「フフフ……調整を加えたとはいえ、ただの玩具があれほどの自我を持つとはな」
ユーゼスは、モニターに映る紅の翼をその身につけ飛ぶマジンカイザーを見て呟いた。
カイザースクランダー。あれが発射されたのは、ジャスティスの自爆で生まれたクレーターの中心部。
即ち、自爆により機能を停止したハロ達の眠っていた場所。
(あの玩具が、自分達の意思で、あの翼を生み出したということか)
元々ハロを調整し、ジャスティスガンダムのオプションとして、このゲームに参加させたのはユーゼスである。
それにしても、主でもあるユーゼスの命令に背き、その力を自ら行使するとは……
彼の予想を上回る「進化」だった。それとも、あのヘタレとの間に生まれた友情だとでもいうのだろうか。
(なかなか楽しませてくれる……だが私の計画に支障はない。
それどころか、これでマジンカイザーが真の力を発揮できるようになったことで、
計画のスケジュールをさらに早めることができる)
ユーゼスは、ハロに二つのものを埋め込んだ。一つは、小型の
ゲッター線収集装置。
この空間に存在するゲッター線を場所に関係なく収集できるこの装置は、ゲッター線の発現を見越して装備されたものだ。
その目論見どおり、ゲッター線の発現によってハロは多量のゲッター線を吸収することに成功した。
何故ゲッター線を集めるのか。それは、もう一つハロに埋め込んだ、ある「細胞」に干渉させるため。
それは自己再生、自己増殖、そして自己進化の三大理論を持つ……ある意味では進化を促すゲッター線とは似て異なる存在。
その細胞の名は――DG細胞。
そしてユーゼスの計画……その第一段階として、DG細胞にゲッター線を浴びせ、その自己進化を促す。
これにより、何年もかかるような自己進化を一瞬で成し遂げられるようになる。
かつてデュミナスと呼ばれた者の一味が使った手段でもある。
肉体を構成する前段階からゲッター線を浴びせ、そこから成長させていくことでより純粋に強力な素体が完成することだろう。
それもまた成功した。ユーゼスの予想以上の形で。
当初ハロに埋め込んだDG細胞は、感染した所で害がほぼ皆無なほどに、極めて微量だった。
にも拘らず、ゲッター線発現によりゲッター線を大量に吸収したDG細胞は、急激な活性化を始めた。
同時に、ハロ達はゲッター線を浴びることで、そのDG細胞を自在に使用できるほどに進化した。
それらの偶然が重なって、彼らは新たなカイザースクランダーすら生み出すことになる。
DG細胞、ジャスティスの部品、そして機能を停止したハロ達自身のパーツを使用することによって。
……だがスクランダーからはDG細胞の反応はない。それだけではない。
今のハロ達からも、そしてハロに長時間接触していたヴィンデルやマジンカイザーからも、DG細胞の反応は見られなかった。
何故か?
これは推測でしかないが、彼らと共にあったDG細胞は、本来の姿であったU細胞(アルティメット細胞)へと変貌したのではないか?
