学生バトルロワイアル

シゴフミ

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だれでも歓迎! 編集
 木木が周りに生い茂っている。
 森の中、なんだろうか。
 地図を見ると──子供の落書きみたいなふざけた地図だ──北東部、南東部、
 そして西部の半分以上に森林と思しき地域が広がっている。
 森の中に居るとしても不思議ではない。
 先程閉じ込められていたのはどこかの寄宿舎か。
 そこからテレポートのアリスで絶望学園という学校の敷地内のどこかに飛ばされた、と推測できる。
 しかし、周りの木木からは日本に自生している物とは異なる印象を受ける。
 まるで密林だ。
 現在の気温は非常に過ごしやすい。
 ここが日本国外と仮定しても、密林が自然に形成されるような熱帯気候ではない。
 学生名簿に載っている名前は全部で二十三人。
 どのくらい気絶させられていたのかはわからないが、
 二十三人もの人間を拉致し国外に連れ出すというのは現実味に欠ける。
 ここが日本国内だとすると、周りに生える熱帯原産の樹木が存在していそうな場所は地図の中には二つだけ。
 植物庭園、もしくは東洋サファリ。
 現在地が東洋サファリの場合、早くここから外に出た方が良い。
 サファリと名前が付いているくらいだ。猛獣が野放しにされている可能性がある。

「ルカぴょんがいれば安心なんだけど……」

 いないものは仕方ない。
 北に行けばこの学園の外だが、外に出られない仕掛けが講じられていると考えるのが普通だろう。
 名簿の中には蛍を含め、アリス学園関係者が七人載っている。
 モノクマと凶育委員長なる者達の目的は不明だが、学園から少なくとも七人もの人間を拉致できる力を持っている。
 考えられるのは初校長の策略か何かだ。
 現に、小泉月の名が名簿にはある。
 だが、あいつの目的は蜜柑だ。
 私達を殺し合わせることに意味が見出せない。
 蜜柑に対する脅しにしても、これは行き過ぎている。
 いくら考えても、可能性は可能性のままだ。
 今は南に行き、何か現在地を確認できる道か施設を探すことにする。
 地図の端を調べるのは、確実な安全を確保してからでも遅くは無い。

「……………」

 南を目指しながら、今井蛍は思いだす。
 あの映像。
 大事な人が酷い目にあったと思わせる、あの映像。
 編集された形跡は確認できなかった。
 きっとあれは本物だと、蛍は思う。
 早くここから出なければ。
 道具と材料さえあれば、私の発明のアリスで───。

「おい、そこの貴様」

 毅然とした、どこか冷徹さを滲ませる女性の声。
 その声に蛍が足を止めると、声の主が茂みから姿を露わす。
 黒の軍服に身を包んだ、厳しい目つきの女だ。

「貴様はこの授業の参加者だな?」

 殺し合いという名のふざけた授業。
 口振りからして、この女性も拉致された一人だろう。
 女性から受ける印象から、脅しに屈するような人物には見えない。
 協力を持ちかければ、乗ってくれるかもしれない。
 だが、油断はできない。
 蛍は周囲に気を配りながら、慎重に返答する。

「ええ、そうよ」
「そうか」

 女性は蛍の返答にうなずくと、右手をびしぃっ!と蛍に向け、言い放った。

「命令する!貴様は一ターン陽の光を吸収した後、エネルギー一点に集中させ放出!私に必殺の一撃を加えるのだ!」
「…………は?」

 女性の口から発せられた予想外の言葉に、蛍はぽかんと口を開ける。
 そんな命令に何の意味があるのか。
 そもそも、そんな事が出来る訳が無い。
 この女は、蛍が嫌いな馬鹿の一人なのだろうか。
 うん、馬鹿じゃなければこんな命令はしない。

「どうした! 上官をいつまで待たせるつもりだ! さっさと命令を実行しろ!」

 “バカじゃないの?”、と言いたくなったが、生憎と蛍の支給品には武器になりそうなものが入っていなかった。
 わかったことと言えば、バッグ中の空間がおかしなことから、アリスが関与している物品だということだけ。
 武器も防具もない状況で、相手を挑発するのは得策ではないことくらい、蛍は理解しているのだ。
 それでも、女の命令を聞くことはできない。
 無理なものは無理だし、それで逆ギレするようならやはりバカだ。
 いきなり襲ってくる様子もないし、ここは適当に受け答えしているのが良いだろう。

