人形~にんげん ◆40jGqg6Boc



「依然として機影はなしだ。何一つ、反応はない」
「了解した」

二機の間で簡単な通信が交わされる。
紫の機体はR-GUNリヴァーレ、もう片方の通信を呼び掛けた緑色の機体はデュラクシールである。
共にカタログスペックは並の機体のそれを遥かに超え強力な機体だ。
その二機が並んでいるせいだろうか。
先程から周辺に機影は見当たらず未だに他者との接触がなかった。
二機が、いや両方のパイロットが行動を共にすることを決めた時からずっとだ。
やがて今度はR-GUNリヴァーレの方から通信が呼びかけられる。
パイロットの名はレイ・ザ・バレル。
ザフトのエリート中のエリート、俗にいう赤服の一人。

「プルツー。そろそろ留まることを提案するが」
「なんだと!?」
「機体の状態にも注意するべきだ。今はいいが、いざという時にエネルギー切れを起こすこともある」
「まだいける! 気にすることはない」

レイの言っていることは的外れなことではない。
補給ポイントの位置は不明なため、機体のエネルギーには常に気をつかう必要がある。
だが、レイの言葉にプルツーと呼ばれた少女はさも驚いた様子を見せ疑問符を返した。
プルツーも馬鹿ではない。少なからずデュラクシールの力を過信しているかもしれないが、冷静な判断は失っていない。
グレミー・トトの擁するニュータイプ部隊の中核を担っていたこともあり、知能は充分に回る方だ。
ただプルツーには明確な目的があった。
そのため、レイを先導する形でデュラクシールを移動させていたプルツーは焦りを感じていた。

「……家族か。だが、見つからないものは仕方がないだろう」
「うるさい! お前に何がわかって――」

レイの指摘が図星だったのだろう。
考えを見透かされたことによる不快感もあり、プルツーは大声で反論しようする。
そう、プルツーの目的はこの場で家族との合流だ。
エルピー・プル、そしてジュドー・アーシタの二人をなんとしてでも見つけなければならない。
厳密な家族ではない。クローン人間であるプルツーに生物学上に正当な家族は存在しないのだから。
あくまでもプルツーにとって大事な存在だが、守りたいということに違いはない。
しかし、何かを思い出したのだろう。
プルツーは急に黙り込み、勢いを削がれた様子で口を開きだす。

「いや、お前にも家族が居るんだったな……すまない、少し勝手だった」
「気にするな。家族を想う感情は、嫌いではない」

レイにも家族に近い存在がこの場には居た。
奇しくもプルツーと同じくレイもまたクローン人間だ。
プルツーはそのことをしっかりと覚えていた。
まだ完全に信用しきったわけではないが家族という言葉に一種の同族意識が芽生えたのかもしれない。
やがてデュラクシールの速度が除々に減速していく。
レイの言い分にも一理あると思ったのだろう。
何しろレイは口を挟まずにずっとプルツーのしたいようにさせていた。
ジュドーとプルに会うために、特に当てもないままずっと探索を続けていた今まで。
流石にレイに申し訳なさを感じてしまったのかもしれない。
緩んでいく加速はついに完全になくなり、デュラクシールは停止した。
黙っていた甲斐があった。R-GUNリヴァーレをデュラクシールの動きに倣わせながら人知れずレイはそう思う。


(そうだ。お前には無駄な消耗をさせて欲しくはない。
俺の目的のためには、駒が必要だからな……丁度いい駒が)


レイの目的。それは自らの道を生きることだ。
もう一度繋がった命を自分の望むままに生きる。
あのキラ・ヤマトが言ったように、自分は誰でもなくたった一つだけの存在なのだから。
そのためにもこの場を生きる。家族の存在を口にしたのは所詮プルツーの信用を誘うためでしかない。
だが、家族という言葉にレイにとって思うことがなかったわけではないかもしれない。
それは誰にもわからないどころかレイ自身にも定かではなかった。

(だが、家族か。ラウは……いや、よそう。意味はない……そのはずだ)

