俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!  ◆POvMLKAPKM



レイ・ザ・バレルとプルツーはしばし足を止め放送に耳を傾けていた。
幸いと言っていいのかどうか、レイの知己であるクルーゼとシンの名は呼ばれなかった。
同じジョーカーであるアギーハの名は呼ばれていた。
張五飛、テッカマンランスと合わせてジョーカーはすでに三人死亡していることになる。

(ジョーカーと言えど決して有利な立場ではないということだな。だが今はそれよりも)

レイは気付かれないようにゆっくりR-GUNリヴァーレの体勢を整えながら、立ち尽くすデュラクシールを見る。
レイの知り合いは呼ばれていない。だがプルツーの家族の名は呼ばれてしまった。

「そんな……ジュドーが……死んだ?」

死んだ27人の内の一人がジュドー・アーシタだった。
人数が減ったのはともかく、このタイミングはまずいとレイは頭を巡らせる。

(まずいな……プルツーは大分不安定だ。今暴走される訳にはいかん)

ほんの少し湧いた共感を黙殺しプルツーの様子を観察するレイ。
ぶつぶつと何事か呟いているのでとりあえず慰めてみるか。

「プルツー……俺はこんな時何と言っていいかわからない。だが気持ちはわかる。家族を亡くすのは辛い事だ」
「……嘘だ。ジュドーが死んだなんて」
「残念だが、今の放送は真実だと思う。奴らが虚偽の放送をする理由がない」
「嘘だ!」

プルツーは叫び、デュラクシールの腕をレイに突き付けた。腕の中に光の剣が生まれる。

「知ったようなことを言うな! お前に私の気持ちがわかるものか!」
「わかるさ……」

ガンスレイヴをいつでも動かせるようにして、レイはゆっくりと口を開けた。

(ここが勝負どころだ……撃つなよ、プルツー)

「さっき話したラウ・ル・クルーゼという男はな……俺の認識では生きてはいないはずなんだ」
「なに……?」
「第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦、と言ってもわからないか? とにかくその戦いでラウは死んだはずだ。
ジェネシス――巨大なガンマ線レーザー砲に巻き込まれてな。誤認はあり得ない。俺もラウの機体が爆散する光景は記録で見た」
「だが、ラウという男はここにいる!」
「そうだ。俺もそれが不思議だった。シャドウミラーには死者を蘇生させる技術でもあるのかもしれない」
「なんだと……?」

言われてプルツーもはっとなった。ここにはプルツーが殺したはずのプルがいる。
ヴィンデルが言った、望むもの全てを与えるという言葉――それには死んだ人間を生き返らせることも含まれるのではないか?
連鎖的にそんな想像をし、そのためには生き延びたプルを殺さなければいけないと思いあたり顔を歪めた。

「だからという訳ではないが、一人で抱え込むな。立場は俺もお前も同じだ。俺はお前に力を貸したいと思っている」
「力を貸す……今さら何をするっていうんだ。ジュドーが死んだのに……」
「だが、まだプルは生きている」

レイは守るべき対象はまだいるだろう、と思い出させるために力強く言った。
同時にレイは支給品の中からペンを取りだし、名簿の白紙部分に字を書き殴る。

「プル……」
「そうだ。ジュドーは間に合わなかったが、プルはまだ助けられる。まだ間に合うんだ」
「そうだ、プルは……プルだけは絶対死なせちゃいけないんだ……!」

プルツーの思考がレイよりプルに傾いて行ったのを見計らってレイは名簿を掲げた。
そこには

【これを読んでも声を出すな。俺たちは盗聴されているかもしれない。】

とあった。
プルツーははっとして何かに気付いたように首輪に手を当てた。
続けてレイは名簿にペンを走らせる。プルツーも自分の名簿とペンを取りだした。

【現状を打開するプランが一つある。お前やプル、俺やラウ、そしてジュドーをみなまとめて救う方法が】
【なんだって?】
【いいか、たとえ優勝しても奴らが約束を守る保証はない。最悪の場合勝ち残った瞬間に首輪を爆破されるかもしれない。
だから俺たちが目指すべきは、勝ち残りではなく反逆だ。仲間を集め、首輪をはずして奴らと戦うんだ】
【そんなことはわかっている! ジュドーを救うとはどういうことだ!?】
【奴らの技術を奪取するんだ。70人もの人間を拉致し、強力な機体を与え、死者を蘇生させるほどの技術だ。
きっとこの殺し合いも……全部なかったことにできるはずだ】
【なかったこと?】
【そうだ。いくらか犠牲が出たとしても、後から蘇生させることができれば元通りだろう】
【それは……そんなことは、おかしい。後から生き返らせるから、殺しても大丈夫だっていうのか!?】
【倫理的に抵抗があるか? だが他に方法はないぞ。お前とプル、そしてジュドーが三人揃って解放される道は】

