。
 そして凶育委員会を潰され、失意に打ちひしがれていたアタクシが出会ったのが、ここにいらっしゃるモノクマ先生ざます!!」

 言われてモノクマが、“いや~、照れますな~”、と頬を赤らめて頭を掻いた。

「生屠達自らが優等生になりたいと思うような凶育でなければ、
 いくら改造手術を施したところで、第二第三の不良が生まれるだけ。
 生屠の自主性を伸ばさなければ、真の優等生と言う事はできない。
 モノクマ先生の凶育論に、アタクシは感激したざます。
 この方を凶師に迎えれば、手のつけられない不良共を必ずや優等生へと生まれ変わらせることができる!
 そう確信したからこそ、凶育委員会は総力を挙げて、この絶望学園は設立するに至ったんざます!!」

 凶育委員長の弁からは、彼女が凶育に向ける並々ならぬ熱意が伝わってくる。
 凶育者としての使命感に燃える彼女を止めることは、最早誰にもできないだろう。

「モノクマ先生の指導を受ければ、
 どんな不良もどうしようもないクズでさえ、
 優等生としてこの学園を卒業できるざます!
 ……アタクシからは以上ざます」

 五分と続かない演説だったが、校長のお話やら来賓のお言葉やら、
 そういったものが非常に苦手なのび太にとっては、眠りこけるのに充分な時間だった。

「……………」

「コラーッ!! 寝るんじゃない!! まだ式の途中だぞ!!」

「うわあっ!」

 テレビから発せられた大声に驚き、のび太は目を覚ました。
 居眠りをして起こされるのは、いつもの事である。

「さてさて、入学式はこれにて終了です。オマエラ、お疲れ様でした」

 式の途中と言った直後に式の終わりを告げる。
 なんともふざけた学園長である。
 しかし、モノクマとは、こういう性格をしているのだ。

「それじゃあ、入学式も終わったことだし、授業の説明に移りたいと思います。
 オマエラはこの絶望学園に入学したわけですが、入学したからには、
 もちろん“卒業”してもらわなければなりません。
 そのためには授業を受けて、良い成績を取らなければ卒業することはできません」

 授業と聞いて、のび太は暗い気持ちになった。
 良い成績を取るとか、優等生だとか、そんなものはのび太とは無縁の話であった。
 遅刻忘れ物は当たり前で、どのような科目であろうとテストで0点を取ってしまうおちこぼれ。
 いや、“おちこぼれ”どころか、
 先程凶育委員長が言っていた“どうしようもないクズ”にのび太は該当してしまうかもしれない。
 良い成績を取らなきゃ卒業できないなんて、ぼくには無理だよ……。

「心配しなくても大丈夫、大丈夫。たった一つの授業を受けるだけで卒業できるからね。
 なんてちょろい学校なんでしょう!
 オマエラ、良かったね」

 授業の数が一つであろうと、のび太に得意科目というものはない。
 心配するなと言われても、不安が拭い去られる事はなかった。

「えー、ではでは…肝心の授業内容ですが……」

「ちょっと待ってもらえるかな?」

 と、突然の声がモノクマの言葉を遮った。
 女性の声だが、凶育委員長のものではない。
 カメラが動き、声を発した人物を画面に捕える。
 そこに立っていたのは一人の女性。
 女性の後ろには、背中だけしか映っていない男性の姿があった。

「な、何者ざますか!?
 今は授業説明の最中ざますよ!!」

「何者かって? そうだね……僕のことは親しみを込めて、『あんしんいんさん』さんと呼びなさい」

 『あんしんいん』と名乗るその女性の姿は、正に異様の一言に尽きる。
 顔つきは若く見えるのに、髪は色素を全て失っており雪よりも白い。
 巫女装束を身に纏い、腕を胸の前で交差させて微動だにさせていない。
 いや、微動だにできないと言うのが正しいのだろう。
 のび太の部屋の窓を塞ぐ鉄板でも留めるのに使うような巨大な螺子が、
 まるで彼女の内から湧き上がる何かを押さえつけるかのように、
 安心院さんの腕に、脚に、体に突き刺さっているのだ。
 腕に突き刺さる螺子によって、彼女の交差する腕は体に縫い止められてしまっている。
 何故か左腕だけは螺子によって体と繋ぎとめられていないようだったが、
 そんな事は見た目のインパクトにとって些細な事でしかなかった。

