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ようこそ絶望学園(後編)

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ようこそ絶望学園(後編)◆AJINORI1nM


「いやっほうっ!! エクストリ───────ムッ!
 アドレナリンがぁ───染み渡る───ッ!!」

 体育館のモノクマは、酷く興奮しているようだった。

「うっひゃっひゃっひゃ!
 ぶっひょっひょっひょっひょ!!
 そう言えば、一京なんちゃら個のスキルを持ってるなんて言っていましたねぇ。
 そんなもの、全然意味無いのにドヤ顔で語っていましたねぇ。
 笑っちゃうよねーッ!
 時を止めるだとか、全ての攻撃を反射するとか、
 万象、宇宙の理を操り、永劫の回帰を繰り返すとか、そんなスキルも持っていたのかな?
 なんなんでしょうねそれ。なんで、どうしてそんなに小賢しいんでしょう。
 弱いから、つまらないから、物珍しげな設定をひねり出して、頭が良いとでも思わせたいの?
 せせこましい、狡猾すからしい、理屈臭く概念概念、意味や現象がどうだのと、呆れて物も言えないよ。
 そんなもので、卵を立てた気にでもなってるの?
 能力に名前? 馬鹿臭い。
 力を使う時の危険要素? アホじゃなの?
 質量の桁が違えば相性に意味なんてないし、使用に危険を伴う力なんてただの使えない欠陥品じゃない。
 少し考えれば幼稚園児だって分かる事を、自分の矮小さを誤魔化すためにみっともなく誤魔化してるんだよね。
 絶望が足りない。怒りが足りない。強さにかける想いが純粋に雑魚なんだよ。
 能無しのくせに、クマを素手で撲殺する程度の膂力もない分際で、際物めいた一芸さえあれば山さえ崩せると迷妄に耽ってさ。
 そんなもの無駄無駄無駄ッ!
 徹頭徹尾最強無敵! 誰であろうと滅尽滅相!!
 力、ただ力!
 レベルを上げて物理で殴ればそれで充分、特殊な能力なんて何も要らない!
 必要ないんだ白けるよ!!
 これをつまらないなんて思うなら、それは、その人がつまらないだけなのです!」

 ここまで言い切り満足したのか、ご満悦の表情でふぅー、と一呼吸入れる。
 が、次の瞬間にはモノクマの顔は怒りを滲ませた表情に変わり、先の言葉に短くこう付け加えた。

「ただしラスリベ、テメーはダメだ。
 ボクは怒りの日を決して忘れない」

 何に対する怒りなのか、えらくどすの利いた声であった。

「あ、そうそう。安心院さんには言い忘れてたけど、
 実はボクことモノクマには、超魔王プロテクトが施されちゃったりしています。
 更に、超魔王カルトも積まれているんですね~。
 ………え? なぁに? 超魔王プロテクトの事、知らないの? 本当に?
 しょうがないなあ。じゃあ、特別にどんなものかを教えてあげるね」

 超魔王プロテクトと超魔王カルトについての説明を、モノクマはもじもじしながら語り始める。
 きっと、自慢したくて仕方なかったのだろう。

「超魔王プロテクトは、一回だけあらゆる攻撃を無効にしてしまいます。
 ですので、核攻撃だって、一回だけならへっちゃらです。
 超魔王カルトは、超魔王カルトを持つ仲間の数だけ、超魔王プロテクトの効果を持続させてくれる優れ物です。
 ここまで言えば、後はもうわかりますね?
 そうです! ボクに対する攻撃は、モノクマの数だけ無効となるのです!
 どうです? すごいでしょう?」

 モノクマはそう言って、えっへんと体を逸らしている。
 力こそ全て、特殊能力なんて馬鹿馬鹿しいと散散言っておいてこれである。
 ふざけているとしか言いようがない。
 実際、ふざけているのだろう。
 自分が面白ければ、他はどうだっていいのだ。

