狩人
「先ほど一緒に行動する事を許されたはずなのだが…」
ヴィンデル・マウザーが緊張の為、僅かに汗をたらしながら軽い抗議をする、
「だからと言って、お前が信用できないのは確かだからな」
イサム・ダイソンがD-3の銃をジャスティスに突きつけ、ごく当然な答えを返す。
「とにかく、俺がどんな奴だったかだけでも教えてくんない?」
口調は相変わらず軽いが、それまでに無い真剣さでアクセルがヴィンデルに尋ねる。
ヴィンデルが彼らに敗れてから数十分、とにかくアクセルの記憶の手がかりをつかもうと、
そのままの場所でヴィンデルを尋問することになった。
とはいえ辺りは平原、遠方からでもこちらを確認する事が容易な為(その逆も言えるので移動せずに
いるのだが)コックピットから降りるのは危険と判断し、ヴィンデルも含めて全員コックピットから
降りずにいた。
「まあ、待て。お前と会ったのはかなり前。しかも一緒にいたのは少しの間だけなので、思い出すのに時間が…」
嘘である。都合よくアクセルの記憶が戻って来る事保障など何処にも無いこの状況では、真実を話しても
なんら得する事は無いだろう。、
「さっきからずっとそう言ってるじゃねえか。しらばっくれてんのか?それともその年でボケたのか?」
(クソ!この小僧め!)
こうしてイサムの悪態に耐えつつも時間稼ぎをしているのにも理由があっての事だ。
「まあまあ、そう怒りなさんなって」
そういうアクセルだが、明らかに焦りが見えている。この状況もそう長くは続きそうにも無い。
(おい、お前達!本当に大丈夫なんだろうな!)
「サクセンハイッコクヲアラソウ!」
「ツキハデテイルカ?」
(わかった!わかったから少し静かにしてくれ、いや、静かにしてください!)
ハロが次々に騒ぎ出すのを必死で抑えるヴィンデル。
「ん?今なんか言ったか?」
「い、いや月が綺麗だなと…ははは…」
言い訳をしながら、ヴィンデルは自分の運命がこの丸い悪魔に握れらている事を再確認し、いいようのない
悲しみというか無力感というか虚脱感?とにかくそんなものを感じて無性に泣きたくなった。
「アクセルさんの記憶、戻るといいね」
ヴィンデルが己の運命に軽く絶望している事など判ろうはずもなく、アクセル達から少し離れた場所で
アキトは隣の機体の少女に話しかける。
「そうですね」
ホシノ・ルリが味も素っ気も無い態度で相槌を打つ。最も、ルリが見た目ほどはそう思っていない事を(最近に
なってやっと判別できるようになったのだが)アキトは感じていた。
「そういえばマサキ君、辺りを見回ってくるって言ってたけど大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないですか?あの人年齢よりずっと落ち着いてますし」
「そうだよなぁ、ルリちゃんみたいだ」
「・・・」
「・・・ひょっとして怒った?」
「いえ、よく言われますから」
穏やかな、今この瞬間殺し合いをしている者がいる等信じられないほどの穏やかな一時。
だが、優れた狩人は獲物に己が近づいたことを悟らせない。
「何が起こったんだ!?」
頭を打ちつけたため朦朧とする頭を必死に覚醒させ、アキトは急いで周りを見回した。
「ルリちゃん!?」
白いロボットがルリの乗るスカイグラスパーに襲い掛かろうとしている。突然出来事に対応できなかったのか
スカイグラスパーはまだ離陸すらしていない。
(そうだ、川の中からいきなりあいつが出てきて俺を蹴り飛ばしたんだ!)
「死ぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!」
白い機体、ダイモスの中でアスカが叫ぶ。
ヴィンデルとの戦闘を偶然目撃したアスカは、殺意を思う存分ぶつけるべくアキト達に狙いを定めた。
しかし、その強すぎる殺意、いや、既に感情ではなく意思とすら言えよう。
その『殺す意思』は冷静に相手の戦力を分析し、闇雲に襲い掛かるような真似はとらなかった。
あえて少しの時間を置き相手の油断を誘い、さらに川底を進む事によって奇襲を成功させたのだ。
「駄目かも」
振り上げられるダイモシャフトを見ながら、ルリは自分でも意外なほど冷静に死を覚悟した。
(さすがにこんな時まで冷静でいられるなんてね)
ふとそんな考えが沸き起こる。こんな時になんでと自分でも思うが、それが逆に可笑しかった。
「でも、最後にアキトさんに会えて良かった…」
目を閉じ、その瞬間を待つ。
「・・・?」
まだ生きてる?
