新しい朝が来た


地中のコクピットでレーダーのモニターに映る光点を眺めながらウルベは腕を組んでいた。
この周囲にいる機体は3機。
まず地中に潜伏している自分のガストランダー。
そしてその上で哨戒待機している相良宗介のブリッツガンダム。
ガストランダーの砲門は頭上に向けられている。
ブリッツガンダムもグレイプニール、トリケロスを装備した両腕を地面に向けて
トリガーからは指を外さずに座っている。
ウルベと宗介が手を組んでまず決めた事は3時間交代で仮眠を取ることだった。
それがこの相打ち確実なポジショニングとなっている。
仮眠はまず宗介が取り、次にウルベが取る事にした。
仮眠とはいっても、眠るわけではない。感覚は研ぎ澄ましたまま体を休めるだけだ。
ウルベは宗介の機体越し、地面越しの見えない視線をずっと感じていた。
相手も相当訓練された男なのだ。
レーダーに目をやれば、自機を表す中心点に相良機が重なり点滅している。
そして離れた所にもう1つ点が――大雷鳳だった。
事前に仮登録していたコードナンバー「4」が光点の横に表示されている。
それはウルベにとっては信じられなくもあるが、それも当然、と思える反応であった。
7時間ほど前、ガストランダーが宗介に発見された時とほぼ同じ頃に
シンジ達のいた地点で戦闘による爆発が起こった事は確認している。
「unknown」が北部から現れ、ゼンガーを表す「3」がロスト、続いて「unknown」が一瞬ロスト、
その後反応が復活、暫くその場で停止したあと東に移動してレーダー範囲外へロストしている。
「4」だけがその場でウロウロしている。
どうやったかは知らないが、ゼンガーが死亡し、シンジが敵を退けたのだろう。
その光点「4」がふらつきながら僅かずつこちらに近づいている。
大雷鳳のサイズと出力なら宗介が気づくのも時間の問題だ。既に気づいているやも知れない。
合流はまぬがれないか――
ならばひ弱な少年と少年軍曹の二人の出会いをどれだけ自分に有利に演出するか、それを考えるか。
人間が3人いれば社会が出来る、1対1ではともかく、2対1になれば操る道も見つかろう。
「相良軍曹、おはよう。今後の方針だが……」

「戦闘行為跡の探査か。それに何の意味が?」
「確かに、生存を最優先に考えるとすれば戦闘発生を確認した時点ですぐに詳細を得るために
 視認可能な距離まで隠密行動で近づくか、一切無視を決めて距離をとるべきだ。
 我々、というか軍曹が選んだ行動は後者でしたな。」
「その通りだ。結果として安全に仮眠をとる事が出来た。」
「ええ、私も軍人ですからその判断の妥当性は実に良く分かるのですが、
 実を言いますとあの戦闘は私の知り合い、いや仲間達が何者かと戦ったものなのです。
 そして恐らく仲間達は全滅……」
「どういうことだ。説明しろ。」
「二人のレーダーの反応も通信チャンネルもね、無くなったんですよ。あの爆発と同時に。」
もちろんウルベはシンジ達に通信チャンネルを開いた事など一回も無い。
「それだけで死亡した、と?」
「ええ、確かに早合点かもしれませんが、こういう状況では戦闘が戦闘を呼び、
 傷ついた者だけを狙うハイエナが現れるのは必至。
 そんなところに決定的戦力に欠く私1人で行くのは自殺行為、
 相良軍曹も連れて行くなどということは無茶だと思いあえて黙っていました。」
ステルス性の高いブリッツでもそのような状況に飛び込むのは得策ではない。
「だが、何故、今になって。」手遅れな仲間を。
「仲間だからですよ。1日も一緒にいませんでしたが戦友は戦友。
 戦友と共に戦えず、その死を看取ってやれなかった、というのは軍人として最も恥ずべき事です。
私はそれが我慢できないのですよ。」
「定期放送まで待てないのか。生死を確定させてからでも遅くないだろう。」
「それでは遅いのです。可能性はとてもわずかですが、もしも彼らが生きていたら、
 襲撃者達は放送を聴いて殺し損ねたと思い止めを刺しに戻ってくるかもしれません。
 そうなれば必ず殺されます。
 それには放送前に戦闘跡に行って安否を確認しなければ。それに日も昇ってきました。
 戦闘後あの地点ではこれといった動きは確認できていません。今現在ならばハイエナの心配も薄れているかと。」
宗介にとってウルベの言う軍人としての恥などはどうでも良かったが、現状判断としては妥当なものである。
ウルベの言う仲間が生きているとすれば、それはそれでよし、
死んでいたとしても破損した機体から襲撃者の情報をいくつかは取れるだろう。
「行くぞ。」
戦友――か。ミスリルのメンバーが宗介の頭をよぎる。
地中からガストランダーが現れ、ウイングガストに変形、発進した。
ウルベの乗るコクピットのレーダーではブリッツガンダムにつけた「5」のナンバーが後方に流れ始めた。

