涙、枯れ果てた後に


「あ……ああ……あっ…………!」
 ……目の前に広がる、惨酷な現実。
 それは危険を共に生き抜いていくはずだった、仲間の死だった。
「そんな……そんなっ……! 宗介さん……ウルベさんッ!!」
 首輪の爆弾によって死を迎えた宗介の死体と、何か巨大な重量物によって押し潰されたウルベの死体。
 その二つを目の当たりにして、碇シンジは絶望と悲しみに心を打ち砕かれていた。
 ……一度は宗介の言葉を思い出し、二人を待つ事に決めてはいた。
 だが、あまりにも遅過ぎた。
 もし何事も無ければ、とっくの昔に二人は合流地点に来ていたはずだ。
 しかし、そうでないと言う事は……。
 ……その不安を否定する為に、シンジは宗介と別れた場所に再び機体を向かわせた。
 きっと、宗介さんは大丈夫だ……。
 そう自分に言い聞かせて、シンジは危険を承知で宗介の無事を確かめに行ったのだった。
 だが、その結果は……。
「う……ううっ……! どうして……どうして、こんなっ……!」
 二人の死体を目にしながら、シンジは涙を流し続ける。
「ウルベさん……きっと宗介さんがピンチなのを見て、助けに行ってたんだ……!
 僕も……僕も一緒に戦ってれば……僕がもっと強ければっ!
 ウルベさんも、宗介さんも助ける事が出来たかもしれないのにっ……!
 僕が弱かったから……! だから……ゼンガーさんの時もっ……!」
 ……憎かった。
 このゲームに乗った人間が、ではない。
 何も出来ない自分の無力が、今は何よりも憎かった。
「変わらなきゃって……強くならなくちゃって、そう思ったはずなのにっ!
 なのに僕はっ! うっ、ああっ、あああああああああああーーーーーーっ!!!」

 ……それから、どれだけの時が経ったのだろうか。
 流す涙も枯れ果てる頃になって、シンジはようやく動き始めた。
 墓を掘り、二人の亡骸を埋葬する。その間、シンジは一言も口を開かなかった。
 そして……二人の埋葬を終えてから、ようやくシンジは口を開く。
「ゼンガーさん……ウルベさん、宗介さん……。
 僕は……生きます。皆さんの分まで……生きて、みせます……」
 ……言葉も、身体も、震えている。その宣言が強がりである事は、誰の目にも明らかだった。
 怖い。
 戦うのも、死ぬのも、怖い。
 出来るなら、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。
 だが……それは、出来ないのだ。
 この世界に、逃げ道など無い。
 それに……何よりも、シンジ自身が“逃げ出したくない”と思っていた。
「……逃げちゃ、ダメだ」
 もう、これ以上……大切な人たちを、失いたくはない。
「逃げちゃ、ダメだ……」
 そして……アスカを、死なせてしまいたくはない。
「逃げちゃダメだッ!!」
 自分に対して、シンジは叫ぶ。
 これまで何事からも逃げ続けてきた少年は、今正に前を向いて歩き始めようとしていた。



【碇シンジ :大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、全身に筋肉痛
 機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。背面装甲に亀裂あり。
 現在位置:H-4
 第1行動方針:アスカと合流して、守る
 最終行動方針:生き抜く
 備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持】


【二日目 11:00】





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第153話「二人の復讐者 時系列順 第160話「戦う力VS闘う力

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第158話「今、『成すべき事』は 碇シンジ 第177話「集う者たち~宴の準備~


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最終更新:2008年05月31日 18:40