無題
「そうか…また12人もの命が…」
タシロが沈痛な面持ちで呟いた。視線を横に向けると、ラトゥーニが手を震わせて、下を向いている。
「知り合いが、いたのかね?」
聞いてはいけないこととは分かっている。しかし、すこしの情報が命を左右するこの状況で聞かざるおえない。
「いえ…いませんでしたが…でも…」
声がすこし震えている。
「…そうか…」
彼には静かに答えを返すことしかできない。
「ゼオラ君の名前がなかった。彼女をほうっておくわけにもいかん。…町のほうに向かうとしよう」
「はい…」
そう言葉を交わし、ヒュッケバインmk-3ガンナーとV2アサルトバスターガンダムはA-1に向けて出発した。
「いたな…!」
鉄也が静かに呟く。レーダーで捉えられるギリギリ。2つの光点がともっている。
ガイキングはそちらを向きなおし、
「はずしはしない……!」
胸部は多少傷ついてはいるが、発射には問題ない。
「ハイドロ!ブレェェェイザァァァァアア!!!」
当てるのに必要な有効射程の約2倍の距離。しかし、正確な2発の光弾が2機に迫る!
「!? タシロさん!よけてください!急いで回避運動を!」
答えも返さず、急いで回避運動を取る。2機ともギリギリでかわす。
「どこからの攻撃だね!?」
「後ろからです!」
確かに後ろに光点がともっている。
「速度を上げて振り切るんだ!」
「無理です!速すぎます!そんな…単体の機動兵器でマッハレベル!?」
信じられないほどのスピードで光点がこちらに迫る!
「遅い!」
2,3言葉を交わす間にガイキングは2機に肉迫している。
「パラァァァイザァァァ!!」
そのままガイキングはヒュッケバインmk-3ガンナーに角を押し当て、通信機から男の声とともに、電撃を流す。
「ぐああああああああああああ!!?」
「タシロさん!やらせない…!」
バスターパーツのロングレンジキャノンを放つが、すぐにガイキングはヒュッケバインを蹴り、体をはがす。
ガイキングとヒュッケバインの間をロングレンジキャノンが通り抜けていく。
メガビームライフルでそのままガイキングを狙うが、ザンバーを盾代わりに使い、攻撃をはじく。
ザンバーは100mのダイターンが使っていたものだ。ほぼすっぽりとガイキングを覆っている
ブゥン!
ガイキングがV2にザンバーを投げつける。当然それをラトゥーニもかわすが――
ガァン!!
「え!?左肩に被弾!?」
メインカメラで左肩を見る。そこには腕が食い込んでいた。ロングレンジキャノンは使い物になりそうもない。
(そんな!?)
ザンバーを投げるとき、遠隔操作可能な腕も一緒に飛ばし、相手がかわした時死角から腕をぶつける――
グルンガストなどで腕を飛ばし、大型の刃物を使う機体は見たことはある。しかし、まさかこんな風につかうなんて!?
さらに隙を与えぬデスパーサイトの連打。2機とも回避に専念するしかない。
その隙に腕を戻し、ブーメランのように帰ってきたザンバーをつかむ。
(この男…隙がない…!)
戦闘中はマッハ3のスピードは出せないようだが、それでも異常とも呼べるほどの強さ。
「まて!何故君はこんなことをするんだ!?」
タシロは目の前の男に問いかける。
「なぜかだと…?俺はミケーネを倒さねばならん。そのためにはこの戦いを勝つ必要がある。そうボスと誓った。」
(ボス……!?)