プルツーはぐっと押し黙る。もうひと押しか。

【強制はできん。お前が奴らの口車に乗り、優勝して望みを叶えてもらうというのであればここで別れよう。
俺はラウを手にかけることなどできない。たとえ一人になっても奴らに戦いを挑む】

「レイ……」
「お前が本当にプルを守りたいと思うなら、俺は力を貸す。だが殺し合いに乗るというのなら……戦うしかないな」
「……」
「すまないが悩んでいられる時間はない。27人も死んだということは殺し合いに乗る人間が数多いということだ。
ラウを探すために俺は行くが、お前はどうする?」

ここで考える時間を与えてはいけない。今はレイを主催者打倒のための仲間として認識させることが最優先だ。
一分ほどすぎ、レイが焦り始めたところでプルツーは顔を上げた。

「……私も行く」
「プルツー?」
「プルを……守る。守りたいんだ。だが私だけではまた間に合わないかもしれない。だからレイ……お前の力を」
「それ以上言うな。お前の気持ちはわかると言っただろう? さあ、プルを探しに行こう」
「いいのか? お前はラウを探さなくて」
「ラウならこんな状況でもうまく立ち回っていることだろう。それに何と言ってもラウは一軍の隊長だからな。
今ごろ何人も仲間を作って俺を逆に探してくれているかもしれない」
「隊長か……プルにはとても無理だな」
「だろう?だから先にプルを探すのさ」
「……ありがとう」

プルツーは弱々しく笑った。そこにはさきほどまでの警戒する硬い表情はない。
うまくいった、とレイは微笑んだ。表面上はプルツーに応えたように見えるが、もちろんそうではない。
レイは主催者打倒などこれっぽっちも考えてはいない。
ジュドーを失ったプルツーを引き付けるためには、亡くした者を取り戻せる、その一縷の希望に縋らせる必要があった。
プルの捜索に協力するという名目がある限りはプルツーはレイの敵にはならない。
彼女をうまく利用し、敵対者を撃破していく……感触は上々だ。

「しかし、これからどこへ行くんだ?」
「そうだな……プルツー、お前の能力でプルの居場所わからないのか?」
「無茶を言うな。さすがにこんな広い場所ではわからない」
「なら、やはり人の多い場所を手当たりしだいにあたるしかないな。
ここから近い施設は……東に向かって北上し基地に行くか、南下して要塞に向かうかどちらかだな」
「北か南か」
「まあとりあえずは東に向かおう。誰かと接触すればその後改めて考えればいい」
「わかった」

そのまましばらく二人は東に向かって飛ぶ。

「……プルツー」
「なんだ?」
「もし、方針を確認しておこう。これから先、好戦的な参加者と出会ったときはどうする?」
「倒すに決まっている! そんなに奴を放置していてはプルに危険が及ぶかもしれないからな」
「そうだな。ではそうでない友好的な者と会った時は情報交換を持ちかけよう」
「一緒に行動するのではないのか?」
「そいつが了承すればいいが、目的があるかもしれんからな。それに、別々に動いた方がプルと出会える確率は高くなる。
合流場所の伝言でも頼んでおけばいいだろう」
「わかった。といっても私達が知っている情報といえばさっきのアポロと、お前が戦ったという鬼みたいなやつくらいだぞ」
「貴重な情報さ。殺し合いに乗っている危険人物だからな」
「そうだな……むっ!? レイ、あれを見ろ!」

二人の前方に巨大な光の柱が立ち昇った。
つい数時間前にもみた光、アポロが放った強力な攻撃とまったくいっしょだ。

「どうやら戦闘が起こっているようだな。アポロに間違いないだろう」
「アポロめ……!」
「おいプルツー、待て!」
「危険人物は倒すと言っただろう! 今度こそあいつを!」

止める間もなくプルツーはすっ飛んで行った。
見送るレイはさてどうするかと迷う。

(ここでアポロを倒しておくのは悪くない。アポロと交戦している何者かとも接触できるな。だが俺が前線に赴くことは避けたい……)

