89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:08:38.72 ID:HsD1iU2i0
トーストを食べ終わる頃には、空には虚ろな種火が残るだけであった。
水銀燈が持て余していた空のヤクルト容器を受け取る。
「あら」と水銀燈が何かに気づき、僕に顔をよ寄せる。
「苺ジャム。ついてるわよ」
細く小さな指が僕の口端に触れ、ジャムを掬い取る。
「ん、甘い」
ペロリと、ピンクの舌で、自分の指についたジャムを舐め取った。
「……なによ」
「いや、別に……」
水銀燈が眼を細め、顔を近づける。
「他に、何もないの?」
僕の頬に手を添える。力を込められている訳じゃないのに、顔が動かない。
「ねぇ……」
たまった唾を飲み込み喉仏が大きく動く。
突如、部屋の隅が白く光り、水銀燈は光りの元を素早く睨みつけた。
鏡が波打ち、赤い服の人形と、ピンクの服の人形が飛び出してきた。
「人間! 離れなさい!」
赤い服の人形が、手に持っていたステッキ振り上げ、こちらに踏み込みながら言う。
水銀燈は僕を突き飛ばし、ステッキを交わすが、返す刃で水銀燈を切り上げる。
水銀燈はどこから出したのか、一本の剣でそれを防いだ。
「雛苺、その人間を守りなさい」
雛苺と呼ばれた、ピンクの服を着た人形は「わかったの!」と答え、僕と水銀燈を結ぶ線に立つ。
トーストを食べ終わる頃には、空には虚ろな種火が残るだけであった。
水銀燈が持て余していた空のヤクルト容器を受け取る。
「あら」と水銀燈が何かに気づき、僕に顔をよ寄せる。
「苺ジャム。ついてるわよ」
細く小さな指が僕の口端に触れ、ジャムを掬い取る。
「ん、甘い」
ペロリと、ピンクの舌で、自分の指についたジャムを舐め取った。
「……なによ」
「いや、別に……」
水銀燈が眼を細め、顔を近づける。
「他に、何もないの?」
僕の頬に手を添える。力を込められている訳じゃないのに、顔が動かない。
「ねぇ……」
たまった唾を飲み込み喉仏が大きく動く。
突如、部屋の隅が白く光り、水銀燈は光りの元を素早く睨みつけた。
鏡が波打ち、赤い服の人形と、ピンクの服の人形が飛び出してきた。
「人間! 離れなさい!」
赤い服の人形が、手に持っていたステッキ振り上げ、こちらに踏み込みながら言う。
水銀燈は僕を突き飛ばし、ステッキを交わすが、返す刃で水銀燈を切り上げる。
水銀燈はどこから出したのか、一本の剣でそれを防いだ。
「雛苺、その人間を守りなさい」
雛苺と呼ばれた、ピンクの服を着た人形は「わかったの!」と答え、僕と水銀燈を結ぶ線に立つ。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:13:02.69 ID:HsD1iU2i0
「蒼星石が一人家に来て、何事かと思ったけれど……水銀燈、あなた翠星石のローザミスティカを奪ったわね?」
「あら真紅、私達はアリスゲームをしているのよ? ローザミスティカを奪って、何がいけないのよ」
この、真紅と呼ばれた人形は、僕が翠星石を壊した事をしらないのか?
「水銀燈、あなたは間違っている。お父様は、アリスゲーム以外にも、アリスになる方法があると仰っていてたわ」
水銀燈が強く拳を握り締め、目を吊り上げ言う。
「また自慢? 一人だけお父様に出会い、可愛がられ……お父様の手は大きかった?
暖かかった? ねえ、真紅、教えて頂戴。貴方だけが知るお父様を、ねえ。」
「違う、そうじゃない!」
水銀燈と目が合った。冷たい眼をしている。
目の前では、先ほどから二人のやり取りを真剣に見つめている、雛苺の姿があった。
無防備にも、僕に背中を向けて。
雛苺の細い首を掴み地面に押し倒した。「ぎゅふぅッ」と蛙が潰されたような音が口から漏れる。
「雛苺!?」
「蒼星石が一人家に来て、何事かと思ったけれど……水銀燈、あなた翠星石のローザミスティカを奪ったわね?」
「あら真紅、私達はアリスゲームをしているのよ? ローザミスティカを奪って、何がいけないのよ」
この、真紅と呼ばれた人形は、僕が翠星石を壊した事をしらないのか?
「水銀燈、あなたは間違っている。お父様は、アリスゲーム以外にも、アリスになる方法があると仰っていてたわ」
水銀燈が強く拳を握り締め、目を吊り上げ言う。
「また自慢? 一人だけお父様に出会い、可愛がられ……お父様の手は大きかった?
暖かかった? ねえ、真紅、教えて頂戴。貴方だけが知るお父様を、ねえ。」
「違う、そうじゃない!」
水銀燈と目が合った。冷たい眼をしている。
目の前では、先ほどから二人のやり取りを真剣に見つめている、雛苺の姿があった。
無防備にも、僕に背中を向けて。
雛苺の細い首を掴み地面に押し倒した。「ぎゅふぅッ」と蛙が潰されたような音が口から漏れる。
「雛苺!?」
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:13:23.92 ID:HsD1iU2i0
真紅が振り返る。僕は構わず雛苺の首をへし折った。
「余所見はだめよぉ?」
水銀燈が一気に距離を詰、真紅の胴を凪ぐ。
彼女の上半身が、僕の目の前に落ちた。
「あな、たが……すい……」
掠れ掠れ真紅が言う。僕を見る瞳は既に焦点を失っていた。
僕は黙って彼女を見つめた。
「そう……なの、ね……ごめんな……さい」
それっきり、彼女の唇が言葉を紡ぐ事はなかった。
彼女の謝罪は、誰に向けられた物だったのか。
真紅の瞼を閉じる。二つのローザミスティカが水銀燈に吸い込まれた。
水銀燈は真紅の顔を、詰らなさそうに見ていた。
僕は水銀燈に手を伸ばし、力を入れてしまえば、折れてしまいそうな、小さな手を握る。
「暖かい」と水銀燈がぽつんと言った。
真紅が振り返る。僕は構わず雛苺の首をへし折った。
「余所見はだめよぉ?」
水銀燈が一気に距離を詰、真紅の胴を凪ぐ。
彼女の上半身が、僕の目の前に落ちた。
「あな、たが……すい……」
掠れ掠れ真紅が言う。僕を見る瞳は既に焦点を失っていた。
僕は黙って彼女を見つめた。
「そう……なの、ね……ごめんな……さい」
それっきり、彼女の唇が言葉を紡ぐ事はなかった。
