敵と味方と


「あぁ・・糞ッ」
引き返したイキマが見たのは、地上で炎と黒煙を上げるVF-1Aバルキリーの姿であった
(あの馬鹿めが・・こうなる事は判っているだろうに・・!)
周囲を見回すものの、バルキリーを襲ったとみられる敵の姿は見当たらない
敵影が無い事を確認すると、ノルス=レイをバルキリーの傍らに急いで着地させる
その時、徐々に火の勢いが強くなりつつある燃え盛るコクピットで、まだ微かに動く影を見た
(まだ生きてる!!)
機体の腕でバルキリーのキャノピーを引き千切り、シートごとコクピットのある機首部分ごとむしり取る
直後、それを待っていたかの様に炎の勢いは増して行き、機体全体を完全に炎が包まれるまでさして時間は掛からなかった



確かに、アルマナ=ティクヴァーは生きていた

だが、その大腿部より下は計器類の下敷きとなり、無惨にも引き潰されていた

引き裂いたシートから、アルマナを地面にそっと横たえさせる
おびただしい量の血を流すその足は、直接な致命傷ではなくとも確実に、そして急速に、
その少女の生命を削っているのは間違い無かった

(ヒミカ様の妖術なら、この程度の怪我ごときすぐにでも完治させられるのに・・・・いや、何を考えているんだ俺は)
戸惑いながらも、破った自分の服で動脈を縛り、止血と添え木だけはしてやる。だがここではこれが限界だ

「…ぁ」
アルマナが薄く目を開ける
「…どなたですか…?」
一瞬躊躇したが、意を決して話し始める
「…俺は、邪魔大王国を治める、ヒミカ様に支える3幹部のうちの1人、イキマだ。
…お前が最初に話し掛けた機体に乗っていた男だよ」
(こんな死にかけのガキ相手に何を真面目に答えているんだ、俺は・・)
「イキマさんとおっしゃるんですね…。私は、アルマナ・ティクヴァー。
 栄えあるゼ・バルマリィ帝国の神、神体ズフィルードの巫女です。…あ、それとイキマさん?」
「なんだ小娘」
「初対面で人をバカ呼ばわりするのは止めた方が良いですよ…。それと、小娘では無くちゃんとアルマナと呼んで下さいね…」

こんな状況下でありながらも、わざわざこんなことを抜かすこの小娘の馬鹿っぷりに呆れながら、思わず笑ってしまう
「何を笑ってるんですか…あぁそうだ、私は本国ではちゃんとお姫様なんですから、ちゃんと姫ってつけなきゃ駄目ですよ…」
「あぁ、すまんな、姫様」
この平和ボケした姫様を見ていると、表情が緩むのが自分でも判った
こんな穏やかに笑ったのは、いったい前は何時の事だっただろうか
少なくとも、自分が古代日本で生きた時はこんな表情も出来ていた気がする
ヒミカ様の事は心から信頼しているし崇拝している。だが、このバカな姫の下で働けたらもっと自分も笑えていたのかもしれない
不謹慎だが、そう思い、そう思った自分を恥じた


「…あの、イキマさん、実はお願いがあるんですけど」
イキマが見下ろすと、血に塗れた震える手で自らの首飾りを外す
「これを…参加者の中に居る筈の、私の警護役であるバラン・ドバンと言う者に渡して欲しいのです。そして伝えて下さい」
「なんだ」
「ルリアの事を頼みますと」
「自分で言って渡せ。まるでもうすぐ死ぬみたいな言い方をしやがって・・」
イキマにも、この姫様の命が残り少ない事など判り切っていた。だが、少しでも今はこの命を永らえさせてやりたかった
神や悪魔に連絡してでも助けて貰いたかったが、残念ながら誰もそいつらの電話番号など知る由は無かった

「それともう一つ…」
「まだあるのか」
「誰も、殺さないで…この戦いを止めてあげて…」
「そんな事、出来る筈が無いだろう。現にお前は、誰かも分からないヤツに」
殺されかけて、死の寸前にあるんだぞと言い掛けてあわてて口をつぐむ
「イキマさんって、顔に似合わず意外と優しい人なんですね…」
「顔の事は余計だ」
「助けて頂いた事、本当に感謝します、それから、変なお願いをして、ごめんなさい、それから…本当に…」

ありがとう


最後の言葉を発する事のないまま、アルマナは目を閉じた
僅か17歳の生涯を、見知らぬ土地で終える
バカだが純粋で、優しい少女だった
イキマは現代に蘇ってから、初めて涙した。自分でも、何故こんな会ったばかりの少女の死を哀しむのか分からなかった
しかし、そんな感慨も、機動兵器の近付く爆音ですぐに消える事になる