「プルツー、俺の機体はまだ再生中だ。アポロのような強力な機体とぶつかるには分が悪い。ここは任せてもいいか?」
「わかった! 巻き込まれないように退避していろ!」
「すまない。出来る限り援護はする」

信用の証だろうか、プルツーはさほど疑うことなくそういった。アポロに気を取られているのだろうか。

(どちらでもいいか。とにかくこれで俺は戦場を俯瞰できる立ち位置を得た。
プルツーが危うくなれば援護するし、勝ちそうならとどめをもらう。ノルマをこなしておくに越したことはないからな)

戦闘を確認できるくらいの距離で岩山に機体を隠すレイ。
そこにいるのはプルツーのデュラクシール、アポロのダンクーガ、そして見知らぬ機体が二機。

(あの頭部……Gタイプか。だが連合の物でもザフトの物でもないな……)

レイが見ているのはコズミックイラではなく未来世紀のガンダムだ。
その名をゴッドガンダム。宇宙最強の格闘家、キングオブハートのガンダム。
ゴッドガンダムは二回り以上大きいダンクーガと互角の戦いを演じていた。
ダンクーガの鉄拳をまともに受けず受け流し体勢を崩し、すかさず一撃を加えて離れる。
かと思えば一瞬で懐に飛び込み、目にも止まらない攻撃を繰り出しダンクーガを吹き飛ばす。
武器に頼らず機体の四肢で戦うガンダム。見ているだけでパイロットのとんでもない腕がわかる。

(キラ・ヤマト並み……いや、格闘戦では奴ですら足元に及ばんな。オーブにあのような動きをするパイロットがいると聞いたことがあるが)

そこにプルツーが飛び込んで行き、事態を把握しかねたか双方の動きが止まる。
その瞬間――

「何!?」

レイの見ている前でゴッドガンダムが爆発した。




「総士……」

荒野の中、ゴッドガンダムとクストウェル・ブラキウムもまた放送を聞くために留まっていた。
そして呼ばれた死者の名前。知らない名前であろうともロムは怒りを抑えきれない。
こんな殺し合いですでに27人もの尊い命が失われた。そしてその中にはカノンの探し人もいたのだ。
竜宮島の仲間、皆城総士。そして別人であると思っていた羽佐間翔子。その二人の名があった。

「総士が死んだ……? それに、翔子も……」
「カノン……」

これでカノンの仲間と共に島に帰るという願いは叶わなくなった。
まだ他に三人いる。三人しかいない。一人はもう永遠に帰って来ないのだ。

「すまん、カノン。俺が不甲斐ないばかりに……」
「ろ、ロムが悪いわけじゃない……そ、それに、今の放送が本当かどうかだってわからないじゃないか!
私は信じない……総士が、し、死んだなんて!」
「だが、カノン……」

放送はおそらく真実だ、とロムは言おうとした。
カノンもそれはわかっているのだろう。だがあまりにもあっけなく告げられた宣告に納得できずにいる。
その気持ちを推し量りロムは口を噤む。無理に正論を説いたところで得るものはない。
カノン自身が現実を受け入れるまで、ロムは待ってやることしかできない。
しばらく二人とも無言でいたが、やがてロムは視線を険しくして彼方を睨む。

「獲物見つけたぁっ!」

その方向から空を割くように舞い降りてきたのは野生児アポロと超獣機神ダンクーガ。
落ちてくる勢いを利用し断空剣を振り下ろす。その先にいるのはいまだ呆然自失だったカノンのクストウェル・ブラキウム。

「させんっ!」
「なにっ!?」

断空剣がクストウェル・ブラキウムを真っ二つにする寸前、ゴッドガンダムの蹴りがダンクーガの手から断空剣を吹っ飛ばした。
アポロはまさかダンクーガよりかなり小さいはずの敵に防がれるとは予想もしておらず動揺した。
そこに一気にロムが距離を詰めてパンチとキックの連打を浴びせる。

「いててっ! こんにゃろ……!」

自慢の鉄拳を振り回すダンクーガだが、ゴッドガンダムは優雅な足さばきでひらりひらりとかわす。
そして的確にカウンターを打たれダンクーガはあえなく後退した。

「こいつ……やりやがる! へっ、上等だ!」
「待て! 俺たちは戦いに乗る気はない! 拳を収めろ!」
「ああ? ちっ、またお説教かよ。俺を止めたけりゃ力づくで来いってんだ!」