プルツーの言葉を借りるならレイにとっての家族はこの場では一人だ。
ラウ・ル・クルーゼ。レイのオリジナルともいえるクローン人間。
歪んだ存在である自分、そして自らを必要としない世界に絶望し、全てを憎んだ男。
だが、彼は既に前大戦で死んだはずの人間だ。
極秘裏に彼のクローンが造られ、それがラウの名を騙っているのだろうか。
事実はわからないが彼は家族という概念に意味を見い出せないであろう。
良い意味でも悪い意味でも、ラウは自分の存在こそを中心としているのだから。
むしろそうであって欲しい。同じ存在である自分のことも気に留めないで欲しいとレイは思う。
自分もラウの方を見捨てるつもりなのだから――その方が、少しは気持ちも楽にはなる。
やはり道は違えたといえ、自分のオリジナルと戦う事に良い気はしない。
そんな時、デュラクシールから再び通信が入り、レイは耳を傾ける。

「レイ・ザ・バレル。訊いてもいいか」
「……ッ、どうした?」

僅かにレイは内心で驚いた。
声と共にプルツーが映像を送ってきていたためだ。
画面に表示されたものは赤いパイロットスーツに身を包んだ小柄な少女。
声からして若いとは思っていたが予想を超えていた。
気を取り直してレイはあくまでも冷静を装い返事を返した。

「お前の家族の名前を教えてほしい」
「……なぜだ?」

だが、飛びこんできた言葉は意外なものだった。
プルツーは自分を疑っているのだろうか。
たとえば家族が居ると偽り自分に近づいてきた――と。
実際、嘘を言ったわけではないが間違ってはいない。
レイは密かに警戒を強め出すが、結局それは杞憂に終わる事になった。

「捜すには私も名前を知っていた方がいいだろう」
「捜すとは……もしや、俺の家族か?」
「ああ、お前は私に協力してくれている。だからこのくらいはやってやるよ」

確かにプルツーに自分にも家族は居ると言った。
しかし、一緒に捜そうと提案したことはない。
だというのにプルツーは既に捜す気になっている。
プルツーがお人好しというわけではない。
ただ、借りをつくってはおきたくなかったのだろうとレイは予測をつける。
実際のところはわからないが今はプルツーの言葉に答えるのが先だ。
すなわち家族、ラウのことを話すかどうかということ。
プルツーにとって自分も当然家族と会いたいと思っていると考えているのだろう。
だからこそこうして自分に協力している、そんなところだ。
ならば自分はプルツーの考えているような人間を演じる必要がある。
家族との再会という一種の共通した目的を持っていると装った方が自然な話だ。




「済まない。ラウ・ル・クルーゼだ、俺の家族は」


レイは既に決めている。自分は自分の道を生きると。
故にラウとの関係がプルツーに知られようとも問題はない。
レイはそう判断した。そしてレイの返答を受けプルツーはデイバックを漁り出す。


「……あった。このラウ・ル・クルーゼか……わかった、覚えておく」


プルツーが手に取ったものは参加者名簿だ。
一応の確認のつもりなのだろう。
レイの言う事を全て鵜呑みにすることはないといったところだ。
しかし、納得した様子を見せプルツーは名簿をしまう。
なかなかに抜け目ない性分なのだなとレイは密かに感想を抱く。
戦闘のセンスはというと先程の戦いを見る限りかなりの腕だ。
赤服とも充分に互角、ルナマリア・ホークとは射撃の精度が違いに違いすぎる。
激情的な面は少し気にはなったがどこかシン・アスカを連想させ、妙な既視感すらも感じさせた。

「どうした?」
「いや……」

ふいにプルツーが不思議そうにレイに尋ねる。
知らず知らずの内にプルツーを凝視してしまっていたのだろう。
何せ自分の手駒として動いてもらうのだ。
彼女の性格やそして取りうる行動を予測するために、観察は出来るだけ済ませた方がいい。
シンやアカデミアの同期と接する時からの癖は消えておらず、つい迂闊にも探りを強めてしまった。
そこをプルツーに勘づかれてしまったわけだ。
またプルツーの表情を窺えば少なからず疑心の色も見える。
何かを察したのだろうか。プルツーの勘の良さを心に留め、レイは自分の次の行動を思索する。
ここで何もないというのも有り得るだろう。
だが、疑惑は残る。何か、些細な話でも良いから訊いておくべきかもしれない。
思考は一瞬。直ぐに感情を切り替え、レイは丁度都合のいい題材を元に話を切り出す。


「お前の家族のことについて、少し気になってな」

確かに気にならないというわけではない。
先程の戦闘でのプルツーが見せた気迫。
あの気迫の源の正体を知っておくには越したことはない。
暫しの沈黙をおいてプルツーはレイの問いに答える。


