龍と悪魔


 世界が姿をゆっくりと変えていく。太陽が支配する時間から、月と星の時間へと移ろうとする狭間の時。
西空が赤く染まりゆく中、気の早い星は既にその存在を主張している。
その空を、一つの細長いシルエットが飛んでいく。青いボディにオレンジ色の光を受ける姿は、龍だ。
龍は飛びながら放送を聞く。死亡者は十二名。
その数字は、既にそれだけの戦闘が、命のやり取りが行われたということに他ならない。
 龍の中、ヤザン=ゲーブルは不機嫌そうに舌打ちをする。
自分はまだ誰一人殺していないというのに。既にそれだけの戦いが行われているのかと思うと全く面白くない。
先ほど偵察をしていたときも、すぐ隣のエリアで戦闘が行われていた。機体がまともに動く状態ならすぐにでも参加したのだが、
修復がまだ終わらない状態では見ていることしかできなかった。
 だが。それももう終わりだ。夜が更けようが関係ない。休息なら十分に取った。
これから戦いの時間が始まる。これからが享楽の時間だ。
『・・・それから、今後の放送は十二時間毎に行うこととする、精々聞き逃さん様にしたまえ』 
放送が終わったとき、ヤザンは舌なめずりをする。その内容のため、ではない。
 龍王機のセンサーが、機影を捉えたからだ。方向は正面。肉眼でも確認できる。
それは漆黒の機体だ。その背部、翼のようなパーツがゆっくりとこちらを向く。凶悪な光が灯るのをヤザンの目が捉える。
龍王機を真横に滑らせたすぐ後、巨大な光が先ほどまで龍王機のいた地点を貫いていく。
「はっはっは、遅いんだよッ!」
ヤザンは愉快そうに笑うと、正面の機影に向けて突撃を開始した。

「かかって来い! この私が滅ぼしてやる! この手で、全てをなぁッ!」
ラウ=ル=クルーゼは叫びを上げる。憎悪は彼に狂気をもたらし、殺意へと姿を変えていく。
額に汗を浮かべ、息遣いは荒い。だが彼は、狂ったような笑みを消さずに機体を操作した。
 ディス・アストラナガンはウイングを展開する。
悪魔のような翼を広げ、ディス・アストラナガンは龍王機へ向けて飛ぶ。
ラスタバン・ビームを回避し、ラアム・ショットガンで反撃を行う。
しかし、細長いボディを細やかに動かし、無駄のない動きで避けられる。構わず、ディス・アストラナガンは距離を詰める。
機動性を活かして龍王機の下部に回りこみ、Z・Oサイズで斬りつける。避けた装甲に向けて柄のショットガンで追撃を行う。
その一撃は、上昇した龍王機の尾に当たり、決定打には至らない。
体勢を立て直し、ラアム・ショットガンを打ち放つが、身を捻った龍王機には当たらない。
龍王機は頭部をこちらに向けて突っ込んでくる。その口には赤々と燃える火炎が留まっていた。
口から放たれた火炎をサイドステップで避ける。自らが作り出した火炎を追うようにして突っ込んでくる龍王機。
龍王機の真横に攻撃を叩き込もうとZ・Oサイズを構える。龍王機は防御も回避も考えず、勢いに任せて向かってくる。
強引に軌道を修正し、ディス・アストラナガンへと迫り来る。いつの間にか展開されていたドラゴン・カッターが風を切り、そして。
 強烈な金属音が響く。Z・Oサイズは龍王機の横側面を僅かに引き裂いたが、途中で弾き飛ばされ、地面へと突き立つ。
機体本体のダメージは装甲板が剥がされただけだ。それだけですんだのは、ディフレクトフィールドの存在のためだ。
それがなければ腕一本持っていかれていただろう。
「やってくれるな……ッ!」
クルーゼは忌々しげに口を開く。汗が頬をつたい、落ちていく。
モニターに目を走らせ、敵の動きを追う。方向を変えた龍王機は、ビームを数発撃ち込んでくる。
それを避け、反撃に移ろうとしたときだ。
「ぐぅぅっ……はぁっ、はぁっ……」
クルーゼはコクピットの中で身を折る。彼の息遣いは激しさを増し、焦点が定まらなくなってくる。
 そろそろ、限界だった。人が欲望の果てに生み出した存在であるクローン。クルーゼはその技術で人工的に作り出された存在だ。
だがその技術は不完全であり、不完全な技術で作られたクルーゼには欠陥があった。
 その欠陥とは、生まれつきテロメアが短いということだ。
そのため、クルーゼは普通の人間よりも寿命が短く、薬を服用しなければならない。
ディス・アストラナガンの憎しみに囚われ、感情を昂ぶらせ続けた彼は、自らの体を蝕む速度を速めていた。。
なんとか敵影を目で捉えるが、体の反応が追いつかない。再び向かってきた龍王機の刃が直撃し、コクピットを揺らした。