彼女の謝罪は、誰に向けられた物だったのか。
真紅の瞼を閉じる。二つのローザミスティカが水銀燈に吸い込まれた。
水銀燈は真紅の顔を、詰らなさそうに見ていた。
僕は水銀燈に手を伸ばし、力を入れてしまえば、折れてしまいそうな、小さな手を握る。
「暖かい」と水銀燈がぽつんと言った。
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:19:53.79 ID:HsD1iU2i0
あの日から毎日のように、水銀燈は鏡に潜り、他のローゼンメイデンを探していた。
彼女は自分の物も数に入れると、七対の内四つものローザミスティカを手にしている。
単純なパワーゲームで、水銀燈に敵うドールは存在しないのだ。
水銀燈は、自分がアリスになって父親に出会ったら、何をしてもらうだとか、何を一緒にしたいだとか、
僕の部屋に居る時は、年頃の少女が夢を語るよう、自分の夢を口にしていた。
正直、ローゼンに嫉妬の念さえ覚えたが、僕は彼女の笑顔を見ているだけで満足だった。
部屋の隅に置かれた蒼星石の鞄を見る。僕の左薬指の薔薇は、未だ大きいままだ。
彼女は、どこに行ってしまったのだろうか……。
鏡が光る。水銀燈が帰ってきたのかと思ったが違った。薬指がチクリと傷む、蒼星石だ。
青が麗しい男装は所々が破れ、汚れが目立つ。心なしか頬も扱けていた。
「やあ、マスター。久しぶり」
蒼星石右手の周りを人工精霊飛び、蒼星石の手に金の剣が握られた。
「ねえ、マスター。何で、あんな事したんだい……?」
何と説明すればいいのか。
「翠星石はね、人見知りが激しいんだ。だけどね、翠星石は僕と一緒に居る時みたいに、
マスターに接していた。いや、僕と居る時よりも、自分を出していたような気がするよ」
そうだったよね? と蒼星石が笑いかける。
「すまない」
「ううん、もう、いいんだ」
蒼星石が眼を大きく見開き
「これで終わりにしよう」と言った瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
あの日から毎日のように、水銀燈は鏡に潜り、他のローゼンメイデンを探していた。
彼女は自分の物も数に入れると、七対の内四つものローザミスティカを手にしている。
単純なパワーゲームで、水銀燈に敵うドールは存在しないのだ。
水銀燈は、自分がアリスになって父親に出会ったら、何をしてもらうだとか、何を一緒にしたいだとか、
僕の部屋に居る時は、年頃の少女が夢を語るよう、自分の夢を口にしていた。
正直、ローゼンに嫉妬の念さえ覚えたが、僕は彼女の笑顔を見ているだけで満足だった。
部屋の隅に置かれた蒼星石の鞄を見る。僕の左薬指の薔薇は、未だ大きいままだ。
彼女は、どこに行ってしまったのだろうか……。
鏡が光る。水銀燈が帰ってきたのかと思ったが違った。薬指がチクリと傷む、蒼星石だ。
青が麗しい男装は所々が破れ、汚れが目立つ。心なしか頬も扱けていた。
「やあ、マスター。久しぶり」
蒼星石右手の周りを人工精霊飛び、蒼星石の手に金の剣が握られた。
「ねえ、マスター。何で、あんな事したんだい……?」
何と説明すればいいのか。
「翠星石はね、人見知りが激しいんだ。だけどね、翠星石は僕と一緒に居る時みたいに、
マスターに接していた。いや、僕と居る時よりも、自分を出していたような気がするよ」
そうだったよね? と蒼星石が笑いかける。
「すまない」
「ううん、もう、いいんだ」
蒼星石が眼を大きく見開き
「これで終わりにしよう」と言った瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:24:04.64 ID:HsD1iU2i0
指輪が燃えるように熱くなり、体に力が入らない。
目の前で蒼星石が金の剣を大きく振りかぶる。
僕は手で顔を庇うようにし、後ろに倒れこむように逃げるが、庇った手がパックリと割れた。
血がジワリと切断面から湧き上がり、後は心臓の鼓動の合わせ、どくり、どくりと次から次に溢れ出す。
慌てて二の腕の動脈を押さえるが力が入らない。
「翠星石の痛みは、こんなもんじゃないよ」
胸を踏みつけられる、体が動かない。傷口と、指輪が脈打っていた。
「さようなら、マスター」
金の剣先が僕の喉元に狙いを定め、ゆっくりと持ち上がり、死への恐怖で目を強く閉じる。
が、いつまで経っても振り下ろされはしなかった。
ゆっくりと、蒼星石を見上げる。
蒼星石の胸から、一本の剣が生えていた。
「私のマスターよ、手を出さないで」
水銀燈が剣を引き抜き、蒼星石が僕の胸に倒れこんできた。
「ごめんね、翠星石……」
これが、蒼星石の最期の言葉だった。
彼女の体から三つのローザミスティカが浮かび上がり、水銀燈へと吸い込まれた。
水銀燈が自分の胸に手を置き、恍惚の表情を浮かべる。
七つのローザミスティカを集めた水銀燈は、これからアリスへと孵化するのだろうか?
指輪が燃えるように熱くなり、体に力が入らない。
目の前で蒼星石が金の剣を大きく振りかぶる。
僕は手で顔を庇うようにし、後ろに倒れこむように逃げるが、庇った手がパックリと割れた。
血がジワリと切断面から湧き上がり、後は心臓の鼓動の合わせ、どくり、どくりと次から次に溢れ出す。
慌てて二の腕の動脈を押さえるが力が入らない。
「翠星石の痛みは、こんなもんじゃないよ」
胸を踏みつけられる、体が動かない。傷口と、指輪が脈打っていた。
「さようなら、マスター」
金の剣先が僕の喉元に狙いを定め、ゆっくりと持ち上がり、死への恐怖で目を強く閉じる。
が、いつまで経っても振り下ろされはしなかった。
ゆっくりと、蒼星石を見上げる。
蒼星石の胸から、一本の剣が生えていた。
「私のマスターよ、手を出さないで」
水銀燈が剣を引き抜き、蒼星石が僕の胸に倒れこんできた。
「ごめんね、翠星石……」
これが、蒼星石の最期の言葉だった。
彼女の体から三つのローザミスティカが浮かび上がり、水銀燈へと吸い込まれた。
水銀燈が自分の胸に手を置き、恍惚の表情を浮かべる。
七つのローザミスティカを集めた水銀燈は、これからアリスへと孵化するのだろうか?
