されど白竜は蒼天に舞う
ユーゼス・ゴッツオの悪意に満ちた声が響き渡る。それは死を告げる非情な宣告。
あの男によって呼ばれた者達は、もう二度と帰ってこない。
フォルカとエルマは、エスカフローネを使ってリュウセイ、セレーナ、ジョシュアを埋葬していたところだった。
瓦礫で作った簡素な墓標の前で、自らの手で埋めた彼らの名を呼ばれ、フォルカは俯いて目を伏せる。
――せめて安らかに眠れ。
その意思を受け継いで、そして必ずユーゼス打倒を成し遂げると心の中で誓う。
そしてもう一人、この地で拳を交えた男の名前。
アクセル・アルマー。
あの男は決着をつけなければならない相手がいると言った。
その願いは果たされたのか。その戦いの果てに敗れ、死んでいったのか。
それはもう分からない。
フォルカに出来ることは、その名とその思いを心に刻むことだけだ。
「トウマさん……!それにガルドさんまで……」
背後から聞こえたエルマの声にフォルカは振り向く。
確か、リュウセイたちと別行動をとった者達の名はクォヴレー、イキマ、そして――トウマ・カノウ。
放送で呼ばれたガルドという名に、フォルカ自身は聞き覚えがなかったが、おそらく彼らと同じ志を持った者だったのだろう。
犠牲者は無情にも増え続け、そしてそれに伴ってユーゼスを倒すための戦力は削られていく。
だが、まだ希望の火が消えたわけではない。
可能性が1%であろうとゼロでない限り、いやゼロであろうと諦めるわけにはいかないのだ。
同じ目的のために共に戦う者達がいる。
そして道半ばにして散っていった者達がいる。
彼らの思いを無駄にしないためにも。
そして何より――友を、同胞達を打ち倒してまで貫いたフォルカ自身の信念のために。
「エルマ、分かっているだろうが……」
「……大丈夫です。まだ僕らにはやらなきゃいけないことが残っていますから!」
「そうだ……そうだな」
拳を握り締めて、空を仰いだ。
やるべきことがあるうちは、歩みを止めることは許されない。
泥にまみれても、傷だらけになっても、悲しみに押しつぶされそうになっても。
生きているということは、そういうことだ。
もう死んでしまった者にはできないことなのだから。
*
フォルカとエルマは未だに目が覚めないマイの傍らで今後の行動方針を検討していた。
「確認するぞ。放送で名前を呼ばれた剣鉄也は削る。木原マサキは未だに生存、ユーゼスのスパイについては不明……」
「はい、白い機体に乗っている女性ということは分かるんですが……」
ちなみにエルマは『
反逆の牙』の作戦会議の際、メガデウスの修理にかかりきりだったために、
リョウトからラミアの名を聞いていない。
会議の結果をメモした紙は、エルマがオーバーヒートしている間にリュウセイがシロッコに渡してしまったが、そんなことを今の彼らが知るはずも無く。
そのためエルマは、リュウセイのメモが無いのは、あの激闘のせいでどこかにいったか、破損してしまったからだと結論付けた。
ちなみにセレーナやジョシュアの遺品は本人の血にまみれていたり、どこかに吹き飛んで跡形も無かったりと、やはり判読は不可能だった。
「次だ。リュウセイたちの名前が放送で呼ばれた……これを受けて、クォヴレーたちはどういう行動をとるか……」
「僕達のグループが全滅したと思っているでしょうね……ここに来てくれるとは考えにくいと思います」
「ならば次はどこへ向かうのかを予測して、俺たちもそこを目指すべきだな」
「はい。多分C-4、C-7、G-6のどこかだと思います」
エルマが言うには、クォヴレーたちは現在、待ち合わせ場所のE-5にいるはずだという。だが、その地点はこのE-2と同じく、まもなく禁止区域となる。
ならば彼らも、即刻どこかへ移動しなければならない。
元々リュウセイたちはC-4かC-7を調べる予定であった。
クォヴレーたちのつもりになって思考すれば、リュウセイたちが全滅したのだから、自分たちで代わりに調べに行こうとするのは当然だろう。
そしてG-6では首輪の解析が行われていたはずだ。
もしクォヴレーたちがG-6に到着した後、待ち合わせ時間になる前に、首輪の解析及び解除が間に合わなかったとしたら?
まず作業を一時中断してE-5へ向かい、リュウセイの集団と合流したのち、G-6で作業再開というケースが考えられる。
「ここから直接C-4へ向かうのは禁止エリアのせいで不可能だ。まず急いでE-5へ向かおう。二時間あればギリギリ何とかなる」
「分かりました。そこからはどうするんですか?」
フォルカはその問いに、しばらく考えた後でこう答えた。
「彼らと合流できればよし……できなければG-6に向かおう。俺たちだけで敵の施設があるかもしれない場所に向かうのは、危険過ぎる」
「そうですね。G-6の基地なら、もしかしたら他に生き残った人がやってきて、協力してもらえるかもしれません」
「よし、そうと決まればあとは行動あるのみだ」
「はい!」
エルマの元気のいい返事が合図だった。
目が覚めないマイを、エルマと一緒にそっとR-1のコックピットブロックに乗りこませ、竜に変形したエスカフローネで抱え込むようにして、そのまま飛び上がった。
アーバレストはスピードが出ず、足手まといになりそうなので、やむなく置いていくことに決めた。
「行くぞ……!エスカフローネ!」
フォルカの決意を秘めた声に応えるように、エスカフローネは風を切り裂いて進む。
「セレーナさん……リュウセイさん、ジョシュアさん……アル……」
マイの傍に寄り添いつつ、エルマは置き去りにせざるをえなかった戦友たちの名を寂しげに呟く。
「…………リュ……ウ……」
夢を見ているのだろうか。自分が殺めた、そして自分を救ってくれた者の名を呼んだマイの頬をひとすじの涙が伝う。
決意と想いと涙をのせて――今、白竜は蒼天に高く舞い上がった。
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣破損。全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
腹部の外部装甲にヒビ(戦闘に支障なし)
現在位置:E-2南端
第一行動方針:E-5経由でG-6へ向かう
第二行動方針:クォヴレーらと合流する
第三行動方針:マイが目覚めるのを待つ
最終行動方針:殺し合いを止める
備考1:エルマと情報を交換し、レビの本名がマイであることを知りました
備考2:一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能
備考3:備考2はエルマに話していません】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
パイロット状況:気絶
機体状況:コクピットのみ
現在位置:E-2 南端
第1行動方針:リュウセイの遺志を継ぐ
最終行動方針:ユーゼスを倒す】
【エルマ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
状況:良好 自分の無力さが悔しい
機体状態:コクピットのみ
現在位置:E-2 南端
第一行動方針:マイが目覚めるのを待つ
第二行動方針:クォヴレーたち別働隊と合流
最終行動方針:セレーナたち『反逆の牙』の遺志を継ぐ
備考1:厳密には参加者ではないため、首輪は付いていません。
備考2:彼が得た全ての情報はユーゼスに筒抜けです。エルマは気付いていません。
備考3:フォルカと情報を交換しました
備考4:現状でアーバレストは231話(
目覚め)の位置のまま放置しています
備考5:リュウセイたちの話し合いを聞いていないので、ラミアの名前は知りません。
スパイがいるということや乗っている機体の情報、女性だということは知っています。
備考6:リュウセイがシロッコに伝言を頼んだことは知りません】
【三日目 6:30】
最終更新:2008年06月02日 18:48