「うぅん……」

「あ、委員長。気が付かれましたか?」

 プリニーに介抱されていた凶育委員長が、ここでようやく目を覚ました。
 辺りを一度見渡してから、モノクマに問いかける。

「……あら? 先程の侵入者は、どうしたんざますか?」

「ご安心ください。今し方、おしおきを実行したところです。PTAの皆様の仇は討ちました!」

「まあ! 流石はモノクマ先生ざます! ナガレイシざます!
 あなたを凶師として迎え入れたアタクシの目に、狂いはなかったんざますね!」

「当然ですよ! ボクを誰だと思っているんですか。
 なんてったって、ボク、モノクマですよ?」

 凶育委員長はモノクマの見事な手腕に思わず涙ぐんでしまった。
 モノクマ先生ならば、きっとアタクシの理想を実現してくれるに違いない。

「モノクマ先生!」

「凶育委員長!」

「モノクマ先生!」

「凶育委員長!」

「先生!!」

「委員長!!」

「あの~……お取り込み中のところ悪いんスけど……、
 時間が押してるんで、そろそろ授業説明に入らないとやばいと思うッス」

 モノクマと凶育委員長が感動的に抱き合っているところへ、側に居たプリニーが一言物申した。
 確かに、授業開始時刻までもうすぐだ。
 流石にこれ以上は茶番を続けるのも難しいだろう。

「おっと、そうでしたそうでした。
 それではッ! 改めましてこれからオマエラが受けてもらう授業について説明させていただきます!
 授業内容はいたって簡単!
 オマエラには今から、殺し合いをしてもらいます!!」

 …………え?
 コロシアイ?
 のび太の思考が一瞬停止する。

「コロシアイってなんだよ……、何言ってるのか……全然わかんないよ……!」

「殺し合いは殺し合いだよ。
 殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺…
 殺し方は問いません。
 『お互いに殺し合って最後の一人になった生屠だけが外に出られる…』
 それだけの簡単なルールだよ。
 自分以外のクラスメートが全員死んだら、それで授業終了です。
 単位取得となり、この酷立絶望学園から卒業する事ができます。
 最悪の手段で最良の結果を導けるよう、せいぜい努力してください。
 うぷぷ…こんな脳汁ほとばしるドキドキ感は、鮭や人間を襲う程度じゃ得られませんな…。
 超、ドキドキする~!」

 モノクマの言葉に、のび太の背中がゾワリとした。
 コロシアイ……殺し合いだって?
 画面越しとはいえ、ついさっき人が殺される場面を見たばかりだった。
 冗談で言っているとはとても思えない。

「何言ってるんだよ! そんなこと……やっていいわけないじゃないか!
 ドラえもん! 殺し合いなんて悪い冗談なんでしょ? さっきの人達だって、実は生きてるんだよね?
 ねえ、ドラえもん! ドラえもん!」

「うるさいうるさいうるさーい!!」
 なんなんだよさっきっからうるさいな!
 ぐだぐだ言わずにさっさとちゃっちゃと殺し合えって言ってんの!!
 それにボクはモノクマだって何遍言えばわかるの!?
 ドラえもんドラえもんって誰なんだよそもそも誰だよそれ誰なんだー!!」

 のび太の叫びに応えるかのように、モノクマの怒号が画面から大音響で鳴り響いた。
 両手を高く上げ、怒りの形相を作っている。
 そんなモノクマの様子にたじろいだのび太は、思わず後ずさり尻餅をついてしまった。

「ドラえもん……、ああ、今日の黎明辺りにここに侵入してきた青い狸が、確かそんな名前だったざます。
 その時撮った映像を使って、立ち入り禁止区域に入ったらどうなるかを生屠達に教えるとおっしゃってたじゃないざますか」

 ドラえもんが、ここに侵入していた?
 一体、どうして?
 そんなの、決まっているじゃないか。
 さっきテレビに映っていた、安心院さんと言う人と同じ理由だ。
 モノクマと凶育委員長に誘拐されたのび太を助けるために、未来の世界から来てくれたんだ。
 そう思ったのび太だったが、心に湧き起こった感情は嬉しさではなく不安だった。
 のび太が目を覚ます前にドラえもんがやって来ていたと言うのなら、今ドラえもんはどうしているんだろう。
 不法侵入者は、“おしおき”の対象となる。
 だったら……まさか………。

