覚悟
「エルマ?適当に歩いてきちゃったけどここって地図で言うとどこらへんなの?」
「えーっと、G1ですね」
「アル、ECSの調子はどう?」
<ECS不可視モード、問題なく作動中>
「プリズム・ファントムみたいに戦闘中に展開するにはちょっとエネルギー的に厳しいけど、
移動中に突然襲われるってのが無いのはやっぱり安心だわね・・・」
「セレーナさん、これからどうするんですか?」
「勿論あと二人殺す。ゲームに乗ってる奴をね。乗ってるか乗ってないか判断する為には、
折角のECSを切って姿を見せなきゃいけないのが厳しいけど・・・私だってゲームに乗ってるクズだからね。
それぐらいの覚悟を背負わないと、復讐なんてできやしないわ」
<前方に敵機の反応>
「!!ウワサをすれば影ってヤツかしら。アル、ECSを切って。エルマ、あの機体との通信を開いて。」
「ラジャ!」
<ラージャ>
目の前に突然現れた灰色の機体を視認すると、リオ・メイロンは操縦桿を握りしめた。
(
リョウト君・・・また敵よ。私とあなたの邪魔をする敵よ・・・)
『単刀直入に聞くわ。あなたこのゲームに乗ってるの?人殺しをする気がある?』
突然スピーカーから声が聞こえた。若い女の声だ。
『あなたがそうでないのなら、私に戦う理由は無い。・・・さぁ答えて。あまり時間が無いのよ。』
この人は何を言ってるんだろう。私には戦う理由しかない。リョウト君以外の敵を全員倒さなきゃ。
リオは黙ったままグラビトンライフルを構え、躊躇せずに撃つ。
弾を間一髪横っ飛びに避け、セレーナは苦渋に満ちた顔で吐き捨てる。
「・・・最悪ね。まともに話ができる人に会いたいわ・・・」
「セレーナさん!続いて来ます!」
グラビトンライフルから発射された重力弾が次々と地面を抉っていく。避けきれず左手に持っていたライフルに着弾する。
ウォーカーギャリアから奪ったライフルがぐにゃりと曲がった。
「これはもう使い物にならないわね。エルマ、あの弾なんなの?見たことがない」
「データにありませんが、どうやら着弾地点に重力付加をかけているみたいです!」
「そりゃまた物騒なことで・・・」
避けると同時に左手に持ったバズーカを撃つ。当たる!とそう思った瞬間に忽然とデスサイズはレーダーから反応を消した。
「こんどはマジック?エルマ、索敵!」
「セレーナさん、左!」
突然幽鬼の如く出現したデスサイズの鎌がアーバレストを襲う!
横薙ぎにされた鎌を這いつくばって避け、左足で足払いを繰り出す・・・がデスサイズは跳躍し距離を取る。
(一度姿を消されるとエルマの索敵能力でも鎌が届く距離まで接近しなければ姿が掴めない・・・
あれがどんな原理で消えているのか分からないけれど、連続使用はエネルギーの面でできないはず。
・・・ということは鎌を避けた時がチャンス。というかそこしかないわね。
集中すれば一撃をギリギリ避けることはできる。でも、あのスピードでは避けても反撃する前に距離を取られてしまう。
ならば避けて、なおかつ隙を作る、そこまでできれば・・・!)
「あの女・・・ヒュッケバインみたいに死んでくれない!どうして?さっきから何度もかわされてる。・
早く殺さなきゃ、リョウト君の為に早く殺さなきゃ・・・」
ぶつぶつと呟くリオ。
中間距離で再びアーバレストがバズーカを連続で撃って来る。デスサイズの運動性に任せて悠々と避ける。
更にもう一発を避けると、唐突に弾が途切れた。アーバレストは何度も撃とうとするが、バズーカから弾は発射されない。
「弾切れね?そうなのね?今度こそ切り刻んでやる!」
ハイパージャマーを起動させ、デスサイズは再び跳躍した。
敵はこちらを見失って辺りを見回している。しかしデスサイズのスピードを捉えられる筈がない!