どんなに深い森だといっても、全長40メートルで突っ立っている特機を
空から探す事は誰にでもできるたやすい仕事だった。
ウルベはわざとらしい歓声をわざとらしくあげながらブリッツガンダムに通信を送った。
「こちらウルズ7。了解。詳しい方角の指示を願う」
まだブリッツガンダムの視界では確認できていないが、ウルベに指示された方向に向かって移動する。
そこにはブリッツガンダムの倍以上の大きさのマフラーを巻いた巨人が
右腕が無い事をはじめにそこらじゅう傷ついて立っていた。
ブリッツのコクピットから降りてきた相良が見たのは
「よく生きていてくれたっ!」
破顔し涙を流しながらシンジを抱きしめるウルベだった。
今までに渡って来た数々の戦場で似たような光景を宗介は見ているが、その都度合理性にかける行為だと思えた。
それは今回もそうだが――もしも俺が生きて帰ってきたら千鳥も同じようにしてくれるのだろうか。
結果として、ウルベの田舎芝居は受け入れられ、シンジは自分が見殺しにされかけた事に気づかず、
ウルベが自分の事をこうも考えてくれていたのか、と逆に感謝していた。
シンジはゼンガーが亡くなった事、その死を決して僕は無駄にしないという決意を語りながら、
ウルベはこれまでの経緯を自分に都合よく辻褄をあわせて二人に話しながら、
宗介は戦況分析とレーションを初めとしたサバイバルパックの基礎的な使い方を
シンジにレクチャーしながら朝食をとった。
(私への警戒は解かないが、シンジ君にはなかなかどうして優しそうじゃないか。
 こいつもゼンガーの様にシンジ君をかばって死んで欲しいものだな。)
対照的な二人の少年の交流を眺めながらウルベはまた機会を待つ事にした。
食事中の歓談を止めるように放送が始まった。



【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好(おなかいっぱい)。全身に筋肉痛
 機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
 現在位置:H-4
 第1行動方針:アスカと合流して、守る
 第2行動方針:出来るだけ助け合いたい
 最終行動方針:生き抜く
 備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持 】

【相良宗助 :ブリッツガンダム(機動戦士ガンダムSEED)
 パイロット状況:健康 ちょっと寝不足
 機体状況:良好
 現在位置:H-4
 第一行動方針:ウルベには気を許さない
 最終行動方針:生き延びる。戦いも辞さない】

【ウルベ・イシカワ 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
 パイロット状態:良好 ちょっと寝不足
 機体状態:レーダーもなにもかもすこぶる良好
 現在位置:H-4
 第1行動方針:状況を混乱させる(宗介とシンジ、特にシンジを利用する)
 最終行動方針:???】





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第131話「水面下の情景Ⅱ 投下順 第133話「爽やかでない朝
第130話「不敵さを胸の奥に 時系列順 第134話「廃墟の夜明け

前回 登場人物追跡 次回
第128話「当たり前の事 碇シンジ 第146話「二人の共感、一人の違和感
第115話「あずけられない背中 相良宗介 第146話「二人の共感、一人の違和感
第115話「あずけられない背中 ウルベ・イシカワ 第146話「二人の共感、一人の違和感


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最終更新:2008年05月30日 15:31