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 03:30:17.30 ID:HsD1iU2i0
五分経ち、十分経ったが何も起こらない。
「なぜ……?」
表情に焦りが見える。
パチ、パチ、パチとどこからともなく拍手が聞こえてきた。
「おめでとうございます」
声がした方を見る。姿見鏡の中に、タキシードを纏った兎が立ち、ステッキを小脇に抱え拍手をしていた。
「話が違うじゃない!」と水銀燈が言う。
「はて?」
「とぼけるんじゃないわよ! ローザミスティカを七つ集めたのよ? 何故アリスになれないの!?」
「いいえ、あなたはアリスです」
「それなら、お父様に……」
「あなたはローザミスティカを七つ集め、アリスになった。
……アリスが完成し喜んでましたよ、貴方の父親ローゼンも」
「なら、早くお父様に……!」
懇願するように言う。
「しかし、変な話しですね。アリスに成れたらローゼンに会えると、誰に言われたのですか?」
「なっ」
水銀燈の手から剣が落ち、柄がフローリングの床に鈍い音を立て落ちた。
「それに、男を垂らしこみ、汚い手を使い他の姉妹のローザミスティカを奪った貴方に、
お父上に会う資格があるとでも?」
兎は軽く肩を持ち上げ
「これは、とんだお笑い種ですな」と鼻先で笑った。
「ラプラスッ!」と水銀燈が叫び、姿見鏡を巨大な黒い貫く。
「これは怖い、怖い。それで道化はここいらで幕引きをしましょう」
バラバラに散らばった鏡の破片一つ一つに兎が立っていた。
兎は赤い幕を引き寄せ、その中に隠れてしまい、鏡の破片から完全に姿を消した。
五分経ち、十分経ったが何も起こらない。
「なぜ……?」
表情に焦りが見える。
パチ、パチ、パチとどこからともなく拍手が聞こえてきた。
「おめでとうございます」
声がした方を見る。姿見鏡の中に、タキシードを纏った兎が立ち、ステッキを小脇に抱え拍手をしていた。
「話が違うじゃない!」と水銀燈が言う。
「はて?」
「とぼけるんじゃないわよ! ローザミスティカを七つ集めたのよ? 何故アリスになれないの!?」
「いいえ、あなたはアリスです」
「それなら、お父様に……」
「あなたはローザミスティカを七つ集め、アリスになった。
……アリスが完成し喜んでましたよ、貴方の父親ローゼンも」
「なら、早くお父様に……!」
懇願するように言う。
「しかし、変な話しですね。アリスに成れたらローゼンに会えると、誰に言われたのですか?」
「なっ」
水銀燈の手から剣が落ち、柄がフローリングの床に鈍い音を立て落ちた。
「それに、男を垂らしこみ、汚い手を使い他の姉妹のローザミスティカを奪った貴方に、
お父上に会う資格があるとでも?」
兎は軽く肩を持ち上げ
「これは、とんだお笑い種ですな」と鼻先で笑った。
「ラプラスッ!」と水銀燈が叫び、姿見鏡を巨大な黒い貫く。
「これは怖い、怖い。それで道化はここいらで幕引きをしましょう」
バラバラに散らばった鏡の破片一つ一つに兎が立っていた。
兎は赤い幕を引き寄せ、その中に隠れてしまい、鏡の破片から完全に姿を消した。
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:36:04.96 ID:HsD1iU2i0
水銀燈の頬を一筋の涙が零れ落ちた。
水銀燈は自分の頬の手を触れ、手についた液体を不思議そうに眺める。
僕は水銀燈を抱きしめた。
「私は、お父様のアリスには、なれなかったの……?」
答える代わりに腕に力を込める。
「苦しい」
苦しくもなんともない声で水銀燈が言った。
「水銀燈、僕のアリスになれ」
ビクン、と水銀燈が震えた。
「僕のアリスになれ、水銀燈」
「あなた、それ、本気で言ってるのぉ?」
「ああ、本気だ」
「あなた、私がお父様のアリスになれなかったからって、あなたのアリスになるとでも、思ってるの?」
水銀燈は小ばかにしたように言うが、僕の腕から逃れようとはしない。
「それとも、同情?」
僕は、ただ黙って抱きしめる。
水銀燈の頬を一筋の涙が零れ落ちた。
水銀燈は自分の頬の手を触れ、手についた液体を不思議そうに眺める。
僕は水銀燈を抱きしめた。
「私は、お父様のアリスには、なれなかったの……?」
答える代わりに腕に力を込める。
「苦しい」
苦しくもなんともない声で水銀燈が言った。
「水銀燈、僕のアリスになれ」
ビクン、と水銀燈が震えた。
「僕のアリスになれ、水銀燈」
「あなた、それ、本気で言ってるのぉ?」
「ああ、本気だ」
「あなた、私がお父様のアリスになれなかったからって、あなたのアリスになるとでも、思ってるの?」
水銀燈は小ばかにしたように言うが、僕の腕から逃れようとはしない。
「それとも、同情?」
僕は、ただ黙って抱きしめる。
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:36:47.78 ID:HsD1iU2i0
「何よ、何とか言いなさいよ……信じちゃいそうに、なるじゃない」
「君は、僕のアリスだ、水銀燈。」
僕の背中に細い腕が回された。
「私は人形なのよ? あなたとは、違う時を生きる人形なのよ? それなのに、それなのに……」
言葉の所々に嗚咽が混じる。
「一緒に生きよう、水銀燈」
「馬鹿、馬鹿馬鹿ばかばかっ」
背中に回された手に力が篭り、
「あなたって、ほんとにおばかさぁん」と水銀燈が言った。
水銀燈の呼吸に混じり、雨の音が聞こえてくる。
鏡の破片が輝く部屋に部屋冷気が流れ込む。
秋が、終わろうとしていた。
「何よ、何とか言いなさいよ……信じちゃいそうに、なるじゃない」
「君は、僕のアリスだ、水銀燈。」
僕の背中に細い腕が回された。
「私は人形なのよ? あなたとは、違う時を生きる人形なのよ? それなのに、それなのに……」
言葉の所々に嗚咽が混じる。
「一緒に生きよう、水銀燈」
「馬鹿、馬鹿馬鹿ばかばかっ」
背中に回された手に力が篭り、
「あなたって、ほんとにおばかさぁん」と水銀燈が言った。
水銀燈の呼吸に混じり、雨の音が聞こえてくる。
鏡の破片が輝く部屋に部屋冷気が流れ込む。
秋が、終わろうとしていた。
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:39:52.05 ID:HsD1iU2i0
季節が流れ、水銀燈と三回目の冬を過ごす。
「ねぇ、マサユキ。今年もあと少しで終わりねぇ」
水銀燈が僕の膝の上で、ミカンを剥きながら言う。
「足が痛いから、おりてくれよ」
「だってぇ、くっついてると暖かいじゃなぁい」
「はい、あ~ん」と僕の口にミカンを一房押し込んだ。
「美味しい?」と水銀燈が僕の顔を見上げながら言った。
「うん、美味しいよ」と言うと
「よかったぁ」と僕の胸頭をじゃれつかせた。
「私にも」
水銀燈が顎を軽く左に持ち上げ、小さく口を開く。
いつからだろうか、水銀燈がこんな風になったのは。
「コタツから手を出したら寒いんだもんな……」
「ちょっとぉ、何よそれぇ」
アリスを追い求めていた水銀燈の面影は、既にない。
僕は、水銀燈の何に心奪われたのだろうか。
水銀燈への思いの熱が冷めていくのが分る。
指の先から感覚が死んでいく。まるで思いの凍傷だ。
季節が流れ、水銀燈と三回目の冬を過ごす。
「ねぇ、マサユキ。今年もあと少しで終わりねぇ」
水銀燈が僕の膝の上で、ミカンを剥きながら言う。
「足が痛いから、おりてくれよ」
「だってぇ、くっついてると暖かいじゃなぁい」
「はい、あ~ん」と僕の口にミカンを一房押し込んだ。
「美味しい?」と水銀燈が僕の顔を見上げながら言った。
「うん、美味しいよ」と言うと
「よかったぁ」と僕の胸頭をじゃれつかせた。
「私にも」
水銀燈が顎を軽く左に持ち上げ、小さく口を開く。
いつからだろうか、水銀燈がこんな風になったのは。
「コタツから手を出したら寒いんだもんな……」
「ちょっとぉ、何よそれぇ」
アリスを追い求めていた水銀燈の面影は、既にない。
僕は、水銀燈の何に心奪われたのだろうか。
水銀燈への思いの熱が冷めていくのが分る。
指の先から感覚が死んでいく。まるで思いの凍傷だ。
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:44:16.80 ID:HsD1iU2i0
生きながらにして墓場に埋められていくような、そんな感覚にすら捕われる────
「ねぇってばぁ、きいてるのぉ?」
いつの間にか、膝の上で僕と対面になるよう座っていた。
まばらに生え、自己主張を始めた顎鬚を引っ張ってくる。
「あ、気がついた」
赤い眼に僕が写っていた。きっと、僕の眼にも同じように水銀燈が写っているのだろう。
両手で水銀燈を抱きしめる。
「ちょ、ちょっとぉ、私はミカンをぉ……」
「僕を離さないでくれ、水銀燈」
「はいはい、よしよし」と水銀燈が僕の背をとんとん、と優しく叩く。
「甘えん坊さんねぇ、私は何処にもいかないわぁ」と水銀燈が僕の耳元で優しく囁いた。
「うん。ずっと、一緒だ」と僕は答えた。
────しかし、私はその墓場に入りたい。
生きながらにして墓場に埋められていくような、そんな感覚にすら捕われる────
「ねぇってばぁ、きいてるのぉ?」
いつの間にか、膝の上で僕と対面になるよう座っていた。
まばらに生え、自己主張を始めた顎鬚を引っ張ってくる。
「あ、気がついた」
赤い眼に僕が写っていた。きっと、僕の眼にも同じように水銀燈が写っているのだろう。
両手で水銀燈を抱きしめる。
「ちょ、ちょっとぉ、私はミカンをぉ……」
「僕を離さないでくれ、水銀燈」
「はいはい、よしよし」と水銀燈が僕の背をとんとん、と優しく叩く。
「甘えん坊さんねぇ、私は何処にもいかないわぁ」と水銀燈が僕の耳元で優しく囁いた。
「うん。ずっと、一緒だ」と僕は答えた。
────しかし、私はその墓場に入りたい。
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 03:45:31.97 ID:shty2/A20 お疲れさん 今回のテーマはツンデレ?
