破滅の従者 ◆ZbL7QonnV.


――変わらない。
そう、何も変わりはしない。
恐怖を、悲痛を、憎悪を、絶望を、無念を、苦悶を――
そう、人が持つ“負の感情”を狩り集めると言う、ワタシのする事に変わりは無い。

「くっ……! こ……この、バケモノが……!」
ほんの微かな焦燥と、ゆっくりと湧き上がる死の恐怖。
ワタシが追い詰めている人間からは、それらを感じ取る事が出来た。
負の感情が、我が身に伝わる。
ワタシは、それに満足を覚えた。
そうだ、怯えろ……恐怖に竦め……。

「血と肉からなるものよ……恐怖の中で散れ」
「ちぃっ……! やってやる……やってやるぞ!!」
ワタシは自分に与えられた機体――
バイオトリケラを猛スピードで突撃させて、目の前に立ち塞がる敵機を襲う。
見慣れないタイプの、人型のマシンだ。
パイロットの腕は悪くないが、機体のポテンシャルはそれほど高くない。
ワタシは周囲の探索を行い、これを発見。攻撃を仕掛けて、今に至っている。

「くらえぇぇぇぇーーーっ!」
敵機の構えたビームライフルから、正確な射線を描いてビームが迫り来る。
だが、無駄だ。この程度の攻撃では、バイオトリケラには通用しない。
バイオゾイドの恐竜を模した装甲には、ヘルアーマーと言われる特殊な流体金属が使われている。
さらに、それに加えて、バイオトリケラには“フレアシールド”と呼ばれるバリアシステムが存在する。
これがビームや実弾兵器を弾き、バイオトリケラに強健な防御能力を与えている。
並大抵の攻撃では、この防御を突破する事は出来ないだろう。
メタルZi――あるいはリーオと呼ばれる鉱石で作られた武器ならば、この鉄壁の防御を貫通する事も可能らしいが――
「くっ……! やはりか……あの機体、何か妙なバリアを使っている……!」
どうやら、あの人型機体にリーオの武器は装備されていないらしい。
あるいは薙刀で、あるいは銃で、何度も攻撃を仕掛けてはいるが、ワタシを倒すには至ってない。
敵機が仕掛ける苛烈な攻撃は、焦りと不安の裏返しだ。
死と敗北の恐怖を虚勢で誤魔化し、勢いに任せているに過ぎない。
それが、ワタシには心地良く感じられた。

「今度は、ワタシの攻撃だな……」
ゴオと吼え声を上げながら、バイオトリケラは猛烈な勢いを付けて走り出した。
頭部から突き出た二本の巨大な角が、赤い機動兵器に狙いを定める。
バイオトリケラの本領は、突進の威力を利用したチャージにこそある。
バイオゾイドの中でも特に強固な防御能力を誇るバイオトリケラは、敵の攻撃に怯む事無く突撃を強行する事が可能だ。
撃ち放たれるビームの威力をフレアシールドで防ぎながら、ワタシはバイオトリケラを突撃させる。

「……伝わる」
「なに……?」
「伝わるぞ……お前の恐怖が……負の感情が……。
お前は恐れている……これから自分が何も出来ずに殺される事を、心の底で理解している……」
「っ……! 舐めるな、そう簡単に俺がやられると……!」
「お前にもわかっているはずだ……ワタシはまだ、本気を出してなどいない……。
その気になれば、今すぐにでもお前を殺す事が出来るのだぞ……?」
「はったりは止せ……! お前の言う事が真実なら、何故俺を殺してない!?
この状況で手加減をする理由など、どこにあると言うのだ……っ!」

そう叫んで、赤い機体に乗った男は、バイオトリケラに向かって走り出す。
そして――

「正面から突っ込むだけしか能の無いイノシシに……この俺がやられてたまるかぁぁぁッッッ!」
――その手に持った薙刀を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で赤い機体は大きく跳躍した。
バイオトリケラの背中を飛び越える形で、赤い機体はワタシの背後に回り込む。
……悪くない、見事な腕だ。
思い切りも良い。

「背後から攻めれば、その妙なバリアも働くまい……!」

だが――
その行動は、予測済みだ。

「……先程の問いに答えよう。理由は、ふたつ。
この機体の扱いに慣れる為と、そしてなによりもお前の恐怖を煽る為だ。
あっさりと殺したのでは、恐怖を感じる暇も無いだろうからな……」
「な……に…………?」
バイオトリケラの尾を振って、ワタシは敵機を――はたき落とす!

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
どがしゃあ、と激しい音が聞こえて人型の機体は地面に倒れ込んだ。
立ち上がる暇は与えない。
ワタシは倒れ込む敵機の元にバイオトリケラを駆け寄らせて、機体の下半身を踏み潰した。
これでもう、逃げられない……。

「き……貴様ぁぁぁぁっ……!」
「さて、次は武器だ……」

それに続いて、ワタシは腕と武装を踏み潰す。
……コックピットに傷は付けない。
ゆっくりと……そう、ゆっくりと……。
真綿で首を絞めるように、少しずつ機体を破壊していく。
そう……死の恐怖を……負の感情を味わってもらう為に……。

「あ……あ、あ…………っ」
「狂おしき絶望と、耐え難き恐怖の中で、死にゆけ。人間よ」

……そして、ワタシは長い時間を掛けて踏み潰した。
その中に閉じ込められた人間ごと、人型の機体のコックピットを。
恐怖と絶望に泣き喚く人間からは、極めて良質な負の感情が得られた……とだけ言っておこう。

……ここが、どこなのか。
そして自分に殺し合いを強いたあの人間が何者なのか、ウンブラは知らない。
いや、知る気も無い。
自分は破滅の王に仕えるメリオルエッセであり、いかなる状況においてもその使命を違える事は無い。
そう、人間を殺し、負の感情を狩り集めるだけだ。

鉄屑と肉片に変わり果てた敵に背を向け、破滅の従者――ウンブラは次の獲物を探して彷徨い始めた。



【ウンブラ 搭乗機体:バイオトリケラ(機獣創世記ゾイドジェネシス)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好、エネルギー消費小
 現在位置:B-7 荒野
 第1行動方針:人間を殺して負の感情を狩り集める
 最終行動方針:狩り集めた負の感情を破滅の王に捧げる】

【エリート兵 搭乗機体:シャア専用ゲルググ(機動戦士ガンダム)
  パイロット状況:死亡(ミンチ)
  現在位置:B-7 荒野
  機体状況:スクラップ】

【一日目 7:00】


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最終更新:2010年02月21日 17:15