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Re:Re: - (2011/03/18 (金) 15:08:54) のソース
「ぬうう……あの男、いかなる手を使ったのだ」 樹木が密生する山を下りながら、一人の男が呟く。 ゆったりとした裾の長い学生服に身を包んだ彼は、来音寺萬尊という。 険しい顔で首を捻ると、毛髪の生えていない頭が月光を照り返す角度が変わる。 「気付かぬうちに我らを呼び出し、一瞬のうちにバラバラにする……分からぬ。 集団催眠にかけられたとすれば納得できるだろうが、とてもそうは思えぬな……」 立てた襟の外に巻いた数珠を、来音寺は撫でた。 彼は、その大粒の数珠の音を起点にして催眠術をかけることができる。 警戒を怠る術士は術士にあらず。 ならば自分にまったく悟られることなく集団催眠を発動させるなど、来音寺はありえないと判断する。 だとすれば、先刻の事態は実際にあったということだ。 来音寺の足が、意図せず止まってしまう。 キース・ブラックと名乗った男がやったことが現実だとすれば、それほどまでに強大な力を持っているというのなら―― 自分や仲間たちの力程度で、立ち向かうことなど可能なのだろうか。 「……ふっ」 強張っていた来音寺の表情が、急に緩まった。 敵の力は、底がしれない。 殺し合いに乗る連中だって、少なからずいるだろう。 爆弾の枷までつけられてしまっている。 たしかに、間違いなく現状はまずい。 どうにもならないようにすら思える。 しかしながら、それでも来音寺は勝利を確信している。 行方が分からなかったあの男が、この場にいるのだから。 呆気に取られるしかなかった来音寺の前で、あの男は言ってのけたのだから。 「『知ったことか』、か」 まったく変わっていない金剛番長の姿と言動に、来音寺は笑いを抑えきれない。 仲間の仇を打つためならば、あの男はどんな不利さえも覆す。 逆境など拳一つで引っくり返して、己のスジを通すのだ。 金剛番長の背を見ただけで、来音寺の心を支配しつつあった恐怖は塵と化した。 いち早く仲間たちと合流して、ブラックの思惑を粉砕する。 来音寺はそう決断して、下山を再開し――すぐさま横に跳んだ。 ひゅぅん、と。 不自然な音が響いたのだ。 「む!?」 受け身を取って瞬時に立ち上がり、来音寺は自分がいた地点に視線を飛ばす。 隣にあった木の幹に、穴が空いてしまっている。 痕を見る限り、明らかに拳銃によるものだ。 捉えた音から認識するに、おそらく消音器をつけているのだろう。 瞬時に反応していなければ、撃ち抜かれてしまっていた。 そこまで来音寺が考えた途端に、再び小さな銃声。 来音寺は回避行動も取らずに、口を大きく開いて俯く。 「喝っ!」 足をまったく動かすことなく、来音寺は跳び上がった。 異常発達した横隔膜を使い肺に空気をため込み、勢いよく射出したのだ。 敵に放てば攻撃に、相手の攻撃に放てば防御に、なにもない場所に放てば移動に使用できる。 この技術を喝撃という。 「貴様のような輩がいるゆえに、このような非常事態においても――」 空中で喝撃を放ち移動しつつ着地して、来音寺は弾丸が飛来してきた方向を見据える。 「あの世は年中無休なり!」 両の掌を合わせて宣言する来音寺萬尊。 またの名を――――念仏番長。 「喝っ!!」 弾丸が放たれた方向に空気弾が放たれるが、別の方向から銃声が響く。 移動されていたのかと考えながら、念仏番長は後方に喝撃を放って高速移動。 銃弾をやり過ごしてすぐさま喝撃で方向転換し、念仏番長は大きく息を吸い込む。 「仏罰・数念撃!!」 念仏番長が外した数珠に空気弾を吐き出すと、珠がバラけて吹き飛んで行く。 喝撃は一度に一発しか放てないが、風圧を利用して他の物を飛ばせば連射も可能なのだ。 「……っ、『電光石火(ライカ)』」 相手も予想していなかったのだろう。 焦りを隠しきれない声が、念仏番長の鼓膜を震わせた。 回転音が大気を切り裂き、凄まじい速度で移動する。 「逃がしはせん!」 後方に喝撃を放ち、念仏番長は離れていく回転音を追う。 木の隙間から相手の足元が視界に入り、スケートのようなものを履いているのが分かった。 スピードではスケートのほうが早いようだったが、地の利は喝撃にあった。 木々が生えた山内では、喝撃による小刻みな方向転換が有効なのだ。 あっという間に念仏番長と相手の距離は縮まり、完全に姿を視認できるようになった。 相手は、念仏番長が想定していたより遥かに幼かった。 おそらく中学生、もしかしたらまだ小学校に通っているかもしれない。そんな少年だった。 喝撃で懲らしめてやるはずだったが、念仏番長はそれをやめる。 人が死ぬ様を二度も見せられ、しかもこのような状況に追いやられたのだ。 子どもならば、追い詰められてしまっても仕方がない。 スケート靴を脱いだらしい少年に、念仏番長は喝撃の勢いを使わず歩み寄ろうとして――倒れこんだ。 「な、なに……?」 違和感を感じた脇腹をさすると、念仏番長の手にべったりと血が付着していた。 傷痕は、銃弾によって撃ち抜かれたようなものだった。 しかし少年は背を向けたままで、銃を向けてきていなかった。 ならば、なにが起こった。 