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 03:52:27.87 ID:HsD1iU2i0
今回のテーマは「11月3日konozamaからエスコン6が届く」で
裏テーマが「そろそろローゼンも下火で、違うキャラに浮気しちゃいそう」でした
今回のテーマは「11月3日konozamaからエスコン6が届く」で
裏テーマが「そろそろローゼンも下火で、違うキャラに浮気しちゃいそう」でした
はぁはぁ、オンライン楽しみだよお
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:01:53.66 ID:HsD1iU2i0
水銀燈の夢
水銀燈の夢
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:02:21.16 ID:HsD1iU2i0
ハロゲンランプが僕の横顔を照柿色にしていた。
息が白くなる朝が、今か今かと自分の出番を待っている、そんな季節だ。
早朝四時。オンラインの風に吹かれていたら、こんな時間だ。
この部屋で一番真面目なのは、時計の針なんじゃないだろうか?
動きを目で追う。歯車の噛合う音がやけに大きく聞こえてくる。
秒針が止まった。別に、僕に見つめられて、恥ずかしくなって
止まった訳じゃない、電池の寿命か何かだろう。
僕が時計に手を伸ばすと時計の秒針が“逆周りに”動き始めた。
3の位置から、1の位置一マス前まで動くと何事もなかったように、文字通り“時計回り”に動き始めた。
それからたっぷり二分ばかり時計を見つめたが、何も起こりはしなかった。
「……寝よう」
ベットに潜り込む。羽毛布団が優しく抱きしめてくる。
背骨だけが泥沼に飲み込まれるような、そんな眠り僕を待っていた。
ハロゲンランプが僕の横顔を照柿色にしていた。
息が白くなる朝が、今か今かと自分の出番を待っている、そんな季節だ。
早朝四時。オンラインの風に吹かれていたら、こんな時間だ。
この部屋で一番真面目なのは、時計の針なんじゃないだろうか?
動きを目で追う。歯車の噛合う音がやけに大きく聞こえてくる。
秒針が止まった。別に、僕に見つめられて、恥ずかしくなって
止まった訳じゃない、電池の寿命か何かだろう。
僕が時計に手を伸ばすと時計の秒針が“逆周りに”動き始めた。
3の位置から、1の位置一マス前まで動くと何事もなかったように、文字通り“時計回り”に動き始めた。
それからたっぷり二分ばかり時計を見つめたが、何も起こりはしなかった。
「……寝よう」
ベットに潜り込む。羽毛布団が優しく抱きしめてくる。
背骨だけが泥沼に飲み込まれるような、そんな眠り僕を待っていた。
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:06:31.04 ID:HsD1iU2i0
ここは、どこだ?
目を覚まして最初に考えた事が、それだった。二度寝以外の事を考えたのは久しぶりだ。
辺りは暗くて何も見えず、体を伸ばす事が出来ない。天井にも手が届く。
くそ、出しやがれ! 壁を激しく蹴る。
白い光りが僕の眼を刺した。
「いったいどうしたと言うの。朝から騒がしいわね」
光りに慣れてきた僕の目の前には、真紅が立っていた。
「怖い夢でも見てたんじゃないか?」
真紅の後ろからジュンが声を掛ける。
「え、なんでお前らが……?」
何が起きているんだ?
「まだ寝ぼけているのね」
真紅が呆れたような顔をした。
「え、寝ぼけ? 今さっき寝たばっか、あれ?」
「貴方はジュンと契約してから、こうして一緒に生活していたじゃないの──」
「なんだって!?」
真紅は丹田の下から、全てを吐き出すように溜息をつき
「いいから、顔を洗ってきなさい……」
そう言われ、僕は今まで入れられていた場所から這い出す。
ここは、どこだ?
目を覚まして最初に考えた事が、それだった。二度寝以外の事を考えたのは久しぶりだ。
辺りは暗くて何も見えず、体を伸ばす事が出来ない。天井にも手が届く。
くそ、出しやがれ! 壁を激しく蹴る。
白い光りが僕の眼を刺した。
「いったいどうしたと言うの。朝から騒がしいわね」
光りに慣れてきた僕の目の前には、真紅が立っていた。
「怖い夢でも見てたんじゃないか?」
真紅の後ろからジュンが声を掛ける。
「え、なんでお前らが……?」
何が起きているんだ?
「まだ寝ぼけているのね」
真紅が呆れたような顔をした。
「え、寝ぼけ? 今さっき寝たばっか、あれ?」
「貴方はジュンと契約してから、こうして一緒に生活していたじゃないの──」
「なんだって!?」
真紅は丹田の下から、全てを吐き出すように溜息をつき
「いいから、顔を洗ってきなさい……」
そう言われ、僕は今まで入れられていた場所から這い出す。
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:07:25.02 ID:HsD1iU2i0
これは、鞄? ジュンが僕を見下ろしていた。真紅を見ると、同じ高さに青い眼がある。
「……洗面所はあっちよ」と真紅が扉を指し言った。
慌てて自分の手を見る。小さい頃の傷痕がなくなっていた。それだけじゃない、
暑苦しい緑色の服を着ていたのだ!
「え、わ、あっ?」
髪に手を伸ばすと、H2ロケットみたいななのが、二本ぶら下がっていた。
辺りを見回すが、鏡が置いてない。くそ、思春期の餓鬼は鏡ぐらい部屋に置いてろ。
僕はジュンの勉強椅子に飛び乗り、机の上に置いてあるパソコンのディスプレイに顔を写す。
そこには、翠星石が居た。
「う、うえあえ!?」
体制を崩し、椅子のローラーの追撃で腰を床に打ちつけた。
「いてて……」
腰を摩っていると視線を感じた。皆が僕を見ていた。
「お、」
顔が引きつるのが分る。
「おはようで、すぅ……」
これは、鞄? ジュンが僕を見下ろしていた。真紅を見ると、同じ高さに青い眼がある。
「……洗面所はあっちよ」と真紅が扉を指し言った。
慌てて自分の手を見る。小さい頃の傷痕がなくなっていた。それだけじゃない、
暑苦しい緑色の服を着ていたのだ!