「あー、はいはいそうでした、そうでした。
 あれがドラえもんかぁ。
 いやあ、ずっとアオダヌキって名前だとばかり思ってましたよ。
 でも、古臭い名前ですね。
 いつの時代の名前だよって感じ?
 しかも名前が“ドラ”えもんって……うぷぷぷ。
 そもそも“ドラ”ってどういう意味なんでしょう。
 オマエラ、気になるりますよね?
 そこで図を用意しました。ちょっとこれを見てください」

 まるで何かの解説者のように振舞うモノクマの後ろに、打楽器の描かれたフリップが出現した。
 クレヨンで描かれた、下手糞な絵であった。

「ドラというのは打楽器の銅鑼から来ていましてね、鐘を突いて音をだす事から、
 金を尽く、お金を使い果たす、と言う意味が込められているんですよ。
 つまり、働かないくせにお金ばかり食らうぐうたらの穀潰しって事ですね。
 ドラ猫も同様で、悪さをする猫という意味で付けられました。
 そんな言葉を名前に付けるなんて、なんというDQNネーム!
 モノクマは驚きを隠せません。
 ちなみに、ボクの名前の由来はモノクロのクマだよ。
 シンプル・イズ・ザ・ベストってやつ?
 最近は捻り過ぎてないわぁって名前が大変多いですけど、
 見てる方は面白いんで、
 ペットやゲームのキャラに名前を付ける感覚でじゃんじゃん奇天烈な名前を自分の子供に付けちゃってください」

「モノクマ先生は大変物知りなんざますね。アタクシ、感心するばかりざます」

「そんなぁ。これくらい常識ですよ。じょ・う・し・き。
 自慢するような事じゃありませんって」

 てれてれと頭をしばらく掻くと、モノクマは“おっと、授業の説明がまだでしたね”と授業内容の説明を再開した。
 だが、のび太の胸中はそんなことよりもドラえもんの安否の方が心配だった。

「授業内容は、さっきも言った通り、クラスメート同士で殺し合って最後の一人を目指してください。
 クラスメートは、後で名簿を渡すので確認してくださいね。
 それでは、ルールの細かい説明に移りたいと思います。
 殺し合いと言っても、何も素手で殴り合えなんて言いません。
 別にそれでも良いんですが、それだとなかなか相手は死んでくれませんよね?
 そこで、ボクから入学祝いとして、ささやかなプレゼントをご用意いたしました。
 オマエラには、これから大きめのバッグを支給します。
 中には、殺し合いに役立つ……かもしれない道具をいくつか入れてあります。
 全員に最初から配られる支給品は、一日分の水と食料、
 クラスメートの名前が書かれた学生名簿、学園の案内図、
 コンパス、暗闇を照らす懐中電灯一つ、腕時計一本、包帯と三角巾、筆記用具とメモ帳、
 それと電子生屠生屠手帳です。
 水と食料は、ちゃんと個人個人の一日分を支給します。
 小柄な人の食糧は少ないですし、大柄な人の食糧は多いです。
 電子化された生屠手帳、その名も電子生屠手帳は、学園生活に欠かせない必需品だから、
 絶対に無くさないようにね!!
 それと、起動時に自分の本名が表示されるから、ちゃんと確認しておいてね。
 単なる手帳以外の使い道もあるんだけど、それは後で説明します。
 ちなみに、その電子生屠手帳は完全防水で、水に沈めても壊れない優れ物!
 耐久性も抜群で、十トンくらいの重さなら平気だよ。
 詳しい“校則”もここに書いてあるんで、各自、じっくりと読んでおくよーに!
 何度も言うけど、校則違反は絶対に許さないからね!
 えーと、あとは……そうそう! 支給品は他にもあるんだよ!
 全員に平等に支給される基本支給品以外に、一つか二つか三つ、
 プリニーが適当に選んだ支給品を各々のバッグに入れています。
 きっと殺し合いに役立つ道具が入ってると思いますが、外れ支給品も多かれ少なかれ存在しますね。
 説明書を付けてたり、面倒で付けていなかったりもしますが、そこら辺は運も実力の内って事で、どうかあしからず。