 そう、女性───極上のサルバトーレは蛍をいきなり襲うようなことはしなかった。
 それは蛍に期待をしていたからだ。
 モノクマや凶育委員長に従うのは気に入らないが、生徒を捕まえて強制的に授業を受けさせるのは魔界では常識。

 ベリル先生の授業は面白かったが、それも終わり退屈をしていたところだったのだ。
 それにクラスメート同士で殺し合うというこの授業内容。
 非常に興味を引かれる。
 こういう授業ならば受けてやらんこともない。
 学園長やビグスター様も参加していることから、
 他の参加者もさぞ骨のある者ばかりだろうと捜索を開始し、最初に見付けたのが目の前の少女だった。
 見た所人間だが、このような状況でも怯えを見せない姿にサルバトーレの期待が高まった。
 殺すのは簡単だが、楽しませてくれるのならばそちらの方が良い。
 なので、少しばかり時間を与えてやったのだが、いくら待っても攻撃を仕掛けてくる様子はない。
 返事が返ってきたかと思えば───

「何言ってるのよあんた。そんなことできるわけないじゃない」
「何だと? 上官に口答えする気か!
 できなくともやれ! 命令違反は即、銃殺だ!」

 とんだ期待外れだ。
 サルバトーレは叫ぶや否や、拳銃を取り出し蛍へとその銃口を走らせた。

「なっ!?」

 サルバトーレが黄金の拳銃を抜くのを視認した蛍は即座に行動を開始した。
 まさかあの程度で逆上されるとは思わなかった。
 幸いここには茂みが多く、隠れながら逃げることは可能だ。
 蛍が横へと走り出した直後、銃声がジャングルに木霊した。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「はぁ……はぁ………は……っく……!」

 茂みの中を蛍は走る。
 時折銃声が響き、近くの樹木が削られる。
 あれからどのくらい走っただろうか。
 最初の銃弾は太股を掠めた。
 何とか走れてはいるが、一歩踏み出す度に痛みが走り、今にも倒れてしまいそうだ。
 逃げる最中、左肩にも銃弾を受けた。
 走る度に、やはり傷口が激痛をもたらす。
 だが走り続けなければ殺されてしまう。
 茂みや木木に身を隠しながら走っているにも関わらず、サルバトーレが蛍を見失う様子はない。
 蛍の目論見が甘かったのか、サルバトーレの経験多さ故か、それとも体格差で距離が開かない為か。
 再び銃声が鳴り、銃弾が蛍の体躯に命中した。
 被弾箇所は左胸の辺り。
 背中から前方に突き抜けていた。

「げっほ………!」

 被弾の衝撃で前のめりに倒れ込む。
 口から少量の血が吐き出された。
 地面に当たる際に腕を突き出したが、力が入らず上手く衝撃を和らげられなかった。
 息が、上手くできなくなる。
 後ろからは、ブーツで草木を掻き分ける音。
 もう、立ち上がることもできなかった。

「ザコが……。期待外れもいいところだ」

 サルバトーレが歩みを止める。
 そして銃口を、浅く息をするだけとなった蛍へ向けた。
 鬼ごっこは、これでお終いだ。

「ザコはザコらしくさっさと死ね」
「待てっ!!」

 サルバトーレが引金を引く直前、渾身の力で投擲された石礫が黄金の銃にぶつかった。
 石礫の衝撃で銃口は逸れ、放たれた銃弾は蛍ではなく地面を穿つ。
 直後、光速の如き速さで突撃してきた何者かがサルバトーレの体を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたサルバトーレの体は、木木を薙ぎ倒しながら遠くへ直進する。
 さながら人間砲弾、いや悪魔砲弾だ。

「おい、大丈夫か!!」

 サルバトーレを吹き飛ばした何者か──黒神めだかがうつ伏せに倒れる蛍の体を抱き起こす。
 彼女が銃声を聞きつけたのは、ここから二エリア離れた場所だった。
 異常な聴力で銃声を聞きつけた彼女は、殺し合いを止めるべくここまで全力で走ってきたのだ。
 銃口を向けるサルバトーレを視認した彼女は、その場で石を拾い上げ即座に投擲。
 放たれる銃弾を逸らした後、『黒神ファントムちゃんとした版』を用いてサルバトーレを吹き飛ばしたと言う訳だ。

