映像の世紀  ◆i9ACoDztqc



この殺し合いの場でははじめまして。
何度もガンダムファイトを見た人々はお久しぶり。

さて、このバトルロワイアルも早いものです。
鳴り響く放送に耳を傾けんとするものも、そろそろ出始めました。
誰もが主役の群像劇。
最後の一人が生まれるのが先か。反抗を企む参加者たちが主催者の喉元に、牙を突き立てるのが先か。
また、始まりでアクセルが止めたものは? 主催者の真の目的とは?
まだまだ疑問は付きません。

けれど、一度振り返るのも悪くないのではないでしょうか?

――え?
お前は誰だ?
何、名乗るほどのものではありません。
ちょびヒゲにきれいに狩られた頭髪、それに眼帯をつけた私のような怪しい男はお気にせず。
名乗るならストーカー、ということにしておきましょう。

ここでは、「ゴダード」、「ガトー」という二人に絡めながら、タイトル通り『映像』にそって進めます。
出来るなら、タイトルの元にもなったお話の名曲、「パリは燃えているか」でも聞きながら……知らない?
まあ、なにぶん古い番組ですから仕方ないかもしれません。
それはさておき。


では――最初の映像スタート。


【A】
「テックセッタァー!!」
 クリスタルの輝きで全身を満たし、超人であるテッカマンアックスへと変異する。
 こうするだけでゴダートの鋼の肉体は核に耐えられるほど強靭となる。
 飛ばした左腕とミサイルが交差。黒い爆発が巻き起こりソウルゲインを地球へと押し出そうとする。
 が、それだけでは終わらないはずだ。敵機の挙動から追撃は容易い。
 ならば自機の爆発を隠れ蓑にして一気に近づくまでだ。
「テッカマンアックス!他の参加者に伝えるんだ!このジ・エーデル・ベルナルはスペースコロニーを地球に落すと!滅びたくなければ防いでみろと!」
 しかし、追撃の代わりとばかりに耳障りな哄笑が耳朶を打ち、予想外としか言えないことを言い始めた。
「なんだと!」
「今言ったことを伝えるんだ」
 機体がさらに傾く。地球に近づきすぎた、もはや立て直すこともできない。ソウルゲインが赤熱化し台地へと向かって落下していく。
………
……




落下開始時刻は9時45分。
この【A】のやり取りは――9時40分前後の出来事。
……さてこれが、テッカマンアックスことゴダートが大気圏を突き破り、落下に至るまでの過程です。
ここで、気になることが一つないでしょうか?

それは、容易いはずの追撃を何故行わず、一気に近付かなかったのか、です。

結局この後機体の傾きは大きくなり、ソウルゲインは落下することになりました。
確かにチャンスはありました。ジ・エーデルの世迷言を聞かなければ、仕掛けることが出来た。
だが、結果として攻撃は行われなかったのです。
これは、ジ・エーデルの口車にまんまと乗せられたためでしょうか?
テッカマンが? 格闘家としても名のあるゴダードが、相手の笑い声一つで攻撃を中断し、致命的な隙を見せた?

――いいや、答えはNOです。

では、何故彼が攻撃をやめ、ただ落下する羽目になったか。
答えは簡単。それは――どうしても動きを止めてしまうような、固まって注視せねばならないものがあったからに他なりません。
それは、何か。今度は、その出来事を再生してみましょう。


それでは――二番目の映像スタート。


【B】
「やっぱり駄目か……でも、ディアッカが逃げる時間くらいは稼いでみせるよ……!」
「ボルテッカァァァァァァァーーーーーーーー!」



至近距離で放たれたブラスターボルテッカ。
撃った当人であるテッカマンブレードを傷つけながらも、その光はライディーンを原子の塵へと変換していく。
しかし、消滅よりも早くライディーンは落下する。
削り取られながら、しかし確実にテッカマンブレードを大地へと沈めていく。
しばしの拮抗の後、ついにボルテッカの輝きが古代ムー帝国の守護神もろともニュータイプの少年を消し飛ばした。
奇しくもジュドーと同じように、戦いの中で妹を失った兄の手によって。