「え、わ、あっ?」
髪に手を伸ばすと、H2ロケットみたいななのが、二本ぶら下がっていた。
辺りを見回すが、鏡が置いてない。くそ、思春期の餓鬼は鏡ぐらい部屋に置いてろ。
僕はジュンの勉強椅子に飛び乗り、机の上に置いてあるパソコンのディスプレイに顔を写す。
そこには、翠星石が居た。
「う、うえあえ!?」
体制を崩し、椅子のローラーの追撃で腰を床に打ちつけた。
「いてて……」
腰を摩っていると視線を感じた。皆が僕を見ていた。
「お、」
顔が引きつるのが分る。
「おはようで、すぅ……」
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:12:53.91 ID:HsD1iU2i0
考えろ、考えるんだ。これは夢? こんなにハッキリとした物が?
こうして、脳みそ(あるかどうかは分らないが)が悲鳴を上げている間も、
美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。
「はい、翠星石ちゃんの目玉焼きね」
「あ、どうもありがとうございます」
目の前に目玉焼きが差し出された。
「あら?」
「あーじゃなくて、ありがとうですぅ」
「どういたしましてぇ」
ジュンの姉、ノリはふふ、と小鳥のように笑い、隣に座る雛苺の前にも目玉焼きを置いた。
落ち着け、落ち着け。語尾に『ですぅ』をつけてればいいんだ、考えるのは後でいい。
「はい。それじゃぁ、いただきます」
ノリの言葉に続き、僕達の「いただきます」が続いた。
なっ、この家、目玉焼きの下にハム挟んでるのかよ……。
僕は貴重な蛋白源をゆっくりと味わった。翠星石もけっこういいな。
「うー、リンゴさんもうないのー」
雛苺が隣で唸っていた。
「雛苺。デザートは食後に味わう物よ」
ナイフで切り分けた目玉焼きを、フォークに刺し真紅が言う。
「だってぇ、だってぇ」
糞、これだから餓鬼は嫌いだ。
考えろ、考えるんだ。これは夢? こんなにハッキリとした物が?
こうして、脳みそ(あるかどうかは分らないが)が悲鳴を上げている間も、
美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。
「はい、翠星石ちゃんの目玉焼きね」
「あ、どうもありがとうございます」
目の前に目玉焼きが差し出された。
「あら?」
「あーじゃなくて、ありがとうですぅ」
「どういたしましてぇ」
ジュンの姉、ノリはふふ、と小鳥のように笑い、隣に座る雛苺の前にも目玉焼きを置いた。
落ち着け、落ち着け。語尾に『ですぅ』をつけてればいいんだ、考えるのは後でいい。
「はい。それじゃぁ、いただきます」
ノリの言葉に続き、僕達の「いただきます」が続いた。
なっ、この家、目玉焼きの下にハム挟んでるのかよ……。
僕は貴重な蛋白源をゆっくりと味わった。翠星石もけっこういいな。
「うー、リンゴさんもうないのー」
雛苺が隣で唸っていた。
「雛苺。デザートは食後に味わう物よ」
ナイフで切り分けた目玉焼きを、フォークに刺し真紅が言う。
「だってぇ、だってぇ」
糞、これだから餓鬼は嫌いだ。
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:17:46.27 ID:HsD1iU2i0
「これやるから、飯ぐらい黙って食えです」
雛苺のデザートの皿の隣に、自分の皿を置く。
ったく、ローゼンはもうちょと考えて、雛苺の精神年齢を設定するべきだったな。
ハムを口に運ぶ。醤油と卵の風味が絶妙にブレンドされ、口の中に青い空、
白い雲、何処までも見渡せる草原、小さなログハウスが広がっていく。MADE IN CHINA? 知るか。
気がつくと、自分の食器の音しかしていなかった。
顔をも持ち上げると、皆の視線が集まっていた。またこれかよ……。
「なんですか」
正直、聞くのもだるいが、このまま飯を食べる雰囲気でもないので聞いておく。
「あの、翠星石が、雛苺に自分のデザートを……」と真紅が目を見開きながら言う。
「どこか体調が悪いのか?」
ジュンは病人を見る目で見てくる。ははは、お前ら激しくどうでもいいな。
「あっ、あの」
「リンゴを返せとは言わんですから、安心しろですよ」と雛苺に先手を打つ。
「半分返すのよ」
一切れだけリンゴを自分の皿に取分け、皿を僕に返してきた。
「ありがと……です」
この受け渡しが終わった後は、何事もなかったように食事が始まった。
うん。少しだけだが、ローゼンが雛苺に求めたアリス像が分ってきたよ
「これやるから、飯ぐらい黙って食えです」
雛苺のデザートの皿の隣に、自分の皿を置く。
ったく、ローゼンはもうちょと考えて、雛苺の精神年齢を設定するべきだったな。
ハムを口に運ぶ。醤油と卵の風味が絶妙にブレンドされ、口の中に青い空、
白い雲、何処までも見渡せる草原、小さなログハウスが広がっていく。MADE IN CHINA? 知るか。
気がつくと、自分の食器の音しかしていなかった。
顔をも持ち上げると、皆の視線が集まっていた。またこれかよ……。
「なんですか」
正直、聞くのもだるいが、このまま飯を食べる雰囲気でもないので聞いておく。
「あの、翠星石が、雛苺に自分のデザートを……」と真紅が目を見開きながら言う。
「どこか体調が悪いのか?」
ジュンは病人を見る目で見てくる。ははは、お前ら激しくどうでもいいな。
「あっ、あの」
「リンゴを返せとは言わんですから、安心しろですよ」と雛苺に先手を打つ。
「半分返すのよ」
一切れだけリンゴを自分の皿に取分け、皿を僕に返してきた。
「ありがと……です」
この受け渡しが終わった後は、何事もなかったように食事が始まった。
うん。少しだけだが、ローゼンが雛苺に求めたアリス像が分ってきたよ
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:21:42.00 ID:HsD1iU2i0
空が高い。
体が小さいだけに、よけい高く感じる。
食事の後、僕はジュンの机の上に座り、空を見上げていた。
このまま、ずっと翠星石なんだろうか……それとも、最初から翠星石だったのだろうか。
いいや違うと頭を振る。現に僕には人間だった頃の記憶がしっかりとある。
今の僕、翠星石は、ローゼンメイデンと言う漫画に登場するキャラクターの一人だし、
この漫画が投げ槍な終わり方をするのも知っている。
じゃあ、やはり夢なのか? しかも超リアルな。
風が琥珀の髪を撫でた。腕を組むと、胸に違和感が走る。
「これは……」
おそるおそる、胸に手を当てと、柔らかい物が手を押し返した。
「これが……おっぱい……ッ!」
両手でこねるように揉みまわす。ローゼン侮りがたし。
「この突起は、まさか、ち、ちく……」
「翠星石」
「いや、まさかな……ちくびな……いや、しかし……」
肩を叩かれる。
「うぉおおおい!」
情けない声が出た。
「どうしたんだよ、自分の胸なんて揉んで」と鞄から降りながら蒼星石が言った。
「ほ、ほうにゅ……そう、豊乳体操です! 体操なんです!」
ふうん、と興味が無さそうに僕を見た後
