奇跡


「あのときのマシンか!」
膝を突くガイキングが身を引き起こす。特に今ので損傷はないようだ。
「この惨状……お前がやったのか?」
ガルドが周りを見渡す。あちこちに転がるマシンの欠片、大型の部品、腕や足。穿かれ燃える大地。
大まかな色彩や形状で分けただけでも……5機はあるのではないか?
まさに、屍山血河。
「もう5分遅れてくれば、あの男も送ってやれたというのに…無粋なことをするな。」
「…なに?」
あの男?グランゾンに乗っていたのはプレシアでは?
「なにとはどうした?あの機体に乗っているのは俺に両腕をもがれたあのマシンの奴だ。
 大方あの小娘は死んだんだろう」
顔色ひとつ変えず、鉄也は見下すような視線でエステを――ガルドに対してだが――見下ろす。
「あのプレシアが…まさか…」
間に合わなかったというのか…!木原マサキがこの場にいないことを考えれば、おそらく奴が原因だろう。
あの時、俺がもう少し警戒していれば…!
自然に手がわななき、震えだす。あの娘は、このゲームにおいて、何か解決策を導く存在だったかもしれないのに。
それを、あの男は…!
「…怒っているようだな。だが、心配することはない。」
淡々と鉄也が話しつづける。
「お前も、あの男もすぐに送ってやる。」
鉄也が言い終わるか、終わらないかというタイミングでガイキングが低い姿勢からタックルを繰り出した。
「くっ!!」
かわすべくエステが飛び上がる。しかし、すかさず頭を上げ、パライザーが追撃した。
ディストーションフィールドを展開、パライザーを弾き、後ろにブースターで加速。
しかし、降りようとした地点に向かって腕が――!
急制動により負荷G限界の警告が出たが、それを無視。体をひねり、ギリギリでかわしきる。
「やはり、強いな…」
50mのガイキングに比べれば、8mのエステなど木っ端と大して変わらない。ざっと見て6倍はあろうかという体躯の差。
さまざまな超兵器の数々に対し、
こちらは相手からすれば豆鉄砲同然のハンドガンと、接近の危険があるフィールドアタックのみ。
ましてや、パーツもすでにパージ済み。加速度もあのときほど満足につけられるかどうか…
勝つ方法はあるのか?あるとすればどうだ?

ひたすらガイキングの攻撃をよけ、フィールドで受け流しながら考える。
あの大巨人を倒す方法。あの装甲を打ち破る方法。
今こそかわしつづけて入るが、どこまで持つかははっきりとは分からない。
いや、それどころかかわしつづけるのが精一杯といったほうが正しいかもしれない状況。
(倒す方法は、これしかないか…!)
考えた結論。それはガルドだけではできないという結論だった。
あのグランゾンにチーフが乗っているというのなら、
チーフとともに戦うでしかこの悪鬼を倒すことはできないだろう。
しかし、この考えには穴がある。この考えを実行するための大前提、それはチーフがもう一度援軍に来る事。
本当にチーフが来るのか?来ると確信できるほど信じられるのか?いや、そもそもこちらに気付いていたのか?
……実は、ガルドには逃げ道がある。プレシアが死んだことは確認したのだ。
イサムを守るため、という理由でここを離れることができる。
だが、それをやれば間違いなくグランゾンをこの悪鬼は追撃するだろう。先ほど、グランゾンは敗北した。
悪鬼の強さもこの惨状と自分との闘いを省みれば分かるが、決して紛い物ではない。
磨き抜かれた刃物のような強さ。
おそらく、チーフは死亡する。それは……遠まわしに彼を見捨てるということだ。
(そんなことは決してできん!)
だからこそ、それを選択することはしない。その選択はプレシアを裏切ることだ。
チーフが、木原マサキのような可能性はある。その可能性を知りながら……ガルドはそれを否定した。
なんとなく、なんとなくチーフは自分やイングラム・プリスケンと同じような匂いがする。
不器用で、うまくできないが、それでも進む。
そんな、匂い。
もちろん、証拠を出せといわれれば、そんなものはないと答えるしかない。カンでしかないのだから。
それでも。
それでもガルドはチーフを信じる。信じて待ち続ける。