 だがそれでも、全力で、これ以上ない程の速度で駆け付けたにも関わらず、彼女は来るのが遅過ぎた。
 めだかは自分の腕の中で、少女の鼓動が弱くなるのが具に(つぶさに)に感じ取れた。
 胸の銃創からは止めどなく血液が流れ出ている。
 止血しなければならないが、中で大動脈を傷付けているのは明らかだった。
 表面を止血するだけではだめだ。切開し、動脈を直接処置しなければ助からない。

(………み……かん……)

 薄れゆく意識の中、今井蛍が思ったのは親友の事だった。

 もう、自分は助からない。そんな事が理解できた。
 私が死んだら、あの子はどんな顔をするだろう。
 蜜柑のお母さんのお葬式では、蜜柑は涙を流さなかった。
 泣くこともできないほど、辛い顔をしていて……。

 まるで、そこにいる見えない誰かに手を伸ばすように、蛍の右腕がゆっくりと上がっていく。

「み……かん……」

 蜜柑。
 何泣いてるのよ。

『蛍、大怪我しとるやん……ヒクッ…今にも……ウッ…死にそうやん……』

 大袈裟ね。
 ほら、そんな辛そうな顔しないの。
 あんたの泣き顔は三割増ぶさいくって言ったでしょ。
 私が好きなのは、笑ってる顔の蜜柑なの。

 あなたがいなければ、私はずっと一人のままだった。
 あなたがいたから、私は学園でもやっていけた。
 あなたのおかげで、兄さんを救うことができた。
 あんたの笑顔が、どれだけ私に力をくれたか……。

 あなたは、私にとって太陽みたいな存在。
 だから───

「どんな時も……笑っ……て……」

 少女の右手が力を失くし、ゆっくりと落ちて行く。
 心臓の鼓動も、止まってしまった。
 血は、もう流れ出ない。

 既に体温まで失くしつつあるその手のひらには、綺麗な色をした石が現れていた。
 水色と紫、そして淡い、温かな色の三色が混じった石。
 『アリスストーン』と呼ばれる、己の能力を石として外に出したものだ。
 相性が良ければ、石を使うことでその能力を他人が使う事ができる。
 死にゆく蛍が、大切な人の助けになればと、思いを込めて作りだしたアリス(魂)の一部であった。

「………お前の気持ち、確かにその者に伝えよう」

 黒神めだかは呟くと、腕に抱いた蛍の遺体を静かに降ろした。
 “みかん”なる人物が誰かはわからない。
 だが、必ずや探し出し、彼女が最後の力で作りあげた『石』を渡さなければならない。
 彼女の思いを伝えなければならない。
 黒神めだかは自身の異常(アブノーマル)『完成(ジ・エンド)』により、
今井蛍の手の中に出来上がった石がどのようなものであるかを観察し、理解したのだ。

「ザコにしてはなかなかやるではないか」

 吹き飛ばされたサルバトーレが戻って来たのは、めだかが蛍の手からアリスストーンを拾い上げた直後であった。
 高速で突き飛ばされたその体には切り傷が目立つが、ダメージを受けた様子は感じない。
 彼女こそは伝説の十紳士が壱の紳士。
 十紳士とは、その一人一人が魔王に匹敵する力を持つとされる、伝説中の伝説の存在だ。
 究極の伝説にある十紳士の存在は長年ウソであると思われていた。
 十紳士の存在が嘘でなければ、魔界はとっくの昔に滅んでいるはずだからだ。
 事実、彼女は魔王の息子による剣の一撃を、片腕一本で受け止めたことがある。
 その時は、攻撃を仕掛けた剣の方が逆にひび割れてしまう程の防御力を見せつけた。
 彼女が今切り傷を負っているのは、制限により防御力が低下している為であろう。