奇襲をあっさり防がれ手痛い反撃を喰らったアポロはすでに熱くなっており、是が非でもロムに仕返ししてやると息巻いた。
その愚直だがまっすぐな感情はロムにも届き戸惑わせる。

「なんだ……この邪気のない拳は!?」

ダンクーガの鉄拳をいなしながらもロムはアポロを悪人ではないと感じた。
テッカマンアックスに感じたような悪意や暗黒大将軍にあった信念が感じられない。
だが攻撃は紛れもなく本物であり、まともに当たればゴッドガンダムとてただでは済みそうもない。

「オラオラオラオラ!」
「くっ、聞く耳もたずか……ならば!」

キックをダッキングして避けて、ゴッドガンダムはダンクーガの軸足を蹴った。
ダンクーガの巨体が傾いて地面に叩きつけられる。

「ぐああああ!」
「殺しはせん、だが戦う力と意志は奪わせてもらう!」
「この……舐めんなああっ!」

ダンクーガが飛び起きてゴッドガンダムへと突進する。
だがゴッドガンダムは闘牛士のようにダンクーガの鼻先で舞い、そのたびにカウンターを入れていく。
その動きはロムの強さを知っているカノンでさえ一時の動揺を忘れて見入ってしまうほどだった。

「……ノン、カノン!」
「! え……?」
「カノン! 君は下がっていろ!」

気遣われているのだとカノンは思った。
たしかに総士と、それに翔子の名が呼ばれた動揺は大きい。
だが今ロムが闘っている敵は明らかにテッカマンアックスや暗黒大将軍ほど恐ろしくはない。
自分でも戦える、その思いがカノンの中で燃え上がった。

「わ、私も戦える!」
「駄目だ! 今の君には背中を預けることはできない!」

ロムは許さなかった。
友の死を受け入れず目先の戦いで悲しみを忘れようとしても、そんな気持ちで一体誰に勝てるというのか。
こと戦いにおいてロムは一切の妥協を見せなかった。

「戦いに逃げるな! 君の悲しみは君自身が抱えていくしかない。その気持ちを有耶無耶にしたままでは何も見えてはこない!」
「で、でも!」
「君の力が必要な時はいずれやって来る。だからここは俺に任せてくれ!」

そこでロムは言葉を切り、アポロとの戦いに集中した。
アポロもまたロムを差し置いてカノンを狙う気はないようで、一対一なら好都合だとますます勢いを増してロムに襲いかかる。
カノンは渋々、ロムの邪魔にならないように二人から距離を取る。

見ていればロムは勝つだろうというのはわかる。腕の差がありすぎる。
だがアポロはたまに驚くような動きでロムに迫る。その度にロムはうまく捌くもののカノンは冷や冷やしっぱなしだった。
自分でもあの攻撃は避けられる、でもその次の動きはどうだ?
アポロとの戦いをシミュレートし、自分はおそらく負けるだろうなと漠然と推測した。

(あいつ、がむしゃらだけど迷いがない……だから動きも速いんだ)
21 名前: 代理投下 [sage] 投稿日: 2010/04/04(日) 00:46:29 ID:W5OckyCC
今のカノンではロムはもちろんのことアポロにもついてはいけない。
全力を出し切れない者に背中は任せられないのは当然のことだった。

(でも……じゃあどうしろって言うんだ。総士が死んだなんて、認められるものか……!)

放送という楔はカノンの奥深くに打ち込まれた。
他のみんなはどうするだろう。真矢は悲しむだろう。甲洋はそれほど知っている訳ではないのでよくわからない。
だが一騎は間違いなく動揺する。それもカノンの比ではないほどに。
一騎と総士の関係は島の外から来たカノンにだってわかるくらいに深い。
幼馴染とか親友とかでくくれるようなものではない。
クロッシングを用いるという意味を除外しても、半身と呼べるものだったかもしれない。

(一騎……お前はどうするんだ? 総士が死んだって聞かされて、どう思うんだ?)