念仏番長は思案を巡らせ、一つの結論を出す。 『自分でも少年でもない、第三者が攻撃してきた』と。 だから念仏番長は、振り返って近付いてきた少年に告げる。 「逃げろ……他の誰かが、狙っている…… 少年、お主が……怖がる、のも分かる。しかし……安心、していい。 金剛、番長がいる限り、このような……プログラムで、手を汚す必要など……ないのだ! 最初、の場所……で『知ったことか』と言い切った男に会え……!」 言いながら立ち上がると、念仏番長は新たな襲撃者がいるであろう方向に向き直る。 自分が生き残るために、他の参加者を蹴落とそうとする少年。 彼の姿が、念仏番長はかつての自分のように思えた。 金剛番長と出会う前の、臆病で矮小だった自分。 それでも、金剛番長と出会えば変わることができるはずだ。 そう信じて、念仏番長は己の死を覚悟した。 死に行く身だとしても、一人くらい逃がしてみせる。 覚悟した念仏番長の後ろ首が、力強く掴まれた。 「なっ」 困惑するしかない念仏番長の視界の隅に、自分を掲げる少年の姿が映った。 念仏番長はその行動が理解できないまま、太ももを撃ち抜かれる。 先ほどと『まったく同じ』射線で飛んできた銃弾によって。 「ぬか、った……! 仲間だったか……!」 「仲間? そんなものいないよ」 浴びせられた罵声を、少年は嘲笑う。 弾丸は止まらない。 すべて、『まったく同じ』軌道で念仏番長を射抜いていく。 少年が腕を動かしているため、命中する部位は変わっているが。 「この場所、思い出せないかな」 少年の言葉を受け、念仏番長は白く染まりつつ視界に意識を集中させる。 そして、ようやく気付いた。 この場所は、見覚えがあるのだ。 「最、初に……銃撃、を受けた……」 少年の後方には、弾痕が刻まれた木があるのだろう。 その推測を肯定するように頷き、少年は腕を下ろした。 これまで銃弾が打ち抜いてきた場所に、念仏番長の頭部を固定する。 すでに数十回も銃撃を受けてきた念仏番長は、動くことができない。 またしても『まったく同じ』箇所に銃弾は飛来した。 【来音寺萬尊(念仏番長) 死亡確認】 ◇ ◇ ◇ 転がっている死体や飛び散っている赤黒い液体に目もくれず、茶髪の少年はリュックサックを整理していた。 彼の名は、バロウ・エシャロット。 彼が持つのは、『過去にあったことを現実に変える』能力。 それを使い、『最初に放った弾丸』を何度も現実化していたのだ。 神器という能力もあるのだが、いずれも周囲への影響が大きすぎるので移動用のライカ以外は使わなかった。 「なるほど、本当みたいだね」 上空に浮かぶ月と同じように光る小石を手に乗せながら、バロウは頷く。 月の石というその石は『放つ光を浴びると体力を回復させる』とのことだったが、いまいち信用しきれなかったので試してみたのである。 彼は人間となるために、なんとしても最後の一人とならねばならない。 自分より圧倒的に強いはずの地獄人さえも、相手にしなくてはいけないのだ。 回復できる月の石はありがたかったが、試しもせずに効果を信じる気にはならなかった。 「それにしても……なんでこの人は、途中で攻撃するのをやめたのかな」 もうなにも喋ることのない死体へと視線を移す。 攻撃を仕掛けてきた自分を庇おうとした理由も、バロウには分からなかった。 が、すぐに考えるのをやめる。 バロウにとって、過程などどうでもよいことなのだ。 これといったダメージも受けず一人を殺害することに成功した、それだけでよかった。 回収したリュックサックからまず水と食料を移し、支給された道具を確認する。 「ふむ、これは僕の能力と相性がいいね」 出て来たロケットランチャーを蔵王というらしい玉に戻し、バロウは自分のリュックサックに移した。 【C-1 森林/一日目 深夜】 【バロウ・エシャロット】 [時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。 [状態]:健康 [装備]:H&K MARK23(9/12)@現実 [道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0~3(確認済み) [基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。 ※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。 【支給品紹介】 【H&K MARK23@現実】 バロウ・エシャロットに支給された。 全長245mm、重量1210g、装弾数12、45口径の自動拳銃 サイレンサーが装着された状態で支給。予備弾はなし。 【月の石@金色のガッシュ】 バロウ・エシャロットに支給された。 魔物ゾフィスが作り出した結晶体で、発せられる光を浴びると魔物や人間の体力を回復させる。 このバトルロワイアルでは、五つのカケラがビンに入れられた状態で支給されている。 ただ空気に触れることで徐々に効力を失っていくので、ビンに入れた状態でも数日で光を発さなくなってしまうだろう。 【RPG-7@現実】 来音寺萬尊に支給された。 ソ連が開発した携帯型の対戦車用榴弾砲。 発射器と弾頭合わせて10kg程度の重さがある。