ジュドーを葬ったブラスターボルテッカの光は、まさに天を貫く光だった。
はるか大気圏まで立ち昇る輝きを見て足を止めたのは白いヒゲを持つガンダム。
ラウ・ル・クルーゼが操縦する∀ガンダムの中で、テッカマンレイピアである相羽ミユキが声を上げたためだ。
………
……

【B】のやり取りもまた、同じく9時40分前後の出来事です。
落ちていかんとするゴダードが大気圏から見たものは――見たこともないほどに激しいボルテッカの輝きだったのです。
彼も、ダイターン3相手にボルテッカを撃ちました。そして己の制限に気付いています。
なのに、まったく制限されていないとしか思えない、いや逆に強化されているようにすら見えるボルテッカ。
それを見た彼の驚愕は如何様だったのでしょうか。

この後、彼は必死に大地に叩きつけられるのを避け、見事G-4の海に落下します。
そして彼がどうなったのかを知るには――今度はガトーのほうに目を向けなければなりません。

少し、新しい映像もお出ししましょう。
これが、今のガトー少佐の――

【新】
「コロニー落としだと……!?」

それも、遊び半分で。ただ、快楽的に。
コロニー落としが、世間において悪行と言われることはガトーも知っている。
だが、それでもガトー達はそれを成すべく活動した。
それは、他でもない理想のため。絶対に成就しなければならない目的のため、敢えて手段を選らばなったのだ。

それを―――


――プツッ


映像が早いし、これはまだ先の映像だったのですが……すいません、こちらのミスですね。
今の彼の状態はこちらです。

では――初めて公開する映像をどうぞ。


【新】
現在時刻12時30分。
機体の補給を終え、1時間ばかりD-1海底の岩場の影でガトーは仮眠を取っていた。
星の屑成功のためとはいえ、ほとんど常に気を張り続けていたガトー。
核攻撃を成功させ、母艦に帰還し疲労はその段階でかなり溜まっていた。
その上、ここにきてからの連戦である。先程の失敗から考えても、少し発想が短絡になっていることは否めない。
一度休息し、心身を落ちつけることこそ勝利のためには必須事項と言えるだろう。
放送が近付けば、否応なしに他の参加者の動きも鈍る。
放送を聞き逃さんためでもあり、ガトーと同じように活動の疲れが見え始める時期だからだ。

仮眠の間の、状況を確認。
一応、何か接近すればアラートが鳴るように設定していたが、改めてチェックする。
……ログにも、機影などは映っていない。問題がなかったことにガトーは頷いた後、行動すべく機体を立ち上げる。

改めて確認後、小さく息を吐いたガトーは、すぐさま吐いた息を飲み込むこととなる。
何故なら、警報の解除設定へ指をかけようとしたまさにそのタイミングで――警報がけたたましく叫び始めたのだから。
機体の接近に対して、ガトーは機体を向き合わせる。


何が来るのかと身構えて待ち構えるガトーの前に現れたのは……
流れに身を任せ移動する青い装甲の、モビルスーツほどの大きさの機体だった。
………
……


そう、この青い機体こそソウルゲイン………え?

ソウルゲインがモビルスーツ程度の大きさの筈がない?
なんでG-4に落ちたソウルゲインがもうD-1にいるのか? 二時間でそんなに早く水中を移動できないだろ?


いえいえ、皆さんの疑問はまったくです。
説明不足でしたね。ですが、ここで少しばかり見て欲しい映像があるのです。
これはソウルゲインの初陣の映像です。


では――第三の映像をスタート。



【C】
「はぁ!」
「ふんっ!」


カノンはロムとアックスの戦いをただ、眺めるしかなかった。
二人の戦いはまさに凄まじいというしかないもの代物で。
カノンが到底介入できるものではなかった。


ロムが拳を振るうならば、アックスはそれを右手で弾き。
アックスが拳を振るうならば、ロムはそれを左手で捌き。
ロムが蹴りを見舞うなれば、アックスはそれを後退し避け。
アックスが蹴りを見舞うならば、ロムはそれを腕で打ち落とすのだった。


