黒の交錯
「ルストトルネェェェド!」
機体のすぐ横を荒々しい竜巻が通り抜ける。気が吹き飛び、砂塵が巻き上がる強力な威力。
その高い機体性能のおかげでなんとか攻撃を避け続けているものの、プレシア=ゼノキサスにとって
今の状況は悪夢以外の何物でもなかった。
「お願いです!こちらは戦う積もりなんてないんです!だから攻撃をやめ・・・きゃぁっ!」
外部スピーカーをONにしてまるで悪魔のような姿をした機体に向けて必死で呼びかけたが、
その台詞が終わる前に跳んできたミサイルがグランゾンの装甲を直撃する。
しかしミサイル程度ではグランゾンの装甲には傷一つつかなかった。改めてその装甲の厚さに驚嘆しつつ
プレシアは顔を伏せる。
(グランゾンの力・・・それは目の前で父を奪われたあたしが一番分かってる。速く、強い。ディアブロなんかと比べ物にならない)
プレシアの父――ゼオルート=ザン=ゼノサキスは剣皇と称される程の腕の持ち主であった。マサキや自分を守る為に戦ったとはいえ
その彼を労せず葬ったこの機体、グランゾンの性能はまさに悪魔の如きものなのだ。
偉大なる父の血を引くプレシア自身、魔装機を駆る腕はかなりのものがある。マサキに反発して家出した時の修行が
彼女の素質を実力へと変えた。グランゾンを動かそうと思えば、実際さして労することもない――はずなのだ。
しかし、プレシアの細い腕はグランゾンを操ることに恐怖を覚えていた。例え唐突に現れた魔神に一方的に攻撃されていたとしても。
(もう・・・いいかな。死んじゃったって。こんなゲームに参加するぐらいなら・・・)
そうプレシアが諦念に身を任せようと考えると同時に前の機体から愉悦を含んだ声が上がる。
「つまらないなぁ、もう壊しちゃっていいの?折角手を抜いてあげたのに!壊すよ?壊すよ?
タァボスマッシャァァパンチィィ!」
魔神の両拳が発射され一直線にこちらへ向かってくるのを見ながら、プレシアは目を閉じた。
(ごめんね、お兄ちゃん、お父さん・・・)
しかしいつまで経っても衝撃が襲ってこない。おそるおそる目を開けると、そこには黒い機体が身を躍らせていた。
身体が咄嗟に動いていた。悪魔の如き姿形の機体から放たれた両拳に対して思わず横腹から体当たりを食らわせたのだ。
回転しながら跳ぶ拳は強力な破壊力を持っていることが簡単に想像できたが、横からの攻撃には全く弱い。
軌道はそれ見当違いの方向へと飛んでいった。ガルド・ゴア・ボーマンは軽いため息をつく。間に合った。
イサムの為なら何をも厭わぬと誓ったものの、彼と会い方針を聞かなければどうしようもない。
そう思ったガルドは高機動型ブラックサレナの速さに任せ戦場をひた走っていた。
いくつもの戦いを横目で見たが、彼にとっては関係ない。
しかし何故か今回は無意識のうちに戦闘に介入していた。高い索敵能力があるのか、映像と音声だけは拾っていた、そのせいか。
まだ年端もいかないであろう女の声、そして凶器に満ちた哄笑。決して戦おうとしない少女の機体。
戦わざる相手に向けて容赦の無い攻撃を浴びせていた自らの姿を知らない内に思い出していたからなのかもしれない。
そう行動の理由を冷静に分析しながらも、ガルドは再びため息をついた。あの魔神の“ご機嫌”を損ねる行動を取った以上、
奴との戦闘は避けられない。進んで殺すつもりはないが、イサムの為に動く前に殺されるつもりは毛頭ない。
(そうと決まれば先手を取る!)
魔神に向かって突進しながら、素早く青い巨躯を硬直させている機体への通信を開く。
「大丈夫だ、お前は逃げろ」
突然入ってきた通信から聞こえてきたのは落ち着いた男の人の声。プレシアはその冷静な言葉の響きに包まれるような思いを抱いた。
自分を助けてくれた人。そしてわき目も振らず悪魔のような機体へと突進していった。何故そんなことをしてくれるんだろう?
プレシアの問いに彼が答えるはずもなく、その黒い体が敵へとぶつかる。
大きく軌道を逸らされた両拳が戻ってきていない所への体当たりに
魔神はなすすべも無くぶっ飛ばされた。すぐに尻尾をはためかせながら体躯を翻してバランスを崩した所に再び突進。
エネルギーフィールドらしきものを張って体当たりしているらしく、相手のダメージはかなりのものに見える。
逃げろ、そう言われたことをプレシアはようやく思い出した。しかし身体がその命令を拒否している。助けてくれた人に任せて逃げる。
そんなことはできない。できるはずがない。立ちふさがって、この忌まわしき機体に命を奪われた父の姿を思い出す。
戦う勇気はとても無かったけど、このまま逃げることなんてできない、そう思ってプレシアは操縦桿を握る。
眼前では三度目の体当たりによって魔神がとうとう大地に倒れていた。と、そこにやっと両拳が戻ってくる。
それと同時に魔神から禍々しき気が立ち上る様が見えた。
「てめぇ、よくもやってくれたなぁ!許せるか?許せねぇよなあ、こんなことされたらよぉ!」
体当たりによって生じた傷が次々と塞がっていく。傷が勝手に塞がるなんて!
どうしようもなく嫌な空気を感じたフ゜レシアは、未だ開いていた回線に向かって叫んだ。
「早く逃げて!あの機体は危ない!」
プレシアの必死の叫びが聞こえたのか、黒い機体はこちらへ向けて直ぐに方向転換する。
「逃げるのは、お前もだ」
再び男の声。こんな緊迫した状況なのに、プレシアは思わず元気良く答えた。
「はい!」
段々と獲物が遠ざかるのを見ながらラッセル・バーグマンは唇を噛み締めた。傷がふさがるにはもう少し時間がかかる。
「だが、あの黒い奴は俺の手で殺す。この屈辱、忘れるわけにはいかない・・・!」
立ち上がり、直ぐに後を追おうとした時、スピーカーが音を拾った。
「お前は戦闘を望まぬ相手に対して攻撃を仕掛けていたようだな。その卑劣な所業、特別指導する」
【プレシア=ゼノキサス 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:健康 ちょっと安心している
機体状況:良好
現在位置:D-2から南東に向けて移動中
第一行動方針:マジンカイザーから逃げる
第二行動方針:ガルドについていきたい
最終行動方針:決めていない】
【ガルド・ゴア・ボーマン搭乗機体:高機動型ブラックサレナ(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好(自分の行動にやや戸惑い)
機体状況:良好
現在位置:D-2から南東に向けて移動中
第一行動方針:プレシアを見守る?
第二行動方針:イサムの障害の排除(必要なら、主催者、自分自身も含まれる)
最終行動方針:イサムの生還】
【ラッセル・バーグマン :マジンカイザー(サルファ準拠)
現在位置:D-2
第一行動方針:ブラックサレナを壊す
第二行動方針:すべてを壊す
最終行動方針:生き残る】
【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
パイロット状況:良好(怒っている)
機体状況:良好
現在位置:D-2
第一行動方針:目の前の機体を特別指導する
第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない)
備考:ハッターに気付いてはいるが、探す気は無し。また、チーフは機体内に存在】
【初日 15:30】
最終更新:2024年12月26日 01:50