ベトレイヤー
「君の所属していた部隊―――チーム・ジェルバと言ったか。
部隊は全滅し、君だけが残った。そして君は部隊の仇を討つ為に行動している。
そうだな?セレーナ・レシタール君」
仮面の男、ユーゼスは通された扉の向こうで私にこう言った。
「よくそんな所まで調べたものね。あなた何者?何が目的?」
「君に質問する権利は無いよ、レシタール君。取引をしないかね?」
「・・・条件によるわ。」
「君にはこのゲームを滞りなく進める為に24時間以内に3人を殺して貰う。
勿論、機体の破壊だけではない。パイロットの生命活動を停止させろ。」
(やはり、そうくるわね。けど生命活動?妙な言い方をする・・・)
「で、貴方は私に何をくれるのかしら?」
「チーム・ジェルバを壊滅させた君の仇を教えてやろう。」
「・・・!」
「私が知っていることに不思議はあるまい?君が仇を追っていることを知っていた私だ。
その程度の情報、掴むことなど造作もない」
「・・・そう。ならば私に断る理由は無い。その取引乗りましょう。指きりげんまんでもしましょうか?」
「セレーナさん!」
ずっと黙っていたエルマが溜まりかねて口を挟む。咎めるような口ぶりである。
「あなたは黙ってなさい、エルマ。ジェルバの、みんなの復讐は全てに優先される。そう、私の命よりもね・・・!」
「フ、いい心がけだ、レシタール君。その決意に敬意を表して君にぴったりの機体を用意させた。
君が乗っていたASソレアレスと同じような運用が可能な機体だ。これを使って“人殺し”に励んでくれたまえ。
特殊部隊に居た君の人殺しの腕を堪能できることを期待してる。ハハハハハハッ!」
ぐにゃりと空間が歪み、ユーゼスは高笑いと共に消えた。
「ここは・・・E-2というエリアみたいね」
支給された地図をエルマに読み取らせながらセレーナは呟く。周囲は廃墟のようだ。
「セレーナさん、どうして取り引きなんか受けたんですか!ボクは、ボクは納得できません!」
傍らでライトを点滅させてエルマが声を荒げた。
「エルマ、戦場に納得なんていらないのよ。死んでいったジェルバの皆は納得しながら死んだと思う?違うでしょう?」
「それは・・・」
と、突然セレーナは首につけられた首輪を握り締め、エルマに顔を寄せて囁く。
「いい?あのユーゼスという男が本当に情報を持っているかは分からない。
仮に持っていたとしても24時間後、3人殺したとして私にマトモな情報をくれるかも分からない。
でもたった1%でも可能性があるなら私は悪魔に魂を売るわ。
それに、あいつが私を利用すると言うのなら、私があいつを利用してやる。
私だって殺人狂じゃない。あの部屋にいた小さな子供たち・・・あんな子を殺したくなんかないのよ!
だからこの馬鹿げたゲームに乗っている人間を探して殺す。そう決めたわ」
「セレーナさん・・・」
「それからエルマ、この首輪は主催者側から支給されたものよ。盗聴されている可能性が高い。
だから反抗的な言動は慎みなさい。とりあえずは24時間の辛抱よ。」
「・・・ラジャ」
セレーナはエルマの頭を撫でて言う。
「上出来よ、エルマ。全て終わったらチューしてあ・げ・る。
さ、まずは暫くの相棒にお目覚め願いましょうか!」
スイッチを入れると微かな音と共にコクピットに光が点る。
<声紋チェック開始、姓名と認識番号を>
低い男の声でAIが要求する。確かトリセツには“アル”というコールサインだと記されていたっけ。
「セレーナ・レシタール、D-138」
<確認しました。ARX-7・アーバレスト起動します>
身体に伝わる小さな揺れがこのアームスレイブ、ASが
目覚めたことを伝えてくれた。
そういえばソレアレスもASと名付けられていたな・・・ふと思う。
「エルマ、アクセスしてこの機体の把握をヨロシク。トリセツ読むの面倒だったのよね~」
「全く、セレーナさんってば・・・」
エルマがごちてアクセスを開始する。数十秒の後、エルマはアーバレストの“ほとんど”を把握した。
単分子カッターが二振り、散弾銃が一丁、手投げグレネードが五発。これがアーバレストの全てだ。
「まだコンプリートしないの?ダメダメねー、エルマちゃんったら。オシメ取れるのはまだ先かな?」
「すいません、セレーナさん。実はアーバレストにはブラックボックスがあるみたいなんです。」
「ブラックボックスぅ?そんなもんある兵器なんて信頼性全然ないじゃない。しっかしりなさいよ、エルマ!」