「貴様……何故殺し合いなどというくだらん事に乗った!? 何が貴様をそうさせる!?」
「それは……私が戦闘狂だからだ!!」

 戦闘狂だから殺し合いに乗った。
 実に清清しい答えだ。

「そうか……ならば、貴様を止めるには戦うしかないようだな」
「その通りだ。私への攻撃に遠慮は無用!ザコはザコなりに悪あがきしてみろ!」

 サルバトーレはめだかを指さすと、高圧的に命令を下した。

「命令する!! 貴様は光の速さで突進攻撃した後、
 私の攻撃を正面からくらい、『見事な攻撃だ、サルバトーレ!』と言い残してから死ね!」
「死ぬ気はないが、良いだろう。貴様はここで私が止める!!」

 言うが早いが、めだかは本日二回目の『黒神ファントムちゃんとした版』を使用しサルバトーレへと突撃する。
 先程サルバトーレに大したダメージを与えられなかったことから、今度は突き飛ばすことなく、
サルバトーレの肩を掴み、木木を薙ぎ倒しながら直進していく。
 これで衝撃は緩和されることなくサルバトーレに蓄積されるはずである。
 事実、とてつもない衝撃がサルバトーレを襲い、背中に痛みが走っていた。
 サファリ内にあった巨大な岩石にぶち当たる事で、ようやく二人は動きを止めた。
 だがめだかの攻撃はこれで終わらない。
 これでサルバトーレを倒せるとは思っていない。
 二人の周囲で爆発が起こる。
 めだかの支給品、B.A.B.E.L.製の消火弾である。
 消火弾は周囲の酸素と熱を奪い、無酸素状態を作り出す。
 目的の状況を作りだしためだかは、サルバトーレを掴みかかったまま、流れる動作でサルバトーレを組み倒した。
 サルバトーレの一切の動きを封じる為だ。
 いかに相手の耐久力が高かろうが、息をする以上、無酸素状態では活動できない。
 消火弾により周囲の温度も冷え、活動には不向きな環境になっている。
 これではめだか自身も酸欠で身動きが取れなくなりそうなものだが、そのようなことになりはしない。
 めだかの知り合いに喜界島もがなという女性がいる。
 もがなの特技は水泳で、息を止めた状態で一箇月生活できる肺活量を持っている。
 めだかはその特技を、完成とはいかないまでもある程度は習得していた。
 半月程度なら、余裕で無呼吸で生きられるだろう。

「……何だ、これで貴様の攻撃は終わりか?」

 現在、周囲が無酸素状態にあるのはサルバトーレ自身百も承知だ。
 にも関わらず、自ら言葉を発し酸素量を減らしている。
 サルバトーレは耐久力だけでなく、筋力も魔王級だ。
 短期決戦に持ち込めば勝てると踏んで喋りだしたのだろうか。
 しかし、サルバトーレがいくら力を込めようと、めだかの怪力により動きを封じられている。
 制限下にあるとはいえ、魔王級の力を抑え込むなど、到底人間には不可能な所業に思えるが、
事実彼女達の力は拮抗し、どちらも微動だにしない。
 これならばめだかの勝利は確実に思えた。

「手ぬるい!!」

 サルバトーレはめだかの攻撃をその一言で一蹴した。
 黒神ファントムちゃんとした版も、無酸素状態で動きを封じたことさえ、
サルバトーレにとっては手ぬるい部類に入ると言うのか。

「貴様の攻撃はこの程度か!!ならば次は私のターンだ!!」

 そこで、めだかは己の失態に気付く。
 何故サルバトーレは惜しげも無く息を吐き出せるのか。
 根本から考えを誤ってしまった。
 サルバトーレは“無酸素状態でも活動できる”のだ。

 魔界では、力を持つ者が宇宙空間に飛び出すことなど珍しいことではない。
 付き別魔界の魔王同士が宇宙空間で普通に会話をしていたことすらある。
 伝説の十紳士にとって、一月どころか一生真空状態だろうと生きることに支障はないのだ。
 だが、万力の如きめだかの組伏せを解かなければ、サルバトーレが反撃できることは無いはずだ。
 彼女の武器である拳銃は、めだかとは明後日の方向を向いている為脅威ではない。
 脅威ではない、筈だった。