それは進化したハロ達の意思によるものか、あるいはゲッター線そのもののの導きか。それとも……全くの偶然なのか。
真相は不明だが、いずれにせよハロとその周囲からDG細胞の反応は完全に消滅した。
ユーゼスの計画には、DG細胞が必要不可欠であった……それがなくなった今、この計画は費えたのだろうか?……否。
ヴィンデル以外にもう一人、ハロに長時間接触していた少女がいる。
そして今、ハロはその少女の手を離れて、機能を停止した。もう彼らの意志が介入することはない。
計画の最終段階は、ここから始まる。
「なんてこった……」
第三回放送での死者の名の中に、かつて自分と行動を共にしていた少女達の名を確認し、タシロは愕然とした表情で呟いた。
ラトゥーニ・スゥボータ。ゼオラ・シュバイツァー。捜していた彼女達は既に死んでいた。
「ワシの判断は間違っていたのか?もっと迅速な行動をしていれば、あるいは手遅れになる前に……」
「……我々にできる限り、最善と思われる選択をした結果です。悔やんだ所で、どうにもなりません……」
項垂れるタシロに、相変わらず落ち着き払って副長が答えた。
「……そうだな。らしくもないことを言った。……すまんな副長」
「いえ……」
「ん……どうした?」
「
リョウト君のことです。彼にも以前、同じようなことを言いましてね……」
二人は未だ行方の知れない、リョウト・ヒカワのことを思い出す。彼はどうしているだろうか。
死亡者の中には、彼の捜していたリオ・メイロンの名もあった。
二人は再会することはできたのだろうか?いや、いずれにしても彼の悲しみは計り知れないだろう。
(彼もゼオラ君のように、暴走するようなことがなければいいが……)
二人は死者達に暫し黙祷を奉げる。……そして。
「艦長……」
「……行くぞ、副長。これ以上、悲劇を繰り返さんために……もはや一刻の猶予もならん!」
決意も新たに、戦艦・ヒュッケバインガンナーは再び飛び立った。
……そんな彼らがヴィンデル達の戦闘に気付くまで、さほど時間はかからなかった。
「!!艦長、4時の方向にエネルギー反応が!戦闘中かと思われます」
「何!?」
副長から報告が入る。タシロのほうでも確認は取れた。
「レーダーがほとんど効かんこの場所で、これほどの反応を示すとは……」
「ええ、かなりの高エネルギーだと判断します。これが人型兵器であるなら、強力なものであるかと……」
タシロは考える。もしその機体のパイロットがゲームに乗っていれば、自分達ではひとたまりもあるまい。
だが仲間となってくれる可能性もある……戦いを止めることができれば。
危険を承知で行くべきか。それともこの場から離れるべきか。
……このまま逃げ回った所で事態は好転するまい。虎穴に入らずんば虎児を得ず。
「……行ってみるしかあるまい。索敵を怠るな、副長!!」
アクセルを葬った後、マシュマーは南へと向かっていた。
それはマジンカイザーがボスボロットの頭を持ち去った方角。
(奴め、どこへ隠した……手遅れになる前に見つけなくては……!)
あの後マシュマーは、怒りを抑え今一度冷静に状況を分析し直してみた。
先程のあの2機の動向から、ボロットが奴らに破壊されたのは放送の前であることは確かだ。
だが放送でミオの名は呼ばれなかった……つまり、まだ生きているのではないか?
ならば、奴に構っている暇は無い。一刻も早くミオを助け出さねば。
そうしてしばらく捜索を続けていると……得体の知れないエネルギー反応をキャッチした。
(?何だこの、得体の知れないエネルギー反応は……?)
その反応の先へと目を向ける……そこには探し物が転がっていた。
(!!見つけた……生命反応もある、生きていたか!)
安堵するマシュマー。だがその一方で、何故だか不吉な予感が頭を離れない。
何故ボロットの頭部からこのような反応が?しかし今はそれを考えている暇は無い。ボロットを回収すべく機体を進める。
刹那――背後から、光子力の光がアストラナガンを阻んだ。
「!!」
間一髪、ディフレクトフィールドでビームを弾く。
ビームを放った相手……それは、新たな力・紅の翼を身につけ飛んでくる魔神皇帝の勇姿だった。
(さっきのもう一人か!だが何だあの翼は?先の戦いではあんなものはなかったはずだ……?)
一瞬疑問が脳裏を走るも、どうでもいいことだ。あれだけ痛めつけておきながら、まだミオの首輪を諦めぬつもりか。
「あの時確実に殺すべきだったか……だが邪魔はさせんぞ。これ以上、彼女に手は出させん!!」
マシュマーの瞳に、再び憎悪の炎が燃え上がる。
それは、マジンカイザーに乗るヴィンデルもまた同じことだった。
彼の目の前にいるのは、アクセルの仇。そして今、少女の命も奪おうとする、許せぬ外道。
「お前だけは、生かしてはおかん……!!」
両者、戦闘態勢に入り……暫しの沈黙の後。
『うおおおおおおおおおおっ!!!!』
魔神と魔王が、激突する。
ボロットの頭の内部。外がとんでもない騒ぎになっているなど露とも知らず。
「うーん……いたたた……」
ミオは間抜けな声と共に目を覚ました。
(……あたしどうなったんだっけ?)