恐る恐る目を開け、そしてそこに信じられない…信じたくないものを見た。
「アキト…さん?」
ダイモシャフトがνガンダムの深々とつ突き刺さっている。
「アキトさん!」
それが意味する事は明白だ、テンカワ・アキトは自分を助ける為に己の身を投げ出したのだ。
「ル…ルリちゃ」
次の瞬間、νガンダムは炎に包まれた。
「アキトさん!アキトさん!」
爆発するガンダムに向って、泣きながらアキトの名を叫ぶ。
だがそう叫びながらも頭の一部分は既にその事実を、アキトがもう二度と返事ができない事を理解していた。
(違う!そんなはずはない!)
その考えを振り払うために、必死で叫ぶ。だが解っている、あの状態ではもう…
テンカワ・アキトハシンダノダ
「どうした!?」
アキト達がいる方向で大きな音がするのを聞いたイサムとアクセルは、一瞬ヴィンデルから注意をそらす。
その瞬間をヴィンデルは見逃さなかった
「今だ!」
「デカイノイッパツブチカマシテヤレ!」
「OKワカメ!」
ハロの叫びとともに湖面から先ほどD-3のジャミングにより何処かに飛び去ったファトゥムが現れ、
アクセルに向って突撃する。
「な!?まだジャミングはといてねぇぞ!?」
驚愕の声をあげるイサム、確かにジャミングは効いており、遠隔操作は不可能である。
そう、遠隔操作は・・・
「よくやったぞハロ!」
「ザクトハチガウノダヨ、ザクトハ!」
「テキショウリテン、ウチトッタリィ!」
ヴィンデルはコックピットからさり気なく数匹のハロを脱出させ、ファトゥムを探索させていた。
そして首尾よくファトゥムを見つけたハロはファトゥムを操り、指示通り川に潜み、合図とともにアクセルに
襲いかかったのであった。
「フハハハ!この私がそう簡単にやられるものか!」
「ダレノオカゲダトオモッテンダ!」
「ソンナオトナ、シュウセイシテヤル!」
「ヒィ!す、すいません!」
いまいち情けないが、そんなやり取りをしている間にもしっかりD-3にビームライフルを発射している
ところ、さすがと言えよう。
「野朗、調子に乗りやがって!」
イサムがなんとか反撃しようとしたその時。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「アクセル、貴様ぁ!」
ファトゥムの攻撃によって崩れた体勢を、すばやく立て直したクロスボーンガンダムがジャスティスに
斬りかかる。かろうじて避けたジャスティスだが、ビームライフルを切断されてしまった。
「ここは俺に任せて、あんたはルリちゃんの所に!」
「…わかった!」
一瞬ためらう、しかし確かにアキトとルリではまともに戦闘は無理なのは明らかだ。
「俺が戻ってくるまでに、きっちりぶちのめしとけよ!」
「りょ~かい!」
ビームサーベルで斬りあう二体を後ろにD-3はアキト達の下に急いだ。
「違う違う違う!」
普段の彼女を知るものは想像できないような、だが歳相応にイヤイヤと首を振りながら叫ぶルリ。
「順番が変わっちゃったじゃない!」
ダイモシャフトをνガンダムからに抜き、スカイグラスパーに襲いかかろうとするダイモス。
「野朗!よくもテンカワを!!」
再びダイモシャフトが振り下ろされる直前、間一髪イサムのD-3がハンドレールガンをダイモスに
浴びせかける。
「ルリちゃん、大丈夫か!?ルリちゃん!おい、返事をしてくれ!」
「ダイソン・・・さん?」
その返事にとりあえずは大丈夫だと思う事にし、目の前の機体に集中するイサム。
「邪魔すんじゃ、なぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
叫びながら手から手裏剣のような武器、ファイブシューターをD-3に向けて投げる。
「チィ!」
5つに分かれたファイブシューターを避け、ダイモスに照準をあわる、しかし
「な!てめぇ!」
仲間が来た時点で奇襲は終わり、そう判断したアスカはイサムがファイブシューター避けている隙に
逃走に移ったのである
「ふざけんな!逃がすかよ!」
「ダイソンさん…アキトさんが…アキトさんが…」
追いかけようとするイサムの耳にルリの声が届く。
「すまない、ルリちゃん…テンカワの仇は絶対とってやるからな」
振り向きもせずに、イサムはダイモスの追跡を始めた。
(俺が、俺がこいつをちゃんと扱えればこんな事には!)
