シ者と奏者 ◆UcWYLVG7BA
「…………やれやれ、よく判らない事に巻き込まれたねぇ」
見上げる空は地球と変わらず青く澄み切っている。
そんなたわいもない事をコクピットの中で足を組みながら彼を思っていた。
彼はそんな青い青い空を見ながらただ、思考を巡らして
「……これは誰の意志かな? ゼーレ……それとも?……何でもいいか」
そこで考える事を放棄した。
彼が考えても何か変わる訳でもない。
まして、この殺し合いの事を深く考えた所で、自分の役割がどんなものであるかなんて今回ばかりは判りしないだろう。
これがゼーレや、計画に関わってないのなら、もはや自分が与えられた役割なんて必要は無い。
「じゃあ……どうするかって事だけど……どうしようか……」
ならばこの与えられた殺し合いの中で彼はどう動くべきなのだろうか。
彼は少し考えて、直ぐ結論へ導く。
彼自身が与えられた元々使命はアダムと融合しサードインパクトを引き起こす事。
そして、その結果の先にあるのは人類の滅亡。
ならば―――
「ふう……知っているかい?」
一息をついて、彼は周りには誰もいないのに語りかける。
この場に同じく居るはずの彼が知っている『少年』に対しての問いかけなのかは彼しかわからないけど。
彼は静かに、だけど明朗に問いかける。
「僕が生き続けることが僕の運命だからだよ。結果、人が滅びてもね」
自分の生を運命と位置づけ。
その結果、たとえ人が滅んだとしても。
それでも生き続けるだろう。
「生と死は等価値なんだ……僕にとってはね」
生と死は表と裏で。
彼にとっては等価値でしかなく。
そして
「自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」
それでもなお。自らの死を自由と謳う。
彼の名は渚カヲル。
人類を仇なす存在、最後のシ者。
第十七使徒、タブリス。
彼はこの殺し合いでも、人類に仇なし続け。
生と死を見続けながらも生きていき
そして、いつか人の手で死ぬだろう。
「……歌はいいね」
ふと、気がつくと彼は歌を口ずさんでいた。
人、リリンが生み出した文化の極み。
その歌を口ずさみながら、ふと自分が乗っている機体を見る。
機体を見ながら彼は微笑んで楽しそうに歌うようにいった。
「さて……この仔はどんな歌を歌ってくれるのかな?」
彼が見た機体。
天使のような羽を持ち、世界を調律せんとする巨人。
世界に響く歌を歌う、蒼と白の神人。
そう、それは――――神の奏者、ラーゼフォン。
【渚カヲル 搭乗機体:ラーゼフォン
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:F-7 海上
第一行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす
最終行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす】
【一日目 06:30】
最終更新:2010年02月21日 17:16