泥沼で乱舞する二人はその中で何を見たのか ◆PfOe5YLrtI
C-2を中心に発生した大乱戦の終結から、既に1時間以上が経過していた。
あの戦いの後、ヴィレッタはD-1の灯台にてタスクの帰還を待ち続けた。
しかし、どれだけ待ってもタスクが彼女のもとに戻ってくることはない。
運に恵まれてなかったといえばそれまでだ。
あの一箇所に多くの参加者が立て続けに集まり、しかもその全てが殺し合いに手をつけていた。
それだけでも最悪だと言うのに、運命は彼女達に何か怨みでもあるのか。
彼らの利害の一致や度重なる偶然により、ヴィレッタ達は彼らの大半から率先して狙いを定められる羽目となった。
周りは全て敵だらけ、袋叩きにあった挙句の連戦に次ぐ連戦。五体無事でいられる保証などどこにもない。
そんな戦場に、結果的にタスクを置き去りにしてきた格好になってしまった。
戦線離脱よりも、あの場で無理をしてでもタスクとの合流を図るべきだっただろうか。
そうでなくとも、元々彼は怪我人だった。応急処置と本人の予想以上の頑丈さにより、大事に至ることこそ
なかったものの、本来なら自分が彼を守らなければならない立場にあったはずだ。
(くっ……!)
ガルムレイドを起動させる。特に異常はない。
ダメージこそ小さくはないが、致命傷に至るほどのものではなかった。
その傷の少なさが、かえって後ろめたさを感じた。
もう少し、戦えたのではないか。タスクの救援に向かえたのではないか。そんな後悔ばかりが付きまとう。
あの場ではベストな判断を下したつもりだったが、割り切れるものではない。
戻らないタスク。彼の身に何らかの事態が発生した……ヴィレッタはそう判断する。
だとすれば、戻らなければならない。大乱戦の戦場だった場所、C-2エリアに。
ガルムレイドを飛び立たせ、ヴィレッタは灯台を出発した。
『何らかの事態』……それは灯台までの移動が困難な事態。
機体のトラブル――それだけで済んでいるならば、まだいい。
タスク自身に異常が発生した可能性もある。
気を失っているか、あるいは怪我を負って動けない状態にあるか――
……いや、現実から目を逸らしても仕方がない。置かれた状況が状況だ。
ヴィレッタは最悪の結果を受け入れる覚悟を決めなければならなかった。
(あの場に最後に残っていた敵……シン・アスカと言っていたわね……)
C-2への道中……いや、灯台で待ち続けていた時間からそうだ。
ヴィレッタには再び考えるチャンスが与えられた。
ジョーカーという立場にある自身の身の振り方、タスクに真相を打ち明けること……
その件に関しては、既に腹は括っている。
だが空いた時間は、それ以外のことを考える余裕も作り出した。
ヴァルシオーネに乗っていた、自分同様ジョーカーであるイスペイル。
直接接触できる余裕はなかったが、離脱のチャンスがありながらも彼はタスクに仕掛けていた。
ノルマ達成のためには已む無しといったところか。注意しておくに越したことはない。
あの戦場から引き離されるきっかけとなった、ヤドカリのような機体。
大胆な奇襲戦法に加え、引き際も弁えている。かなりの腕を持ったパイロットと見受けられた。
執拗に、病的なまでに自分を攻め立ててきた、獅子の特機。乗っていた男の名はレーベンと言ったか。
あれは完全に狂気の類と言ってもいい。自分、いや……まるで女性そのものを目の仇にするかのような。
そして、スレードゲルミル……シン・アスカと名乗った、どこか危うさを感じさせる男。
彼とタスクが戦闘に入る所で、ヴィレッタの視界はヤドカリへの抵抗と共に戦場から離れていった。
――うるさい! 違うもんか! 信じられるものか!!