「そういえば言っていなかったな。私が捜しているのはジュドーとプルだ。
ジュドー・アーシタ、エルピー・プルの二人。あとはラカンという男も居るがこいつはただ所属が同じなだけだから、別にそこまで気にすることはない」


ジュドー・アーシタというプルの名前には見覚えがあった。
恐らく嘘は言ってないのだろう。
本心から家族との合流を望んでいるなら虚偽を言う必要はない。
しかし、レイはそんなことよりも別のことに少し注意を惹かれた。
特に大きなことではない。ただ純粋の興味からでしかないのだか。


548 :人形~にんげん ◆40jGqg6Boc:2010/03/02(火) 00:46:58 ID:ZRmjfqGo
「なるほど。ところでプルというのはお前と名前がよく似ているが?」
「ああ、プルはもう一人の私……厳密にいえば私がプルのクローンだ」
「なっ……?」
「あまり驚くな。人に好き勝手考えられるのは知ったことじゃないが、好きじゃない」

思わずレイの目が見開かれる。
プルとプルツー、共に似ている彼女らの名前に何か意味はあるのか。
ただそれを興味がてらに訊いただけのことだった。
だが、プルツーから予想外でありあまりにも馴染み深い言葉が出ててきた。
クローン人間。プルツーが自分と近い存在であることを急に知らされ、レイは驚きを隠せない。
不審がられる可能性を見捨て、ついまじまじとレイはプルツーを凝視する。


(こいつも同じ……俺と同じ、どこにでも俺達のような存在は居るというのか……!)


プルツーの所属する組織はレイにとって定かではない。
しかし、自分と同じように造られた存在が居たことに、レイは驚きと共に落胆と怒りが混ぜ合った感情を抱いていた。
ファーストコーディネーター、ジョージ・グレン。
誰しもが彼のように成りたいと願い、彼の才能を人の手で造り出すために造られた存在こそがスーパーコーディネイター。
まさしく人類の夢と呼べる存在。それを生みだすための研究の副産物が、ラウやレイといったクローン人間だ。
だが、自分達は人間ではない。人間の業によって造られた命を与えられた、人間のような何かでしかない。
ラウとレイはそれを自覚し、自分達を生んだこの世界を呪い、それぞれの未来を望んだ。
クルーゼの場合はこの世界の終焉であり、かつてのレイの場合は自分達のような存在が出ない世界の創造だ。

「不思議なヤツだな、お前は」
「……どういう意味だ」
「言ったままの意味さ」

レイの意識がふと現実に引き戻される。
見ればさも訝しげにこちらを見ているプルツーの姿がある。
モニター越しにもわかる。クローンという単語に思わず反応した自分の挙動を怪しんでいるのだろう。
心残りはあるが、これ以上この話に深入りするわけにはいかない。
だが、プルツーの方が一手、レイの先を行っていた。


「お前――強化人間か? 私と同じような」
「なに!?」
「ふふ、当たりか。ニュータイプじゃないとは思っていたが、どうにもお前の感覚は普通じゃなかったからな」


レイが反応したのはプルツーが自分と同じ存在と称したことだ。
強化人間やニュータイプが何を指しているかはわからない。
レイにわかることは自分がただの人間ではないことがプルツーに知られたことについてだ。
確証があるわけではない。最もたる理由はプルツーの言う感覚に頼るだけでしかない。
しかし、レイは考え直す。
この場で自分がクローンであることをプルツーに告げても何か不都合はあるだろうか。
既にシンには自らがクローンであることは告げ、ラウに至っては最早言うまでもない。
ならばいっそ――レイの瞳にとある決意の色が宿る。



「――ああ、そうだ。強化人間やニュータイプがなんであるかは知らない。俺は……ラウ・ル・クルーゼのクローンだ」
「へぇ……驚いた。強化人間じゃなくてクローン人間が私達以外にも居たなんて……なるほど」


以前のレイであれば必要以上に自らの出生については話さなかった。
だが、今のレイは拘ってはいない。目の前の存在には自分の素性を話す価値があると思えた。
自分が予想していたものとは少し違った結果に驚くプルツーから視線は逸らさない。
自分と近しい存在、なんらかの目的で造られたクローンであるプルツーにレイは確かな同族意識を感じていたのだから。
最早プルツーの特性を知っておくという名目よりも、同族として彼女への純粋な興味がレイにはあった。


