逃げる者、戦う者
赤いマフラーが特徴的な雄々しい立ち姿、ダブルGの三号機、ダイナミックライトニングオーバー、大雷鳳。
しかし、その男らしい外見とは裏腹に大雷鳳の足取りはまるで覚束ないものだった。
「なんなんだよ、これっ・・・!」
一歩踏み出す度に足を猛烈な負荷が襲う。
碇シンジは泣きそうになるのを堪えながら、遅々とした歩みを進めていた。
(綾波、アスカ、トウジ、ミサトさん・・・)
大切な人たちの姿を目蓋に思い浮かべる。
得体の知れないモノ・・・使徒と戦い、アスカは壊れ、カオル君をこの手で殺し、トウジを傷つけた。
大切なモノから目を背けて、ずっと逃げてきた自分に対する報いが、この馬鹿げた世界なんだろうか?シンジは懊悩する。
でも・・・例えこの世界が自分に対する報いでも、もうシンジは戦いたくなかった。
自分の手が汚れていくのはもう嫌だ。逃げたい。戦いたくない。
「イヤだ・・・もうイヤだ・・・」
ガサッ!
スピーカーが音を捉える。ゼンガー・ゾンボルトは全身の気を整え、
岩陰へと身を隠し物音のした方向へ意識を集中させた。
手に持った剣を八双に構え、前を伺う。
(・・・!あれはっ!)
森の中からゆっくりと歩き出た機体にゼンガーは見覚えがあった。
彼が見たのはデータのみで実物は目にした事が無かったが、あれはダブルG三号機に似ている。
(確か雷鳳という名だったか・・・。しかし形が違う?)
ゼンガーの記憶にあるそれよりも機体は大きく、強化されているように思えた。
しかしその歩みはたどたどしい。
歴戦のパイロットであるゼンガーにはパイロットの“脅え”が手に取るように分かった。
(無理もないな・・・)
直ぐに攻撃に移れる体勢を保ちながらもゼンガーは思う。
あの部屋には年端もいかぬ子供が数多くいた。
突然放り込まれた戦場の中で、平常心でいられる方がおかしいだろう。
きっと状況すら理解することもできずに右往左往しているのではないのか。
アースクレイドルでの眠りから突然この死のゲームへの参加を余儀なくされたゼンガーにも
状況は杳として知れなかったが、彼の心は決まっていた。
自らの務めを果たすため、アースクレイドルへ戻り、再びソフィアの剣となる。
しかし、無益な殺生は彼の義に反する。だから、ゲームに乗る気はさらさら無かった。
しかしゼンガーは武人である。向かってくる敵には容赦をせず戦う積もりでいた。
真に剣を振るうべきはこの忌まわしきゲームの主催者、あの仮面の男に対してなのだ。
ゼンガーは大雷鳳のパイロットがこのゲームに乗っていない事を祈った。
突然コクピット内の機器が耳障りな警告音を発する。シンジは顔を上げてレーダーを見た。
「何?何なの?」
レーダーの示唆する方向を見ると、近くの岩陰に反応がある。
“敵機”だ。アイツは、岩陰なんかに隠れて、僕を、殺そうと、するんだろうか・・・!!
「うわぁぁぁぁ!」
恐怖のあまり正気を失ったシンジは大きな岩へと大雷鳳の足を振るった。
撃ち出された光弾――ハーケンインパルスが直撃し、岩は粉々に砕け散った。
砕けた岩を振り払い、背中の羽を震わせながら上昇する白い機体はまるで昆虫のような外見をしている。
ロボットというには生物的な印象である。
そして手には一振りの剣。白い機体・・・サーバインは空中で剣を構えたまま静止した。
シンジは続けて何度も足を振るい、サーバインへ向けて光弾を飛ばす。
「倒さなきゃ、敵は倒さなきゃ・・・」
突然撃って来るとは予想以上に好戦的なパイロットなのか・・・
ゼンガーは戦いの幕が上がってしまったことに無念の気持ちを隠せなかった。
次々と飛んでくる光弾をサーバインは軽々と避ける。
ゼンガーは“避ける”ことを前提とした機体に乗る機会が少なかったが、
卓越した見切りの目を持つ彼と非常に高い運動性を持つサーバインの力が合わさった今、
碌に狙いも定まっていない攻撃など赤子の手を捻るように避けることが可能だった。
(多少バタつくのが難点か・・・いや、これは慣れだな。
しかしこの機体、武装はこの剣一振りのみらしい。騎士道精神を具現化したが如き機体、面白い!)
「そしてこの一振りの剣・・・少々長さが足りぬが、これぞ我が仮初の斬艦刀に不足なし!」
大雷鳳の攻撃に隙が生じた一瞬、サーバインは圧倒的な速さで大雷鳳へ向けて一直線に急降下する。
脳裏に昔見た雷鳳の図面を思い描く。
「そこだ!疾風怒濤!」
二つの機体が激突するその瞬間に、降下の勢いと自重を乗せた一撃をコクピット部分に叩き込む。
転倒する大雷鳳。サーバインはその上にまたがるようにして動きを止めた。
ゼンガーは機体から降り、コクピット部分へと近づく。
剣の“柄”でしたたかに打ち据えられたコクピットには少し傷が付いていたが、目立った損傷は見られない。
攻撃を仕掛けてきたとはいえ、このパイロットには脅えがあった。
ゲームに乗っているのではないはずだ。そうゼンガーは考え、コクピット部分を高速打撃で“揺らした”のである。
ゼンガーがコクピットハッチを開くと、そこには頬に涙の後が残る制服姿の少年が気を失っていた・・・
【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状況:軽い脳震盪により気絶中。
機体状況:装甲にかすり傷。運用に支障なし。
現在位置:H-3
第一行動方針:全てから逃げ出したい
最終行動方針:???】
【ゼンガー・ゾンボルト 搭乗機体:サーバイン(OVA聖戦士ダンバイン)
パイロット状況:健康
機体状況:損傷なし
現在位置:H-3
第一行動方針:目の前の少年をどうしようか・・・
最終行動方針:主催者打倒もしくはゲーム脱出】
最終更新:2008年06月02日 21:07