弁解の余地すら与えず。一方的な決めつけで、彼は相手の論を封殺する。
乱暴にも程がある、滅茶苦茶な理屈だ。だがそれが逆に違和感を誘う。
特に最後の叫びは、無理にでも自分を納得させるような感情すらこもっていた。
強引に迷いを振り切るかのような。何が彼を、ああも駆り立てていたのか。
(信じられるものか……か)
――やめよう。
一瞬過ぎった、シン・アスカに対する感傷を振り払う。
必要以上に、相手の内面に踏み込むべきではない。
彼にも彼なりの、何らかのやむを得ない事情があるようだが……同情できるだけの余裕はない。
そんなものは誰だって同じだ。このバトルロワイアルに参加した、全ての人間に事情は存在するはずだ。
生半可な感傷は迷いを生む。その迷いは自分自身を、時に仲間をも傷つけることになる。
暴走する刃で人を傷つけるようであれば、どんな理由であれその行為を許すことはできない。
もし、話し合いが通じない者が相手ならば……躊躇いなく討つだけだ。
たとえそれが同情に値する相手だとしても。ヴィレッタは非情に徹する決意を固める。
そうでなければ、生き残れない。この殺人ゲームは、それだけの過酷さを秘めている。
彼女自身も気付いてはいないだろうが……
それは少しずつとはいえ、バトルロワイアルの理に飲み込まれている証拠でもあった。
その時。
「――ッ!?この反応……!!」
感度の大幅に悪化したレーダーが、反応を示す。
ちょうど向かう先のC-2の方角から接近してくる飛行物体。ビッグデュオの反応ではない。
反応した方角へと目を向ける。
既に相手を目視できた。ヴィレッタのもとへと向けて高速接近してくる、一体の特機。
その機体の正体を判別できた時。
その機体の取ったモーションで、相手の次の行動が予測できた時。
その機体を――敵だと判断した時。
「ファング・ナックル!!」
ヴィレッタはガルムレイドの拳を撃ち放っていた。
接近してくる敵機めがけて、真っ直ぐに。
そして――敵機もまた同様に、拳を撃ち放つ。
ファング・ナックル。
ドリルブーストナックル。
両機のほぼ中間地点でぶつかり合う、二つのロケットパンチ。
火花を散らし、互いの勢いを殺ぎ合って威力を相殺する。
やがて二つの拳は離れ、それぞれの腕へと戻っていった。
「ちっ……!」
ナックルをガルムレイドの腕に戻し、ヴィレッタは表情を強張らせる。
彼女が睨みつける敵は、頭部や腕に着けられたドリルと、巨大な剣が象徴的な特機。
「スレードゲルミル……シン・アスカか……!」
今の彼女にとって、あらゆる意味で最も望まない相手との遭遇だった。
自然と警戒心が強まる。
「……あんたを探していた」
通信越しのシンの口調は、静かで抑え目だった。しかしそれが建前であることは明白だ。
破裂寸前の怒りを無理矢理抑え込んでいるであろうことが、容易に見て取れる。
「今度こそ答えて貰う。お前は何を知っている?レイはどこにいるんだ!?拒否は許さない!!」
それを証拠に、徐々に声が荒立ってくる。
それでも、一応の理性は保てているか?ならば、話し合いに応じる余地はあるかもしれない。
だが……彼には悪いが、何より先に聞くべきことがある。
「……了解した。だが、こちらにも聞きたいことがある。まずは……」
「答えろと言ってるんだ!!それ以外の返答は求めちゃいない!!」
……前言撤回すべきか。これはフェアな取引の通じる相手ではない。
こちらの意思は無視して、自分の要求だけを強制する。どこの子供だ、これは。
「答えないとは言っていないわ。だけど、その前に……」
「うるさい!!あくまでシラを切るつもりかッ!!」
ヴィレッタの弁解にも聞く耳持たず。斬艦刀の刃先をガルムレイドに向け、吠えたてる。
あまりにも一方的で自分勝手な姿に、流石のヴィレッタもいい加減苛立ち始めていた。
「……一応言っておくけど、貴方の望む答えは持ち合わせてないわ。それでも――」
「そうかよ!!だったら、力ずくでも聞き出してやる!!」
そう吐き捨てて、斬艦刀を構えるスレードゲルミル。
まさかここまでとは――ヴィレッタはただ閉口するしかなかった。
「さっきから、質問する人間の態度とは思えないわね……!」
――付き合っていられるか。
ヴィレッタはシンに見切りをつける。
こちらの弁には耳を傾けず、一方的な理屈を押し付けて子供のように喚き散らす。
こんな人間を前に、理性的な対応を求めるだけ時間の無駄だ。
彼女にしては、やや急ぎすぎた判断だったかもしれない。
だが、仲間の危機という手前、彼女にはここで時間を食っている暇はない。
こんな男に構っている余裕などない。一刻も早くタスクのもとへ……
……いや、違う。
彼がここにいるということは、タスクのビッグデュオを通り抜けてきたことを意味する。
「先にこちらの質問に答えなさい。タスクは……あなたの戦っていた赤いロボットはどうしたの!?」
「ッ!……あんたの話は聞いちゃいない!!」
一瞬、ほんの一瞬だけ声を詰まらせたシンに、不信感が刺激される。
「質問に答えろ!!」
最悪の事態を察した、その焦りと怒り。その矛先はシンか、それとも彼女自身か。
どちらであろうと、それによりヴィレッタの口調が強まったのは事実だ。
「それはこっちの台詞だッ!!」
負けじと、シンも怒声を飛ばす。
完全なる平行線。この二人に、話し合いの余地など存在しなかった。
既にシンが力ずくを宣言しているし、そもそも初めからそんなものはありはしない。
スレードゲルミルが地を蹴り、不毛な争いの幕が上がった。
◇ ◇ ◇
……この流れ、あまりにも短絡的だ。両者とも怒りと苛立ちに任せ、傷つけ合う選択をしてしまった。
何故、こうなってしまったのか。特に、本来冷静なはずのヴィレッタまでがこのような乱暴な行為に
出るなど、通常ではまず考えられないことだった。
これというのも、どちらにも互いの質問に答えられない背景があったが故である。
ヴィレッタは現在、レイ・ザ・バレルについて何かを知っているとシンに認識されている。
だが彼女が持ついる情報とは、レイがジョーカーであることだけ。
ヴィレッタとしては、この情報を簡単に渡すわけにはいかない。
ジョーカーの情報の漏洩を許すことは、彼女にとっては好ましくない展開だ。
タスクのような信頼できる仲間にならともかく、赤の他人に明かせる内容ではない。
無用の混乱や疑心暗鬼を呼び起こす可能性がある。下手な対応は、今後の行動に差支えが出る。
そして、彼女もまたジョーカーだ。それをシンが知った時、目の前の彼女に対しどんな反応をするか?