「何をしている貴様ッッッ!!!」
オーラバトラーと呼ばれる虫型の機体から呼び掛けるその声は、ゼンガー・ゾンボルトと呼ばれる男の物であった


(まずいな、手元には血に塗れた少女、向こうには破壊した機体、誤解される前に説明せねば)
「いや違う、俺は」
「そいつだ!!そいつがあの飛行機を撃墜して、あの女の子の亡骸を弄びやがったんだ!!」
イキマの声を遮る様に、横から声がした
そこには先程まで誰も存在して居なかった筈なのに、いつのまにか黒髪の長髪の男がたたずんで居た
「いや、俺は!」
「俺は確かに見た!!あの女の子が泣き叫ぶのも構わずに陵辱するのを!」
イキマはその時、その長髪の男の口元がにやりと歪んでいる事に気付いた
(!まさか・・コイツが・・姫様を殺った張本人か!!!)
ゼンガーは明らかな殺気をこちらに放って居る。あの男はあいつの言葉を信じやがったらしい・・
このナリじゃ悪役に見えても仕方が無いな、と自嘲気味に息を吐く
だが、ここであの男に斬られてやるワケにも行かない。イキマは、迷わず手に持った杖を放る

杖が『こぅ!』と輝き、まばゆい閃光を放つ
「ぬぅ、この卑劣漢めが・・!」
光の向こうにゼンガーの声が聞こえるが、そんな事を気にしている暇は無い
アルマナを抱えるとノルス=レイへと飛び乗り、最大出力でその場を離脱した

(畜生、あの長髪の男・・誰か他のヤツが来るまで待っていやがったのか・・!!)
あれは最初から仕組まれた罠だったのかもしれない。参加者同士に敵意を向けさせる為の・・
(ジーグを倒す事だけが目標だったのに、なんだか厄介な事になってきちまったな・・)
膝の上に抱えた、眠った様な姫様の亡骸を見、ふとごちる
(姫様、おまえのお願いはちゃんと聞いてやるよ。バランとか言うヤツにはちゃんとコレを渡そう
 殺しはせず、なんとか戦いを終わらせる方法も考えよう・・だが、あの、お前を殺した長髪の男だけは許さない
 …あいつだけは俺が殺す
 それだけは許してくれよ、お姫様・・・)



イキマが去り、光が消えた後にゼンガーは長髪の男に話掛けた
「我が名はゼンガー。ゼンガーゾンボルト。お前の名は?」
男は、演技であると微塵も感じさせ無いような、脅えたような声で、こう言った
「・・私はウルベ・イシカワ。もしよければ、貴方と同行させて頂いてもいいだろうか?」



【イキマ 搭乗機体:ノルス=レイ(魔装機神サイバスター)
 パイロット状況:健康・極めて不機嫌
 機体状況:損傷なし
 現在位置:H-3から南下中
 第一行動方針:バランに会う
 第二行動方針:アルマナを殺した男の殺害
 第三行動方針:ジーグ(司馬宙)の打倒
 最終行動方針:戦いの
平和的解決】

【アルマナ・ティクヴァー 搭乗機体:VF-1Aバルキリー(柿崎機)(超時空要塞マクロス)
 パイロット状況:出血多量によるショック死
 機体状況:大破。完全にスクラップ
 現在位置:H-3


【ゼンガー・ゾンボルト 搭乗機体:サーバイン(OVA聖戦士ダンバイン)
 パイロット状況:健康 ・不機嫌
 機体状況:損傷なし
 現在位置:H-3
 第一行動方針:元の地点に戻る(シンジ君はそこでまだ気絶しています)
 最終行動方針:主催者打倒もしくはゲーム脱出】


【ウルベ・イシカワ 搭乗機体:まだ不明。次の書き手にまかせます
 パイロット状況:健康
 機体状況:不明
 現在位置:H-3
 第一行動方針:状況を混乱させて回る
 最終行動方針:不明】




前回 第35話「敵と味方と」 次回
第34話「怪獣VS怪獣 投下順 第36話「冥王と木星帰りの男
第61話「天才科学者再び 時系列順 第36話「冥王と木星帰りの男

前回 登場人物追跡 次回
第31話「幸せの材料 イキマ 第86話「決意の森
第14話「逃げる者、戦う者 ゼンガー・ゾンボルト 第53話「生き抜く、力の限り
ウルベ・イシカワ 第62話「卑劣な超闘士
第31話「幸せの材料 アルマナ・ティクヴァー


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最終更新:2008年05月29日 02:39