「あんしんいんさん?
 その安心院さんが、一体全体何のご用?
 絶望学園に入学希望の方ですか?」

「入学希望者でも転校希望者でもないよ。簡潔に言わせてもらうと、うちの生徒を返してほしいんだ。
 めだかちゃんがうちの学園から居なくなるのは別に良いんだけど、いや良くないのかな?
 まあそれは置いておいて、少なくとも赤さんは必要な人材だからね。
 取り戻しに来たってわけさ」

「取り戻す?
 ダメダメ!!
 もう入学式は終わったし、そのめだかちゃんも赤さんもこの学園の大切な生屠さんです!!
 連れ戻させたりなんてさせないよ!!
 ボクは学園長として、学園の生屠達を守る義務がある!!」

 モノクマはまるで熱血教師のように叫んだ。
 正義はこちらにあると言わんばかりの態度だ。

「勝手に拉致して勝手に監禁して本人の意思もなく勝手に入学させておいてそりゃないぜ。
 僕だってそんなことをしたことは、一度だってないのにさ。
 だけどそっちがそういう態度なら、こっちも勝手に連れ戻させてもらうとするよ」

「無駄ざます!!
 うちの可愛い生屠達を連れ出すおつもりなら、アタクシとPTAを倒してからにするざます!!
 生屠達には指一本触れさせないざますよ!!」

「凶育委員長……」

 凶育委員長は学園の生屠を誘拐しようとする賊を討ち果たさんが為、
 凶育に燃える眼差しで安心院を鋭く睨みつけている。
 モノクマはその姿に感動したように瞳を潤ませて、凶育委員長を見つめていた。

「PTAの皆様っ! 出番ざます!
 学園を脅かす侵入者を処分するざます!!」

 凶育委員長がPTAに収集を掛ける。
 しかし、いくら待ってもPTAらしき人物は現れない。
 凶育委員長の顔に焦りが出始めた。

「PTAの皆様!? どうして誰も来ないざますか!?」

「PTA?
 パーフェクト・ターミネイト・エージェントの連中なら、
 さっきちょちょいとのしてきたばかりだから、
 永遠にここには来ないと思うぜ?
 七千九百三十二兆千三百五十四億四千百五十二万三千二百二十二個の異常性(アブノーマル)と、
 四千九百二十五兆九千百六十五億二千六百十一万六百四十三個の過負荷(マイナス)、
 合わせて一京二千八百五十八兆五百十九億六千七百六十三万三千八百六十五個のスキルを持つ僕にかかれば、
 これくらいの芸当は朝飯前さ。実際、まだ朝飯前の時間だしね。
 おっと、今は異常性(アブノーマル)を一つ貸してあるから
 一京二千八百五十八兆五百十九億六千七百六十三万三千八百六十四個のスキルだったぜ。
 こりゃまた失敬」

「ま、まさか……! そんな嘘に、アタクシは騙されないざます!」

「た、たた大変なことになったッスー!!」

 驚愕の表情を浮かべる凶育委員長の許に、一匹のプリニーが大変慌てた様子で駆け寄って来た。

「何事ざますか!?」

「ピ、PTAの方々が何者かによってやられてしまってるッス!! PTAは全滅ッスー!!」

「なんですって!? そんな……、あぁ……」

 凶育委員長はプリニーの報告に余程のショックを受けたらしく、
 額に手を当てふらりとその場に倒れてしまった。

「むぎゅぅ」

 床に倒れると痛いので、プリニーの上に倒れ込む。
 プリニーは凶育委員長と床の板挟みになって潰れているが、プリニーだし問題ないだろう。

「ああ、凶育委員長……!!
 ……よくも……よくも委員長を……!
 許さないぞ!!
 このボクが相手だ!!」

 叫んだモノクマは舞台から跳躍すると、安心院と対峙する。
 安心院を睨みつけるモノクマではあったが、その体表には冷や汗らしきものが流れていた。
 対する安心院は涼しげな表情でモノクマを見つめ返している。

「目の前の悪の迫力に…正直ブルッてるぜ。
 だ、だけどなぁ…。
 ボクは悪に屈する気はない…最後まで戦い抜くのがモノクマ流よ…。
 どうしてもうちの生屠を連れ出そうっていうなら…。
 ボクを倒してからにしろ──ッ!!
 生屠達の為、そして凶育委員長の為にも、ボクはオマエに負けたりなんかしない!!」