互いに隙も無い一進一退の攻防で。


どちらかが勝つかなどカノンには想像もつかなかった。
………
……


そう、ゴッドガンダムとソウルゲインのガンダムファイト……ではないですね、
ロボットファイトが成立しています。
ここで、我らがゴッドガンダムの全長を教えましょう、16.6mです。
通常Lサイズと判別される40mオーバーの機体では、到底このような攻防は不可能です。
こういった激しい拳同士で打ち合う応酬は、体格差がありすぎると実現できませんからね。
大人と子供よりも大きな差では、どうしても殴り合うことがリーチその他から難しくなります。


それがどうしたか、と言うのはまだ少し早いですよ。
あなた方の中には、とある世界の、
「アルトアイゼンを倍近い身長で追い詰め、奥義を叩きこむソウルゲイン」の映像のイメージが残っているかもしれません。
ですが、それはあくまでイメージです。このバトルロワイアルにおけるソウルゲインに適応してはいけません。
何故なら、このソウルゲインは、その世界のソウルゲインとは違うのですから。

ある世界では、量産を前提に、エースのシャドウミラー兵が搭乗するために、
高い戦闘力を持ちかつ少数量産されたソウルゲインがあります。それは、全長60mほどでした。
またある世界では、テスラ研に開発が譲渡され、完全ワンオフの特機として製造されたソウルゲインもあります。
これがあなたたちの知るもので、グルンガストなどと同じく全長40m前後で開発されたものです。

しかし量産された人造人間が大量に乗り込むため、生産コストをさらに落としたものも、もっと別の世界に存在します。
これは、アルトアイゼン・リーゼとまったく同全長で、20mほどしかありません。

バトルロワイアルに支給されたソウルゲインは他ならないこれであり、
主催者として君臨するアクセル・アルマーが元の世界で使っていたソウルゲインとは別物なのです。
内部構造や装甲の材質レベルで違います。
何故なら、あちらは特機であり同時にメンテフリーのための再生機能を備えた、文字通り単騎決戦の機体ですから。


おおっと、少し話がそれました。
やはり、ガンダムと言わずグラップリングマシンの話題になると少し話し込んでしまいますね。
悪い癖です。

では、次は何故これほど早く移動できたのか。
これも、映像で振り返ってみましょう。


じゃあ――第四の映像スタート。



【D】
己の思考に没頭しているところへ一際大きな波が襲った。あっと思う間も無く飲み込まれてしまった。
手足の自由が利かず、沈み込む水流に揉みくちゃにされた。浮かんでいた残骸と諸共に、下へ、下へと追いやられた。
水の重さがあらゆる方向から体中に圧し掛かる。耳に痛みが走る。鼻の奥がつんと熱くなる。水を飲み、その塩辛さが口内に広がる。
眼が眩む。骨が軋む。内臓が押し潰される感覚。耐え切れずに肺に溜めた空気を吐き出す。ずきずきと頭が痛む。
眼球を奥へ押し込むように水圧がかかる。堪らず目蓋を閉じる。暗闇が訪れる。海上、海底、自分がどちらへ向かっているかも判然としない。息が持たない。
そんな状態でありながら頭の中では、

(このままだと、そのうち、この身体は死んでしまうだろうな)

酷く冷静に、客観的に自分のことを観察していた。
苦痛を感じるということは、まだ生きているということだ。苦痛の終わりは命の終わり。そういう意味では肉体の痛みはむしろ喜びでもある。
肉体的苦痛に喜びを見出せる――では、同じように心の痛みにも喜びを感じることは出来るのだろうか。聞いてみたい気もする。
心が痛がりだから、生きるのも辛いと感じてしまう、ガラスのように繊細な心を持っている少年――

(シンジ君――)
………
……




渚カヲルがビッグデュオのいたC-2海底に辿り着いたのが12時。D-1を通ったのは11時45分ごろのこと。
C-5の壁を抜けてC-1にいた渚カヲルがF-7に流された後、D-7の光の壁を越えてD-1に移動、C-2に進んだ。
このことから分かる通り島の下半分は島に沿って時計回りに、島の上半分は逆時計回りの海流となっていたのですね。
つまり、ガトーの側も通ったのですが……人並みサイズのカヲル君がレーダーに映るわけがなく。