「あった……!あそこだ!」
グランゾンがひたすらに走りつづける。求めるものはVディスク。VRの卵ともいえるもの。
「!しまった!」
グランゾンが直前で転倒する。しかし、その手ははっきりと「卵」を握っていた。ディスクを手元に引き寄せる。
「スマン、プレシア……」
一言、墓標に向け言葉を送る。
本来なら、死者への手向けたものをもう一度自分の都合で奪う事など許されないだろう。けれど
「もう一度、助ける力を得るために…!」
あの男は必ずここで無力化せねばならない。あのまま放置すればどれだけ被害が出るか分かったものではない。
戦うための力ではない。プレシアの望んだ守るための力。そのために、もう一度!
VディスクとVコンバーターを接続する。VRがもう一度生まれるための儀式。
輝きが周りにあふれ――いや、緑色――の圧倒的な光量が
力強く存在の顕在化を主張する!
現れる蒼を基調にしたその姿、彼の見慣れた姿。自分が戦場を駆け巡ったあの頃のマシン。


テムジン747J


「さっきからちょろちょろと…!」
(誰がなんと言おうと、時間を稼がねば!)
ガルドの「闘い」もかなりの時間が過ぎていた。
駆動系とエネルギーはかなりの磨り減りを見せてはいたが、エステそのものには傷はついていない。
誰がなんと言おうとチーフを待つ。
もう離脱も満足にできないぐらいになってしまったが、かまわない。それを自分で選んだのだから。
願いがかなわないことも考えている。それでも、かわらない。
ここで逃げて、イサムにあったとしても、合わす顔などあろうはずもない。
さすがの鉄也も業を煮やしたのか、別の、最悪の手段を選択することにした。
「そこまでだ。動きをやめてもらおう。さもなくば…こいつらが死ぬことになる」
ガイキングの目がある2点を向く。ガルドがその射線を計算し…戦慄した。
まだ、生きているかどうかは分からないが、2人の人間がそこを転がっている。
もちろん、これはブラフだ。鉄也とて自分が一度言った言葉をひっくり返すようなことはしない。
これは、あくまでエステを倒すためのデモンストレーションでしかない。
だが、人を見捨てることができなくなったガルドには効果抜群だった。
エステの動きが、ぴたりと止まった。鉄也はニヤリと笑って、
「そうだ、それでいい。妙なバリアも発生させるな。発生させればどうなるか…分かるな?」
ゆっくり、ゆっくりと標準をを合わせる為腕が上がっていく。
(どうする!?どうすればいい!)
こんなところで死ぬわけにはいかない。だが、人を見捨てるなどということもできるはずもない。
あの牽制の用程度の兵器でも、生身の人間は砕け散る。あのパンチが一撃当たるだけでエステも砕け散る。
思考が同じところを回転する。思考が加速し、時がゆっくりと感じられるが、答えが出ない。思考の袋小路。
答えは出ず、死が迫る。まさに、デット・エンド。
腕が、ある方向で止まる。射線など考えるまでもないだろう。エステの体。一撃で命を刈り取る、死神が笑う。
腕が飛ぶ。回転し、まっすぐに進む。
ガルドは動かない。この一瞬、そのときも、チーフを信じ、待つ。そして………
「―――待たせたな」
死神の弾丸を、光の刃が打ち落とした。
間に合ったのだ。蒼、黄、白を基調にし、身ほどある大剣を軽々振る。そのスピードは一瞬の輝き。
「テムジンの調子が前すこし違ってな…遅くなった」
チーフ乗ったテムジン747Jがエステの前に立っていた。
「まったく、遅い。」
フッと笑いながらガルドも答えて見せた。
ガルドもまたチーフの到着と同時に、下の2人の盾となるように動いてた。