 額に青筋を立て、キラーンと手から爪を出し宣言すると、テトテトと安心院に向かって突進する。
 だが、その短い手足をいくら動かしたところでモノクマの突進の速度など高が知れていた。
 安心院の許に辿りついた瞬間、簡単に足踏みされて動きを封じられてしまう。
 モノクマは安心院の足の下で手足をばたばた動かすことしかできなくなった。

「ぎゅむ…!」

「これで満足かな?」

「ギャー! 学園長への暴力は、校則違反だよ~ッ!?」

「いや、ウチここの生徒やないし」

「…………………」

「ん?」

「…………………」

 モノクマは押し黙るとぴくりとも動かなくなった。
 代わりに、モノクマから不気味な機械音が、間隔を開けて定期的に発せられるようになる。
 その機械音の間隔は、時間が経過するとともに速く短くなってゆく。
 異変を察した安心院がモノクマを体育館の中空へと投げ飛ばした次の瞬間。
 モノクマは爆炎と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
 内部に爆弾でも仕込まれていたのだろう。
 もしも安心院がモノクマを投げ飛ばしていなければ、爆発に巻き込まれ、最悪死亡していたかもしれない。
 しかし、一京を超えるスキルを保有する安心院にこんな爆発が効くかどうかは疑わしいのだが……。

「ふぅ。危ないところだったぜ」

「ほんとほんと。ボクが手加減してなかったら、オマエ今ので死んでいましたよ」

 先程爆発した筈のモノクマの声が体育館内に再び発せられた。
 声の許を見てみれば、そこには傷一つないモノクマがステージ上に立っている。
 同じような作りの個体が他にいくつも用意されていたのだろう。

「ふーん。で、モノクマくんだっけ? 君は一体何匹居るのかな」

「六百匹……じゃなくて七億匹だぜ。
 まあつまりぶっちゃけ、冗談だぜ。
 でも、モノクマは学園の至る所に配置されているから、安心してね。安心院さんだけに」

 モノクマはふざけた調子で安心院に返答する。
 元々モノクマにまともな答えなど求めていなかったのか、
 “そうかい”と一言だけ告げると、安心院は踵を返して体育館の入口へ向けて歩き始めた。

「あれれ? どこに行くつもり?」

「言っただろ。僕はうちの学園の生徒を取り返しに来たのさ。
 だから、今から生徒を迎えに行くところだよ。
 ここに寄ったのは、うちの生徒に手を出したのがどんな奴かを見に来ただけってところかな」

「おやおや。これはいけません。いけませんなぁ……。
 学園への不法侵入の罰を、まだお二方には受けてもらっていませんよ?」

「そんなものを受ける義理も義務も僕達にはないぜ」

「甘い!! チョコラテのように甘い考えです!!
 そんなんだからオマエは凶育者として三流以下なのです!!」

 モノクマの声を受けて、安心院は歩を止め振り向いた。
 少しだけ冷やかな目線でモノクマを見つめる。

「当然だよ。僕は凶育者じゃなくて創設者なんだからね。
 というか、その口ぶりからすると、もしかして最初から僕の事は知っていたのかな?」

「生屠の家庭環境や周辺の事情を把握するのは当然の事でしょ?
 その資料の中に、オマエのこともあったんですねぇ。うぷぷぷぷ……。
 この学園では、校則は絶対の掟なのです。許可なく学園に侵入するのは、校則違反に当たります。
 そして学園の敷地に入ったからには、学園のルールに従ってもらいます!
 郷に入っては郷に従えって言うでしょ?」

「それで?」

「えー、テレビの前の生屠諸君!
 校則を破る者を発見したその時は、お尻ペンペンレベルの体罰じゃ済まないからッ!」

 安心院には返事をせず、カメラに向き直ったモノクマは生屠達へ向けてメッセージを送った。
 そして心底愉快そうな顔を作り、高らかに“おしおき”の始まりを宣告する。

「今回は侵入者である安心院なじみ(あじむ なじみ)さん、不知火半纏(しらぬい はんてん)クンの為に、
 スペシャルなおしおきを用意させていただきましたぞっ!!」

 モノクマの言葉と共に、床から赤いボタンが迫り上がって来た。
 いつの間に取り出したのだろう。
 モノクマの手には裁判官が使うような木槌が握られている。
 その木槌を大きく振り上げると、迫り上がったボタンへ向けて勢いよく振り下ろした。
 “おしおき”と言う名の処刑が始まるのだ。