「俺は最高の存在を造る過程で生み出された、実験体のようなものだ。
出来たから、出来るだけの技術があったから……それだけの理由で」


訊かれたわけでもない。
ただ、聞いて欲しいと思った。
プルツーには自らのことを知って欲しいとレイは考えていた。
こんな惨めな存在が居たのだと。
レイ・ザ・バレルという人間もどきは、たったそれだけの理由でこの世界に出されてしまったのだと。
レイはただそれを知ってもらうことを望み、そして知りたいと願った。


「プルツー……お前もクローンであるならお前は何のために造られた。お前はその造られた命で、何を望む?」


お前の方はどうなんだ――とレイはプルツーに問う。
プルツーは、いや彼女らは一体どういう理由で生み出されたのか。
そして彼女らは一体何を求め、どのように生きていくことを求めたのか。
興味の果てに抱いた疑問をレイは正直に口にする。
だが、プルツーの方はといえば冷やかな表情を浮かべていた。

「ふん、くだらない質問だ。レイ・ザ・バレル、お前はもう少し賢いやつだと思っていたんだがな。まあいいさ」

レイにはプルツーが呆れ顔である理由に見当がつかない。
しかし、レイはただ黙り続けプルツーの返事を待つ。
そんなレイの態度があまり気に喰わなかったのだろうか。
プルツーは大きな溜息を一つ洩らした。


「私は……グレミーという男の下で戦うために造られた。
奴専用のニュータイプ部隊、モビルスーツで戦うためだけの存在……その一つ。
時期が来るまで私達はコールドスリープで眠らされ、そして奴の都合で起こされた。
所詮奴の野心の一欠けら、さぞかし使い勝手のいい人形の一体だったろうさ」


ザビ家派のグレミーによるハマーン・カーンへの反乱。
そのグレミーの軍の中核を担ったのがプルツーを含むニュータイプ部隊だ。
後に一年戦争と呼ばれた戦争末期に、多大な戦果をあげたサイコミュ兵器はプルツーの時代でもその有用性は高く評価されている。
パイロットの脳波を電気信号に変え、無人機動兵器のコントロールを可能とするサイコミュ兵器の動きを見極めるのは容易ではない。
だが、一般的に“ファンネル”と呼ばれるようになったそれは、ニュータイプにしか扱うことが出来ないというデメリットがあった。
プルツーはそのためにニュータイプであるプルのクローンとして造られた。
疑似ニュータイプ。強化人間と類されるその存在はファンネルを扱うための部品。
壊れたら新しいものと取り換えればそれでいい。
意志を持つ必要も、言ってしまえば自我を持つ必要もない存在だ。
それこそがプルツー達ニュータイプの存在意義そのもの。
無言で聞きながらもレイは俯きながらも、プルツーの話に衝撃を覚えていた。



「そういう存在は知っている……俺の知っている中にもそんな存在達は居た。
地球連合のエクステンデッド、彼女もデストロイのパーツとして使われていた」
「はっ、どこも考えたは同じってことか……笑えないね」
「ああ……まったくだな」


かつてレイはたった一度だけ軍紀違反を犯した。
厳密に言えばシンが捕虜を個人的な理由で脱走させたのを止めるどころか手助けをしてしまったことだ。
シンが逃がした少女、ステラ・ルーシュはエクステンデッドの一人だ。
それは薬物による肉体強化により、コーディネイターと同等の戦闘技術を後天的に植え付けられた集団の総称。
プルツーの言葉を借りればエクステンデットも強化人間の一種と呼べるだろう。

変わらない。世界が違えども結局はやっていることは同じだ。
強化人間とエクステンデッド、共に戦争に使われるだけの部品が名称は違えども世界のあちこちに落ちている。
そしてそこにスーパーコーディネイター誕生のために、ただ造られただけのレイを含むクローン人間も居る。
望んだわけじゃない。望んだわけではないのに仮初の命を与えられ、この世界に放り出されてしまった。
力あるものが更なる力を望んだ結果がレイやプルツーの存在を造りだした。
力を持たない、人間でもない、ただ彼らの掌で踊るだけの人形をこうも簡単に。

しかし、レイは既に決別した。生きたいと願った。
決意の色が宿る瞳を覗かせ、レイは見上げた先にプルツーの顔があった。
奇しくもレイと同じく、プルツーの表情にも確かな色が色濃く映っている。



「だが――それがどうした。
私はもうグレミーの人形なんかじゃない……! 私はジュドーとプルと生きると決めたんだ。
強化人間であっても、私は私がしたいようにする……私は家族と一緒に生きるんだ!」



