情けは人の為ならず


(……これも現実か。機体点検を怠ったのが原因とは、笑えん)
 チーフがマジンカイザーと戦い、Vコンバーターの不調から撤退して数時間。
第一回目の放送によって、ここが進入禁止地区と予告されてから1時間余りの時間が
過ぎていたが、まだ彼はこの地区に留まっていた。当然、好きで留まっている訳では
ない。Vコンバーターの大幅なスペック不足の所に戦闘行動を加えた結果、OS等が
抗議の悲鳴を上げシステムダウンしてしまったのだ。

『Mドライブ+S32X』
 チーフがユーゼス自作のVコンバーター『Mドライブ+S32X』を確認した時に
受けた衝撃と驚き様は、映像でお見せできないのが残念なくらい劇的なものであった。
 バーチャロイド(以下VR)は過去に、ユーゼスの自作品と同様の『Mドライブ+
S32X』をベースとして企画開発されたが、試作試験のみで運用は見送られている。
初めて正式稼動したVRが登場したのは『Sサターン』が搭載されてからであり、
その次世代VRは高性能な『Dキャスト』を搭載し、その実力を確固たる物とした。
そして現在の最新型Vコンバーターへと至る。

『テムジン747J』
 現行のVコンバーター性能・出力を最大限に活かし切るカスタム機であり、MARZ
最高技術の集大成と言っても過言ではない。そんな機体を、VR開発初期の先行試作型
Vコンバーターを搭載して稼動させたのだから、システムダウンは当然の結果と言えた。
要約すると、原付スクーターのエンジンでF1カーを走らせようとしていたのだ。
無茶苦茶である。むしろ今まで稼動していたのが不思議でならない。

 既に、微かな希望を込めて信号段による救援信号を打ち上げてはある。しかし、
殺人ゲームの真っ最中に、誰とも知れぬ者の為に、禁止地区へ来る物好きがいるとは
考えられない。自分で考えても非論理的な行動と言える。仮にハッターが信号弾を
確認したとしても、都合良く間に合うとは思えない。来るとしたら自信タップリの
殺戮者くらいだろう。では諦めるのか? 答えはノーだ。諦めは愚か者の決断である。
(……このスペックでもAM2ラボはVFを稼動させた。不可能ではない)
 更に旧式の『Mシステム』や『Sマークスリー』でないだけ、望みは残されている。
チーフは短時間でVコンバーターへ手を加える事は難しいと判断し、専門分野では
ないが、OSの書き換えに着手していた。無理やりOSをバージョン・ダウンさせて、
必死でシステムを組み替えて行く。だが危険地域離脱に必要とする機動性を確保すれば
構築時間が、構築時間を優先すれば機動性が確保出来なかった。機体を動かせても離脱
出来なければ意味が無い。時は無情に流れてゆく。

 時は一時間程前に遡る。
(信号弾……救援信号か? しかしあれは進入禁止指定地域……)
 マジンカイザーの猛攻から逃れたガルドとプレシアは、禁止指定地区を回り込むように
身を隠しながら南東の廃墟を進んでいた。ガルドは、プレシアを連れて戦闘は出来ないと
考えていたので『進入禁止指定地区の近くには他者が来ないだろう』と思ったのだ。
(罠か…それとも本物か…どちらにせよ関わる必要性は皆無…)
「ガルドさん! 信号弾です! きっと誰か困っているんです! 行きましょう!」
 言うが早いかプレシアはグランゾンを方向転換させている。意外と行動が素早い。
「待て、あそこは進入禁止………」
「だから行くんじゃないですか!!」
 断言するプレシアに、ガルドが躊躇する。理解できない。この娘は何を言っている?
ガルドの苦悩を余所に、もうプレシアは信号のあった方向へと進んでいる。
「目の前に助けられる人が居るなら助ける。そうですよね? さっきガルドさんだって、
私を助けてくれたじゃないですか。今度は私が誰かを助ける番です」
 恐ろしくハッキリと理想論を言うプレシアに、ガルドは眩暈にも似た感覚に襲われる。
(確かに俺はこの娘を助けた。今も何故か同行している。しかし…だからと言って…)
 少女は嬉しかったのかもしれない。この殺し合いゲームの中で、最強とすら呼べる力を
手に入れながら、ただ一人戦う事を拒否した少女。戦う以外に、自分にも出来る事を
見つけた事が嬉しかったのかもしれない。元気の無かった瞳に、輝きが戻っている。
「……1時間だ。それ以上は許容できない。お前を引きずってでも離脱するぞ」
 葛藤の末、ガルドは折れた。ブラックサレナでグランゾンを押し止めるくらいなら、
さっさと二人で捜索した方が良いと思ったのだ。ガルドにしては懸命な判断と言える。
「はい!ありがとうございます!」
 破壊神に操られた男は、この機体で何をした。自分なら、この機体で何が出来るか。
少女の心に、まだ答えは出ていない。

 テムジンを掴み上げたグランゾンとブラックサレナが進入禁止地区を離脱して数時間。
「今回は上手く行ったから良かったが、この様な感情に任せた行動は……(中略)
……向こう見ずに飛び出せば良いというものではない。そもそも……」
「……自分の行った行為を棚上げして語るのは、教義指導者としてどうかと思うが?」
 プレシアに対するガルドの説教に飽きたのか、それともプレシアに助け舟を出したのか、
チーフが口を挟んだ。チーフがOSの再構成が完了するまでの間に、既にガルドの説教は
数回はループしているのだ。助けられた身ではあるが、文句の一つも言いたいのだろう。
「あ、あれはその場の成り行きと言うもので、戦場では臨機応変な……」
 対マジンカイザーの時の事で、シドロモドロするガルド25歳を尻目に、当のプレシア
本人は御機嫌な様子でやり取りを見守っている。何か吹っ切れたのだろうか?

 結局、OSを旧式に再構成し、稼動可能になったチーフも同行する事となった。
何故? プレシアに押し切られたのである。そんな三人が市街地を思わしき所へと到着したのは、
ちょうど日付が替わった頃の事だった。



【プレシア=ゼノキサス 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:健康
 機体状況:良好
 現在位置:B-1の市街地
 第一行動方針:助けられる人は助ける
 第二行動方針:ガルドについていきたい
 最終行動方針:まだ決めていない】


【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:高機動型ブラックサレナ(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好(自分の行動にやや戸惑い)
 機体状況:良好
 現在位置:B-1の市街地
 第一行動方針:プレシアを見守る
 第二行動方針:イサムの障害の排除(必要なら、主催者、自分自身も含まれる)
 最終行動方針:イサムの生還】

【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:Vコンバーター不調『Mドライブ+S32X(レプリカ)』
 現在位置:B-1の市街地
 第一行動方針:ハッターを捜索し、Vコンバーターを修復
 第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない)
 備考1:チーフは機体内に存在。
 備考2:機体不調に合わせ、旧式OSで稼動中。低出力だが機動に問題は無い】

【二日目 0:00】





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第74話「黒の交錯 プレシア・ゼノサキス 第147話「内と外の悪鬼
第74話「黒の交錯 ガルド・ゴア・ボーマン 第147話「内と外の悪鬼
第90話「幻の戦闘教義零番! チーフ 第147話「内と外の悪鬼


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最終更新:2008年05月30日 05:40