幸か不幸かこの二人は、お互いのことを知る由もなく通りすがったのです。
いや、もしかしたらカヲル君は知っているかもしれませんが……そうかどうかはこの場では分からないので、言及は避けましょう。
ともかく、機体はなくとも使徒は通りがかっていたりしたんですね、変な話ですが。

もっとも、この島の海流は特殊な形になっています。
ちょっと映像を出しましょう。

次は――第五の映像スタート。


【E】
「……上手く作動すればいいがな」


崩れた橋から逃れて海岸に降りたラカンの前に、偶然流れ着いていた獲物。
獲り終わった標的とはいえそれなりに役には立った、とラカンが呟き、不敵に笑う。
コックピットから抜き出し、海に捨てたジャミルの死体は既に魚のエサだろう。
鎮座させたグレートから降り、ドッグの片隅の電子端末に歩を進めるラカン。
………
……


――ともある通り、C-3で亡くなったジャミルがD-4のラカンのいた場所に流れ着いたように、
地図の左上から左下にかけて存在する河は、北西から南東に向かって海流が流れていたりするのです。
そのため、ジャミルの死体がガトーの側を通ることはなかったんですね。

短い映像ですが、第六、第七の映像を出しておきましょう。



【F】
レーベンはタスクとの戦いから逃げた後、海中を通り南下していた。
そしてC-4の河につながる地点で行き先を考えていた。
今のゴライオンは連戦続きでかなりのエネルギーを消耗している。

「最寄りの補給ポイントは……B-4の市街地だな」
………
……


【G】
光もほとんど届かない、陰鬱な水の底を黒い巨体が静かに進んでいく。
目指す場所は、右上に存在する基地。首輪を解析するにしても、クロガネの施設では手に余る。
もちろん、シャドウミラーがそういった手段、道具を全て撤去している可能性はある。
それでも何もしないのに比べれば、遥かにましだ。敵を避けるため飛ぶのを避け、川を進み、F-6から北上する。
もちろん、その途中にあるG-7、G-5の施設も調べたうえで、最終的に基地へ向かう。
それが今のところの方針だ。
………
……



実は、テレサ・テスタロッサを襲う直前のレーベンも、クロガネの乗る一騎たちも同じように移動しています。
これは、あまり意識してないでしょうが、水の流れに合わせて移動した結果です。
特に目的の場所を持たず、機体の疲労も押しているレーベンからすれば無駄な消耗を抑えたいと思うのは当然の帰結だったのです。

また話がずれました。
とにかく、このように海流が動いており、またソウルゲインはモビルスーツほどしかありません。
ゴダードのMAPに記載されていたのは、奇しくもガトーと同じD-1の補給ポイントです。
なにしろ、補給装置は参加者と同じ70個も用意されていません。被ってしまうのは不思議なことではないでしょう。
海に投げ出され、アストロノーツとして訓練した流れを読む力で、海流を大まかに知った彼。
補給ポイントへ、流れにそって進めば素早く、消耗も避けられると思い移動を開始しました。
手足がなく、機動に問題がある以上、既にある力を借りようとするのは当然です。


そうして――彼らは出会ったのです。

さて、そろそろ私は戻るとしましょう。
もし、私のような役目が必要とあればまた。
バトルロワイアルにこうやって出るのもこれで二度目。慣れてきましたよ。




【スタート――ガトー】


ガトーは、岩陰の策敵されない場所から、ゴダードの動きを静かに注視していた。

「しまったか……補給装置の側に寄られるとは……!」

補給装置に触れるほど相手は近付いている。その背中は隙だらけに見えたが、下手に攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
装置が壊れれば、今後MAPに頼らず新規の補給ポイントを探し出すまで補充できない。
消耗が激しい機体というわけではけしてないが、もしもの場合に迅速に補充できないのは命にかかわる。
物資に乏しいゲリラとして活動してきたジオン軍人にとって、補給の有難味は無視できない問題なのだ。
何やら補給装置を前に、機能を停止させたかの如く突っ立っている的に歯がゆい思いをしながらも、ガトーは離れるのを待つ。
だが、そんなガトーにとって、意外な展開が訪れる。