仮にこれを上手く隠して、レイのことだけを教えても、結局は同じことだ。
シンはこう返してくるだろう。
「なんであんたがそんなことを知ってるんだ」と。
そう来られては、ヴィレッタは答えられない。どう転んでも自分に疑いを向けられる。
シンはレイの所在を求めている。ならば、嘘でも適当な方向を示せば、やり過ごせるのではないか?
彼がある程度理性を保っていたなら、ヴィレッタもその手段を選んだかもしれない。
嘘で誤魔化さずとも、今より遥かに無難な結末に導けた可能性はある。
しかし、彼は前と変わらず荒れ続けていた。話し合いすら通じる状態ではないと判断できた。
今の彼を野放しにするのは危険だ。さらなる犠牲者を生むことになりかねない。
迷いをかなぐり捨てようと暴走し、怒りと苛立ちに神経過敏になっている。
その刃が、他の参加者を傷つける可能性は低くはない。
そして何より、一番の判断材料は、タスクの存在だ。結局行き着く先はここである。
タスクの身を案じるあまり、判断を急がせた。
シンがタスクを死なせた可能性が、否定の方向に判断を傾けた。
では、もしもシンが少しでも頭を冷やしていれば、こうはならなかったのだろうか?
いや……同じことだ。というより、シンもまた自分の横暴についての自覚はあった。
いきなり攻撃を仕掛け、力ずくでねじ伏せ情報を聞き出す。あまりに強引で乱暴すぎる手段。
一方的で勝手過ぎる……それはシン自身も十分に承知していた。
承知の上で、彼にはこうするしかなかった。
無理矢理にでも、彼は先に自分の質問を相手に答えさせるしかなかったのだ。
もし両者が何事もなく接触した場合、ヴィレッタはまず最初にタスクの所在を問い詰めてくることだろう。
事実、彼女は問い詰めてきた。先にしたはずの自分の質問よりも優先して。
タスクはシンと戦っていた。タスクの姿が見えないとなると、疑惑の念はシンに向けられる。
シンはこの問いに答えることはできない。何故なら。
タスクは既に死んでいる。
あの赤い巨人は、突如乱入してきた春日井甲洋の蒼い機体の一撃により、海に沈んだ。
あれは間違いなく、コックピットを焼いていた。中の人間は生きてはいまい。
タスクが死んだとわかれば、ヴィレッタはシンを許さないだろう。
そうなってしまえば最後、情報どころの話ではなくなる。
仲間を殺害した疑惑のある人間相手に、誰が信用などするものか。
直接的原因が甲洋の乱入だと話したとして、あの状況でそれを誰が素直に信じるというのか。
仮に死んでいませんと、生きているが別の場所にいますと誤魔化したら?
……誰がそんな見え透いた嘘を、おいそれと信じてくれるものか。
ほんの少し前まで敵対していた人間の、殺し合っていた人間の言葉を真に受ける馬鹿などいない。
この点は、ヴィレッタにも同じことが言えた。
……詰まる所。
自分は、相手の質問に答える気がない。
その癖、自分の質問にはさっさと答えろ。
話し合いが成り立つはずがない。
◇ ◇ ◇
空から動きを封じてくる鷹の砲撃に、陸から牽制を繰り返す狼の牙。
ガルムレイドに従う二体の支援メカが、ヴィレッタの命令のままにスレードゲルミルを追い詰める。
「こいつら、ちょこまかと……ッ!」
加えて、弾幕の嵐がスレードゲルミルに浴びせられる。
ブラッディレイ、ビームキャノン、ビームマシンガン。隙を見て、TEスフィア・ブレイザー。
ガルムレイドは斬艦刀の届かないギリギリの距離をキープしながら、砲撃戦に徹していた。
斬艦刀による一撃必殺、それがスレードゲルミルの基本戦術。
故に、相手を倒すには間合いを詰めることは必須。
だが息をつかせぬ猛攻に、シンは突貫のチャンスを得られない。
砲撃の穴が見えたと思ったら、絶妙のタイミングでヒオウがその突貫を挫いてくる。
結果、距離を詰められず反撃の糸口を掴めないシンは、防戦一方を強いられていた。
斬艦刀が無理なら、ドリルブーストナックルならばどうか。
この距離なら斬艦刀は届かずとも、ナックルなら一撃を見舞うことはできる。
だが、これはヴィレッタのちらつかせた餌。
ナックルを飛ばせば一時的に片腕を失い、その間本体がお留守となる。
その瞬間、今は牽制を繰り返すだけのロウガが牙を剥き、シンはその餌食となるだろう。
「あいつ、この機体のことを知ってるのかよ……くそっ!」
一方でヴィレッタもまた、スレードゲルミルに対し攻めあぐねていた。
一見一方的な砲撃により優勢に見えるが、決定打が与えられていない。
厚い装甲とマシンセルによる自己修復能力の壁は厚く、このままの戦い方では長期戦は必至。
そうなれば、逆にガルムレイドの方が息切れを起こすことになる。
(このままでは埒が明かない……こんなことをしている場合ではないというのに……!)