その名前は、タシロも聞いたことがある。そう、先ほどの放送で――
「そのボス君は君が殺しあうことを望んでいたのか!?」
そうタシロは問う。しかし
「話は終わりか?いくぞ……!フェイィィス!オープン!!」
まったく通じない。さらに、鉄也の声とともに、ガイキングの真の顔が現れる。
「ガイキングミサイル!デスパーサイト!一斉発射だ!」
一分間に300発という異常な量のミサイルと、光線が回りに撒き散らされる。
2人とも、かわし、打ち落としていくが…
「レーダーが飽和!?敵のマーカーが…」
ビームスプレーガンやマイクロミサイルポッド、グラビトンライフルでミサイルを打ち落とすうちに、新規の目標…つまりはミサイルに自動登録され続けたため、初期の登録…ガイキングがいつの間にか消えている。
「ラトゥーニ君!上だ!」
タシロの声で上を向く。そこにはガイキングがザンバーを振り落とそうとしていた。
必殺の一撃を、光の翼を展開しカウンターの要領でビームサーベルでガイキングを切り裂くが、
「甘い!」
無理な姿勢でザンバーを振るう。このままでは切り裂かれる以上、距離をとるしかない。タシロの援護があって始めてやっと安全に距離を取ることができた。
「(接近戦は圧倒的に不利…装甲が厚いし、強すぎる…!)」
ビームサーベルで胴を切り裂いたものの、装甲が厚く、途中で離れざるおえなかったせいか、内部の武装まで破壊した手ごたえはない。
「まだだ!行くぞ!」
鉄也は攻撃の手を休めない。時間をとれば考える時間を与えることになり、優勢の今、不利になる。一気に畳み掛けることが最もよいと本能的に知っているからだ。ひたすら近接した上での斬撃。
さらに一度距離をとり、再接近の途中、
「アブショックラァァァイ!!」
強い閃光。
強すぎる、光。一瞬メインカメラが麻痺し、搭乗者も視界が奪われる。そして――
あけると同時に目に飛び込むのは、ガイキング。
ガイキングが、ザンバーを思い切り振り上げ――ここまでは普通だ。がここからが普通ではなかった。
振り上げたザンバーを背中を通して足ではさみ、Dというか○というか分からない姿勢をとり、顔から火炎を吐き高速で回転している。
「くらえ!!火車!カッタァァァァー!!!!」
(今から起動しても間に合わない!)
光の翼を使おうにも時間がなさ過ぎる。通常機動ではかわせない。
ラトゥーニはビームスプレーガンとマイクロミサイルポッドを全弾ガイキングに向け、ガイキングの姿勢を崩そうとするが、回転し、炎を纏ったガイキングをとめることはできない。
もう目の前だ。
(そんな…リュウセイ…)
間違いなく真っ二つにされる…もう疑いようもない。ラトゥーニが目をつぶるが――
強い振動がV2にかかる。しかし、それは横からのものだった。
「え?」
目を開けると。通信機からタシロの顔が映っていた。どこか、笑っているようにも見えた。
しかし、それは一瞬。通信機が断絶し、V2は地面に向け、勢いよく吹き飛んだ。地面からはヒュッケバインの爆炎が見える
そう、タシロは、ラトゥーニより一瞬早く視力を取りもどした。そして、鉄也がV2を切ろうとしたのを見て、
全速でV2に向かい、ぶつかったのだ。自分の身を省みずに……
V2がゆっくり立ち上がる。ガイキングが距離をとって、高層ビルの屋上に下り、
こちらを見ている。逆行になっているためか、ぎらつく影に浮かび上がる2つの目とガイキングのシルエットはまるで悪鬼の様相だった。
しかし、
ミサイルポッドはない。ロングレンジキャノンもない。スプレーガンも多くはない。ビームサーベルとビームライフルくらい。損傷も軽くない。
でも、
(負けない…!)
誰かをかばってもらって救われた命。絶対に負けない。しかし、この場合、相手を殺すことは勝利ではない。
ここから生き延び、ゼオラを助け、みんなともう一度会う。これが勝利だ。
(絶対に、ゼオラと、リュウセイと会う!ここから逃げて見せる!)
ラトゥーニの目にははっきりとした強い意志が宿っていた。
地図を開く。
(あの速度で追われれば振り切れない。町に行くしかない。それでもまともに行っては振り切れないかもしれない。今は、A-1の右。ここから町の中を左上に進んで、あの光の壁――!)
どんな不確定要素でも、小さなそれが決定的なものになることがある。それを信じるしかない。
ラトゥーニはA-1左上に向かって進みだした。
シロッコはキラにゼオラの扱いを任せ、自分は機体の細かいマニュアルを読みながら周りに気を使っていたが、
「―――!?これほどの黒いプレッシャー…何者だ?」
シロッコが虚空に振り返る。
「シロッコさん…どうしたんですか?」
食料や機体の補給、果てはゼオラの世話までパシリ同然のことをいいように使われていたキラが妙に不穏なシロッコの様子を見て問いかけた。
「キラくん。急いで機体に戻るんだ。敵がいる」
「え?」
「先ほど話したニュータイプの勘、というやつでね。しかも、はっきりと敵と分かるほど黒い大きなプレッシャーだ」
「は…はい!」
きびきびとシロッコの言うことに従うキラ。本人は気付いてないだろうが…もうはっきり言って手下同然である。
「2人とも、機体には乗ったな?しばらく様子を見るんだ。もう私は誰にも死んで欲しくない。避けられる限り、戦いは避ける。いいな?」
「はい」
「……」
「ゼオラくん、先ほどの放送は聞いただろう?」
「あ…はい」
沈黙していたゼオラが口を開く。
「ラト、という君の友人は死んでいない。死んでいないんだ。気に病むことはない。それに、力をあわせれば、アラド君も生き返らせることが出来る。助けることができるんだ。」
ゆっくりと、同じことを繰り返して、落ち着いたところに言葉を刷り込む。
もっとも、シロッコも主催者の力はすさまじいとは思っていても、死人を生き返らせることができるとまでははっきり思っていない。
しかし、どんなことでも、信じさせてすがらせれば、それは真実になる。
ガァァァァン!