迷いは晴れない。
そのカノンの目前で何度目かわからないくらいに叩きのめされたアポロが吠える。

「くっそ……! ちっとも当たりやがらねえ!」
「動きが大雑把すぎる。それでは俺に一撃入れるなど不可能と知れ!」
「うるせえ! パンチが当たらねえってんならこうするまでだ!」

ダンクーガは大きくゴッドガンダムから距離を取り全身の砲門を前方に向ける。
プルツーとの戦いで繰り出した断空砲フォーメーションの構えだ。

「パンチが当たらねえんなら……避けられねえくらいにでかいのをぶっ放す! うおおおおおおおおおおっ!」
「こ……この力は!」

ロムの後ろにはカノンがいる。避けることは簡単だが、それではカノンに直撃するかもしれない。
一瞬で判断したロムは光が収束しきる前にダンクーガに向けて跳んだ。

「天よ地よ、火よ水よ……我に力を与えたまえ……!」
「吹っ飛べええええええええええええええっ!」
「とああああああっ!」

断空砲フォーメーションが発射される――その寸前。
分身しながら近づいたゴッドガンダムの右拳が光り、ダンクーガの腹を殴り付けた。
衝撃でダンクーガは上を向かされる。
断空砲フォーメーションは空に向けて発射された。
間近にいたゴッドガンダムもまた、その光の中に巻き込まれる。

「ろ……ロム!?」

断空砲フォーメーションの凄まじい光を呆然と見ていたカノンが我に返る。
膝をつくダンクーガ。

「……ここまでだ!」

そしてそのダンクーガの腕を捻り上げるゴッドガンダムの姿があった。

「ロム……!」
「くそっ、外したか!」
「機体から降りろ。この体勢では逃げられんぞ」
「んだとっ!」

ロムの言葉通り、ダンクーガが必死にあがこうとするがどこを押さえているのかゴッドガンダムをどかせられない。
だがゴッドガンダムも無傷ではなかった。ダンクーガを殴った右腕が余りの高熱に黒く焦げ付いている。
ゴッドガンダムはパイロットの動きを反映する機体だ。つまり、ゴッドガンダムが受けたダメージまでもパイロットにフィードバックしてしまう。
ロムの右腕もまたとてつもない痛みに襲われていた。指先を動かす事も出来ない。
だがロムは顔色一つ変えず、残る左腕でダンクーガを押さえに出た。

結果アポロは自由を奪われこうして地に這いつくばっている。
ダンクーガのエネルギーにはまだ余裕がある。しかしこの体勢から頭上のゴッドガンダムを攻撃する武器はない。

「武器はない……じゃあこうすりゃいいんだよ!」

だがアポロは元々武器に頼らず戦うタイプ。
そしてダンクーガにはある特殊な機能があった。

「な……!?」
「分離した!?」

ダンクーガの頭部がはじけ飛び、鳥になって飛ぶ。
分離・合体機能。このように敵に捕まったときの緊急回避手段として用いることもできる機能だ。
イーグルファイターは戦闘機形態のままくるりと旋回し、抜け殻となったダンクーガを掴んでいるゴッドガンダムに体当たりした。

「ぐあ……!」
「へへっ、どうだ!」

片腕の動かないロムはろくに防御できず吹き飛ぶ。そして空いたダンクーガの上にアポロは悠々と着地し、再度合体した。
ゴッドガンダムもまた立ち上がる。だが断空砲フォーメーションのダメージは大きく、動きはぎこちない。
カノンはもう見ていられず、強引にでも戦いに加わろうとクストウェル・ブラキウムを前進させる。

「ロム! 私も……」
「手を出すな! これは一対一の勝負だ!」

だがやはりロムによって制止された。

「そんなことを言ってる場合か!そのダメージでは!」
「己が一度始めた勝負ならば、不利になったといって助太刀を頼むわけにはいかん!」

それはロムの矜持だった。
相手がギャンドラーのような非道の輩ならともかく、アポロはきっかけはどうあれ戦いそのものは何の裏もなく向かってきた。
断空砲フォーメーションを撃った時もカノンを一緒に狙った訳ではない。ロムを狙った時たまたま後ろにカノンがいただけだ。
そうさせてしまったのはロム自身の未熟さと言える。だからこそ、ロムはアポロと正々堂々と戦い勝利しようとしている。