短期決戦。一瞬の隙を突き、大火力の一撃で押し切るしかない。
そしてヴィレッタには、そのための策があった。
しかしそれを行うには、相手に隙を作らせる必要がある。
(これ以上時間はかけていられない……ならば)
腹を決め、スレードゲルミルを見据える。
ぞっとするほど冷たい輝きを、その瞳に灯して。
エアロゲイダーの下にいた頃以来の非情さを、掘り起こす決意を込めて。
◇ ◇ ◇
さて……次は両者の置かれている状況とメンタル面について触れたい。
戦いに持ち込むまでの動機は意外と大差のない二人だが、こちらについては大きな差異がある。
シンとしては、この場でなんとしてもヴィレッタから情報を引き出したかった。
レイの情報を持っている彼女は、シンにとって現状で唯一のあてであり、絶対に逃がすことはできない。
また、情報が目的であるために、ヴィレッタを殺すこともできない。
これらの点は、戦闘において大きな枷となる。
強襲・一撃必殺を得意とするスレードゲルミルともなれば、なおさら困難な戦い方を強いられる。
この戦闘、見た目以上にシンはハンデを抱え込んでいた。
対して、ヴィレッタ。彼女に食い縋る他ないシンに比べると、彼女の場合はかなり余裕がある。
無理にシンに拘る必要はない。タスクの情報を仕入れるのは、別にシンでなくても構わない。
現場に向かい、直接タスクの安否を確認すればいい。放送で確認する手もある。
ヴィレッタにとって、シンの重要度は然程でもなかった。
話が通じない以上、彼女にとってシンは障害以外の何者でもない……つまり。
シンを殺しても何ら問題はない。躊躇する必要など何もない。
いや、もっとはっきり言ってしまおう。
ここで殺しておいたほうが、彼女にとってはあらゆる意味で都合がいい。
今後もこのままシンが暴走を続け、他の参加者にも刃を向ける可能性を考慮するなら。
後顧の憂いを立つ意味でも、そして自身に課せられたノルマのためにも、今ここで殺っておくべきだ。
シンの事情を考えない、自分勝手な理屈であることは承知の上だ。
だが、こうなる可能性も、自らの手を血に染める覚悟も彼女は決めている。
さて……彼を殺すという前提が許されるのであれば。
ヴィレッタはいつまでも無理に、情報を隠し続ける必要はない。
例え彼にジョーカーの情報を漏らしても――その口を封じてしまえばいい。
そのために、彼女は次の一手を投じる。
死人に口無し、とはよく言ったものだ。
◇ ◇ ◇
「……この殺し合いが始まる直前、シャドウミラーの幹部の一人に呼び出された者達がいる」
「何!?」
砲撃に交えて、ヴィレッタは回線を開き語り始める。
情報を小出しに、且つ思わせぶりを心がけなければならない。
「その幹部は、殺し合いの進行を促すための存在……ジョーカーを欲していた。
そこで、呼び出した参加者達にその役目を与えた」
「!?あんた、何を言ってるんだ!?」
あまりに阿漕で汚い真似をしていると、若干の自己嫌悪の念を抱かないでもない。
だが、この方法が一番効果的に隙を作り出すことができる。
シンがヴィレッタに求めているのは情報。ならば、それをちらつかせればいい。
「幹部は参加者達にこう言った。二度目の放送までに、参加者の二人を殺害しなければ……
……首輪が爆発する、と」
「なっ……!?」
双方の攻防から、徐々に勢いが薄まっていく。
ヴィレッタの口にする情報が、この戦闘におけるウェートを占めてきた証拠だ。
「なんでお前が、そんなことを……!?」
よし、食いついてきた。ロウガとヒオウを呼び戻し、機体に再装着させる――ここが重要。
「呼び出されたのは7人……私もその中の一人だった。そして」
勿体ぶる意味合いも込めて、一呼吸置く。
「――まさか」
そう、そのまさかだ。
そしてこれが、お前の望んでいた情報だ。
ヴィレッタは、最後のカードを彼に突きつける。
「その中に、レイ・ザ・バレルもいた」
「!?」
シンの中に、動揺が走る。
友が、殺人を強要されているという窮地に陥っていることに。
その僅かな動揺は――ヴィレッタのつけ入る隙を与えるに十分だった。
「やっぱり!?あんた、レイのことを……」
「――イグニション」
ファング・グリル開放、燃え上がるガルムレイド・ブレイズ。
冷徹なヴィレッタとはまるで対照的な、熱い炎が巻き起こる。
今話したことが、持ちえるレイ・ザ・バレルの情報の全て。
シンはさらなる情報を求めているようだが、これ以上語ることはない。
四つの瞳が、スレードゲルミルを捉える。
その懐を目掛けて――
一気に飛び込む。
「なっ――!?」
その突撃に、シンは対応しきれない。
隙を突かれたとか、不意を打たれたとか、決してそれだけが原因ではなかった。
ここに来て、全く予測していない戦法が取られたからだ。
