キョウキ、コロシアイ、そしてシ
あたしは特別なはずだった。
ドイツの大学を出、エヴァンゲリオン弐号機のパイロットになり、特別な人間として生きてきたはずだった。
それが何故・・・?
「あ゛あ゛あ゛あああああああ!!!」
システムLIOHによって精神と肉体を支配されたシンジ。
それの動きはもはや人間のものではなかった。
ダイモスの拳を、蹴りを、ファイブシューターの雨をくぐり抜け、それによって生まれる刹那の隙に叩き込まれる神速の蹴り。
その蹴りはダイモスの装甲を抉り、アスカのプライドを切り取っていく。
「なんで・・・、なんであたしがあんたなんかに・・・!あんたなんかに負けてるのよぉぉぉぉおおぉお!!!」
「アスカが、アスカが悪いんだ・・・。アスカが僕に守られてくれないから・・・」
その言葉は誰に向けられている訳でもなかった。
互いに崩壊した自我。
会話もままならず、ただ両者の殺害のみを望み、行動していく。
ダイモスは既に三竜棍、双竜剣、ダイモシャフトの全てを失い、四肢による攻撃しか残ってはいない。
それでもダイモスの拳は、蹴りは十分な威力がある。
大きく損傷こそしているが、両腕のもげた大雷凰に比べればマシではあった。
そしてアスカ自身が持つ天性の格闘センス。
シンジが乗る大雷凰などに負けるはずがない。
だが、負けている。
おされている。
当たらないのだ、攻撃が。
当たれば装甲をぶち抜く拳が、当たれば頭を吹き飛ばす蹴りが。
避けられる、全て。
ガードされる訳でもない、大雷凰は脚部のバーニア巧みに使用し、アクロバティックに、それこそ舞うようにかわしていく。
動きが読まれている?
そんなはずはない。
このあたしの攻撃が、バカシンジ如きに。
自分が劣っているはずがないのだ。
そんなアスカの想いをよそに、大雷凰は脚部のバーニアを吹かしながら、ダイモスの左腕を蹴り落とす。
否、斬りおとした。
速過ぎる蹴りは既に打撃ではなく、斬撃と化していた。
攻撃本能が暴走し狂気の笑みを浮かべるシンジ。
「ハ、ハハ・・・!!」
「ちくしょぉぉぉぉおおぉおぉぉおお!!!」
自分がシンジに劣るはずがないのに。
「あんたなんかにぃいいいぃいいぃいぃぃぃ!!!」
大雷凰の首を狙い、手刀を放つ。
しかしそれもまた虚しく空をきる。
「あたしは特別なの!!特別なんだから!!!あんたなんかに負けてらんないのよぉぉぉ!!」
アスカの顔が憎悪と、怒りで歪んでいく。
「そうよ!特別なのはあたしなのに!!ミサトも!ファーストも!司令だって!いっつも特別扱いなのはあんた!!」
自分の心を、不満を、怒りを叫ぶ。
「あたしが倒せなかった使徒だって・・・!あんたは倒していった!!あたしは負けられなかったのに・・・!!」
「・・・・・・・・・」
「みんなしてあたしを馬鹿にして!あんたがいなければこんなことにはならなかったのに!!」
沈黙するシンジ。
その沈黙がアスカをさらに苛立たせていく。
「あんたさえいなければ・・・、あんたさえいなければあたしはまた特別になれる!!」
そう・・・。
あんたさえいなければ・・・。
「だから殺すのよ!あんただけは!あたしがこの手で!!」
自身のプライドを守るための殺意。
アスカの殺意はそれだった。
「殺してやる!あんたなんか!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!」
湧き上がってくる殺意が暴走し、狂気が加速していく。
「・・・・・・・・・」
大雷凰が加速し、ダイモスとの距離を急激に詰め、肉薄する。
左腕を失い、ガードの薄くなったダイモスの左側へ蹴りを撃ち込む。
その蹴りはダイモスの装甲を深く抉った。
しかしダイモスは前に、大雷凰へ突進する。
「あんたを殺せるなら、この機体なんかどうだっていいのよ!!」
予想しない行動に大雷凰の動きが一瞬鈍る。
動きの鈍った大雷凰に体当たりし、むりやり地面へ叩きつける。
大雷凰にのしかかり、マウントの体勢になるダイモス。
「死になさいよぉおおぉおぉおぉおぉおお!!」