「僕達人形は成長しないよ」と、面白くなさそうに言った。
空が高い。
体が小さいだけに、よけい高く感じる。
食事の後、僕はジュンの机の上に座り、空を見上げていた。
このまま、ずっと翠星石なんだろうか……それとも、最初から翠星石だったのだろうか。
いいや違うと頭を振る。現に僕には人間だった頃の記憶がしっかりとある。
今の僕、翠星石は、ローゼンメイデンと言う漫画に登場するキャラクターの一人だし、
この漫画が投げ槍な終わり方をするのも知っている。
じゃあ、やはり夢なのか? しかも超リアルな。
風が琥珀の髪を撫でた。腕を組むと、胸に違和感が走る。
「これは……」
おそるおそる、胸に手を当てと、柔らかい物が手を押し返した。
「これが……おっぱい……ッ!」
両手でこねるように揉みまわす。ローゼン侮りがたし。
「この突起は、まさか、ち、ちく……」
「翠星石」
「いや、まさかな……ちくびな……いや、しかし……」
肩を叩かれる。
「うぉおおおい!」
情けない声が出た。
「どうしたんだよ、自分の胸なんて揉んで」と鞄から降りながら蒼星石が言った。
「ほ、ほうにゅ……そう、豊乳体操です! 体操なんです!」
ふうん、と興味が無さそうに僕を見た後
「僕達人形は成長しないよ」と、面白くなさそうに言った。
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:25:35.79 ID:HsD1iU2i0
「あーうん、そうなんですけど……」
蒼星石の体を見る。ネットでは「男だろ」などとよく言われるが、そんな事は断じてない。
体の線は柔らかく、良く見ると胸もケープの下から自己主張している。
「どうしたの? 翠星石」
「どこが具合でも悪いの?」と胸を凝視している僕を、心配そうに覗き込んで来た。
「まあ、物は試しですよ」
言い終わるが早いか、僕は蒼星石の後ろに素早く回り込んだ。
「ちょ、翠星石なに──ンッ、ちょ。やめ……」
行き成り胸をワシ掴まれた蒼星石が桃色の声を漏らした。
「他人に揉まれた方が、胸が大きくなるそうですよ」
小ぶりの胸を撫でるように揉む。
「健やかにー伸びやかにー」
「や、やめ、ほんとに」
蒼星石が手から逃れようともがき、僕ごと机の上に倒れこんだ。寝技は得意なんだ。
「あーうん、そうなんですけど……」
蒼星石の体を見る。ネットでは「男だろ」などとよく言われるが、そんな事は断じてない。
体の線は柔らかく、良く見ると胸もケープの下から自己主張している。
「どうしたの? 翠星石」
「どこが具合でも悪いの?」と胸を凝視している僕を、心配そうに覗き込んで来た。
「まあ、物は試しですよ」
言い終わるが早いか、僕は蒼星石の後ろに素早く回り込んだ。
「ちょ、翠星石なに──ンッ、ちょ。やめ……」
行き成り胸をワシ掴まれた蒼星石が桃色の声を漏らした。
「他人に揉まれた方が、胸が大きくなるそうですよ」
小ぶりの胸を撫でるように揉む。
「健やかにー伸びやかにー」
「や、やめ、ほんとに」
蒼星石が手から逃れようともがき、僕ごと机の上に倒れこんだ。寝技は得意なんだ。
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 04:28:58.78 ID:HsD1iU2i0
「中々大きくならんですね」
「はっ……、僕達は、にん……ぎょう」
硬くなった乳首を爪先で押し込む。バッファローゲームで、
平らな男の胸ですら、98%の命中率を誇る僕だ、逃しはしない。
第一関節が埋まるほど押し込むと、蒼星石の体がびくんと動いた。
指の間で挟むように揉み、中指と人差し指で乳首を摘む。
「どうです? 大きくなってきたですか?」
蒼星石は肩で息を吐き出し、何も答えなかったが、拒まないのを見ると豊乳体操を続けていいらしい。
まあ、「僕の股間が大きく云々」言われたら、こちらが困ってしまうが……。
直で揉もうと、コルセットのヒモを解き、シャツの下から手を入れる。
「おーい、くんくん探偵始まったぞ」
その時、部屋のドアが開いた。
ジュンは僕達の痴態を見て、一瞬固まるが、状況を理解したのか
一言「ご、ごめん!」と謝り、勢い良く扉を閉めた。
「じゅ、ジュン君に、みら、みられた……」
シャツの下に手を突っ込まれた状態で、耳まで真っ赤にし、酸欠の魚のように口をぱくぱくとさせている。
「まあ、しゃーないですよ。豊乳体操の続きでも」
「いい加減にしてよ!」
蒼星石が声を荒げた。
「どうしたのさ、今日の翠星石はなんか変だよ」
いつの間にか僕の下から抜け出したのか、乱れた衣服そのままで僕に説教してきた。
「中々大きくならんですね」
「はっ……、僕達は、にん……ぎょう」
硬くなった乳首を爪先で押し込む。バッファローゲームで、
平らな男の胸ですら、98%の命中率を誇る僕だ、逃しはしない。
第一関節が埋まるほど押し込むと、蒼星石の体がびくんと動いた。
指の間で挟むように揉み、中指と人差し指で乳首を摘む。
「どうです? 大きくなってきたですか?」
蒼星石は肩で息を吐き出し、何も答えなかったが、拒まないのを見ると豊乳体操を続けていいらしい。
まあ、「僕の股間が大きく云々」言われたら、こちらが困ってしまうが……。
直で揉もうと、コルセットのヒモを解き、シャツの下から手を入れる。
「おーい、くんくん探偵始まったぞ」
その時、部屋のドアが開いた。
ジュンは僕達の痴態を見て、一瞬固まるが、状況を理解したのか
一言「ご、ごめん!」と謝り、勢い良く扉を閉めた。
「じゅ、ジュン君に、みら、みられた……」
シャツの下に手を突っ込まれた状態で、耳まで真っ赤にし、酸欠の魚のように口をぱくぱくとさせている。
「まあ、しゃーないですよ。豊乳体操の続きでも」
「いい加減にしてよ!」
蒼星石が声を荒げた。
「どうしたのさ、今日の翠星石はなんか変だよ」
いつの間にか僕の下から抜け出したのか、乱れた衣服そのままで僕に説教してきた。
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:35:06.24 ID:HsD1iU2i0
「あーと、えーと……スイドリーム!」
スイドリームが蒼星石の目の前で光りを爆発させた。
しまった、これじゃ俺も前が見えないじゃないか!
僕は机から飛び降り、手探りで自分の鞄を見つけ、窓を突き破り大空にむかって飛び立った。
「あーまったく、ジュンもう少し空気読めよ」
秋を頬に感じながら、愚痴が後ろに流れていく。
これからどうするかな……。塊先生のドールショップにお邪魔しようかとも思ったが、
この世界は食うか食われるか、多分殺されると思いとどまった。
「あっ」
関西ナンバーのフルスモークベンツにケツドンした人のような声を出した。
「水銀燈にまだ会ってないじゃないか……」
辺りを見渡す。10時の方向に有栖川総合病院が見えた。
「いくぜ、ペイバックタイムだ!」
僕の鞄が、一発の弾丸となった瞬間だ。
「あーと、えーと……スイドリーム!」
スイドリームが蒼星石の目の前で光りを爆発させた。
しまった、これじゃ俺も前が見えないじゃないか!