 『超高校級の見せしめ用おしおき』


「やれやれ。何が始まるって……」

 口を開いた安心院であったが、その言葉を最後まで良い終える事はできなかった。
 どこからか飛来した金属製の首輪が彼女の首にしっかりと装着され、
 首輪に繋がれた鎖が凄まじい勢いで引っ張られたのだ。
 不知火半纏の首にも同様に首輪が嵌められ、安心院なじみと同じ場所へと引き摺られていく。



 『ぶー子あやうし! 大怪獣襲来!』

 二人が辿りついた場所は学園のどこかなのだろうか。
 魔天楼が立ち並ぶ街中で、
 巨大なモノクマがまるで怪獣映画のようにビルを破壊しながら二人に近付いてくる。
 二人の周りはビルで隙間なく埋め尽くされており、逃げ場など無い。
 と、そこへ空からプリンセスぶー子が飛来してきた。
 外道天使☆もちもちプリンセスの主人公である。
 そのぶー子が、巨大モノクマから町を、人々を守る為に二次元の世界からやってきたのだ!
 戦闘を開始するぶー子と巨大モノクマ。
 戦いは激しさを増していき、一進一退の手に汗握る戦いとなっている。
 ぶー子とモノクマの戦場は徐々に移動していき、安心院と半纏の居る場所へと近づいてくる。
 逃げ場のない二人の許へ、とうとうぶー子とモノクマがやって来てしまった。
 戦闘に巻き込まれた二人はぶー子とモノクマの双方から殴られぼこぼこにされている。
 ぶー子もモノクマも、次の攻撃で勝負を終わらせるつもりだ。
 双方の放った必殺ビームを悪平等の二人がもろに食らったところで、画面に砂嵐が走った。

 『悪平等inファイナルステージ』

 画面の砂嵐が収まると、場面が移り変わっていた。
 アイドルが踊るような舞台で二人は踊らされている。
 舞台は巨大なトラバサミになっており、完璧なステージを披露しなければトラバサミが閉じてしまうのだ。
 殴られ、必殺ビームを受けぼろぼろの二人であったが、流石は悪平等といったところか。
 安心院は当然のように華麗な踊りと歌を披露。
 半纏も、審査員に背中を向けながら完璧なバックダンサーとして踊りきった。
 採点の時はきた。
 一点、二点とステージ右端の採点ランプが下から順に点灯していく。
 二十点で合格だが果たして……。
 十八点……十九点……。
 後一点で合格というところで、モノクマが登場!
 ランプが破壊されてしまっため二人は見事不合格に!
 不合格が決まると同時にトラバサミは閉じられ、また場面が移って行く。



 『スーパー・悪平等・ブラザーズ』

 画面は8ビットの世界を映し出している。
 ドットのキャラクターになってしまった悪平等の二人は、
 横スクロールアクションのような画面をひたすら走る。
 半纏はプレーヤーに背中を見せながら蟹のように移動している。
 頑張ってゴールを目指す二人だったが、そんな二人の目の前からドットモノクマの大群が押し寄せてきた。
 敵に当たったらゲームオーバーだ!
 モノクマを避けようとする二人だが、画面狭しと押し寄せるモノクマを避ける術は存在しない。
 大量のモノクマによって、二人は画面の外へと押し流されてしまった。



 『はじめてのイタズラなチュウ』

 二人が放り出されたのは真っ暗闇の空間だ。
 周りを見渡してみると、遠くに白馬に乗った王子様が居るではないか。
 王子様へ向かって駆け出す二人。
 もうすぐ王子様の許へと辿りつける、
 というところで二人の目の前にモノクマが運転する巨大なローラーが出現した。
 慌てて引き返す二人だったが、時すでに遅し。
 唸りを上げるローラーに二人は巻き込まれてしまった。
 ローラーが通り過ぎた後には地面にうつ伏せで倒れる二人の姿が!
 ぺらっぺらの紙みたいにならなくて良かったね!