「極上・銃王無神!!」

 サルバトーレの言葉と共に、黄金の銃から二本の光線が伸びる。
 二本の光線は空中を走り、そこに何かを描き出した。
 描き出されたそれは黄金の拳銃。
 光線が拳銃を描き切ると、その銃は実体を持ち中空に浮かび上がっている。
 銃口は、黒神めだかの頭部を狙っていた。

「─────!!」

 拳銃から光線が発せられた時点で、めだかは組み伏せを解きサルバトーレと距離を取ろうと行動していた。
 だが、いくら力を込めようとめだかの体は微動だにしない。
 二人の力は拮抗していた。
 “完璧”に相手を組み伏せ少しのゆとりも生み出さなかったが為に、逆にめだかの動きも封じられる結果になってしまったのだ。

 この状況を打破する為にはどうすれば良いか。
 あらゆる方法を模索するが、打開策は見えてこない。
 中空の銃口に魔力が充填され、弾丸を形成する。
 弾丸が発射されるまで、一秒もかからないだろう。

 めだかの口端が僅かに吊り上がる。
 こうなってしまっては、仕方がない。
 黄金の銃口から、黄金の銃弾が発射された。

「見事な攻撃だ、極上のサルバトーレ!」

 確かにその攻撃は見事なものだった。
 初めて観察する攻撃だ。
 一度観察した程度で再現できるかわからないが、何度か観察すればできそうな気もする。
 サルバトーレを讃えた直後、銃弾がめだかの頭部を吹き飛ばす。
 すると、あの万力が嘘のように、めだかの体から力が抜けてしまった。

「ザコにしてはよくやった方だ。褒めてやろう」

 サルバトーレの命令通りの攻撃を行い、命令通りの死に方をした。
 任務を全うした部下に悪い気はしない。
 だが、まだだ。
 この程度ではサルバトーレの心は満たされない。
 光速で突撃した後、予想外の攻撃を加えたところまでは良かった。
 だが、それはサルバトーレを文字通り“止める”為に行われた攻撃だった。
 手ぬるい。
 そのような攻撃はサルバトーレの望む物ではない。
 まさか他の参加者もこのようなザコばかりなのか。
 落胆するサルバトーレがめだかの組み伏せを解き、めだかの持つバッグを拾おうと振り返った、その時だった。
 死んだはずの黒神めだかの体が突如として起き上ったのだ。

「何!?」

 その後のめだかの行動が攻撃であったならば、歴戦の戦士たるサルバトーレはその経験と勘で対処できただろう。
 だが、めだかの行動は攻撃ではなかった。サルバトーレに対するものでもない。
 めだかの手の中には、色の付いた石が複数握られていた。
 それらはほとんどは真球の形をしている“アリスストーン”だった。
 本来、アリスストーンを作るには練習が必要だ。
 それも真球ともなると、相当の修練が必要になる。
 黒神めだかがアリスストーンを作りだせたのは、今井蛍がアリスストーンを作りだす過程を観察したからだ。
 『アリス』とは、特別な才能を意味する言葉だ。
 他の人には真似できない、その人だけの特殊な能力。
 めだかはアリスストーンとして、自身の異常(アブノーマル)である『完成(ジ・エンド)』と、
 『完成(ジ・エンド)によって完成させた能力』を能力石(アリスストーン)にして体外に放出したのだった。
 一際目立つ、全ての色を混ぜ合わせたような色のアリスストーンが、『完成(ジ・エンド)』の能力石だろうか。
 この力を役立てて欲しい。
 この力が、皆が脱出する助けになれば良い。
 黒神めだかは死ぬ間際、アリスストーンを作りだした後、高千穂仕種から完成させた『反射神経(オートパイロット)』にあるプログラムを書き込んだ。
 サルバトーレが組みを解いた後に、“条件反射”で手に持ったアリスストーンを会場に投げ飛ばす、と。

 サルバトーレの目の前で、めだかの手から様々な色をした石が投擲された。
 サルバトーレとはあらぬ方向に飛んでいくそれを見て、一瞬で理解する。
 これは攻撃ではない。事実闘気の類はこの行動からは感じない。
 おそらくこの行動は後々意味を成す。
 もしかしたらそれは、自身を楽しませる結果になるやもしれん。