「ほう…あのときのマシンか。どうやって直したかは知らんが、またやるつもりか?」
「あの時のテムジンと同じにするな。このテムジンには…魂が乗っている。」
鉄也の軽い挑発を軽くいなし、確信をもってチーフが答える。
「ガルド…お前がここにいると教えてくれたのは…ハッターとプレシアのおかげだ」
ガイキングと向き合いながらチーフが言った。
「……どういう意味だ?」
腕を戻したガイキングが突っ込んでくる。しかし、するりとかわし、回り込んで後ろから切りつける。
「テムジンに乗ったとき…緑の光と、声が聞こえた。」
角を振り回すが、まるで当たらない。胴体を蹴りつけ、ソードウェーブを放つ。
「おまえが、ここにいるから助けてやって欲しい、とな。」
ザウルガイザーを足元に向け打つたれ、飛ぶ。
既にターボショットの準備は完了しており、ラディカルザッパーが叩き込まれた。
「そして、テムジンの性能――特にエネルギー――が強化されていた。」
打った反動で回転しながら、華麗に着地。ガイキングはダメージにより、煙を上げる。
「……そうか。」
言葉少なく、ガルドは肯定した。疑っているわけではない。むしろ、彼は満たされていた。
(結局、プレシアのおかげか…チーフが助かったのも、あの娘のおかげだった。本当に…天使なのかも知れんな)
2人は、ゲッター線のことも、プレシアはプラーナが高かったことも、一切の理屈を知らない。
いや、知っていてもそれを断ったろう。
突然、こんな殺し合いに巻き込まれるなんて偶然があったのだ。
そんな素敵な偶然があってもいいじゃないか。
奇跡は、起こるものなのだ。
「がああぁぁぁぁぁぁああ!!」
鉄也が、悪鬼が絶叫しながら立ち上がる。それは、全てを呪うかのような怨嗟の声。
しかし、2人は怯まない。
「一撃で、本来ならエネルギー全てを持っていかれるのだが……今ならいけるな。」
数多のミサイルがガイキングから打ち出される。逆に、チーフは突っ込んだ。
「いかなるときもMARZ流……それが俺のやり方だ……!」
スライプナーを変形させ、サーフボードのように乗り突撃する。本来なら、一発限りの大技。
「う…うおぉぉぉぉ!?」
ガイキングが初めて後ろに下がる。
何かを、魂を載せてブルースライダーが流星のようにガイキングへと突撃した。
初めて、鉄也が恐怖を抱いた一撃。それは、吸い込まれるように、ガイキングに突き刺さる!
究極の一撃を受け、ゆっくりと、夕日を背に倒れていくガイキング。
静かに、テムジンが着地する。
「指導、完了……!」


「ガルド、急ぐぞ!こちらの青年はどうにかなるかもしれんが、こちらの少女は危険だ!」
2人は倒れている2人を確保し、救出しようとしていた。
「病院はどうだ!?」
「駄目だ!木原マサキに爆破された!救急キットでは間に合わないかもしれん。」
「それでも、町に向かうしかない!それ以外に当てがない!」
「それしかないか…!早く処理して……ッ!」
今まさに、ガイキングからパイロットを出そうとしたとき…またもガイキングが動き出した。
「離れろ!ガルド!」
その声で急いで後ろに下がる。
起動してるのも不思議といった様相で…それでも立っていた。
「これほどとはな…だが、死ぬわけにはいかんのでな…!」
そう、死ぬわけにはいかない。ミケーネを倒すという目標もすそではないし…
なにより、負けとは、死。死なない限り負けたわけではない…!
しかし、彼は気付いていない。それは…まさに死ぬときまで悪でありつづける悲しい選択であることに。
もう戻れない。本当に力尽きるまで彼は戦うだろう。
「アブショックライッ!」
もう一度鎮圧しようとしたチーフに強い輝きを放ち…ガイキングは消えた。
「逃げられたか…!」
「だが、アレでは何もできないだろう…今はこっちだ!」
2人はリオとリョウトを手に乗せ、町に走り出した。



【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
 パイロット状態:マーダー化(しかし決意を改める)
 機体状態:胸部にかなり大きな破損。ザウルガイザー使用不可。。右胸から先消失、両足消失、戦闘続行は難しい
 現在位置:C-1
 第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
 最終行動方針:ゲームで勝つ
 備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】

【リオ=メイロン 搭乗機体:なし
 パイロット状況:重症、気絶 (怪我の具合は次の書き手に任せます)
 現在位置:C-1
 第一行動方針:リョウトを助ける
 第二行動方針:アスカの捜索 】

【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:なし
 パイロット状態:軽症、気絶
 現在位置:C-1
 第一行動方針:リオを助ける
 第二行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
 最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出 】

【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
 現在位置:C-1
 第一行動方針:リオ、リョウトの救出
 第二行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
 第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
 最終行動方針:イサムの生還 】

【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
 パイロット状況:全身に打撲・火傷、やや疲れ
 機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費(中)
 現在位置:C-1
 第一行動方針:リオ、リョウトの救出
 第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない) 】

【二日目 16:20】





前回 第183話「奇跡」 次回
第182話「悼みの情景 投下順 第184話「ハイエナの如くに
第180話「ハロと愉快な仲間達 時系列順 第190話「海を前に

前回 登場人物追跡 次回
第181話「友への決意 剣鉄也 第194話「
第181話「友への決意 リオ・メイロン 第191話「リョウト
第181話「友への決意 リョウト・ヒカワ 第191話「リョウト
第181話「友への決意 ガルド・ゴア・ボーマン 第191話「リョウト
第181話「友への決意 チーフ 第191話「リョウト


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最終更新:2008年06月02日 02:52