これまでの戦い方から、シンはガルムレイドが中~遠距離における砲撃戦主体の機体だと錯覚していた。
ところが、この突進力はどうだ?この機体は格闘戦も万能にこなせたと言うのか?そう思わせる動きなど、全くなかったはずだ。
これこそが、ヴィレッタの策だった。
ガルムレイド・ブレイズは、二つの形態を使い分けることができる。
二体のマシン・アニマリートの装着部位によって、大きく戦い方を変えることができる。
これまでシンと戦っていた形態は、砲撃戦・防御主体のS形態。
そして今炎を纏い牙を剥くガルムレイドは、格闘戦用に特化した、火力重視のG形態だ。
「ロウガ・クラッシャー!」
ガルムレイドの右腕に装着したロウガが高速回転し、そのままロケットパンチとして撃ち出された。
斬艦刀――間に合わない。ボディを守るように、左手で咄嗟に防御する。
だが、ガルムレイドの勢いの前では、左手一本では足りない。
炎を纏ったまま高速回転し、なおかつ突進の加速も加わって、ロウガの拳の威力は増幅される。
その一撃を受けたスレードゲルミルの左腕は、砕かれ、爆発を起こす。
「ぐぅっ!?」
発生する光と煙で、一瞬視界が奪われる。
そこから生まれる更なる隙、その一瞬でヴィレッタは既に次のアクションへと移っていた。
煙が晴れた時、シンの目の前には回転鋸のような光を纏った、ガルムレイドの右脚があった。
「ライトニング・スピンエッジ!!」
蹴りが一閃――
斬艦刀が地に落ちた。それを握る右手と、共に。
「がっ……」
右腕にかかっていた斬艦刀の重量が、不意に右腕ごと失われる。
崩れるバランス。その身体は重力に従い地に吸い寄せられていく。
斬艦刀を手放し、両腕をも失った。スレードゲルミルに、抵抗の術はない。
シンの目が見開かれる。
ロウガを戻した右手に炎を纏わせ、コックピットへと一直線に突き出すガルムレイドの姿が見えた。
「エグゼキューション……レイドッ!!」
「――!!」
――やられる。
反射的に、身体が動いた。
ほんの一瞬だけ、体勢を立て直し、その身体を捻らせる。
直後、伝わってくる強烈な衝撃。
「がは……っ!!」
ロウガの牙はコックピットから外れ、その脇腹に食らいついていた。
急所はかろうじて外れた――だが、それだけには留まらない。
「悪く思わないで……イクスプロージョン……!」
次の瞬間、スレードゲルミルの全身が炎に包まれる。
コックピット内の温度も、急激な上昇を余儀なくされた。
「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
シンの絶叫をBGMに、ヴィレッタは最後の仕上げに入る。
ガルムレイドは力任せに、スレードゲルミルの巨体を抱え上げた。
このままターミナス・ブラスターをフルパワーで叩き込む。
そこで初めて、エグゼキューション・レイドは完成するのだ。
いかにスレードゲルミルといえど、この火力の直撃は耐えられない。
「デッド・エンドよ……」
勝敗は、決した。シンの命は、文字通り完全にヴィレッタの手に握られた。
「次は貴方の番よ……タスクはどうしたか、答えなさい」
ヴィレッタの質問に、シンからの回答はない。
答え終われば、その命が終わることを理解しているからか。
あるいはあくまでも意地を張っているのか、それとも単に喋ることに意識が回らないだけか。
「答えたくなければ、構わない……ならば、せめて言い残すことがあるなら、聞くわ」
彼女にそう言わせたのは、自分が非道で残虐な真似をしているという自覚があるからか。
シンもまたこのゲームの被害者だ。
それをわかりながら、ヴィレッタは彼の命を容赦なく摘み取ろうとしている。
仲間達がこの姿を見れば、口を揃えて非難するだろう。
そんな後ろめたさが、獲物の最期を前に甘さを許したのか。
無念の言葉でも、自分への怨み節でもいい。
どれだけ怨んでくれても構わない。それを受け止め、罪を背負っていく。
そして必ずシャドウミラーを倒し、この殺し合いを止める。もう、彼のような人間を出さない。
それが、今できる精一杯の償いだ。
「なんで……最初からそれを言わなかった……」
口を開いたシンの言葉は、相変わらずだった。
勝手なものだ。聞く耳を持たなかったのは、むしろ彼の方である。
……今となっては、それは言うまい。勝手なのはお互い様だ。
「あんたがさっさと口を割っていれば……こんなことにはならなかった!!」
子供でもないだろうに、最後まで癇癪を起こし続けるのか。
だが……このバトルロワイアルが、彼をここまで追い詰めてしまったことは判る。
もういいだろう。せめて苦しまないよう、一瞬で終わらせるのみ。
心の中で謝罪して、ブラスターのトリガーに手を添える――
「あいつが、あのタスクって奴が死ぬこともなかっただろうに!!」
――――!!