 めだかの体は石を投げ飛ばした後も動きを止めない。
 条件反射はこれに止まらなかった。
 めだか自身のバッグを持ち、それも他の者に託そうと───

「二度も遅れを取ると思ったか!!」

 サルバトーレが二発の銃弾を放つ。
 銃弾はバッグの肩掛けの部分を撃ち破る。
 そのため、めだかの腕は残った肩掛けの破片だけを投げるに終わり、そのままばたりと倒れ伏した。
 反射はこれ異常持たなかった。

 サルバトーレは落ちたバッグを拾い上げる。
 その顔は口端が吊り上がり、楽しそうな笑みを作っていた。
 “面白い”。
 あの行動に何の意味があるのかはわからないが、なかなか面白い行動だ。
 サルバトーレは腕をびっ、とめだかの遺体を指さし、命令を下す。

「貴様は転生した後、再び私と戦闘しろ!
 その時は全力で向かってこい!!」

 返事はない。
 だがそれで良い。
 上官の、勝者の命令は絶対だ。
 いつか転生したこの女と相見える日が来るだろう。

 その時、密林からのそりと現れる影。
 東洋サファリに放し飼いにされている、ライオンだ。
 めだかの気配に怯えて離れていたが、それが無くなり、
 そして美味そうな血の匂いをかぎ取り、ここまでやって来たのだ。

 転がる肉に近づこうとして、違う気配に気付いた。
 空気を鳴動させるほどの怒気。
 その根源はサルバトーレだ。

「そこの貴様、その女を襲うことは私が許さん。
 即刻立ち去れ!!」

 ライオンはその気迫に押され、急いで密林の中へと走って逃げた。
 それを一瞥し踵を返すと、そこには白黒の物体が立っていた。
 絶望学園長学園長、モノクマだ。

「もう二人も殺っちゃったの? 偉いなぁ。先生、とっても嬉しいよ」
「何の用だ?」
「あわわわ……、先生に銃を向けるなんてやめてよ。
 おしおきされたいの?」
「……ふん」

 サルバトーレは銃を下げる。
 それでも、鋭い眼光はモノクマを睨みつけたままだ。

「用って程のことじゃないんだけどさ、はい、忘れ物だよ」
「……これは」

 モノクマが放り投げたのは、一つのバッグ。
 今井蛍のバッグだった。

「取りに行くのも面倒くさいでしょ?
 だから持ってきてあげたよ」
「気が効くな」
「優等生だからこれくらいのことはしてあげちゃうよ。
 あ、他の生屠さんはあっちにいるからね。
 それじゃあ、じゃんじゃん殺し合っちゃってね~。
 先生、応援してるよ」

 モノクマはそれだけ言うと、ひょいとどこかへ消えてしまった。
 モノクマの言に従うのも癪ではあるが、ライバルであるビグスター様もキルスコアを稼ぎいでいることだろう。
 ライバルとは、お互いに競い高め合う存在。
 そうでなくては、ビグスター様をライバルに選んだ意味がない。

「……ん? なんだ、ビグスター様、また小さい『ッ』を盗られでもしたのか。
 我がライバルとしてなさけないぞ」

 サルバトーレを一人呟き、モノクマが指示した方角へと歩みを進めた。


【7-A/一日目・朝】

【極上のサルバトーレ@魔界戦記ディスガイア3】
[状態]:疲労(小)、怪我(小)
[星階級]:二つ星(ダブル)
[装備]:サルバトーレの拳銃@魔界戦記ディスガイア3
[道具]:基本支給品×3、ランダム品3~7
[思考・状況]
基本:他のクラスメートを皆殺しにして卒業する
1:モノクマに指された方向へ行く。
2:ビグスター様以上のキルスコアを稼ぐ。


※黒神めだかのアリスストーン(数は不明)と今井蛍のアリスストーンが会場に投げ飛ばされました。


【今井蛍@学園アリス 死亡確認】
【黒神めだか@めだかボックス 死亡確認】



【サルバトーレの拳銃@魔界戦記ディスガイア3】
サルバトーレに支給。
サルバトーレ愛用の黄金銃。
魔力により銃弾を発射する。


【消火弾@絶対可憐チルドレン】
黒神めだかに支給。
周囲の熱と酸素を奪う消火弾。
工場火災の際に使用された。

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