はっきりしない頭で、思い起こす。
(確かアクセルさんとでっかいクレーターの近くまで来たんだっけ。
そしたら、なんかいきなり黒い機体が突っ込んできて、その勢いで吹っ飛んで……よく生きてたなぁ、あたし)
ぼんやりと、ボロットの外を覗く。そこは自分が先程までいた、クレーターのあった場所とは違っていた。
「ここどこ?……それに、あの子どこ行ったんだろ?」
気絶する前まで自分にまとわりついていたピンクハロが、いなくなっていることにも気付いた。
(一体何が起きたのかな……アクセルさんは?あの黒いロボットに襲われて、やられてなきゃいいけど……)
だが、そんなミオの考えを遮るかのごとく。
激しい爆音。同時に地面が揺れ、ボロット内部に激しい衝撃が響き渡った。
ラアム・ショットガンが火を噴き、光子力ビームが空を走る。
ターボスマッシャーパンチが大地を抉り、ガン・スレイヴが大地を焦がす。
エメトアッシャーとファイヤーブラスターがぶつかり合い、その爆発はクレーターを作る。
カイザーの攻撃がディフレクトフィールドを装甲ごと貫き、アストラナガンの砲撃が超合金を砕く。
圧倒的な力を持つ2つの機体の、小細工一切抜きの本気での激突。もはや周囲の地形は原形を留めていない。
「なんじゃこりゃーっ!?どーなってんのよっ!?」
ボロットの中から、ミオは呆然とその2機が戦う姿を見ていた。
片方の赤い翼の黒い機体は……さっき自分に突っ込んできた機体ではないか。
それにもう片方のいかにも悪そうなロボットは何だ?クロスボーンガンダムはどこ行った?
何がどうなっているのかわからないが、いつの間にかとんでもない戦いに巻き込まれてしまったらしい。
「ちょ、ちょっとタンマ!!これマジでやばいって……あわわっ!」
余波だけでも、その衝撃でボロットが激しく揺れる。このままじっとしていては、彼らの攻撃に巻き込まれて死ぬのも時間の問題だ。
傍から見ていてもわかる。あの2機の放つパワーは半端ではない。あのグランゾンにも匹敵するのではないか。
ここから離れなければ。かといってボロットは頭だけで動けないし、機体を捨てて徒歩で逃げてもたかが知れている。
(どうしよ……こうなったら、あれのパイロットにコンタクトを取ってみるしか!)
そう思うや否や、ミオは通信機を弄り始める。
あまりに分の悪い賭けであることは十分理解していた。相手がマーダーであれば、逆に身の危険を呼び寄せかねない。
特に赤い翼の機体のほうはさっきボロットを破壊した張本人である、その可能性はむしろ高そうだ……
だがこのまま何もせず死ぬよりはマシだった。この際、僅かな望みに賭けるしかない。
……コンタクトが取れたらどうする?いつものように一発ボケたら、相手の殺意を削ぐこともできたりするだろうか?
そんな馬鹿げたことも考えながら、回線を合わせる。
そこで、ミオは戦う2機のパイロット同士の通信を傍受した。
『きさ……だけは……絶た…に、生かしてはおかん!!』
「!!」
聞き覚えのある声が流れ、ミオは驚愕した。
(まさか……あれに乗ってるの、マシュマーさん!?)
このゲームが始まってから、しばらく行動を共にした仲間の声に間違いなかった。何故彼があの機体に?
その一方で、その声色に背筋を冷たいものが走った。自分やブンタといた時は見せなかった、殺意に満ちた声。
困惑する。だが、その後のもう一人のパイロットの言葉は、彼女にさらなる衝撃を与えることになる。
『ほざくな……!部下を、いや仲間を……アクセルを殺した報い、存分に思い知るがいい!!』
衝撃の事実。アクセルが殺された。それも、どうやらマシュマーの手によって。
なぜそんなことに?状況がよく理解できない。混乱する頭。
ただわかるのは、どうやら自分が気を失っている間に、事態はとんでもない泥沼に嵌り込んでいたこと。
『貴様にミオを殺させはせん!!』
『奴が守ろうとしたあの娘は……やらせん!!』
しかもこの争いの原因、どうやらそれは自分らしい。経緯は不明だが、ミオを守るために彼らは殺し合っているようだ。
よく見れば、周囲の地形を変えるほどの戦いを繰り広げながら、ボロットの周辺はほとんどダメージが見られない。
――どうする?
