フェイク&フェイク
残る一人を狩るためにセレーナが選んだ進路は北東だった。禁止地区に近い北部の廃墟を軽く捜索した後、
G-1の小島や、A-1の市街地など他者が集まりそうな所へ急行しようと思っていた。
「優雅にモーニングティーを楽しむ時間はないわね」
途中で聞いた放送では更に12人の死亡が告げられた。冷静に考えるなら目的達成が困難になっただけとも
言えるが、ここで知り合った面々の名前が無かった事に、セレーナは少し安堵した。自分でも不思議だと思う。
<前方、廃墟上空、10時15分の方向に機影二つを確認>
「朝から冴えてるわねアル。エルマ、見習わなきゃ駄目よ」
「………僕だって確認できてましたよ……」
アルの報告にセレーナが表情を明るくする。標的となりえるかは分からないが、相手を発見できない事には
話にならないからだ。機影は二つ。一つは着陸したのか廃墟に消え、一つは何処かへと飛び去っっていった。
廃墟に消えたのは白銀のアルテリオン。
そして―――
「セレーナさん、あれは………間違いありません。離脱した方は、昨夜交戦し撃墜した機体です」
エルマの報告にセレーナは耳を疑った。昨夜撃墜したはずの二人目。それが活動しているというのか。
「冗談は聞いていないわよエルマ。アル、あなたの判断は?」
<私の判断もエルマと同様です>
アルの言葉にセレーナは力一杯に拳を叩き付けた。ユーゼスの言葉が脳裏に思い出される。
―――勿論、機体の破壊だけではない。パイロットの生命活動を停止させろ―――
昨夜、間違いなく胴体を撃ち抜いたはずだ。しかし参加者の死亡確認はしていないし、機体が爆発四散した
わけでもない。殺しきれていなかったとも考えられなくもない状況だった。
<既に追尾可能範囲から離脱されています。追跡は不能です>
「後二人に逆戻りだっているの?! この土壇場で!」
ディス・アストラナガンが自己修復した後、新たな主を迎えたなどとは流石に考え付かない。
「セレーナさん、気を落とさないで。まだ時間はあります………」
<現在6時55分、規定時間までは約5時間です。前方廃墟へ片方の機影は着陸した模様です>
タイムリミットまでの時間を再確認し、もう一度、セレーナは拳を叩きつける。何かが遠くへ離れて行く
ような喪失感を感じた。
(セレーナさん………)
「廃墟に降りた機体の方は?」
<降下地点をトレースしてあります。すぐにでも追尾可能です>
「そ、ありがと」
そっけなく答えるセレーナは何とも言えない険しい表情をしていた。
遥か上空を飛ぶヘルモーズ。
「セレーナ・レシタールが、殺害数を勘違いしているそうですが、如何しましょうでごさざいます」
ラミアが優雅にモーニングティーを楽しむユーゼスに問いかけた。
「構わん、カウントは正確に行いたまえ。もっとも彼女が多く殺したいというなら尊重すべきだろう?」
要するに勘違いしているなら、させたままにして正午まで放っておけという事らしい。
「了解しました。引き続き、サポートAIエルマを通して監視を続けます」
「フフフ、彼ら以外、この空間を含めた全ての存在を作り出したもの。それも私だ」
ユーゼスが笑いをかみ殺す。良く知る機体が、良く知る存在が完全な本物とは限らないのだ。
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:D-4
第一行動方針:ゲームに乗っている人間をあと二人殺す
最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
備考2:既に二人の参加者を殺しているが、クルーゼを殺し損ねたと思っている】
【時刻:7:00】
最終更新:2008年05月30日 16:07