 支給品についての説明は以上です。
 次は、星階級制度についての説明を致します。
 星階級制度とは、いわゆるランク付けの事ですね。
 オマエラは最低ランクの星なし(ナッシング)から始まって、
 他の学生を殺すごとに星一つ(シングル)、星二つ(ダブル)、星三つ(トリプル)、
 と星が増えていき、階級が上がって行きます。
 三人殺せば星三つ! 当然、階級が上がればそれだけ恩恵が与えられます。
 優等生なんですから当然ですね。
 積極的に殺って殺って殺りまくる優等生には様々な特典が用意されています。
 最高階級の幹部生になるには、星三つの状態から更に二人殺しちゃってください。
 合計五人殺せば、幹部生(スペシャル)になれる計算ですね。
 あ、星なしがトリプルの生屠を殺したからって、通常より星が多く貰えるとか、そんな事はありませんよ?
 一人殺したら、貰える星は一つだけです。
 なので、こっそり隠れて、優等生が疲れ切ったところを襲おうなんて考えても無駄です。
 ちゃんと、積極的に授業に参加しましょうね。
 オマエラ、わかったかな?
 それでは、次の説明に移ります。

 就寝場所についてです。
 オマエラにはこれから授業を受けてもらうわけですが、就寝は寄宿舎内の個室でのみ可能です。
 他の場所での故意の就寝は居眠りと見なし罰します。
 ただし、これは星なしの場合です。
 シングルは施設内ならどこでも就寝可能、
 ダブルは施設以外でも建物内なら就寝可能、トリプルは建物の外でも就寝可能です。
 スペシャルには、耐寒、耐熱、防音、衝撃にも耐える高性能な寝袋を進呈しちゃいますよ。
 これを使えばどこでも安心して眠れますね。
 寄宿舎の個室の鍵は基本支給品の中に入れていますが、最初はどこの寄宿舎も鍵が開いた状態です。 
 部屋の中に入ったらしっかりと鍵を閉めましょう。
 建物はどこも防音性が高いので、隣の部屋でマシンガンをぶっ放しでも隣の部屋に聞こえることはありません。 
 安心して殺れる時に殺っちゃってください。
 でも、耐衝撃性はそこそこなので、籠城作戦を実行しても扉や壁なんかを壊される可能性がありますね。
 あまりおすすめはしません。
 窓はご覧の通り頑丈な鉄板で塞いであるので、窓から中が見えたり侵入されたりする事は、多分ありません。

 次は、校内放送についてです。
 朝六時、昼十二時、夕方十八時、深夜零時、一日に四回の校内放送を行います。
 校内放送では、誰が死亡して、残りの生屠が何人になったか、そして立ち入り禁止区域になる場所をお伝えいたします。
 絶望学園はとても広い学園です。
 そのため、殺し合いが進んで生屠の数が減って行くと、なかなか他のクラスメートを見付ける事が難しくなっていきます。
 そこで登場するのがこの禁止区域です!
 禁止区域に入る事は校則違反となります。
 ですので、禁止区域に入る生屠にはおしおきが待っています。
 第一放送から一時間ごとに禁止区域を増やしていって、どんどんオマエラの行動範囲を狭くしていくからね。
 これで、他の生屠達と出会い易くなりますね。
 だからオマエラ、積極的に動き回ってよね。

 そう言えば、禁止区域に入ったらどうなるか、おしおきを録画した映像を流す予定だったのでした。
 でも、もうおしおきの映像は生放送で流しちゃったしなぁ。
 どうしよっかなぁ。
 ……うん、決めたぞ!
 せっかくなんで、これも放送しちゃいましょう!
 夜中にこの学園に侵入した奴がどうなったのか、オマエラに見てもらおうと思います!
 映像、スタート!」



 モノクマの掛け声と共に画面が乱れると、テレビはどこかの森の中の映像を映し出した。
 画面中央には青い狸の置き物がある。
 夜に撮影されたものなのか、辺りは真っ暗闇だ。