「……オープン通信……!?」

敵機が突然全包囲にチャンネルを開放。通信を始めたのだ。
こちらに気付いたのかと機体を岩陰から押し出すガトー。
こうなればクローアームで相手を強引に引きはがして戦闘することも辞さないと、アシュタロンを走らせる。

だが、そこで聞いたのは――

「スペースコロニーという言葉を聞いたことがある奴は、よく聞いてくれ。
 今、これを落とそうとしている男がいる……! 名づけるなら、コロニー落としだ」
「コロニー落としだと……!?」

目を見開き、一旦突進のスピードを落とす。
ガトーにとって、その言葉は、あまりにも重い意味の言葉だったからだ。
どうやら、相手はレーダーが壊れているのか、光ささない深海でこちらに気付いていないらしい。
言葉は、なおも続いていく。

「相手は、ジ・エーデル=ベルナル。どう見ても面白がっている様子だった。遊び半分に会場を滅ぼそうとしていた悪魔だ。
 ……もっとも、俺もさっきまで似たような感じだったから人のことは言えないが。遅れたが、俺の名はゴダード。
 正気に戻ったんでな、本名を名乗っておこう。名簿では、テッカマンアックスとなっている。話を戻すが……」

ガトーは、一語も逃すつもりはないとゴダードと名乗った男の言葉に耳を傾ける。

「ジ・エーデルは恐ろしく強力な機体を持っている。100mを超える機体に、単独で大気圏を余裕で突破する化け物だ。
 一人で戦うには、正直あまりにも分が悪い相手だ。絶対に、一人で戦おうとするな。何処かで集まろうと言っても
 信用出来たもんじゃなくて出来ないだろう、俺にも分かる。だから、呼びかけるまでにしておく」


「コロニー落としだと……!?」

先程と同じ言葉を、ガトーが呟く。
しかし、今度は驚きではなく激しい怒りに彩られていた。

遊び半分で。ただ、快楽的に。
コロニー落としが、世間において悪行と言われることはガトーも知っている。
だが、それでもガトーはそれを成すべく活動した。
それは、他でもない理想のため。絶対に成就しなければならない目的のため、敢えて手段を選ばなかったのだ。

それを―――

「最後になったが、一言だけ、個人的なことを。タカヤ坊、ミユキ嬢。生き残れよ。
 死ぬんじゃないぞ。やっと俺もお前たち側に立てたんだ」

そう言い残し、オープン通信は切れた。
だが、今度はガトーの番だ。今の話について、詳細に聞かなくてはならない。

「こちらは、アナベル=ガトー……コロニー落としについて、よく知ってる人間だ。悪いが、そちらの話を聞かせてもらいたい」


【スタート――ゴダード】

いきなり人が釣れた――ゴダードはそう思い、笑いを噛みしめる。
補給装置を調べていて分かったこと。それは、ちょっとしたイントラネットとしての機能があることだった。
どうやら、補給装置にはいくつか種類があり、それらは同種類同士で情報を入れておけば交換できるのだ。

――ガチャ

つまり……ラカンが使ったあの機能ということです。
補給装置には種類が5,6個あるため、仮にこれに英数字を振ると、A,B,C,D,E,F,G。
ラカンの情報の拭きこんだ補給装置をA系列とすると、同じA系列の補給装置を使った際、情報が流れる。
今回のゴダードのケースも同じです。ゴダードの情報の系列をBとすると、Bを使えばBの情報が手に入るわけです。
けれど、他の系列は空白ですから……「どちらかしか手に入らない」「補給装置を使っても何の情報も手に入らない」
可能性もあるわけです。

事実、この映像を見てください。


【H】
F-4に存在する、荒涼とした荒野。
乾き熱気を孕んだ風も、十二時を超えて日が陰り始めると同時に引き始めている。
迫るのは、殺し合いに一区切りをつける言葉。最初の定時放送。
そして、それを超えて迫る逢魔が時と、見通せない闇を与える夜。
補給だけでは足りない。備えは、いくらあっても足りることはない。
………
……