 敵の動きが急に鈍くなったとヤザンは思う。先ほどの攻撃が効いたのだろうか。
なんとか動いているが、とても戦えるような様子ではない。
「ふん、もう終わりか」
ヤザンは独りごちる。こうなってはつまらない。
もっと強い奴と、極限で戦いたいのだ。互いに命の奪い合いを行いたいのだ。
抵抗も出来ないような奴を嬲り殺すのは面白くもなんともない。
「ならさっさと殺してやるよッ!」
あれだけの勢いでぶつかっても損傷は少ない。どうやらあの機体にはバリアがあるようだ。ならば。
 確実に息の根を止める。そのために狙うのは、一箇所だ。
 一気に敵との距離を詰めようとしたとき、ディス・アストラナガンはその身から何かをいくつも召喚する。
いくつも飛び出したそれらは、蝙蝠のように見える。悪魔の眷属、あるいは使い魔といった形容が相応しかった。
蝙蝠――ガン・スレイヴは黒い翼を羽ばたかせ、生物のように龍王機へと迫り来る。
「ちっ、ビットのような武器かッ!」
あるものは真っ直ぐに、あるものは回り込むように。それらは生物を思わせる動きで龍王機に群がり、攻撃を開始する。
 一基の攻撃は大した威力を持たない。
だが、放っておけるほど生易しいものではなく、数が集まると馬鹿に出来ない損傷を与えてきそうだった。
だから、ヤザンはすぐに判断する。その内容は、迎撃。
 龍王機は首を大きくもたげる。その口に紅い炎が生まれ、ガン・スレイヴの飛び回る空間を睨みつける。
いくつかがそこに制止し、攻撃を掛けようとしたときだ。炎は龍王機からの縛りをなくされ、周囲を一瞬明るく染める。
焼き払われ、落ち行くガン・スレイヴ。だが、まだ全てを落としきれていない。
いくつかのガン・スレイヴから放たれたビームを受けながら、ドラゴン・カッターを展開する。
防御など考えない。そんなことをする暇があるなら、一基でも多く、早く落とそうと動く。
僅かなダメージなどすぐに修復されるからだ。
 龍王機は、身を回転させた。まだ熱の残る空間を刃が通り抜ける。
両サイドのガン・スレイヴを斬りおとし、背後に回った数基を尾で叩き落とす。
続く動きで、正面を飛ぶ一基に向けて口を開き、捉え、噛み砕いた。
それを最後に、レーダーはあらゆる反応を消す。
 それは全てのガン・スレイヴを落としたということと、ディス・アストラナガンをロストしたことを意味していた。
「逃がしたか」
追おうかと考えるが、すぐにその思考を止める。どうせ死にぞこないだ。放っておいて構わない。それよりも、だ。
「やはり、あの男だな」
 ゲーム開始早々に痛手を負わせてきたあの男こそ、自分を楽しませてくれそうだった。
「待っていろ、バラン=ドバン。次は負けんぞ」
龍王機は再度移動を始める。既に空は暗くなっており、満月が輝いていた。

 龍王機を振り切ったディス・アストラナガンは、森に身を隠していた。夜の森で、その黒い機体はすぐに周囲へ溶け込む。。
 その機体の中、クルーゼは脂汗をかき、荒々しい呼吸を繰り返す。急いで薬を取り出すと、嚥下した。
少しずつ、体が楽になってくる。呼吸は落ち着きを取り戻し、視界が明瞭さを取り戻していく。
「まだだ……まだ、私は何も滅ぼしていない……」
呟く声は、あらゆるものを憎悪するような声。もし聞く者がいれば、怖気が走るような声だ。
 悪魔は森の中で身を潜める。闇の中、赤いアイカメラの光だけが煌々と輝いていた。憎しみを映すように。



【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:龍王機(スーパーロボット大戦α)
 パイロット状況:健康
 機体状況:下部、左側装甲損傷。すぐに修復されます
 現在位置:B-3から移動中
 第一行動方針:バラン=ドバンを探す。また、どんな機体でも見つければ即攻撃
 最終行動方針:ゲームに乗る】

【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状況:薬を飲んで落ち着いてきてはいるが、疲労
 機体状況:装甲破損、Z・Oサイズ紛失、ガン・スレイヴ1/2消耗
 第一行動方針:休息を取る
 最終行動方針:あらゆる参加者の抹殺
 現在位置:B-4の森
 備考:原作の描写を見る限り、かなり即効性のある薬のようなので少し休めばまた動けます。
    Z・OサイズはB-3の草原に落ちていますので、拾って使えます】

【初日 19:10】





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第81話「かくして勇者は地に墜ちる ラウ・ル・クルーゼ 第123話「思いを力に


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最終更新:2008年05月30日 05:07