わかっていたことだ。覚悟していたことだ。
だが、それでも、次の彼の言葉で。
「あんたがタスクを殺したんだッ!!!」
ヴィレッタの中で、刻が、止まった――
まるで彼女の感情に呼応するかのように、ガルムレイドを纏う炎が弱まり。
スレードゲルミルを捉えた力もまた、弱まった。
「う……おおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
持てる全てを込めて、背のブースターを全開にする。炎による誘爆の危険性など構わない。
「あんたは……一体……!」
噛み付かれた脇腹を基点に遠心力が働き、頭部が勢いよく前に動く。
その頭部のドリルは――既に高速で回転を行っていた。
「何なんだああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ドリル・インフェルノ。武装を失ったスレードゲルミルの、最後のカード。
「しまっ……!?」
ヴィレッタが反応した時には、もう遅い。
スレードゲルミルに食らい付いたガルムレイドの右腕に、ドリルが食い込んだ。
一秒と経たずに、右腕は本体から切り離される。
突然の抵抗にガルムレイドはバランスを崩し、そのまま転倒する。
シンは意識したわけではないだろうが、完全に意趣返しを食らった格好となった。
ガルムレイドの束縛から逃れたスレードゲルミルは、すぐに離脱を試みる。
地に落ちた斬艦刀のもとへと駆け寄る、しかし拾い上げようにも両腕がない。
なりふり構わず、『口で』拾い上げる。柄の部分に噛み付いて、そのまま持ち上げる。
無様な格好だが、体裁を気にしている場合ではない。
斬艦刀の刀身を最小限まで抑えると、そのままフルスピードで空へと飛び立った。
「くっ……待て!!」
ガルムレイドが起き上がった時には、既にスレードゲルミルの姿は小さくなっていた。
G形態の武装の射程では届かない。それを捉えることはできなかった。
◇ ◇ ◇
あれから追撃を試みるも、逃走したスレードゲルミルの機影を、完全に見失ってしまったヴィレッタ。
その後、彼女は当初の目的どおりC-2へと辿り着いていた。
彼女のこの行動は無意味だ。シンははっきりと、タスクの死を叫んでいた。
今さらここに来るよりも、情報を漏らしてしまったシンの追撃を優先すべきだろう。
にも拘らず、何故わざわざ足を運んだのか。
その目で真偽を確かめるため?タスクの死を信じたくなかったためか?
それらもあるが、他にもう一つ理由はある。
その理由は……通常の彼女ではありえないほど感傷的な思考の果てのものだった。
本来の彼女なら、仲間が死を迎えたとしても、それを乗り越え次の行動に移れる強さはあった。
いや、シンと遭遇した時点で、タスクの死が突きつけられる覚悟は実際に決めていたはずだった。
――あんたがさっさと口を割っていれば……こんなことにはならなかった!!
だが、あの時の、シンの言葉で。
――あんたがタスクを殺したんだッ!!!
彼女の思考は、底なしの泥沼のさらに奥へと嵌り込んでしまったのだ。
彼とのファーストコンタクト、乱戦の中で遭遇した時の記憶を掘り返す。
――はぁ? 何を歯切れの悪いコトを言って……知っているのか知らないのかどっちなんだ!
――アンタのせいだ……アンタがレイについて話せば、こんなことにはあああああああああッ!!
彼の言う通り、あの時点でシンに情報を提示しておけば、場を丸く治めることもできたかもしれない。
そしてタスクもまた、彼との戦いに身を投じ、命を落とすこともなかったかもしれない。
どうしてあの時、シンにレイのことを話すのを躊躇ったのか。
簡単だ。ジョーカーの存在が露呈することを恐れたから。
誰に?……タスクにだ。仲間に自分がジョーカーであると知られることを恐れた。
……?
――いや、待て?
ここで、ヴィレッタは自分自身の思考に違和感を抱く。
タスクにジョーカーのことを知られては拙いから、黙っていた。
何故、拙いと思った?
タスク・シングウジはどんな男だった?
仮にヴィレッタがジョーカーであることを知ったとして、彼はどんな対応を取っただろうか?