僕は机から飛び降り、手探りで自分の鞄を見つけ、窓を突き破り大空にむかって飛び立った。
「あーまったく、ジュンもう少し空気読めよ」
秋を頬に感じながら、愚痴が後ろに流れていく。
これからどうするかな……。塊先生のドールショップにお邪魔しようかとも思ったが、
この世界は食うか食われるか、多分殺されると思いとどまった。
「あっ」
関西ナンバーのフルスモークベンツにケツドンした人のような声を出した。
「水銀燈にまだ会ってないじゃないか……」
辺りを見渡す。10時の方向に有栖川総合病院が見えた。
「いくぜ、ペイバックタイムだ!」
僕の鞄が、一発の弾丸となった瞬間だ。
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:37:15.52 ID:HsD1iU2i0
白い壁が目の前に聳え立つ。
まるで両生類の糞をかき集めた物とは比較にならない。
窓辺に座っているだろうと、高を括っていたのだが、見つからない。
僕は廃教会に足を伸ばす事にした。
採光口から中に入る。辺りは薄暗く厳粛に静まりかえっており、カビの臭いが辺りに立ち込めていた。
「まあ、廃教会なんてこんなもんか」
壊れていない長椅子に鞄を下ろし、そこからは徒歩で散策する。
「スイドリーム、明りになってくれ」
どこからか表れた人工精霊スイドリームが、僕の右上で足元を照らす。
ステンドグラスの彩色豊かな光りに照らされる祭壇の下に立つ。
「あれ、水銀燈居ないじゃん」
水銀燈の姿は何処にもなかった。
「あら珍しい、私に何の様かしらぁ」
振り返ると、水銀燈が立っていた。
祭壇を照らすために作られた採光口の光りが当っているのか、銀の髪が白く舞っている。
「蒼星石なしで、私に勝つ気でいるの? 私も舐められたものね」
吐き捨てるように言う。
「いや、違うんだ! 待ってくれ、戦う気はないんだ!」
僕は両手を前に突き出し言う。
「……じゃあ、何しに来たのよ」
仮装パーティーにスーツで来た人に問いかけるよう水銀燈が言った。
「そ、その、お喋りをしに」
水銀燈は「真面目なサラリーマンのコスプレをしているんです」と言われた人のような顔になった。
「それ、本気で言ってるの……?」
大きく頷き、肯定を伝える。
白い壁が目の前に聳え立つ。
まるで両生類の糞をかき集めた物とは比較にならない。
窓辺に座っているだろうと、高を括っていたのだが、見つからない。
僕は廃教会に足を伸ばす事にした。
採光口から中に入る。辺りは薄暗く厳粛に静まりかえっており、カビの臭いが辺りに立ち込めていた。
「まあ、廃教会なんてこんなもんか」
壊れていない長椅子に鞄を下ろし、そこからは徒歩で散策する。
「スイドリーム、明りになってくれ」
どこからか表れた人工精霊スイドリームが、僕の右上で足元を照らす。
ステンドグラスの彩色豊かな光りに照らされる祭壇の下に立つ。
「あれ、水銀燈居ないじゃん」
水銀燈の姿は何処にもなかった。
「あら珍しい、私に何の様かしらぁ」
振り返ると、水銀燈が立っていた。
祭壇を照らすために作られた採光口の光りが当っているのか、銀の髪が白く舞っている。
「蒼星石なしで、私に勝つ気でいるの? 私も舐められたものね」
吐き捨てるように言う。
「いや、違うんだ! 待ってくれ、戦う気はないんだ!」
僕は両手を前に突き出し言う。
「……じゃあ、何しに来たのよ」
仮装パーティーにスーツで来た人に問いかけるよう水銀燈が言った。
「そ、その、お喋りをしに」
水銀燈は「真面目なサラリーマンのコスプレをしているんです」と言われた人のような顔になった。
「それ、本気で言ってるの……?」
大きく頷き、肯定を伝える。
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:41:44.94 ID:HsD1iU2i0
足元に羽根が突き刺さった。
「馬鹿にするのも、いい加減になさい」
漆黒の翼を広げる。
「ほ、ほんと、ほんとだって!」
「ジャンクになるまで、言い続けたら、信じたげるわぁ」
羽根の掃射が始まった。
僕は慌てて祭壇の裏に逃げ込む。祭壇が軋んだ音を立てた。
神のご加護も献金がないと受けられないのかよ、ちくしょう!
「ほらほら、反撃しないと本当にジャンクになってしまうわよぉ!?」
ネズミを嬲る猫のように羽根を壁一面に掃射する。
「だから、本当に戦う気はないんだって!」
「減らず口を……ッ」
祭壇が翼に吹き飛ばされた。
水銀燈が剣を片手に歩み寄ってくる。あれが噂の水銀刀か。
僕は無様に尻をつき、後ずさり、冷たい石の感触を背中で知った。
水銀燈が無言で剣を持ち上げる。
目をつぶり、頭を両手で抱え込むようにし、その時を待つが、何も起こらない。
腕の隙間から水銀燈を見やると、いつのまにか剣をしまい、腕を組み立っていた。
足元に羽根が突き刺さった。
「馬鹿にするのも、いい加減になさい」
漆黒の翼を広げる。
「ほ、ほんと、ほんとだって!」
「ジャンクになるまで、言い続けたら、信じたげるわぁ」
羽根の掃射が始まった。
僕は慌てて祭壇の裏に逃げ込む。祭壇が軋んだ音を立てた。
神のご加護も献金がないと受けられないのかよ、ちくしょう!
「ほらほら、反撃しないと本当にジャンクになってしまうわよぉ!?」
ネズミを嬲る猫のように羽根を壁一面に掃射する。
「だから、本当に戦う気はないんだって!」
「減らず口を……ッ」
祭壇が翼に吹き飛ばされた。
水銀燈が剣を片手に歩み寄ってくる。あれが噂の水銀刀か。
僕は無様に尻をつき、後ずさり、冷たい石の感触を背中で知った。
水銀燈が無言で剣を持ち上げる。
目をつぶり、頭を両手で抱え込むようにし、その時を待つが、何も起こらない。
腕の隙間から水銀燈を見やると、いつのまにか剣をしまい、腕を組み立っていた。
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 04:47:24.84 ID:HsD1iU2i0
「で、何よ」と水銀燈が不機嫌そうに言う。
「え?」
「だから、話があって来たんでしょ。聞いてあげるから、早く言いなさいよ」
「うん、そうなんだけど」
水銀燈の視線に臆し、目が泳ぐ。
「会ってみたかっただけと言うか……なんと言うか……」
僕はいつのまにか正座をしていた。
「あなた、誰?」
「すっ、翠星石ですよ」
水銀燈は膝を付き、僕の襟首を掴み、鼻が突きそうな距離まで顔近づけた。
「嘘」
「どこから、どう見ても、翠星石だと思うのですが……」
思わず敬語になる。
「どうなの、スイドリーム……ほら、違うって言ってるじゃない」
スイドリームの瞬きを見、水銀燈が言った。
「本当の事を話しなさい。それとも、このままジャンクになりたい?」
顎を撫でられ、水銀燈の吐息で鼻先を湿らせながら、言われた。
朝起きたら翠星石になってた事、水銀燈の事は自分の世界の本で知った事をなどを正直に話した。
僕の話を水銀燈は終わるまで興味深そうに聞いていた。
「で、何よ」と水銀燈が不機嫌そうに言う。
「え?」
「だから、話があって来たんでしょ。聞いてあげるから、早く言いなさいよ」
「うん、そうなんだけど」
水銀燈の視線に臆し、目が泳ぐ。
「会ってみたかっただけと言うか……なんと言うか……」
僕はいつのまにか正座をしていた。
「あなた、誰?」
「すっ、翠星石ですよ」
水銀燈は膝を付き、僕の襟首を掴み、鼻が突きそうな距離まで顔近づけた。
「嘘」
「どこから、どう見ても、翠星石だと思うのですが……」
思わず敬語になる。
「どうなの、スイドリーム……ほら、違うって言ってるじゃない」
スイドリームの瞬きを見、水銀燈が言った。