D-3の能力を使いこなしていれば、奇襲など防げた。
テンカワ・アキトも死ぬ事はなかった。
「仇は討つ!絶対にな!」
「さすがだアクセル!記憶を失っているとは思えんな!」
「やっぱりアンタは俺を知ってるのか!?」
ジャスティスとクロスボーン、時代を、次元を超えたガンダムの名を関する2体の機体はビームの剣を用い
一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ああ、その通りだ!だが今の貴様が私の言う事を聞くとも思えんのでな、ここで倒れてもらう!」
ジャスティスの袈裟懸けの一撃をかろうじて避けるX1、
「誰かも分からずに死んでたまるか!」
体勢を崩したジャスティスに横薙ぎに斬りかかる。しかしファトゥムの突撃により、その攻撃は
ジャスティスにダメージを与える事はできなかった。
「もらったぁ!」
ファトゥムの突撃で倒れたX1に振り向けられたビームサーベル、しかしアクセルは無理やりスラスター吹かせて
強引に体勢を変え、その一撃をやりすごす。だが、
「うまくよけたな、だが片腕を失って私に勝てるかな?」
かろうじて避けたものの、X1はビームザンバーを装備していた右腕の肘から下を切断されてしまった。
「さらばだアクセル!」
「クソ!」
ファトゥムとジャスティスが止めのために同時に襲い掛かってくる。
「何、ファトゥムが!?」
ファトゥムが突如爆発する。
「大丈夫ですか、アクセルさん!?」
「マサキ!」
上空から木原マサキのレイズナーが、レーザードライフルでファトゥムを狙撃したのだ。
「仲間か!?」
ファトゥムを失った今、二対一では分が悪い…
すばやく判断したヴィンデルは、頭部バルカンレイズナーに放ち、逃走に移る。
「待て!お前にはまだ聞きたい事が!」
「待ってください、アクセルさん!他の人達は!?あっちの炎は一体!?」
追いかけようとするアクセルであったが、マサキの言葉で動きが止まる。
「そうだ!アキトとルリちゃんが!」
二人がいた方向をアクセルが見る、そこでは赤々と炎が燃え上がっているではないか。
「イサムが先に向った!マサキも早く行ってくれ!」
「アクセルさん!もしかして!」
その言葉が意味する事に気付くマサキ、
「ああ、俺はあいつを追う。すまないが後は頼んだ!」
そう言うや否やヴィンデルが逃げ去った方向に飛び立つクロスボーンガンダム。
「アクセルさん!アクセルさん!…ええい、クソ!」
【アクセル・アルマー :クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:E-5から東に逃走したヴィンデルを追跡中
パイロット状況:良好
機体状況:右腕の肘から下を切断されている
第一行動方針:ヴィンデルに記憶について聞く
最終行動方針: ゲームから脱出
【テンカワ・アキト 搭乗機体:νガンダム (逆襲のシャア)
パイロット状況:死亡
機体状況:炎上
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:健康
機体状況:良好
現在位置:E-5から北に向ったダイモスを追跡中
第一行動方針:ダイモスを探し、テンカワ・アキトの仇を討つ
第二行動方針:ゲームに乗った相手からの逃亡(戦力が整っていればやられたらやり返す)
最終行動方針:ユーゼスをぶん殴る】
【ホシノ・ルリ 搭乗機体:スカイグラスパー(機動戦士ガンダムSEED)
パイロット状況:身体に怪我は無いが、ショックにより茫然自失
機体状況:良好
現在位置:E-5
第一行動方針:まだ考えられない
最終行動方針:まだ考えられない】
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:秋津マサトのような性格のふりをしている。絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:E-5
第1行動方針:使えるクズを集める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【ヴィンデル・マウザー ZGMF-X09A・ジャスティスwithハロ軍団
パイロット状況:健康、めっちゃ脱力、ハロの下僕、しかし今回協力関係を結ぶ事ができた
機体状況:シールドを失う、ファトゥムを失う、ビームライフルを失う
さらにコクピット内がハロで埋め尽くされている
現在位置:E-5から東に向って逃走中
第一行動方針:……ハロを切実になんとかしたい
第二行動方針:ラミア・ラヴレスとの合流
最終行動方針:戦艦を入手する】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
現在位置:E-5から北に向って移動中
第一行動方針:碇シンジの捜索
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す】
【時刻:21:00】
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最終更新:2009年02月15日 04:45