思いを力に


「エルマ、今何時?」
「そろそろ21時です。ゲーム開始から9時間ぐらいですね」
「あと18時間で二人か・・・なかなか厳しい条件ね」
「どうしてですか?まだ3分の1しか経過してませんけど・・・」
「馬鹿ね、一回目の放送では10人死亡者が出ているわ。残りは45人。既に9時間も経ってるのにまだ一人一人で動いていると思う?
多分半分以上の人間は手を組んでいるでしょうね。わざわざ一人で行動するのは当たり前だけど危険だもの」
<対複数戦闘は一対一より遥かに危険が増すことが予想されます>
「そういうこと。さっすが、アルは頭良いわね~。なでなでしてあげちゃう!」
「うう、セレーナさん・・・ボクの立場が・・・」
「にしてもアル、結構貴方話せる子だったのね。言っちゃあなんだけどお姉さんびっくりよ」
<私は学習機能を所有しています。マスターとエルマさんの会話から学習させて頂きました>
「セレーナさんの会話で学習したって先が思いやられますね・・・」
「何か言ったかしら?エルマ?」
「な、なんでもないです!」
「・・・話を戻すわ。私達が狙っているのがゲームに乗っている人間よ。
さっき私に啖呵を切ったリュウセイ君じゃないけど、ゲームに乗らない人間だっている。
支給された機体性能には結構差があるようだから、好戦的な人間が勝ち抜いていける程簡単じゃない。
だから時間が経てば経つほど、私達が狙っている類の人間は減っていくでしょうね・・・」
<一日以内に3人殺して情報を得る事よりターゲットの選別条件は優先される事項なのですか?マスター>
「まだアルには分からないかもしれないけどね、私の矜持はそこにあるの。それを失った瞬間にジェルバの仇は討てなくなる。
物理的問題でなく精神的問題なのよ。分かるかしら?」
<理解するよう努めます>
「リオちゃんに覚悟を説いて、リュウセイ君の覚悟を聞いて、私も変わってきてるのかもしれないわね・・・」
(それなら、変わって来てるなら、どうして復讐という茨の道を未だ歩もうとするんですか・・・)
「ん?どうかしたの?エルマ」
「い、いえなんでもないです」
「そればっかりねぇ。そういえばアル、あなたのブラックボックスの中身、まだ教えてくれないの?」
<申し訳ありません、マスター。これは全てに優先される秘匿事項です>
「そんなとこだけは頑固なまんまなんだから・・・」

ラウ・ル・クルーゼは静かに眼を開けた。体にだるさは残っていない。
薬を飲んでから既に3時間、大事を取って長めの休養をしたせいか調子はかなり良くなっている。
ガン・スレイヴを3機失い、Z・Oサイズも紛失したがこれでも充分に戦えるだろう。
忌まわしき存在を産み落とした世界に復讐し、全てを滅ぼす為の格好の舞台なのだ。休むことは許されない。
と、レーダーに赤い点が灯った。クルーゼは口元を歪め、仮面を付ける。
蹲っていたディス・アストラナガンは翼を広げ、森から飛び立った。


「レーダーに反応です!ターゲットは飛行しています!」
「さーて、久しぶりのお客様ね」
<ターゲットから3機の小型熱源が分離。軌道から推測すると自律型兵器と思われます>
「あらら、滅茶苦茶やる気じゃない。エルマ、ちっちゃいヤツの攻撃把握に集中して!アルは本体との戦闘サポート!」
「ラジャ!」
<ラージャ>
ボクサーを持ってアーバレストが地を駆ける。と上空からガン・スレイヴが襲ってきた。
「2時、5時、9時方向にそれぞれ一機です!」
そのうち一機の方へ向け横っ飛びすると、先ほどまでいた地点にバルカンが着弾し土埃を上げる。
<ターゲットとの距離400まで接近>
狙いを外したガン・スレイヴが上空のディス・アストラナガンの周囲に滞空する。
『ハハハ!なかなか良い反応をしているじゃないか!これは楽しめそうだ!』
再びガン・スレイヴが散り、アストラナガンもラアム・ショットガンを構えて滑空してくる。
(この距離はなかなか厳しいわね。ボクサーもグレネードも通用する距離に引き込まなければ・・・)
アーバレストとアストラナガンは非常に相性が悪いことにセレーナは気づく。
リーチが断然違う上に、飛べないアーバレストは対空能力が低いのだ。エルマの索敵能力とアーバレストの速さがあれば
ガン・スレイヴとアストラナガンの連携を避けることはそう難しい事ではないが、攻撃に転じられる程の余裕は無い。
(あっちも勝負を決める為には接近しなければならないみたいね。本体が持ってる武器は形状から考えて散弾銃のようだから
接近しなければ致命傷を与えられない。ならばコンビネーションで決めに来た時が勝負!)