殺意を乗せた拳を大雷凰の胸部へ打つ。
激しい打撃音、いや金属音が木霊する。
一発一発打たれるごとに大雷凰の装甲が凹んでいく。
「・・・!死にたくない!死にたくない!!」
「今更何言ったって無駄なんだから!!あんたはこのまま死ぬのよ!!」
死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネシネシネ・・・・・。
異常な殺意を打ち込むダイモス。
大雷凰のコクピットが揺れ、ひしゃげ、小規模な爆発が起きる。
シンジはシステムLIOHの発動による影響からか、頭部と鼻と目から出血し、顔中が血にまみれている。
目の前が赤く染まり、血の匂いが鼻につく。
それはシンジに死の近づきを知らせた。
沈黙をやぶり、口を開く。
「ひっ・・・!死、死ぬ、死ぬ!じにたくない!!!うあ゛ぁあ゛ぁあぁあああぁああぁああ!!!」
誰にでもある死への恐怖。
その恐怖にシステムLIOHが呼応した。
露出した大雷凰の胸部にある、玉状の物体がまがまがしく輝き、頭部の眼帯のようなものが展開する。
「!!!!!何!?」
大雷凰が背部のスラスターと脚部からすさまじい光を放つ。
マウント状態だったダイモスを強引に引き剥がし、バランスを崩したダイモスは転倒する。
「何よ!!一体なんなの!!?」
さっきまで優勢を保っていた自分。
それが転倒している。
何が起きた・・・?一体なにが・・・?
困惑しながら大雷凰に目を向ける。
「・・・なんなのよそれはぁっ!!」
大雷凰の背部と脚部から放たれている光。
その光は大雷凰を飲み込み、翼のようなものを描く。
その姿はまるで・・・。
「ハッ!!?調子にのるんじゃないわよぉおぉ!!」
「じにだぐない・・・」
ただ一言。
そういうと大雷凰はダイモスへ、突っ込んでいく。
鳥のように。
疾くただ真っ直ぐ。
「こんなものでぇぇええぇえぇえぇえ!!」
超速で突っ込んでくる、大雷凰へ残った拳を放つ。
ありったけの殺意と、怒りと、憎悪をのせて。
「えっ・・・?」
放たれた拳が大雷凰の光に消えていく。
ダイモスのコクピットが光に飲まれる。
目の前が、ただ真っ白に染められていく。
あらゆる光景がアスカの前に浮かんでは、消え、浮かんでは、消え・・・。
突然自分へ何者かから手が伸ばされる。
女性の手・・・?
特別でありたいと願い続けた自分。
褒めてもらいたいと、愛されたいと願った。
自分を認めてもらいたかった。
幼き頃に自殺した母。
周りの誰よりも母親という存在を渇望した。
会いたかった、褒められたかった、愛されたかった。
光から伸ばされた手はアスカを優しく包み、抱きしめた。
ママ・・・
そう、呟く。
大雷凰の放った「神雷」
ダイモスの上半身を跡形もなく吹き飛ばした。
しかし・・・
「は・・・は・・・あ゛あ゛あ゛・・・」
限界を超え、もはやシンジに生を続けることは出来なかった。
体中に激痛が走る。
涙と、鼻水と、血がまじり、ぐちゃぐちゃになった顔。
それはシステムLIOHの力の副作用だった。
シンジの体が崩れ落ちる。
(痛い・・・痛い・・痛い・・死に・・たく・ない・・・誰・・か・・・・・・・・・・・)
思考が止まる。
血にまみれ、虚ろに開かれた目。
その体が動くことはもうない。
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:死亡
機体状況:上半身消失、右足損傷。戦闘は不可。
現在位置:G-6基地(外)】
【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:死亡
機体状態:両腕消失。胸部が大きく凹んでいる。
背面装甲に亀裂あり。 戦闘は何とか可能(?)
現在位置:G-6基地(外)
備考1:死亡しているが奇妙な実(アニムスの実?)を所持】
【二日目 20:10】
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最終更新:2008年06月02日 16:16