廃墟の夜明け
広がる廃墟の向こう、東の空が明るみを増していく。
昇り始めた朝日は妙に輝いていて、殺し合いが繰り広げられているこの場所には
全く似つかわしくなかった。
暗闇が減っていく廃墟の上空、銀色のシルエットが少しずつ世界を満たしていく光を受けている。
その中、ロイ=フォッカーは周囲を警戒しながらも考え事をしていた。
“戦場”と呼ばれる世界を、フォッカーは幾度も抜けてきた。
それも人間との戦いではなく、戦闘種族と呼ばれるゼントラーディとの激戦を潜り抜けてきたのだ。
そんな戦場を共に抜けた部下の一人は、いとも呆気なく命を奪われた。
軍人、それも前線で戦う兵士である以上、死がすぐ隣に存在することは理解している。
だが、それは戦場での話だ。こんな理不尽なことに巻き込まれ、
訳の分からないまま命を落とすなど余りにも馬鹿げている。性質の悪い悪夢とも思いたくなる。
しかし、これは現実だ。紛れもなく、確かに存在する現実だ。
そう。現実に部下、柿崎は死んだ。
柿崎速雄は、目の前で首を吹っ飛ばされたのだ。
何も出来なかった。そんなフォッカーを責め立てる者は、あの状況を知る者なら誰もいないだろう。
だからといって納得出来るはずも、諦められるはずもない。仲間だったのだから。
それなら、この手で仇を討つ。それがただ一つ、柿崎のためにフォッカーが出来ることだった。
改めてそう思ったのは、柿崎と同じように首が吹き飛んだ――その原因は違ったが――
死体を目にしたからだろうか。
名も知らない誰かが死んでいたおかげで、自分たちは助かるかもしれない。
非常に気分の悪い話だが、やはりそれは朗報なのだろう。
何度かそうしたように、フォッカーはその人物の冥福を祈ったとき、通信ウィンドウが開いた。
ウィンドウに映っているのは中年の男性、司馬遷次郎だ。
彼は映像の中、口を開いて言葉を送ってくる。
「どうかね、フォッカー君。そちらの方は何もないかね?」
その音声とは別に、文字を示したウィンドウが開く。
フォッカーは言葉を聞きながら文字に目を走らせる。
『出来る限りの解析は終了した。とはいえ、このボディに搭載された解析装置では
六割ほどの解析しか不可能だったがね。
どうやらかなり複雑なシステムのようでな。見たことのない技術も使われている。
これ以上の解析や解除には相応の機器が必要だ』
フォッカーはそれに頷いて答えると、会話を合わせるために口を開く。
「ええ。かなり前に北東から戦闘のような音が聞こえてきましたが、それ以外は何も。
もうすぐ放送がされる時間でしょうし、そちらに向かいます」
「ああ、了解した」
フォッカーはアルテリオンを廃墟地帯へ降り立たせ、そのうちの一つへと向かう。
ダイアナンAの側で停止すると、声が聞こえてきた。
「ご苦労だったな、フォッカー君」
「司馬先生の方もですよ」
声の主、司馬遷次郎へとカメラを向け、フォッカーは返事を返す。
最初見たときは面食らったが、無骨なメタリックボディにもいい加減慣れてきたと思う。
そのモニター部分には遷次郎自身の顔が映っており、下半分にはウィンドウが開かれて文字が並んでいる。
『予測通り、この首輪には盗聴機能が備わっているようだ。これまで通り会話には注意を払ってくれ』
それを読んだフォッカーは首を縦に振る。続いて、慎重に言葉を選んで口を開く。
「これからどうします? 移動でもしますか?」
「うむ。放送後に移動しよう。南東の基地へ行きたい。このボディの調子が今ひとつ悪くてな」
『機器が充実した所へ行きたい。南東の基地が一番いいだろう。禁止エリアにならなければ、だが』
ボディの調子とか言うのが嘘だというのは、下に表示されている文字を見れば分かった。
フォッカーは遷次郎の意見に眉を持ち上げる。
「遠いですが……仕方ないですね。襲撃者に出会わないことを祈りましょう」
「そうだな。万が一のときは頼むぞ」
「了解です」
やがて放送の時間だ。おそらく、死者は増えているだろう。
それは全て、この馬鹿げたゲームの被害者だ。
だが、首輪の解析が終わって解除出来ればそれも終わらせることが出来る。
フォッカーは視線を空へと向ける。明るくなり始めた空高く、
悠々と浮かぶヘルモーズを射抜くように睨みつける。
そんな彼を嘲笑うかのように、ヘルモーズは宙を泳いでいた。
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好
機体状況:良好
現在位置:D-4
第一行動方針:放送後、遷次郎を護衛しつつG-6基地へ向かう
第二行動方針:ユーゼス打倒のため仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:ダイアナンA(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)
機体状態:良好
現在位置:D-4
第一行動方針:放送後G-6基地へ向かい、首輪の解析及び解除を行う
第二行動方針:信用できる仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる】
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)。
だが、解析結果は正しいと信じている。
【二日目 5:40】
前回 |
登場人物追跡 |
次回 |
第116話「骸は語る」 |
ロイ・フォッカー |
第149話「決意」 |
第116話「骸は語る」 |
司馬遷次郎 |
第149話「決意」 |
最終更新:2008年05月30日 15:33