鬼
「フン……せいぜいふんぞり返っているがいいさ」
放送を聴き終えた剣鉄也は、コクピットの中でひとり呟く。
第三回放送で呼ばれた13人の死者のうち、彼は4人……いや、正確には5人を手にかけた。
だが今の彼には意味のないことだった。その中に、自らの手で葬ったかつての友の名があっても。
もう彼は戻ることは出来ないのだ。ただ、生命の炎が消えるまで、戦い続けるだけ。
(……ちっ、この機体ももう限界か)
乗機であるガイキングはまさしく満身創痍であった。
右腕と両足を失い、胸部を砕かれ、ほとんどの武器が使用不可能。
先程付近の補給ポイントで補給を受けたものの、さすがにこれだけの深手を回復することはできなかった。
もはやまともに戦闘できる状態ではない……誰もがそう思うだろう。
(いや……まだだ)
だが戦闘のプロフェッショナルであり、その不屈の闘志と執念を燃やす戦士は、この絶望的状況も冷静に分析し、
そして勝機の光を探し出した。
推進装置は無事だ。機体のバランスはやや悪いが、動くことにはまだまだ問題はなかった。
何より、超兵器ヘッドが傷ついていないのが幸運だった。
頭部に秘められた恐るべき破壊兵器の数々は、問題なく使用できるのだ。
鉄也の技量を持ってすれば、これだけでも生半可な相手なら容易に葬ることができるだろう。
……しかし、それでもあくまで多少動けて戦えるという程度。機体自体はもう戦闘に耐えられる状態ではないのだ。
あと一回……このガイキングで戦闘行為を行えるのはあと一回が限度だろう。
ゲームに乗ると決めた以上、このままこの機体を使い続けるのは得策とはいえなかった。
ならば……他の参加者から機体を奪うしかない。
機体をできるだけ傷つけず、パイロットのみを殺す。
それも今の機体状況で。困難なミッションである。
これまでのように、ただ闇雲に敵を襲撃するだけでは通用しない。
相手との駆け引きも重要になってくるだろう。
そして、チャンスは一度きり。
(やれるか……いや、やってみせるまでだ)
戦士は面を上げる。
その表情は正義のために戦った偉大な勇者のそれではなかった。
―――ユーゼス=ゴッツォ、お前に言われるまでも無い。
お前の思惑通り、存分に踊ってやるさ。
俺は元の世界に戻り、自分達の敵を叩く。
もはや俺の敵はミケーネ帝国だけではない。リョウ達の敵である百鬼帝国もそうだ。
そう、全ての「敵」を徹底的に叩き潰す。
その邪魔をするならば、ユーゼスも例外ではない。ただそれだけだ―――
周囲はもう薄暗くなってきている。
そんな中、海の向こうの離れ小島で、光のようなものが見えた。
「……よし」
ガイキングが再び起動する。
ボロボロのその姿、しかしそこから底知れぬ威圧感が放出されている。
生半可な覚悟で戦う者ならば、それだけでも恐怖で竦んでしまうほどに。
―――「鬼」
そう……今の鉄也は、まさしく鬼と呼ぶに相応しい。
傷ついてなお諦めず立ち上がる、その彼の強さ……それは正義の炎でもなければ、憎悪の渦でもない。
それは彼の内に秘めた「鬼」そのもの。
全ての「敵」を。全ての「悪」を滅ぼす。
そして最後には「悪」と化した自分自身をも葬る「鬼」。
それは戦うために生きてきた、戦うことしか知らぬ不器用な男の、
あまりに傲慢で、そして悲しすぎる決意であった。
今、手負いの鬼が、再び飛び立つ。
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部にかなり大きな破損。ザウルガイザー使用不可。右胸から先消失、両足消失。
超兵器ヘッド健在。戦闘に耐えられるのはあと一回が限度。
現在位置:D-1(東、小島に向かって移動中)
第一行動方針:新たな機体の確保
第二行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ガイキングは
ゲッター線を多量に浴びている】
最終更新:2008年06月02日 03:31