伝えなければ。自分が生きていることを。自分は戦いを望んでいないことを。
それで戦いは止まるかはわからない。もう自分が出ただけでは収拾がつかない所まで来ているのかもしれない。
だがこのまま放っておくことはできない。
「マシュマーさん!!それからもう一人のおっちゃん!!聞こえる!?戦いを止めてよ!!!」
しかしカイザーのタックルで受けた衝撃で通信機が壊れているのか、傍受はできてもこちらの声が相手に届かない。
ならば外部スピーカーで思いきり叫んではどうか?……これも故障中。
(ウソでしょ!?なんでこんな時に!!)
いかにミオといえど、こうまで切羽詰った状況ではもう冗談など言っている余裕はなかった。
「あーもう、こうなったら!」
直接出て行って、自分の存在を直接確認させるしかない。
危険すぎるが、なりふり構っていられない。ミオ自身、もうそこまで頭は回っていなかった。
ミオは外に出るべく、立ち上がる――
「あれ?」
何かに足を取られ、彼女はその一歩を踏み出すことが叶わなかった。
コードのようなものが足に巻きついている。
「何、これ……?」
ミオは後ろを振り向く。そこには……
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
戦いが始まって、どれだけ時間が流れただろうか。
機体も、そしてパイロットの疲労も、既に限界を超えていた。だがどちらも一歩も引き下がろうとはしない。
ぶつかり合っているのは機体だけではない。それはパイロット両者の、意地のぶつかり合いでもあった。
考えてもみれば、通信で互いにミオを守ると公言しているにも関わらず、どちらもそれに気付く様子が無い。
両者ともに完全に頭に血が上っている。今の彼らには、
バトルロワイアルのことも、ユーゼスのことも頭にない。
敵を、目の前の敵を倒す。ただそれだけだ。二人は完全に取り込まれていた。
相手はアクセルを殺した――ミオを殺そうとしている――絶対に許すわけにはいかない――殺してやる――
憎悪という名の、果てしない泥沼に。
「まだだ……私は死ねん……奴を、全てを滅ぼすために……死ぬわけにはいかん!!」
彼の加速する憎悪、それにディス・レヴが反応した。
まつろわぬ霊達の憎悪の念がアストラナガンを、そしてマシュマーを包み込む。
強化人間特有の苛立ちが、不安定さが消え……頭がさらなる憎悪にどす黒く染められていく。
しかしその自我までは完全に取り込まれることはなかった。
その憎悪の中にあって、かけがえのない物が彼の中から失われていないから。
こんな自分に、一時でも人としての時間を許してくれた、友のためにも。決して引くわけにはいかない……!!
「テトラクテュス・グラマトン……」
口をついて、言葉が出てくる。何故だか、その意味がわかるような気がした。
今なら引き出せる。この機体の、真の力を。
「負けるわけにはいかん!」
マジンカイザーの力の反動にその身を傷つけ、鼻血を噴出しながらも、彼は決して逃げ出さない。
アクセルを殺した、相手が憎かった。絶対に負けられないと思った。
その生命を賭してまで、自分を信じてくれた仲間の……友のためにも。
「マジンパワー、全開……!!」
ヴィンデルは最後の攻撃を決意する。
(シヌナ、ウ゛ィンテ゛ル……)(アツクナラナイテ゛、マケルソ゛)
声が聞こえた。同時に出力がさらに上昇し……マジンカイザーの胸のマークが、「Z」から「神」へと変わった。
「何……?」
ふと何かを感じて、ハロ達のほうに振り返る。
全ての力を使い果たし、真っ白に燃え尽きたかのように、彼らはその機能を終え、眠りについていた。
「お前達なのか。最期の力を貸してくれたというのか……」
彼らもまた、仲間であり、友であったのだ。その遺志、無駄にはしない。必ず奴を倒してやる……
ヴィンデルの怒りに応えるかのごとく、魔神皇帝が真の力を解放する。
憎悪の泥沼に、二人は際限なく嵌り込んでゆく。
「な、何よこれ、何なのよ!?」
後ろを振り返ったミオの目前に、信じられない光景が広がっている。
彼女が外の様子に気を取られ、通信機を弄ったり叫んだりしている間に、
機械のような、生物のような。得体の知れない不気味なものが、ボロットのコクピットを侵食していた。