殺し合いに乗るかもしれないからと、ヴィレッタに疑いの視線を向けてくるだろうか?
ジョーカーだからと、仲間に対する視線を変えてしまうような人間だったか?
違うはずだ。
彼は、ハガネやヒリュウ改のお人好しの仲間達は皆、まず状況の打開を考える。
では何故だ?
タスクに問題はない。なら、問題があるのはヴィレッタの側だ。
どうして、当初ジョーカーであることを黙っていた?
簡単だ。恐れていた。仲間からの拒絶を。
だが、ヴィレッタはそれを否定しようとする。認めたがらない。
何故なら、この流れに従った上でそれを認めてしまえば。
――それは、仲間を信用してなかったということではないのか?
ヴィレッタの中に、疑念が浮かび上がる。それは仲間に、他者に対するものではない。
自分自身の、仲間に対する信頼を、彼女は疑い始めた。
気絶したタスクを前にした時、彼を殺すという選択肢が浮かび上がった。
自分がジョーカーであることを知られたくがないゆえに、タスクを危険に巻き込んだ。
結果的にとはいえ彼を助けに行こうともせず、死地を後にした。
自分の取った行動が証明している。
彼女の取った行動を順序だてて突き詰めて、それで行き着く先。
――自らの保身。
それは生あるモノとして当然の意識だ。責められる事ではない。
だが、彼女はタスクを死に追いやったという事実を認識してしまった。
そのことにより、少なくとも彼女の中では、その意味合いは変化しつつあった。
そして彼女は、タスクの死の真偽を確認する名目で、C-2に辿り着いた。
シンの追撃=『自分の保身』よりも、タスクの生死の確認=『仲間への信頼』を優先した。
これが、C-2の調査を選んだもう一つの理由である。
……これこそまさに、馬鹿げた感傷に他ならない。そんな体裁を自分に取り繕ってどうするのか。
C-2周辺の捜索を、一通り終える。
結論から言うと、発見できたのは、一本の巨大な腕――ビッグデュオの、右腕のみ。
ここでヴィレッタは不自然な点に気付く。
ビッグデュオの本体がないのだ。その存在を示す証拠が、一欠片たりとも存在しない。
仮に、ビッグデュオが撃破されたとして。
あれだけの巨体と装甲を、細かく砕くのは困難だ。
もし機体が大破したのであれば、その残骸が少しでも見つかってもいいはずだ。
だが現実には、右腕以外の目立った残骸は残っていなかった。
機体が跡形も残らず完全消滅した可能性もある……が、そのケースも考え難い。
スレードゲルミルには、基本的に攻撃手段を両腕のナックルと斬艦刀に依存している。
装甲の厚いビッグデュオを完全消滅までさせられるほどの火力を誇る武装はないはずだ。
もしかするとタスクはビッグデュオと共に、この戦場を離れたのかもしれない。
……楽観的にも程がある推測だ。
どちらにしても、彼の生死はもうすぐ流れる放送で判明する。
「……何をしているのかしらね。私は……」
こんなことではいけない。これでは、まさにシャドウミラーの思う壺だ。
そう、わかっているはずなのに。
彼女の中で、何かがおかしくなっていく。少しずつ、何かを踏み外していく。
間もなく、放送が流れる。そして恐らく、その中でタスクの名が読み上げられるのだろう。
そう……『我が身可愛さに死に追いやった』仲間の名が。
【ヴィレッタ・バディム 搭乗機体:ガルムレイド・ブレイズ(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:強い後悔と自己不信。DFCスーツ着用、ちょっと恥ずかしい
機体状況:EN30% 右腕損失。胸部、左腕損傷
現在位置:C-2
第一行動方針:……とりあえず、放送に備える。
第二行動方針:ギリアムを探し、シャドウミラーについての情報を得る。
第三行動方針:出来る限り戦闘は避け、情報を集める。戦いが不可避であれば容赦はしない。
第四行動方針:ノルマのために誰かを殺害することも考えておく。
第五行動方針:そう、誰かを……?
最終行動目標:生き残って元の世界へ帰還する】
◇ ◇ ◇
「はぁっ……はぁっ……」
あれから、どれほどの距離を飛び続けただろうか。
場所も方角も把握できぬまま、ひたすら飛び続けて……やがて彼には限界が訪れた。
飛び続けたスレードゲルミルは、やがて搭乗者の消耗に従うかのように、地べたへと滑り落ちる。
咥えていた斬艦刀が口から滑り落ち、大きな金属音を奏でた。
「げほっ……っく、はぁ……」
息をするだけでも精一杯だ。もはやシンの体力は限界を超えていた。
思えば、朝からずっと戦い通しだ。今のヴィレッタとの戦いで、四連戦となる。
しかもそのどれもが、生死を分けるギリギリの境での戦闘だった。
いかにコーディネイターと言えど、身体を酷使しすぎだ。体力も集中力も尽きかけていた。
シンだけではなく、スレードゲルミルのダメージも無視できるものではない。
全身に蓄積されたダメージは既にマシンセルの自己修復でも追いつかなくなってきている。
左脇腹の傷は特に深い。修復にはかなりの時間を要するだろう。
両腕も失われ、斬艦刀を振るうことすらままならない。
彼には休息が必要だった。
「くそ……っ……急がなきゃ……」
しかしそれでも、シンはボロボロの機体を立ち上がらせ、再び歩みを進めていく。
ここまでの傷を受けてなお、シンは立ち止まることをやめようとしない。
偏に、ヴィレッタから聞き出したジョーカーの情報による。
(レイは俺よりもっと辛い状況にあるんだ……立ち止まってなんて、いられないだろ……!)