 『人外★失格』

 奈落へと落ちて行く二人。
 落ちたところは巨大なゴミ箱の中。
 なんとか這い出した二人の前に広がるのは、西洋の町並みだった。
 汚れた浮浪者のような二人へ向けて、小学生風のモノクマ集団が一斉に石を投げつけてきた。
 これにはたまらず二人は逃げ出した。
 しばらく走り振り返ると、追ってくる者は誰もいない。
 ほっとしたのも束の間。
 街並みが舞台のように回転すると、雪の降る街並みへと転じてしまった!
 それに伴い気温も急激に下がり、二人の動きは一気に鈍くなる。
 寒さと痛みに凍える二人は、血を吐いて雪の上に倒れ込んでしまった。



「な……なんだよ……これ……」

 適温に調節された部屋でテレビを見つめるのび太の顔は青ざめている。
 画面に映る二人は度重なる“おしおき”でどんどん傷付き、衰弱していた。
 こんなものを見せられたって、全然楽しくも面白くもない。
 目を逸らしたいのに、何故か画面から目を話す事ができなかった。
 “こんな事やめてよドラえもん!!”。
 心の中で叫ぶが、“おしおき”はまだまだ続いて行く。

 『安心院なじみ大統領、不知火半纏首相就任パレード』

 安心院と半纏は、一九六一年式のリンカーン・コンチネンタルをオープントップ改造した、
 パレード専用のリムジンに乗っていた。
 新たに就任した大統領と首相を祝う豪華なパレードが行われているのだ。
 “安心院大統領万歳!”。
 “不知火首相万歳!”。
 そんな言葉が書かれたプラカードを持つ群衆が、二人に声援を送っている。
 しかし、国家元首のパレードで何も起こらない筈がない。
 群衆の声援に応える二人に向かって、二発の銃弾が放たれた。
 銃撃を受けてうずくまる二人。
 二人を狙撃したのは一体誰だ!
 リムジンの場所から数百メートル離れた地点に、
 スナイパーライフルを携えて立ち去る一匹のモノクマの姿があった。
 眉毛は太く、葉巻をくわえた渋いモノクマだ。
 その姿は、まるで伝説の殺し屋のようであった……。



 『銀河まるごと超決戦』

 荒野のただ中に悪平等の二人は立っている。
 何もなかった二人の周辺に、名のある武術家のモノクマ、武将のモノクマに戦士のモノクマ。
 果ては気を操る宇宙人のモノクマまでが現れ二人に襲い掛かる。
 戦わなければ生き残れない!
 ぼくらは戦うことを強いられているんだ!
 次々と襲い来る強敵難敵を、満身創痍でありながら二人はかろうじていなしていく。
 だが、倒しても倒しても新たな敵が現れる。
 どんどん現れる。
 じゃんじゃん現れる。
 やがて、敵ですら見動きが取れない程ぎゅうぎゅう詰めになり、
 二人は大量の敵に圧迫され押し潰されてしまった。



 『ウォーター・イリュージョン・ショー』

 お次の舞台は水槽の中。
 綺麗な水の中を二人は漂っている。
 と、そこへ手品師の恰好をしたモノクマが登場。
 水槽の上に飛び乗り手に持ったステッキを振るうと、水槽に幕が下りた。
 鳴り響くドラムロール。
 その音が終わると同時に幕が上がる。
 するとどうでしょう。
 水槽の中には悪平等の二人の他に、サメの大群が加わっているではありませんか。
 驚愕する悪平等をよそに、再びモノクマがステッキを振るい水槽に幕を下ろす。
 そして再び鳴り渡るドラムロール。
 さて、手品は成功するのでしょうか。
 ドラムロールの終わりと共に勢い良く幕が上がった。
 なんということでしょう!
 水槽の中には悪平等の二人の姿がないではありませんか!
 しかも、水槽の水が青から赤に変わっています!
 素晴らしい!
 手品は大成功です!!
 自慢げなモノクマに向けて、観客から盛大な拍手が湧き起こった。



 『クイズ! 三割の確率で聞きました!』

 クイズ番組のセットが用意されており、奥にはABCの三つの扉があります。
 頭上には“三分の一の確率で処刑!”の文字が。
 どうやら三つの扉の内、一つだけ処刑の扉があるようです。
 扉に向かう悪平等の足取りは非常に重い。
 安心院さんは、手品の影響か左腕の肘から先が無くなっています。
 不知火クンの右手も半ばから消失しています。
 手品ってすごいですね。
 さてさて、ようやく三つの扉の前に到着した二人ですが、どうやらAの扉を選択したようです。
 と、次の瞬間!
 Aの扉に足が生え、走って逃げてしまいました。
 逃げてしまったものはしょうがない。
 今度はBの扉に手を伸ばします。
 と、次の瞬間!
 Bの扉にも足が生え、Aの扉同様逃げてしまいました。
 二人の前にはCの扉が立ちふさがっています。
 いやいや、それはないだろうと首を横に振る安心院さんですが関係ありません。
 中々開けてくれない二人に痺れを切らしたCの扉が勝手に開いたかと思うと、
 中から巨大な口が飛び出し二人を飲み込んでしまいました。
 もう画面にはCの扉しか映っていません。
 いよいよ、お次が最後の“おしおき”となります。