「本当の事を話しなさい。それとも、このままジャンクになりたい?」
顎を撫でられ、水銀燈の吐息で鼻先を湿らせながら、言われた。
朝起きたら翠星石になってた事、水銀燈の事は自分の世界の本で知った事をなどを正直に話した。
僕の話を水銀燈は終わるまで興味深そうに聞いていた。
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:49:56.60 ID:HsD1iU2i0
「まあ、こんな感じなんですが……」
「で、最後はどうなるの?」
「最後?」
「貴方の世界の私よ。もちろん、アリスになるんでしょうけど……」
アリスの下りは、自身に言い聞かせるように言う。
「この話は途中で終わってる。終わりはないんだ」
「使えない男ね」
「ごめんよ」と何故か僕が謝っていた。
「まあ、それは置いといて。貴方の世界でも、私達は出会うかもしれないわね」
水銀燈手の平に顎を乗せると、こう続けた。
元々貴方と私の世界は近い所にあったのだが、時が巻き戻され、貴方の世界が私の世界に接触した。
良く分らないが、写真を撮ると昔写した影が写りこむような、そんな現象らしい。
こうして、僕がここに居る事がその証拠だとか。
「そうか。それなら、向うで出会って契約しよう」
「いやよ、なんでアンタなんかと、契約しなきゃ、なんないのよ」
水銀燈が腕を組むと、豊かな胸がその顔を持ち上げた。
「それに、貴方の世界に私が出現する頃になると、私達の記憶や本はなくなるわぁ」
「何で?」
「世界が辻褄を合わせようとするのよ」と肩を軽く持ち上げながら、水銀燈が言った。
「じゃあ、どうすれば契約出来るんだ?」
「そうねぇ、メイメイが貴方を選べば、契約出来るかもしれないわねぇ」
「メイメイ?」
水銀燈が手の平を上に向けると、赤い光りの球が現れた。
「ケセランパセラン?」
「まあ、こんな感じなんですが……」
「で、最後はどうなるの?」
「最後?」
「貴方の世界の私よ。もちろん、アリスになるんでしょうけど……」
アリスの下りは、自身に言い聞かせるように言う。
「この話は途中で終わってる。終わりはないんだ」
「使えない男ね」
「ごめんよ」と何故か僕が謝っていた。
「まあ、それは置いといて。貴方の世界でも、私達は出会うかもしれないわね」
水銀燈手の平に顎を乗せると、こう続けた。
元々貴方と私の世界は近い所にあったのだが、時が巻き戻され、貴方の世界が私の世界に接触した。
良く分らないが、写真を撮ると昔写した影が写りこむような、そんな現象らしい。
こうして、僕がここに居る事がその証拠だとか。
「そうか。それなら、向うで出会って契約しよう」
「いやよ、なんでアンタなんかと、契約しなきゃ、なんないのよ」
水銀燈が腕を組むと、豊かな胸がその顔を持ち上げた。
「それに、貴方の世界に私が出現する頃になると、私達の記憶や本はなくなるわぁ」
「何で?」
「世界が辻褄を合わせようとするのよ」と肩を軽く持ち上げながら、水銀燈が言った。
「じゃあ、どうすれば契約出来るんだ?」
「そうねぇ、メイメイが貴方を選べば、契約出来るかもしれないわねぇ」
「メイメイ?」
水銀燈が手の平を上に向けると、赤い光りの球が現れた。
「ケセランパセラン?」
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:54:28.09 ID:HsD1iU2i0
「失礼ね。人工精霊よ、あなたにもスイドリームが居るじゃない」
ああ、そうだ、僕達ローゼンメイデンには人口精霊がついているんだ。
「じゃあ、メイメイ、俺を選んでくれたら白粉を振りかけてやるぞ」
メイメイは顔を輝かせこちらを見た。
「ちょとぉ、メイメぃ、その男の言う事を聞いたら酷いんだから、分ってるぅ?」
僕と水銀燈の間を、頼りなさ下に飛ぶ。迷っているのだろう。
「それと……」先ほどから気になっていた事を尋ねる。
「ここはどこなんだい? やけに薄暗い」
「何処って、教会じゃなぁい」
「そうだ、教会だ、じゃあ僕は何で教会に来たんだ?」
そもそも、目の前の女の子は誰だ?
目の前の女の子が上を見た。
ステンドグラスがあろうであろう天井は、鉄色の水に飲まれている。
気づくと、僕達が居る祭壇を残し、辺りは既に鉄色の沼に覆われていた。
僕は目の前の女の子の手を握った。
「大丈夫、なんとかなるさ」
横に、ヒトガタの沼が立っていた。
女の子の手を握ったであろう僕の手も、沼に飲まれていた。
そして、何も見えなくなった。
「失礼ね。人工精霊よ、あなたにもスイドリームが居るじゃない」
ああ、そうだ、僕達ローゼンメイデンには人口精霊がついているんだ。
「じゃあ、メイメイ、俺を選んでくれたら白粉を振りかけてやるぞ」
メイメイは顔を輝かせこちらを見た。
「ちょとぉ、メイメぃ、その男の言う事を聞いたら酷いんだから、分ってるぅ?」
僕と水銀燈の間を、頼りなさ下に飛ぶ。迷っているのだろう。
「それと……」先ほどから気になっていた事を尋ねる。
「ここはどこなんだい? やけに薄暗い」
「何処って、教会じゃなぁい」
「そうだ、教会だ、じゃあ僕は何で教会に来たんだ?」
そもそも、目の前の女の子は誰だ?
目の前の女の子が上を見た。
ステンドグラスがあろうであろう天井は、鉄色の水に飲まれている。
気づくと、僕達が居る祭壇を残し、辺りは既に鉄色の沼に覆われていた。
僕は目の前の女の子の手を握った。
「大丈夫、なんとかなるさ」
横に、ヒトガタの沼が立っていた。
女の子の手を握ったであろう僕の手も、沼に飲まれていた。
そして、何も見えなくなった。
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:57:49.52 ID:HsD1iU2i0
冷たく、湿った香を鼻腔に感じる。
朝日がブラインド越しに、部屋を白が強い青で照らしていた。
楽しい夢を見ていたのか、心地よい倦怠感が体を包み、ベットマットに背を吸われる。
大きく息を吸い、吐き出す。時計を見ると九時を少し回った所だった。
夢を思い出そうと布団を被るが、電話のベルが鳴り始める。
僕は布団を蹴飛ばし、ベットから転がり降りて受話器を掴んだ。
「はいもしもし」
酷く掠れた声が出た。口を開けて寝るからだ。
「まきますか? まきませんか?」
冷たく、湿った香を鼻腔に感じる。
朝日がブラインド越しに、部屋を白が強い青で照らしていた。
楽しい夢を見ていたのか、心地よい倦怠感が体を包み、ベットマットに背を吸われる。
大きく息を吸い、吐き出す。時計を見ると九時を少し回った所だった。
夢を思い出そうと布団を被るが、電話のベルが鳴り始める。
僕は布団を蹴飛ばし、ベットから転がり降りて受話器を掴んだ。
「はいもしもし」
酷く掠れた声が出た。口を開けて寝るからだ。
「まきますか? まきませんか?」
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 04:58:05.17 ID:HsD1iU2i0
お わ り
お わ り
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:sage :2007/11/03(土) 04:59:39.28 ID:shty2/A20 お疲れ、これは前の話の導入部分か
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。: :2007/11/03(土) 05:04:10.22 ID:HsD1iU2i0
イエス
こんな時間までお付き合いありがとうね
イエス
こんな時間までお付き合いありがとうね