空中で大きな爆発音が響く。
キラが動こうとするのをシロッコがいさめた。
「キラ君、落ち着くんだ、あの爆発では助かるまいよ」
「で、でも」
「一時の感情で命を棒に振る気か?私は君たちに死んで欲しくないんだ。君たちにもしなくてはならないことがあるんだろう。」
「はい…」
どうにかキラは収まった。しかし、次はどうしようもなかった。
次の瞬間、地面に、おそらくガンダムタイプのMSが落ちていくのが見えた。
「あれ…もしかして…ラト?」
ゼオラが、呟いた。
「え?」
「ラト…!生きてたのね…!今あたしが助けるから!」
シロッコの言葉を挟む時間もない。ゼオライマーは動き出した。
「まさか、あのガンダムに乗っているのがゼオラの…行かなきゃ!」
それに続いて、ゴッドガンダムまで動き出した。
「キラ君!?」
「ゼオラ一人じゃ危ないかもしれません!僕も行きます!」
さらに小声で『僕がゼオラを守るんだ…!』とも聞こえた。
「チィ!」
シロッコが舌打ちする。ゼオラはキラや自分に依存させることで、うまく誘導するようにし、キラはゼオラを守る、という意識で誘導するつもりだったが、
ゼオラは友人の出現、キラは守るという意識が肥大化しすぎていることで、シロッコから言えば一種の暴走とも言える状態である
しぶしぶシロッコも移動を開始した。
メインカメラで周りを見渡す。いた。地面に這うように、市街地を移動している。
「やはりそうくるか…」
鉄也もそれを分かっており、それを見通して高いビルに下りたのだ。
「逃がさん…!」
V2ガンダムの前に突然ガイキングが現れる。続いて、轟音が回りに吹き荒れた。
ガイキングのスピードはマッハ3。つまり――音より速いのである。そのため、まるで一瞬で目の前に現れたように見え、その後音が遅れてやってくるのである。
もちもん、マッハ3で戦闘などはできないが、移動だけならどんな獲物でも追い詰めることができる。
それを見て、ラトゥーニもビームライフルを構えるが、右肩で砲身を上にカチ上げ、左のザンバーで胴を真っ二つに切り裂こうと唸る!
しかし――
咄嗟にガイキングが跳ねるように離れる。そこに落ちる光の線。
「ラト!大丈夫!?」
そう、ゼオライマー。空からのゼオライマーのエネルギー砲だ。
「え…?ゼオラ?」
ラトゥーニがきょとんとした場違いな声を上げる。
「生きてたのね…よかった…!」
逆に、ゼオラの声は熱っぽく、どこか泣きそうに聞こえる。
「伏兵か…!?やってくれたな!」
あのもうボロボロのあちらは放っておいていい。そう判断したガイキングがザンバーを抱え、ゼオライマーに迫るが――
「ゼオラはやらせない!」
ビルの間から、何かが、いや忘れようもない影が飛び出してきた。
ザンバーでゴッドガンダムのビームソードを受け止める。
「貴様…!キラ・ヤマトか!?」
「あのときの人!?」
「貴様!逃がさん!」
鉄也が猛り狂うかのように、ザンバーをゴッドガンダムに振るう。
「キラ!離れて!」
ゼオラが声をかけるが、
「こ、この人…!?強い!?」
ガイキングの圧倒的なほど高速の打ち込みの連続。さばくのに精一杯で、無理に距離を取ろうものなら間違いなく問答無用で真っ二つにされるだろう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
3対1ながらも、近接しすぎていて手が出せない。キラは圧されている。
「このままじゃ…!」
キラの中で、何かがはじけそうになるが、との一歩手前のとき、突然ガイキングの顎に何かがぶつかり、
ガイキングがのけぞる。
「キラ君!今のうちに離れろ!」
その言葉で、後ろに離れるキラ。
ぶつかったのはダンガイオーのブーストナックル。どうにか、マニュアルを読んで練習をしたのが利いたようだ。
※第144話「
冥府に咲く花」本投下後にIFと前置きした上で投下されたもの
最終更新:2009年02月15日 05:13