「俺の名はロム・ストール! お前の名は何と言う!?」
「アポロだ!」
「アポロか……ではアポロよ、仕切り直しだ!」
「言われるまでもねえ、勝つのは俺だ!」

互いの名前を交換してロムとアポロは再びぶつかり合う。
先ほど以上に激しさを増す激突にカノンは息を飲む。
片腕が動かないというのにゴッドガンダムはますます鋭い動きでダンクーガを翻弄し攻め立てる。
一方スピードではかなわないと見たダンクーガは装甲の厚さを活かし、ゴッドガンダムが攻撃した瞬間を狙い反撃する。
技量は遥かに届かなくとも、アポロの野性の勘はときおりロムの想像以上の瞬発力を見せる。
相打ち狙いだと見抜いたカノンは冷や汗をかく。一度でも直撃すればゴッドガンダムは動けなくなってもおかしくはない。

避けて、殴って、避けて、蹴って、避けて、蹴って、避けて、避けて、避けられずに受け流して……
気が遠くなるような攻防が続く。
いつまで続くんだ、とカノンが焦り出した時状況が動いた。

「「っ!?」」

ゴッドガンダムとダンクーガの中間に撃ち込まれた砲撃が大地を吹き飛ばす。
距離を取った二人の前に巨大な機体が舞い降りてきた。

「見つけたぞアポロ! 今度こそおまえを倒す!」
「てめえは……さっきのやつか!」

プルツーのデュラクシールがダンクーガに襲いかかる。
しかしその鼻先に疾風のように回り込んだゴッドガンダムの手があった。

「くっ、邪魔をするな! お前達もこいつに襲われたんだろう!?」
「……なるほど、君もこの少年に用があるということか」
「そうだ!こいつは危険だ、だから私が……!」
「済まないが、それは少し待ってもらいたい」

プルツーの言葉を遮るロム。

「君の事情も知らずに言うのも申し訳ないが、この場は俺に預けてくれないか?」
「何……?」
「このアポロという少年の拳には邪気がない」
「だからなんだ。助けろとでも言いたいのか?」
「いいや。俺が彼と拳で決着を付ける、そう言ってるんだ」

ロムの言葉にプルツーはたじろぐ。カノンも同じだった。
だがプルツーも最初の場所で主催者に大見えを切ったロムのことは覚えている。
そのロムの揺るぎない決意に圧倒され、デュラクシールはゴッドガンダムに道を譲った。

「さあアポロ、決着をつけるぞ」
「俺は別に全員まとめてでもいいんだがな。まあいいや、やってやるぜ!」

お互いにこれで終わりだという覚悟を決めて拳を握る。
ダンクーガが駆け出し、体ごとゴッドガンダムにぶつかっていく。

「おりゃああああ!」
「天空宙心拳、奥義……!」

ゴッドガンダムの全身が光り輝き、カノンとプルは思わず目を背ける。
ダンクーガの鉄拳が炸裂する寸前でゴッドガンダムが深く腰を落とし



――――ズドォォーーーーーーーン――――



吹き飛んだ。
カノンは確かに聞いた。太く重々しい音、この場に鳴るはずのない音を。
慌てて駆け寄ったゴッドガンダムは地に伏して、ピクリとも動かない。
ダンクーガは立ち尽くしている。

「な……なんだ?何がどうなってんだ?」
「アポロ、貴様……!」
「ま、待て! 今のは俺じゃねえ!」
「とぼけるな! 何が拳で決着を付けるだ!やはりお前は生きていてはいけない奴なんだ!」
「く、くそっ! 何がどうなってんだ!?」

襲いかかって来るデュラクシール。
アポロは何か異常な事態だと気付きつつもプルツーの猛攻の前ではその違和感を説明することができない。

ダンクーガの頭上を飛び越えてきた砲弾を、プルツーはダンクーガが放ったものだと勘違いした。
おりしもゴッドガンダムがハイパーモードに突入したときの光で視界が利かなかったときのことだ。
ゴッドガンダムの背中の放熱フィンが熱と光を全て後方に排出したからこそ、プルツーにはその砲弾がどこから来たのか判断がつかなかった。
頭の隅ではそれをおかしいと思う部分がある。しかしジュドーを失った悲しみはプルツーから冷静な思考を奪っていた。

アポロを放っておけばプルが危ない。それどころかジュドーを殺したのもアポロなのかもしれない……!