「やい! のび太くん達を返してもらうぞ!」

 青い狸の置き物が突然喋り出した。
 いや、これは置き物ではない。
 ドラえもんと名付けられた、子守り用のネコ型ロボットである。
 声はモノクマと同一のものだが、不思議とモノクマのような不快感は感じられない。
 感情を露わにするドラえもんの前に、森の奥から何者かが近付いてきた。
 絶望学園の学園長、モノクマだ。

「なんですか騒がしい。ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」

「お前がのび太くん達を誘拐した犯人だな!!」

「誘拐なんて人聞きの悪い、いや、クマ聞きの悪い? まあいいか。
 これは誘拐じゃなくて、入学だよ?
 絶望学園に入れるなんて、大変名誉なことなんですからね」

「うるさい!
 パパさんやママさんにあんなことをしておいて、その上のび太くんを誘拐するなんて、ただじゃ済まさないぞ!!」

「あんな事ってどんなこと? ボク、わかんないなぁ」

「とぼけるな!! タイムテレビで一部始終を見たんだ!! 絶対に……絶対に許さない!!」

 ドラえもんの目は血走り、怒りで我を忘れている雰囲気さえあった。
 のび太くん達を救うためならなんだってやってやる。
 そんな決意の下、ドラえもんは腹部に装備している四次元ポケットに手を突っ込んだ。

「きゃあ! 何をする気なの!? 怖いよ~!
 こうなったら、対侵入者用のおしおきに頼るしかないね!
 召喚魔法を発動する! 助けて! グングニルの槍ッ!!」

 ドラえもんがポケットの中から何かを取り出そうとした次の瞬間、
 ドラえもんの体はいくつもの槍に貫かれていた。
 それは刹那の出来事。
 人間離れした動体視力の持ち主でも、ドラえもんの体が槍に貫かれる瞬間を視認できなかった。
 モノクマの言葉が言い終わったその直後に、何の前触れもなく、
 入れ換わるように串刺しのドラえもんの姿がそこに出来上がっていたのだ。

「ボクと同じ声って……キャラ被っちゃってるじゃん。
 やめてよね、そういうの。
 マスコットは、ボクだけで充分なの!」

 そう言い残すと、モノクマは元来た道を引き返し、闇の中に消えて行く。
 後に残されたのは、全身を槍に貫かれた子守りロボットのなれの果てが一体だけ。

「の……び太……くん………ご……め………」

 その言葉を最後に、特定意志薄弱児童監視指導員ドラえもんは機能を停止した。
 グングニルの槍は、正確にドラえもんの中枢を破壊していたのだ。
 ドラえもんが機能停止してから数秒後、画面は暗転し、元の体育館を映し出す。



「ドラえもん……そんな………何で……何で!!」

 今の映像がフェイクだという発想はのび太にはない。
 小学生特有の純粋さで、今の録画映像は本物だと思いこんでしまっていた。
 実際、本物なのだから間違っていないのだが、これは嘘だと疑えていたら、どれだけ彼の心が救われていたろうか。

 ドラえもんは、一緒に暮らした大事な家族で、かけがえのない親友で、そして大切な……大切な………。

「うっ……ひっく……ドラえ………」

 ドラえもんが、死んだ。
 もうドラえもんと会えなくなると知った時は、確かに悲しかった。
 それでも、ドラえもんは未来の世界で生きている。
 未来の世界で元気にやっているんだとばかり思っていた。
 死ぬだなんて、考えもしなかった。
 生きていればもしかしたら、もしかしたらいつか奇跡が起きてドラえもんと再開できる日が来たのかもしれない。
 だけど、ドラえもんが死んでしまってはその奇跡も起こらない。
 死は、永遠の別れを意味するから。
 のび太の両目からは、涙が止めどなく溢れていた。

「おわかりいただけただろうか。
 立ち入り禁止区域に入るとそうなるか、これでオマエラ理解してくれたと思います。
 時間も押してることだし、後はちゃちゃっと終わりにしちゃいますか。
 お次の映像はこちら!
 今度の映像は凄いよう。
 なんてったって、オマエラ一人一人の為に撮った特別な映像だからね!
 これを見れば、きっとオマエラ、卒業したくなると思うよ!
 それでは、はりきっていってみましょう!!」

