歴戦の勇者 ◆KKid85tGwY
森の中で天を衝く鉄の威容は、かつて偉大なる勇者とまで形容された伝説の機体だった。
グレートマジンガー。
現代に蘇ったミケーネ帝国の侵略に備え兜剣造博士が製作した、かのマジンガーZの後継機である。
その戦闘能力は強大なミケーネ帝国の戦闘獣の数々を打ち破った。
全身は超合金Zより軽量かつ4倍の強度を誇る、超合金ニューZの装甲に覆われ
大気圏内をマッハ4の速度で飛行し
1発がTNT火薬800t分に相当する威力を持ち、装弾数が99もあるネーブルミサイル
40000度の熱光線から氷点下の冷凍光線も放てる、放射兵器ブレストバーン
3000000ボルトの高圧電撃を、任意の方向へ発射するサンダーブレーク
そしてマジンパワーと呼ばれる、出力上昇機構等など
規格外といっていい高性能と武装を併せ持つ超兵器である。
「モビルスーツとは設計段階からの技術体系が根本的に異なる人型兵器。しかも破格の高性能。
……フン、こいつならあのダブルゼータも楽に落とせそうだ」
グレートマジンガーの頭部、ブレーンコンドル内のコックピット。
そこで短いマントを背負ったノーマルスーツを着た、いかにも屈強そうな男がマニュアルを眺めながら1人ごちる。
ラカン・ダカラン。一年戦争の頃から従軍している、ベテランモビルスーツパイロット。
ネオジオンに所属していたが、グレミー・トトが造反した際
地球の支配権を条件に、グレミー側につく。
しかしエゥーゴとの戦闘で敗北し死亡した。…………はずなのだが
気が付けば、殺し合いを告げられた場所にいた。
ここに来る直前は機体が爆散する寸前の状況で、あそこから自分が生還できるとは思えない。
なのに何故自分は生きている? あの刹那に瞬間移動でもしたのか?
そして殺し合い。
どうにも理解できないことだらけだ。
「…………これから、どうするか? だな…………」
しかし起こったことを、いつまでも思案していてもしょうがない。
幾ら考えたところで、理解できることでも無さそうだ。
とにかく殺し合いは始まっている。対処を考えねばならない。
もっとも、最終的な目標はすでにはっきりしている。
生き残る。
地球の支配すら見えた状況で、無念の敗北のうちに消えるはずだった命を再び拾ったのだ。
ここから生きて帰還し、必ず大望を果たす。その決意は固い。
では具体的にどう動いて目的を達するか、だ。
単純にルールに沿うなら、殺し合って勝ち残るほかないだろう。
だがそれは主催者の言っていた、最後の1人は生き残らせるという話が信用できればだ。
殺し合いを開いた目的は分からない以上、優勝が決まった瞬間
自分たちに危害を加えられることを恐れた主催者が、約束を反故にして首輪を爆破する可能性も考えられる。
そうなると殺し合いのルールを壊すしか、方法はなくなる。
つまり首輪を外して、この場所から脱出するわけだ。
しかしそれは、殺し合いに勝ち残るより難しい手段だろう。
まず首輪の解除することは、恐らく自分にはできない。
それができる者を捜し出して、手を組む必要がある。
だがそもそも参加者には、首輪の解除は不可能なのかもしれない。
それに解除できたとしても、主催者が自分たちを放置しておくはずもない。
つまりまったく未知数の主催者と、勝算も見えない戦いが待っている。
まるで雲を掴むような話だ。
優勝と脱出。思いついた生還の方法は、大まかに分けて2つ。
さてどちらを選ぶか?
選ぶ基準となるとやはり、どちらが成功の可能性が高いか?
「……まずは情報を集めるとするか」
しばし熟考したラカンが選んだ方法、それは『両方』。
まず積極的に他の参加者に接触して情報を集める。
首輪の解除や、とにかく脱出のための手段があればそれに協力してでも便乗する。
そしてもし脱出が不可能、あるいはリスクが大きすぎると判断すれば
殺し合いに乗り、優勝を目指す。
この方法は利点が多い。
まず両方の手段を試せるから、単純に可能性が高まる。
もし上手く協力者をえれれば、序盤の危険や消耗を抑えられる。
そして殺し合いに乗るとしても、それまでの信頼関係を利用して不意を討てるかも知れない。
もっとも自分も同じリスクを負うわけだが。
そもそも他の参加者と接触するさいに、不意を討たれる危険は高い。
後手に回っても自分の腕とグレートマジンガーの性能なら、いくらでも戦える自信はあるが
とにかく油断は禁物だ。
ここにはどんな機体やパイロットがいるか知れたものではない。
何よりラカンは油断のために、1度は死んだ身。
ジュドーとの戦いでどこかで相手を子供と侮って、敗北したのだ。
また、同じ轍をふむ間抜けになるつもりはない。この殺し合いでは、相手が赤子であろうと油断はしまいと己を戒める。
「ジュドー、あいつもいるんだったか。それに知った名はエルピー・プルにプルツー。
ニュータイプに強化人間か……よく集めたものだ」
名簿によればジュドー・アーシタも参加している。
状況によっては、そのジュドーとも手を組むことになるだろう。
うまく同盟を組めるかは分からないが、組んでしまえば寝首を掻こうとする人間では無さそうでもある。
やはり油断はできないが。
プルとプルツーは強化人間。精神が不安定なだけに組むとなると厄介だろう。
何れにしろ慎重に当たる必要がある。
大方考えが纏まったラカンは、思考を切り上げて
グレートマジンガーを試しに動かすことにした。
簡単な動作を機体の動作で、操縦のコツを掴んでいく。
このグレートマジンガー。操縦方法そのものは難しくないが、基礎スペックが尋常ではない。
上手く扱うのは容易では無いだろう。
だが、それは並のパイロットならばの話だ。
卓越した技術を経験で磨いたラカンは、自身がこの機体の高スペックを引き出せると確信する。
前方の高さが15mはありそうな、幹の太い巨木。
それへ握り締めた拳を向けて、発射する。
グレートマジンガーの兵装の1つ、アトミックパンチ。
それは前方の巨木の幹をなぎ倒し、驚くべきことにまったく速度を変えずに突き進んでいく。
「マニュアルを疑っていた訳ではないが、本当にこれほどの威力があるとは……」
アトミックパンチの威力は、ラカンを驚かせるものだった。
これでドリルプレッシャーパンチ、さらにマジンパワーを上乗せすればどれほどになるか。
グレートマジンガーはマニュアル通りの性能をもっていると確認できた。
モビルスーツの常識をしのぐ頑強さと大出力。しかも、機動性や運動性が犠牲になっているわけではない。
それどころか軽量に加え取り回しの簡素さゆえ、かなり小回りが利き器用に動かせる。
弱点といえばむき出しのコックピットくらい。
それもいざとなれば、素早くブレーンコンドルに分離できる。
カメラと違い、何らかのジャミングなどを掛けられても視界を保てるという利点もある。
ラカンはコックピットで喜悦を浮かべた。
「フッフッフ、気に入ったぞグレートマジンガー! しばらくはこいつで、行くとするか」
偉大な勇者を駆り、歴戦の猛将は新たな戦場に躍り出た。
【ラカン・ダカラン 搭乗機体:グレートマジンガー(グレートマジンガー)
パイロット状態:良好
機体状態:良好、グレートブースター無し
現在位置:D-3森林地帯
第一行動方針:他の参加者と接触
第二行動方針;情報収集
最終行動方針:生き残る】
【一日目 06:30】
最終更新:2010年02月21日 17:14