これで言いたいことは言い切ったといわんばかりにプルツーは通信をきった。
今までプルツーが映っていた箇所を凝視しながらレイは確信した。
やはりこのプルツーという少女は自分と似ていると。
プルツーが今までどんな道を辿ってきたかはわからない。
だが、きっと彼女も出会いが会ったのだろう。
君は君だろ――きっとそんなようなことを、あのスーパーコーディネイターであるキラ・ヤマトが自分に言ったように。
プルツーにも彼女も一つの自我を持った存在だと気づかせてくれた人間が居たに違いない。
その人物がプルツーの話に出てきたジュドーなる人間かプルなる人間かはわからない。
ただそんな存在が居たという事実だけが、やはりレイにプルツーに対する共感を覚えさせてしまう。
ジョーカーであるがために、プルツーはいつでも見捨てる用意があるというのに。
しかし、自分にはこの少女を殺せるのかと僅かに疑問を抱いてしまう。
このあまりにも似ている自分を、果たして本当に――。



ふいにレイは思いを馳せる。
それは一種の逃避であったのかもしれない。
いつかは決断しなければならないプルツーの排除の是非を後回しにして。
レイは一人の同僚について考え始める。



(シン……お前はやはり嘆いてくれるのか……不確かでしかなかった、俺達の存在を。お前は……ここで何を…………)



以前、エクステンデッドの研究所に侵入した際にシンは怒りを覚えていた。
彼女らに戦うことを一方的に押しつけた存在を、そして戦争そのものに。
シンはプルツーのような存在もどう思うだろうか。
あまり考えることもない、きっとそのグレミーとやらに対しても許せないと考えるだろう。
そんな行動を取ってくれるであろうシンが何故か、自分達のような存在の代弁者にも見え、心強く感じた。
そのシンとはメサイアの最終決戦直前以来、顔を会わせてはいない。
ミネルバで共に戦っていた時には、シンを利用すべき存在としか見ていなかったが彼は悪い人間ではなかった。
言うなれば自分とシンは友達と呼ばれる関係ではなかっただろうか。
虫の良い言い分でしかないが、自分と同じく殺し合いに参加させられている彼に対しそう考えてしまう。
彼はまた自分の言うことを聞いてくれるのか、どんな変遷を辿っているのか。
そして彼の怒れる瞳は何を見据えているのか――。
R-GUNリヴァーレのコクピット内でレイは一人、たった一人の友人を気に掛けていた。
いつかは決めなければならないプルツーの処遇と共に、未だそれらに明確な答えは出ようとしなかった。




◇     ◇     ◇



喋りすぎたか。
グレミーのことやニュータイプ軍団のことは明らかに蛇足だったと今では思う。
プルツーは内心小さな後悔を覚えていた。
だが、ジュドーやプルのことを話した時点で覚悟は既につけていたのだから問題はない。


(そうさ、ジュドーとプルはあたしが守る……この男が敵に回るなら戦うだけさ)


結局はレイがジュドーやプルの害になるようであれば排除するだけだ。
この場でプルツーが優先するのはジュドーとプルの二人。
本当の自分を取り戻させてくれた彼らを守るためにはどんな汚いことでもやれるつもりだ。
一度は消えたも同然の命を散らすことにそれほどの抵抗があることもないのだから。
そう、たとえレイの身の上が奇遇にも自分のそれと似ていようが関係はない。
小さな体躯とは裏腹に危うい程の感情を忍ばせながら、プルツーはただジュドーとプルとの再会を心から願っていた。


【一日目 13:00】



【レイ・ザ・バレル 搭乗機体:R-GUNリヴァーレ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:疲労(小)
 機体状況:EN残り40%、装甲各部位に損傷(再生中)、ガンスレイヴ一基破壊(再生中)、ディアブロ・オブ・マンデイの大斧を所持
 現在位置:E-4
 第一行動方針:プルツーを利用し、参加者を減らしていく
 第二行動方針:シンを探す。協力を要請するが、場合によっては敵対も辞さない
 第三行動方針:ラウは……
 最終行動目標:優勝狙い
 備考1:メサイア爆発直後から参戦
 備考2:原作には特殊能力EN回復(大)がありますが、エネルギーはポイントで補給しなければ回復しません】