 ドラえもんと同じ声が響いてくる。
 懐かしい声。
 でも、違う声。
 こんなの、ドラえもんじゃない。
 まともに聞く価値もない。
 それなのに、どうしてもちゃんと聞いてしまう。
 もう聞く事の出来ない、たった一人の親友の声だから……。


「のびちゃ~ん。聞こえてる?」

 突然聞こえた声に、のび太は驚いてうつむかせていた顔を上げた。
 今の声はママの声だ。
 顔を上げたその先に、テレビ画面にパパとママの姿が映っている。
 二人が居るのは野比家の居間。
 そこで二人は、この映像を見るであろう自分達の息子に向けて語りかけている。

「のび太、突然の事で驚いたが、国立の学園に数日間入学するそうじゃないか」

「誰でも優等生になって卒業できる、新しい学園らしいわね。
 今日突然そんなお話を受けて、ママ驚いちゃったわ」

 パパもママも、どこか嬉しそうな顔でカメラに向かっていた。
 “二人とも騙されているんだ”。
 のび太はすぐにわかった。
 そうでなければ、パパもママもこんな顔をしているはずがない。
 両親からのび太へ向けたメッセージは続く。
 二人の姿を見ていたら、悲しくなってさらに涙が溢れてきた。
 と、唐突に映像が乱れ始める。
 しかし、それも数秒で収まった。
 再び映像が鮮明になると、のび太は絶句した。
 言葉が詰まって出てこない。
 画面からは両親の姿は消えていた。
 それだけではない。
 居間の様子もがらりと変わっている。
 部屋の中は滅茶苦茶に荒らされ、人間同士が揉み合ったような跡がある。
 壁も床も一面傷だらけで、窓ガラスも割られていた。
 どう見ても、両親に何かあったとしか思えない。

『絶望学園に入学した野比のび太クン…
 そんな彼を応援していたご家族のみなさん。
 どうやら…そのご家族の身に何かあったようですね?

 そして聞こえる、あの懐かしい声。
 違う。これはドラえもんの声じゃない。
 モノクマの……絶望学園の学園長の声だ。

『では、ここで問題です!
 このご家族の身に何があったのでしょうかっ!?』

 モノクマの声が終わると、画面には
 『正解は“卒業”の後で!』
 という文字がでかでかと映し出された。

 のび太の体は震えていた。
 ドラえもんだけじゃなくて……パパと……ママまで……。
 映像が終わると、モノクマの居る体育館に画面が切り替わる。

「うぷぷぷ……。
 どうですオマエラ?
 俄然、殺る気が出てきたでしょう?
 先生、信じてるから。
 オマエラなら優等生になって卒業できるって、信じてるから。
 だから……
 殺りたい放題、殺らして殺るから、殺って殺って殺って殺りまくっちゃってくーださーいねーッ!!
 それでは、これからチャイムと共に授業開始です。
 豊かで陰惨な学園生活をどうぞ楽しんでください!
 それじゃあ、まったね~!」

 『キーン、コーン…、カーン、コーン…』。

 殺し合いの始まりを告げるチャイムが絶望学園に響き渡る。
 同時に、時空ゲートがのび太の体を包み込み、学園敷地内のどこかへと瞬時に転送した。



 【安心院なじみ@めだかボックス】 死亡確認
 【不知火半纏@めだかボックス】 死亡確認
 【ドラえもん@ドラえもん】 死亡確認


 主催者
 【モノクマ@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】
 【凶育委員長@魔界戦記ディスガイア3】


 【学生バトルロワイアル】────授業───開始


投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む


ようこそ絶望学園(前編) 野比のび太 [[]]
ようこそ絶望学園(前編) 安心院なじみ 死亡
ようこそ絶望学園(前編) 不知火半纏 死亡
ようこそ絶望学園(前編) ドラえもん 死亡
ようこそ絶望学園(前編) モノクマ シゴフミ
ようこそ絶望学園(前編) 凶育委員長

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