 『補習』

 長大な教室。
 机と椅子に囲まれた教室の真ん中でベルトコンベアーが動いています。
 ベルトコンベアーの行きつく先では、巨大なプレス機が稼働しており、定期的にベルトコンベアーの上をプレスしていました。
 ベルトコンベアーの上には机と椅子が二脚ずつあり、そこに安心院さんと不知火クンが背中あわせに座っています。
 別に縛られているわけでも拘束されているわけでもありませんが、授業中的呪縛により二人は見動きがとれません。
 そんな二人に向かって、教卓カーに乗ってやってきたモノクマ先生がやってきました。
 黒板には『プレス機』について書かれています。
 歯車で巻き上げた巨大な金属の塊を、下に落として物体をぺちゃんこにするのです。
 黒板の右下には、今日の日直である安心院さんと不知火クンの名前が書いてありました。
 不知火クンは相変わらず先生に背中を向けっぱなしですが、モノクマ先生は気にしていません。
 さあ、モノクマ先生による補修が始まりますよ!
 二人が学ぶのは『生命の始め』です。
 排卵、受精、着床という三段階を経て生命は誕生するのです。

 プレス機が鉄塊を落とす重苦しい音が、嫌でも二人の耳に入ってくる。
 耳にプレス機の音が入って来る度に、床が振動しプレス機の威力を二人に伝えていた。
 今まで何回思いを巡らせただろうか。
 安心院のいかなるスキルも、このおしおきを脱するには無力だった。
 腑罪証明(アリバイブロック)による空間移動も発動せず、その他のスキルもことごとく効果を発揮しない。
 もしかしたら、スキルを無効化するスキルを使われているのかもしれない。
 だが、安心院には“スキルを無効化するスキルを無効化するスキル”があり、
 それを無効化されたとしても“スキルを無効化するスキルを無効化するスキルを無効化するスキルを無効化するスキル”……
 と、無効化を無効化するスキルを持っている為無意味な筈だった。
 それなのに、安心院のスキルはどれも効果を発揮する事が無い。
 一京を超えるスキルを持ちながら何もできない状況で、彼女達悪平等は何を思っているのだろうか。
 まあ、何を思っていようとおしおきは恙無く(つつがなく)進められるんですけどね。

 補習も終盤に差し掛かってまいりました。
 最後に学ぶのは『生命の終わり』です。
 始まりがあれば終わりがある。
 当然の事ですね。
 さて、生命の終わりとはいったいどういうものなのでしょうか。
 圧死、撲死、焼死、毒死、凍死、溺死、憤死、斬死、餓死、病死、窒息死、感電死、自死。
 色々ありますね。
 さてさて、二人が迎える終わりとは?



 ───ずん。
 テレビから、重い重い音が響いた。
 画面に映るプレス機の周りには赤い血が飛び散り、辺りにグロテスクな模様を描いている。

「嘘だ……こんなの……嘘だよね?」

 そうだよ。ドラえもんがこんな事するわけないじゃないか。
 ほら、プラカードを持ったモノクマがプレス機に近付いて行くよ。
 きっとあのプラカードには“ドッキリ大成功!”の文字が書いてあるはずさ。

 悪平等の二人を押し潰した鉄の塊が持ち上がり、その下をモノクマが覗き込んだ。
 汗を掻きながらカメラに向かって振り向いたモノクマがプラカードを翻す(ひるがえす)。
 そこに書かれていたのは、のび太の淡い希望を打ち砕く“死亡確認!”の文字。
 これで、侵入者へのおしおきは終了した。
 画面は暗転すると、再び体育館を映し出す。


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行動開始 野比のび太 ようこそ絶望学園(後編)
行動開始 安心院なじみ ようこそ絶望学園(後編)
行動開始 不知火半纏 ようこそ絶望学園(後編)
行動開始 ドラえもん ようこそ絶望学園(後編)
行動開始 モノクマ ようこそ絶望学園(後編)
行動開始 凶育委員長 ようこそ絶望学園(後編)

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