二度目の放送までに二人殺さなければ、死。そんな過酷な枷を、レイは填められている。
なおさら休んでいる暇なんてない。一刻も早くレイと合流しなければ。
彼に助けられているばかりではいられない。レイが苦しんでいるというなら、助けなければ。
……どちらにしても、彼がレイに依存しているという事実に変わりはないが。
機体のエネルギーも残り少ない。今はとにかく、最寄の補給ポイントに向かわなければならない。
朦朧とする意識の中で場所を検索し、そのポイントへと機体を向かわせる。
刀を口に咥えてフラフラと歩いていく姿は、この上なく惨めな有様だった。
やがて、シンは補給ポイントへと辿り着く。
設置された補給装置を作動させる。あとは、機械が勝手に補給してくれるだろう。
シンは大きく息をついた。
まずは一段落だ。これで消耗したエネルギーを回復できる。
ご丁寧に失われた両腕も、弾薬と称して補給された。これで、まだなんとか戦える。
今は、休もう。補給が完了するまでの短い間だが、ここで少しでも身体を休める。
本来なら仮眠のひとつも取っておきたいが、もうすぐ放送だ。聞き逃すわけにはいかない。
今はレイの名を呼ばれないことを願うのみだ。
そして……ドモン・カッシュにシーブック・アノー。
彼らにも、死んで欲しくないと……そう思えた。
「……ん?」
突然、モニターに情報が展開される。
「なんだ……?」
いや、違う。この補給装置を通じて、情報が流れ込んでいるのだ。
その情報が、自動的に機体のモニターに展開される。
「――なんだ、これ」
無惨な死体が映し出されていた。
見覚えがあった。ジャミル・ニートだ。
「な……んで……」
その写真に添えられたデータは、他ならぬシン自身の情報だった。
シン・アスカという参加者が、写真の男――ジャミルを殺した。そんな内容だった。
スレードゲルミルの特徴なども事細かに記されている。
危険性だけを、悪意すら感じるほど存分に誇張されて。
「なんだよ……なんなんだよ、これ!?」
探し人としてエルピー・プルとプルツーのことも一緒に書かれていたが、それどころではない。
補給装置の端末にアクセスし、調べる。仕組みはすぐにわかった。
補給装置を使用した機体に、このデータが自動的に流れるトラップが仕掛けられていたらしい。
「くそっ、くそぉっ!!なんで、なんでこんなのが!?消えろ、消えてくれっ!?」
端末を弄り回すも、データを消去できない。他の端末から仕掛けられたもののようだ。
他の端末――つまりは、ここ以外の補給ポイントから。
どうやらこの補給装置、イントラネットの役割もあり、他の補給ポイントと情報が共有されるらしい。
「ま、まさか……」
他の補給装置を使用した機体全てに、同じようにこの情報が流れ込むというのか。
その考えに至った時、シンの表情が瞬く間に青ざめていく――
「う……うわああああああああああああああッ!!!!」
気付けば、補給されたばかりのスレードゲルミルの拳が、補給装置を殴り壊していた。
まだ補給が完了していなかったが、そんなことに構っていられないほどにシンは取り乱していた。
「はぁッ……はぁッ……」
全身に流れる嫌な汗が止まらない。
これは報いなのか。修羅の道を選んだ自分への罰だというのか。
誰も信じられなくなって、差し伸べられた手も振り払って、迷いに迷って。
迷いを振り切るために、闇雲に、必要以上に刃を振るって。その果てがこれか。
「何やってんだよ……俺は……」
ジョーカーの存在を知った。
自分が人殺しだという情報が、他の参加者に知れ渡ろうとしていることも知った。
迷っても、後悔しても……もう、引き返せない。
【シン・アスカ 搭乗機体:スレードゲルミル(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
パイロット状況:疲労(極大)、混乱
機体状況:左腹部に損傷(大)、
その他全身に損傷。マシンセル正常機能中。EN80%
現在位置:D-1
第一行動方針:!?!?!?
第二行動方針:レイを探す
第三行動方針:シ―ブックとドモンには会いたくない
最終行動方針:優勝し、ミネルバに帰還する……?
備考:レイとヴィレッタ、他5人のジョーカーの存在を認識しました】
※D-1の補給ポイントが破壊されました
【1日目 13:50】
最終更新:2010年04月03日 06:50