アストラナガンのコクピットでクルーゼは唇を噛んだ。
既に10分以上戦っているが、あの機体にかすり傷程度しか与えられていない。
龍虎王との戦いを経て若干慎重になっているクルーゼは、出来るだけ機体の被害を抑える為、上空から封殺する積もりだった。
しかし相手の腕は予想以上。ガン・スレイヴを自在に動かす集中力も長くは続かない。決定的な一手が必要だった。
「こんなものか、アストラナガン!お前は私の憎しみを糧にするのでは無かったのか?もっと力を、力を寄越せ!」
憎憎しげにコンソールへ向かって叫ぶと、突然クルーゼに黒い気が纏わりついた。
ディス・レヴのもたらす憎悪の力がアストラナガンを包む。
クルーゼの身体に憎悪が次々と入り込み、彼の体を憎しみで満たしていく。
体は軽くなり、頭は冴える。産まれた瞬間から彼を蝕んでいた病、薬でも完全に拭えなかったその気だるさは完全に消え去った。
「クククッ、こレはいい。イいぞ、アストラナガン!この力ダ!あレを壊しテ、そして世界を終ワらせる!」

「また三方から来ます!」
ガン・スレイヴが迫り、少しづつ間隔をずらしてバルカンを撃ってきた。三機の動きが更に有機的になっていた。
(動きが良くなってる!?かわし切れない!)
必死の思いで身体を捻るが装甲に着弾。態勢を立て直し方向転換し走り出す。
<右腹部に被弾。損害は軽微>
「さっきまでの動きはブラフだったわけ!?」
全速力で走りつつ、反復横とびのように細かくジャンプを繰り返してガン・スレイヴの追撃を左右にかわす。
<上空からターゲット接近>
「ここしかないわ。仕掛けるわよ!」
素早く後ろを振り向き、ボクサーを撃つ。真後ろに迫っていたガン・スレイヴ一機が直撃を食らって地面に落ちる。
すかさず真横に転がりショットガンをかわす。立つと同時に迫り来るアストラナガンに向けて跳躍した。
(ここまで接近すればあの自律兵器のサポートは受けられない!)
暗闇の空で徐々に近づく二つの機体。今まで逃げ続けていた敵がいきなり自らに向かって飛んで来ることを予想していなかった
クルーゼは一瞬途惑い反応が遅れる。その一瞬を逃さずセレーナはグレネードを投げ、アストラナガンに向けてボクサーを乱射した。
爆音と共にアストラナガンが煙に包まれる。
「やった!?」
「・・・いえ、まだ反応があります!」
落下しつつ振り向き見上げると全く変わらない姿で宙に浮かぶアストラナガンの姿をセレーナも視認できた。
「無傷!?どうして!」
<何らかのバリアが作動したと推測されます>
そうアルが答えると同時にアーバレストは着地する。着地に生じる隙を逃さずガン・スレイヴが突進し、機体に取り付いた。
アーバレストは振り払おうとするが、まるで纏わりつくような細かい制御で思うように動けない。
<ターゲットから大きな熱源反応>
『ハハハハッ!貴様もよク頑張っタがそろそロ終ワりにさせテもらう!
メス・アッシャー マキシマムシュートォォ!」
両肩の背からアーバレストへと伸ばされた砲身から白に虹を混ぜたような光線が放たれた。
「セレーナさん、避けられません!」
次第に白に染められてゆくセレーナの視界―――

仮面を被った奴らにジェルバのみんなが殺されたのはいつだっただろう?たった一人生き残った私は決心した。
命を引き換えにしてもみんなの仇を討つ。その決心の時から私の第二の人生は始まった。
ジェルバでは下っ端だった私はまず経験を積む事から始めなければならなかった。ロボットの操縦技術、
生身での格闘技術、正しい情報を選別する能力、ありとあらゆる状況を想定した訓練を続けた。
そして何年もの情報収集。それでも全く掴めなかった奴らの尻尾がひょっとしたらいま、掴めるかもしれない。
奴らと同じように仮面を被ったユーゼス、奴の言葉は嘘の可能性が高いだろう。でも、ひょっとしたら。
まだ私はチームのみんなの為に何ひとつできていない。なのに、なのにこんなところで死ねる?
死ねるわけがない。私を家族同然に育ててくれたみんな、志半ばで殺されたみんなに顔向けできない。
仇を討つまでは絶対に死ねない!