すべての原因がアポロにあると断じプルツーはアポロへと襲いかかる。
レイは後方、ロムは倒れ、もうプルツーを止める者はいなかった。




「命中、っと。これでいいのかい?」
「まだだ……あの強き者は……まだ絶えてはいない……」

戦場から遠く離れた岩陰に潜む影が二つ。
一つはティンプ・シャローンのテキサスマック。
もう一つは剣狼を手にするメリオルエッセが一柱、ウンブラ。

ウンブラは放送を聞く片手間に地面に埋まっていたティンプを掘り起こした。さきほど戦ったロムを陥れるための布石になると思ったからだ。
予想以上に死者の数が多いことに驚きながらもウンブラは心地よくその流れに身を委ねる。
この場には負の感情が渦巻いている。その勢いはとどまる事を知らない――恍惚としているウンブラにティンプは『手を組まないか?』と声をかけた。

ウンブラは宇宙に上がろうとしていた。
だが最も近いシャトル施設には殺し合いに乗ったものが二人いる殿情報がティンプによりもたらされた。
排除することもできなくはないだろうが、二人となれば苦戦は必至だ。
そこにさきほどのロムが追いついてきてはたまらない、とウンブラは話だけ聞くことにした。

ティンプもまたゾラにはいないタイプの、そもそも人間ですらないウンブラとの距離の取り方に苦心しぎこちない情報交換をして。
そうこうしているうちにロムとアポロの戦闘を察知し、では手を組む条件としてロムを倒せとウンブラが言ったのが馴初めだった。
やることはティンプが最初にこの場でやった事と同じだ。揉み合っているところを狙いハイパワーライフルで狙撃する、ただそれだけ。
さほど抵抗もなくティンプは了承した。

この距離ならばハイパワーライフルの射程内だし、万一こっちの居場所がばれたとしてもまだあそこには動物みたいな機体が残っている。
まさか敵に背を向けてまで仲間の仇打ちに向かってきはしないだろう――とゾラのルールで考え、ティンプはあっさり引き金を引いた。
弾丸は狙い通りの弾道を飛び、目標に見事命中した。
だというのに相方は仕留めていないという。

「直撃の寸前……あの光輝の力で身を守った……まだ、生きている……」

煙が晴れれば、ウンブラの言葉通りゴッドガンダムはまだそこにいた。
本来なら腰から上はこっぱみじんになっているはずが、無いのは左腕だけだ。

(どうやらあの拳で砲弾を撃ち落としたって訳かい。とんでもねえ化け物だな)

狙撃を一瞬で察知し、あまつさえ道具を使わず拳で迎撃する男。
まともに戦っていればどうなっていたことか。
だがとにかく戦闘力の大部分は奪えたに違いない。倒れたまま起き上がらないのだから。

「で、どうするんだ。とどめをさすかい?」
「無論……」

ウンブラは影のようにすすっと荒野を走っていく。
機体はどうするんだと言おうとしたティンプだが、どうでもいいかとハイパワーライフルを弄びながら戦場を観察するティンプ。
これであの場にいる者全てを倒せるかどうかは微妙だ。適当に間引いたら離脱するのがいいだろう。
しめたことに残っていた機体と後から来た機体が交戦し始めた。
残る一つは倒れたままのロムを庇う構えだ。

(星四ついただきだ。いや……あの変な嬢ちゃんに当たっちまえば五つか。運が良ければ当たらんだろ、悪く思うなよ)

ウンブラに当たってもまあ仕方ないか……というような気分でティンプはハイパワーライフルを構え、引き金を引く。
狙いはダンクーガと争うデュラクシール。


――――ズドォォーーーーーーーン――――


再度発射された砲弾はまっすぐにデュラクシールの背中に向かって飛ぶ。

「見つけたぞ、痴れ者がぁぁああああああっ!」

しかし炸裂する寸前巨大な剣が飛来し、ハイパワーライフルの弾丸を切り払った。
後を追うように現れたのは全身に傷を負った巨人だ。

「あ、あいつは……!」

ティンプにも見覚えがある姿。7時間ほど前、まさに今とまったく同じ状況でティンプが撃った相手。
ミケーネの武人暗黒大将軍が戦場に踊り込んできた。



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081:不穏な予感 ロム・ストール 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
081:不穏な予感 カノン・メンフィス 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
081:不穏な予感 ウンブラ 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
090:人形~にんげん プルツー 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
091:真実は遠く、未だまどろみの中に アポロ 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
081:不穏な予感 ティンプ・シャローン 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
092:次なる戦の為の休息 暗黒大将軍 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)
090:人形~にんげん レイ・ザ・バレル 100:俺だってロムさんと組めば対主催として活躍できるはずなんですよ猿渡さん!(後編)

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最終更新:2010年04月10日 12:03