その中から、触手が無数に溢れ出てきた。それはミオのほうへと伸びてくる。
「う、うわわっ!!こっち来ないでっ!!」
「始まったか……」
ボスボロットの異変を見ながら、ユーゼスはその仮面の奥に確かな笑みを浮かべた。
これで儀式の準備は整った。
ピンクハロを通じてボロットに付着した微量のDG細胞は、今二つの超エネルギーの激突に反応するかのごとく、活動を始めた。
ゲッター線の影響を受けた影響が出ているようだ。本来のそれに比べて、明らかな活性化を見せている。
それはハロの制御を離れ、独自にその存在を確立していった。
今、その存在を確固たるものにするため、細胞は自らの「コア」の存在を求め、その対象者を捕獲しようとする。
都合のいいことに、取り込もうとしている対象は、そのための生体ユニットとして申し分ない条件を持っていた。
「うあっ……!!」
抵抗も虚しく、ミオの身体は触手に絡め取られた。
抜け出そうと必死で暴れるが、締りが強く少女の力では到底抜け出せない。
「ちょっ、放し……きゃあっ!!」
己に取り込もうと、触手はミオをその機械の中へと引きずり込む。
「いや……や、め……」
彼女の身体は、機械の中に埋め尽くされていった。
最も適した生体ユニットの条件とは、健全で力強い生命力を持つ人間。
それは、次の世代への生命を生み出すほどの、パワーを備えた生き物。
あらゆる生物の頂点に立ち、新しい生命を生み続け増やしていける者……
汝の名は……女なり。
「あ……が……」
意識が遠くなっていく。この得体の知れない機械の一部になっていくような感覚。
何かが身体を浸食していく。苦しい。気持ち悪い。でも次第に気持ちよくなり、いっそその感覚に身を委ねたくなってくる。
(ダメ……こんなことしてる場合じゃ……取り返しのつかないことに……)
消えかけていく意識を無理矢理奮い立たせ、ミオは動こうとするが……もう力が入らない。
少女の意識は、恐怖と絶望に塗りつぶされていった。
「副長!!何が起きているのだ!!」
ヒュッケバインのコクピットで、タシロが叫ぶ。
「二つの巨大なエネルギーがさらなる肥大化を続けています!!
そしてそれに反応するかのように、その近くにもう一つのエネルギーが現れました!」
「何っ!?」
タシロ達は憎悪渦巻く戦場へと向かっていた。
交戦する強力な2機。戦闘を止められれば、などとも考えてはいたが、もはや間に合わない。
それどころか、これ以上はとても近づけそうにない。このままでは彼らの攻撃に巻き込まれてしまう。
「いかん!!G・テリトリーを作動させろ!!エネルギー全てを回しても構わん!!」
生贄を見つけた悪魔の前で、二つの強大な力が最大の攻撃でぶつかり合おうとしている。
元々そのままでは不確定要素の多かったこの計画。状況に応じて、ユーゼス自身のDG細胞に対する介入も必要かと思っていたが。
それすら要らず、こうまで早くお膳立てが揃うことになるとは。それも最高といってもいいシチュエーションで、だ。
「あの玩具には感謝せねばな……ククク」
ハロ。彼らが自我を持ち、ユーゼスの命令を無視した行為。
だが皮肉なことに、それらは全てユーゼスにとって有益な結果をもたらすことになってしまった。
生贄の少女を導き、魔神皇帝の真の力を
目覚めさせ、悪魔王を引き合わせた。その結果が今ここにある。
ユーゼスが仕組んだことではない。彼とて神ではない。そう都合よく物事を運べるほどの力は無い。
これは偶然の産物。偶然の重なり合った結果にすぎない……
だが、その偶然を頻発させるくらいはできる。
そのために、グランゾンがあるのだから。
「ディス・レヴ、オーバードライブ……!!」
「光子力エネルギー、フルチャージ……!!」
ヴィンデルが、マシュマーが。お互いの怒りと憎しみを込めた、最後の一撃にうつる。
――それでいい。お前達の持つ闇の全てを込めて、その一撃を放て。
『ゆくぞ……!!』
さあ、踊れ。心の闇に囚われた愚かな人間どもよ。
そして回れ、運命の歯車よ!
「アイン・ソフ・オウル!!!!」
「カイザァァァァァァ・ノヴァ!!!!」
光と闇が衝突し――
それは空間すら捻じ曲げ、全てを無に返す。
最終更新:2008年06月02日 03:46