―――ォォォォォ・・・
静かだが力強い駆動音が身体を包む。何かの接続音。背中と肩から放熱板が展開する。
<ラムダ・ドライバ、イニシャライズ完了>
粉々に消え去る、そうなる筈だったのにあろうことかアーバレストは無傷だった。
「・・・アル、どういうこと?」
<ラムダ・ドライバ、正式名称虚弦斥力場発生システムは搭乗者のイメージを物理的な力に変換する装置です
先ほどはマスターの強い防衛衝動を斥力場に変換してターゲットから放たれた光線を受け止め、左右に逸らしました>
「思いを力に変える装置ってことか。なぁるほど、面白い」
「ええっ、セレーナさん納得しちゃうんですか?」
「勿論よ」
<マスター、僭越ながらお聞きしますがこの装置を疑問に思わないのですか?>
「あら、どうしてそんなこと聞くの?」
<私の前の搭乗者はこの装置の効力を容易に受け入れられないようでした>
「実際それで助かったんだから疑ったってしょうがないわ。それにね、アル。私は思いの力では誰にも負けない自信がある。
なら私に打ってつけの装置じゃない。エルマ、アル!あのゴキブリ野郎と決着をつけるわよ!」


自らの得た新たなる力、メス・アッシャーを直撃させたと確信していたクルーゼは、全く無傷で現れた銀の機体に驚きを隠せなかった。
メス・アッシャーを当てる前に退避させたガン・スレイヴを慌てて撃ち出し、ショットガンを構える。
撃つ時の隙が大きいメス・アッシャーはもう通用しないと考え、ガン・スレイヴと共にアストラナガンは滑空した。
ディス・レヴの力を得たクルーゼによるガン・スレイヴとの絶妙なコンビネーションを展開する。
しかしガン・スレイヴ二機ではさすがにカバーが回らず、また一機ごとの攻撃が展開される見えない壁に阻まれて牽制にならない。
クルーゼを焦燥が包み、彼に生じた弱さを足がかりに急速にディス・レヴが彼の身体を蝕んでいく。
「セカイヲ、ホロボス!ワタシヲキョゼツシタコノセカイヲォォ!」
既に彼の瞳は焦点を結んでいなかった。ただディス・レヴに駆られ前の敵を滅ぼそうと動く。

滅茶苦茶な動きのアストラナガンから放たれる弾をかわしながらセレーナは問う。
「アル、ラムダ・ドライバってのは攻撃にも応用できるの?」
<可能です。マスターのイメージ次第です。ただしラムダ・ドライバはエネルギー消費量が多い為長時間の連続使用はできません>
「一発で決めればエネルギーの心配もないわね」
そう言ってボクサーをアストラナガンに向け、眼を閉じる。
「ターゲット、来ます!」
(イメージしろ・・・!思いを力に。砲弾に意思を。あいつを倒して生き残るッ!)
「これで、消えろっ!」
放たれた弾は唸りながらアストラナガンへと飛ぶ。フィールドを展開し、腕で腹をかばったのを物ともせず装甲を吹き飛ばした。
<二人目ですね、マスター>
「ああっ、アルさんその台詞ボクが言いたかったのに!」
「すっかりお株を奪われちゃったわね」
「うう、酷いです」
「これであと一人。必ずやるわ。でも手札がすっからかんだから補給しないとね。エルマ、近いのはどこ?」
「一番近い補給ポイントはC-5です」
「じゃあそこに行きましょ」


深い森に、アストラナガンが仰向けに倒れこんでいる。
夜の闇に溶け込んでしまいそうなその機体のコクピットは抉り取られ、
赤く飛び散った血だけがかつての搭乗者の面影を残している。
身動き一つしない。
だが。
その機体のアイカメラは輝きを失っていなかった。夜の世界で、煌々と、赤く、輝き続ける。
剥がれた装甲、失った武器、そして、コクピット。それらの損傷部位がゆっくりと再生を開始する。
そうやって、待ち続ける。
ディス・アストラナガンは新たな主を。



【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状況:健康
 機体状況:ダメージはあるものの、活動に支障はなし エネルギーはかなり消耗
 現在位置:C-4からC-5(補給ポイント)へ
 第一行動方針:ゲームに乗っている人間をあと一人殺す
 最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
 特機事項:トロニウムエンジンは回収。グレネード残弾無し】

【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:装甲、コクピット、武器(除くZ・Oサイズ)修復中(修復されれば搭乗可能)
 現在位置:C-4の森の中】





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第122話「仇の約束 投下順 第124話「すーぱーふぁんたじー大戦
第136話「戦友 時系列順 第135話「矛盾と心配

前回 登場人物追跡 次回
第99話「交錯する覚悟 セレーナ・レシタール 第135話「矛盾と心配
第109話「龍と悪魔 ラウ・ル・クルーゼ


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最終更新:2008年05月30日 05:51