セレーナはエルマの背中(?)をバシバシ叩く。
「・・・やっぱりダメです。かなり厳重なプロテクトがかかってるんですよ。」
「ねぇ、アル。このブラックボックスって何よ?」
<回答不能>
「ケ~チケチしてないで教えなさいってば。海に沈めちゃうわよ?」
<回答不能>
「だぁぁ~っ!埒が開かないわ。
エルマ、プロテクトの解除作業は地道に続けておいて。ついでに索敵、ジャミングよろしく!」
「ううう、メカ使いが荒いですよ?セレーナさん・・・」
<2時方向から敵機が接近>「かなり速いです!」
アルとエルマがが同時に警告を告げた。
「二人ともこれから仲良くしてね?それにしても、もう来客?お持て成しの用意もしてないって言うのに・・・」
ホバーしながら高速接近してくる機体は緑色、そして無骨な外見をしていた。
全高はアーバレストのほぼ二倍、右手にバズーカ、左手にライフルを持っている。
『早速エモノ見ぃつけマシター!倒させてもらいマース!』
冗談のようなインチキアメリカ人的口調が外部スピーカーから聞こえてくる、と同時にバズーカを発射した。
「やる気充分のようね。ならばこっちも容赦はしないわ。消す!」
単分子カッターを抜き逆手に持つと同時に左へと跳躍。斜め後ろで轟音。さっきまで立っていた場所を緑の機体が通り抜けていく。
「このパワ-、凄い。確かに高性能な機体ね・・・」「セレーナさん!後ろ!」「エルマ!耳元で怒鳴るな!」
再び跳躍。月面宙返りをすると同時に敵へグレネードを投げる。着弾したが敵の動きは止まらない。
『アレレ、蚊にでも刺されたような攻撃デース!このウォーカー・ギャリアに勝てるとでも思ってるんデスカー!?』
バズーカ・ライフルに加え頭部、腹部の機関砲まで乱射。迫りくる弾頭をビルを縦に横転を繰り返してかわす。
(こちらの武装は全て近距離戦向き。近寄らなければこのままだと蜂の巣ね。
敵のパイロット、言葉使いはともかくなかなかいい腕をしている・・・
闇雲に撃っているように見えて狙いは正確だ。狙いが正確?そうか、ならば!)
一斉射撃が止み、隠れたビルを壊そうとウォーカーギャリアがバズーカを構えた瞬間にアーバレストは陰から躍り出た。
『カミカーゼ戦法デスカ?アーメン!!』
バズーカの弾が一直線に迫ってくる。射撃が正確だからこそ、絶対に機体へ向かって一直線に向かってくる。
弾筋が予め分かっているなら、実弾を避けることなど容易い!弾を紙一重、前転して避け低い姿勢のまま敵へと一直線に駆ける。
バズーカは最も反動が大きい。隙だらけだ!グレネードを前方に投げ、間髪入れずにショットガンで撃つ。グレネードは空中で爆発。
ウォーカーギャリアの視界を爆炎が遮る。刹那、ジャック・キングの前からアーバレストは姿を消した。
『オオっ!どこに行きましたカ!?』
「ここよ、外人さん」
足を腰に絡めウォーカー・ギャリアを背後から優しく抱きしめるように、アーバスレトの手がコクピットへと回される。
単分子カッターが耳障りな音を立てて回転を始め、
「――アディオス」
コクピットを蹂躙した。
「このバズーカとライフルはアーバレストでも使える?」
<アファーマティブ、運用可能>
「外人さんが撃ちまくってくれたおかげでそう残弾はないけど、遠距離用の武装は無いし、頂きますっと。」
「セレーナさん・・・」
「これで一人目、もう後には引けないわ。ゲームに乗ってる奴を必ずあと二人・・・殺す。」
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:損傷なし。グレネードを二発使用(残り三発)。
現在位置:E-2
第一行動方針:ゲームに乗っている人間を二人殺す
最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
※ウォーカーギャリアのバズーカ、ライフルを奪取。】
【ジャック・キング 搭乗機体:ウォーカーギャリア(戦闘メカ ザブングル)
パイロット状況:死亡
機体状況:中破(コクピット以外に目立った損傷は無い。但し搭乗は不可能)】
前回 |
登場人物追跡 |
次回 |
- |
セレーナ・レシタール |
第65話「覚悟」 |
- |
ジャック・キング |
- |
第2話「ルール説明~開始」 |
ユーゼス・ゴッツォ |
第33話「水面下の状景」 |
最終更新:2008年05月29日 01:35