【プルツー 搭乗機体:デュラクシール(魔装機神~THE LOAD OF ELEMENTAL) 
 パイロット状況:疲労(中)
 機体状況:装甲各部位に損傷 戦闘に支障なし 肩パーツ(タオーステイル)がいくつか破損 EN・弾薬残り60%
 現在位置:E-4
 第一行動方針:レイを警戒、場合によっては排除。
 第二行動方針:ジュドー、プルと合流し守る。
 第三行動方針:ゲームに乗らない参加者と協力。
 最終行動方針:ゲームからの脱出、または打破。
 参戦時期:原作最終決戦直後】



「――下らん、時間の無駄だったな」



とある一室で20代と思わしき男がさも不機嫌そうにぼやく。
白を基調としたツナギに筋肉質な肉体を包み、赤い毛髪を生やしたその男はそう言って視線を逸らした。
今まで男の視線が注がれていたものは一つのモニターだ。
そこにはデュラクシールとR-GUNリヴァーレの姿があった。
男はオープン回線で行われていたプルツーとレイの会話の一部始終を聞いていた。


「かたや因果律の番人がSRX計画の一端を改修した機体、かたや最強の魔装機と呼ばれた機体。
行動を共にしたと聞いてみれば……宝の持ち腐れとはこのことか」


男は期待していたのだろう。
デュラクシールとR-GUNリヴァーレはそれぞれ強力な力を備えている。
完全な同盟を結んだわけではないがその二機が行動を共にしたというのだ。
その二機が介入する戦闘は熾烈さを極めるものになる可能性は大いにある。
もしくは一方的な殲滅か。いずれにしても火は上がったことだろう。
闘争という火が激しく燃え盛る様を男は是非とも見物したいと考えていた。
だが、結果はご覧の通りだ。
運悪く二機は他の参加者とも会えず、時間を無駄に使ってしまった。
その現状にはっきり言ってしまえば男は苛立たしいと思っていた。
しかし、何も戦闘がなかったことだけに男は苛立ちを覚えていたわけではなかった。


「レイ・ザ・バレル……レモンが用意したジョーカーとやらの一人か。二回目の放送までに二人殺さなければ首輪が爆発する……よく考えたものだ」


レモン・ブロウニングの仕掛け、7人のジョーカーの件は男の耳にも届いている。
面白いシステムだ。聞き知った際に男は先ずそう思った。
戦うことを強いられた存在が戦場に居れば、それだけで新たな戦いが誘発されることも可笑しくはない。
戦闘が常に起きるのが好まれるこのバトルロワイアルでは無用のものとも思えない。
開始早々に1人を再び見せしめに使ったことでジョーカー達の気も引きしまったことだろう。
それもテッカマンなる見た目からして人間より強い存在を使ったことで尚更だ。
だが、男はレモンの一興に不満がないわけではなかった。
なにもジョーカー達の戦績があまり奮っていないことについてではない。
ただ、あくまでも個人的な感覚に基づくものだ。


「だが、一回目の放送ではなく二回目の放送までにしたのが奴なりの優しさだな。
生温いな……一回目であれば奴らももう少し死に物狂いに踊ってくれただろうに」




無茶なことをいうものだろう。
ここに別の人間がいればそう考える者も居るかもしれない。
しかし、男の価値観は常人とは違っていた。
闘争が続く世界。人間が人間であるために争いを続けるしかない。
その理想を追い求め、鋼の機人に己の信念を預け戦い続けた男は落胆していたのだから。
いや、落胆だけではない。最早怒りともいえる感情を男は見せていた。


「そうさ。そうであればこの人形共の、こんな下らん問答も見ることはなかったハズだ……!」


その男には嫌いなものがあった。
人形。己で判断することなくただ言われたことを実行するしか能がない人形だ。
たとえそれは自軍の者でもあろうとなかろうと関係がない。
同時に人形風情が人間を気取ることも気に食わない。
人形に生まれたものは人形でしかない。それは変わらないのだから。
席を立ち、カツカツとブーツを響かせながら男はどこかへ向かう。
向けた背中にはどこか哀愁に似たものが漂い、言いようのない孤独感があった。
鋼鉄の孤狼を己の宿敵と定めた男。
その男の名は――





アクセル・アルマー。





レモン・ブロウニングと同じく、このバトルロワイアルの裏方を演出する人間の一人。



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065:家族 レイ・ザ・バレル 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(前編)
065:家族 プルツー 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(前編)

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最終更新:2010年04月13日 17:33