この通り、ロムとカノンは、時間的には二人が拭きこんだ以後に補給装置を使用しましたが、どちらの情報も持っていません。
おっと、お邪魔しましたね。

――ガチャ


それを利用し、ゴダートは情報を吹きこんだ。
さも、自分が善人であるかのようにふるまって。
目的は簡単だ。

ジ・エーデルを潰し、さらに参加者を減らすため。

そのためには、潰し合わせるのが最も効率がいい。
こうやっておけば、いくら強力な機体でも、連戦でジ・エーデルの機体は消耗する。
逆に、襲いかかったほうも消耗、もしくは死亡する。
自分が先頭を切って戦う必要もない。誰かに殺し合って消えてもらうだけでいい。

俺を自分の策の道具にしようと言うのなら、その対価は支払ってもらうぞ。

腹の中で、グツグツと燃える怒りを抱えながら、ゴダードはガトーに自分の知ることを詳細に伝える。

「ジ・エーデル=ベルナル……名は覚えたぞ……絶対に許せん……!」

実直な軍人風の出で立ちでありながら、見るからに憤怒に燃える男。
正義感ゆえか、それとも特別な事情があるがゆえかは分からないが……まさしくゴダードにとって都合がいい人材だ。

「それで……お前はどうするつもりだ? このまま宇宙に向かうのか?」
「……先に聞くが、そちらは?」
「そうだな……俺は、光の壁を越えてD-6の街に向かう。この機械に拭きこんだだけじゃあ不安なんでな。
 そこにも情報を残そうと思っている」

嘘だ。
もちろん、そうするつもりもあるが、それは食料調達などと並んで小さな目的の一つにすぎない。
ただ、単純に、雪のエリアに向かう理由は一つ。
大気圏突入の際見えたボルテッカの周囲が、白かったから。
白いエリアは、MAPでは雪のエリアだけだ。
何処か知らないが、あのボルテッカを放った相手は雪のエリアにいる。
それを、探索しなければならない。

「私は、もう少しこの場に考えていることにしよう」
「……む?」
「コロニーとは、そうそう簡単に落とせるものではない。焦りは、失敗を呼ぶ。
 ……考えることだ」
「仲間は集めないのか?」

そうゴダードが聞いた時、ふっと男の顔がゆるむ。
しかし、ただの笑いではない。苦いものが多分に混じった顔だ。

「ここに、同志はいない。これは、ジオン軍人としての役目だ。……私が、成すべきことなのだ」

すぐさま、顔を引き締めると、ガトーは言った。

「情報提供感謝する。私の目的は、最後の一人になることだが……ここで、あなたを撃つつもりはない」
「それは助かるな……こちらも機体がボロボロだからな」

そう言って、お互いは、背を向け、深海の闇に溶け込んでいく。


「次合うことがあれば酒でも飲みたいところだな」
「軍務の最中だ。……飲酒は厳禁だ」

お互い、腹の中に海と同じくらいに黒いものを抱えたまま。


【時刻:13:00】

【テッカマンアックス 搭乗機体:ソウルゲイン(スーパーロボット大戦OGシリーズ)】
 パイロット状態: 疲労(中) カラスの首輪を所持
 機体状態:両足破壊(一応、立つことはできる)、損傷率70%オーバー  腕は弾薬として補充されました。
 現在位置:D-1 海
 第一行動方針:街に行き、情報を残し、食糧確保。そこを起点にボルテッカの犯人探し
 第二行動方針:ジ・エーデル・ベルナルに復讐する
 最終行動方針:殺し合いに乗り優勝する】

【アナベル・ガトー 搭乗機体:ガンダムアシュタロンHC(機動新世紀ガンダムX)
 パイロット状況:疲労ほとんどなし
 機体状況:右腕欠落、全身の装甲と特に背部にダメージ 補充完了
 現在位置:D-1 海中
 第1行動方針:思考中…… 決定は次の人にお任せします
 第2行動方針:コウ、カナードとはいずれ決着をつける
 最終行動目標:優勝し、一刻も早くデラーズの元に帰還する】



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最終更新:2010年04月03日 06:05