「そこよっ!」
アーバレストの背後に着地すると同時に真一文字に鎌を振る。手ごたえ!・・・しかし軽い?
そう訝った瞬間に猛烈な爆発がデスサイズを襲った。視界が爆炎に遮られ、リオが一瞬我を失った、その瞬間。
上空から急降下してきたアーバレストのショットガンがデスサイズを直撃した。頭部が弾け跳びメインカメラが損傷する。
仰向けに倒れたデスサイズにマウントポジションを取るかのようにアーバレストが跨る。頭部のバルカンは使用不能、
ビームサイズは手を離れどこかへ行ってしまった。グラビトンライフルも見当たらない。
打つ手無し、やっとサブカメラに切り替わったモニターに映る灰色の機体を見た時、麻痺していた恐怖がリオを襲った。
「うぁぁっ!助けて、リョウト君!リョウト君!」
『助けて、助けてよぉ・・・うぅっ、うぁぁっ・・・』
まだ幼さの残る少女の慟哭がスピーカーから聞こえる。セレーナは目を伏せた。
「こんな所に放り込まれて、恋人とも引き離されて、殺し合えって言われたらこうなるのも仕方が無いか・・・」
「セレーナさん・・・」
「でもね、エルマ。この娘がゲームに乗って、私に襲い掛かって来たのもまた事実なのよ。襲うだけ襲って、負けたらごめんなさい。
命のやり取りはそんな甘いものじゃ済まされないわ。この子に足りないのは―――覚悟よ。」
「でも、どうするんですか?まさか・・・」
エルマの問いかけに答えずにセレーナはリオに声をかける。
「あなた、名前は?」
リオは頭を抱えながら止めどなく流れる涙に嗚咽しながら、やっとの事で答える。
「リ、オ、メイ・・・ロン」
『何故貴方がゲームに乗ってしまったのかは分からないけど、きっとあなたが助けを求めるその愛しい人の為なんでしょう。
その気持ちは美しいかもしれない。でもね、リオちゃん。あなたには人を殺す事の覚悟が無い。』
「かく、ご?」
『そう、覚悟。あなたが信じるもの、愛するものの為に戦うならそれは確かに尊い選択だわ。
でも、戦う事、結果として殺す事、それは重い荷物を背負う事なのよ。
あなたがもし、今まで戦い、殺して来たならあなたには責任がある。最後まで全力を尽くすことのね。』
リオの脳裏にDCやバルマーのパイロット、そしてつい数時間前に消し炭になったはずのヒュッケバインのパイロットの事が思い浮かぶ。
『その責任が背負えないなら、戦うべきじゃない。あなたはまだやり直せる。私みたいに本当の畜生に堕ちるまでにね・・・』
リオの双眸から涙が溢れ出し、一度収まった嗚咽が止まらなくなる。
『ふふ、授業料としてこの高エネルギー体はもらっていくわ。また会えるといいね、リオちゃん。“リョウト君”によ・ろ・し・く!』
アーバレストが姿を消しても、リオは溢れる涙を抑えられなかった―――
【リオ=メイロン 搭乗機体:ガンダムデスサイズヘルカスタム(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
パイロット状況:肉体良好 精神は持ち直している?(少なくとも崩壊は脱した模様)
機体状況:頭部を中心に損傷。バルカンが使用不能。機体性能には大きな問題は無い。
現在位置:G-1
第一行動方針:??
最終行動方針:??
特機事項:グラビトンライフルとビームサイズが近くに転がっている】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:損傷なし。
現在位置:G-1から遠ざかる
第一行動方針:ゲームに乗っている人間をあと二人殺す
最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
特機事項:奪取したウォーカーギャリアのライフルとバズーカは破壊。
デスサイズの持っていたのトロニウムエンジンを奪取】
【初日 14:15】
最終更新:2024年12月24日 01:14