実験室のフラスコにて ◆QryBXQ/1JY


高台を一歩一歩上りながらOSを少しずつ自分用にチューニングする。
両肩のクレイモアに右腕の巨大な杭打ち機。
PTX-003C-SP1、アルトアイゼン・リーゼ。
突進力はあるが、重量バランスが悪いという旧アルトアイゼンの全ての要素を巨大化させたような産物。
本来は飛行用のテスラ・ドライブをバランサーとして使用したピーキーな設計で、本来のパイロット・キョウスケ以外にはそうそう乗りこなせない業物である。
しかし、彼は違った。彼は、誰よりも長くゲシュペンストと共にある。
まして、教導隊とあらば、マ改造製とはいえゲシュペンストを乗りこなせないなどというのは、何より彼のプライドが許さない。

慣らしを終えて、状況の整理に入る。
さしもの彼も、この“争覇の宴”のことは予知できなかった。
何より。
「ヴィンデル……奴が何故生きている?」
しかも、彼らは完璧に空間移動を使いこなしているようだった。
自分たちが死力で退けた主催者に対する強い怒り。これがギリアム・イェーガーの感情を支配しつつあった。

「平行世界のシャドウミラー……? そして恐らく他の参加メンバーたちも……」
そう、たとえばアギーハやウェンドロは、とうに倒したはずなのだ。

思考は廻りつつ“宴”の目的を探る。
所謂、闘争に溢れた世界のひとつのサンプルであろうか。
様々な世界を歪めて作り出したこの『実験室のフラスコ』の結果は?
そもそも何をもって実験の成功とするのか?


「……俺たちは実験動物ではない!」


思わずコンソールを叩き、かつてヘリオスとして力を貸したことをこれ以上ないほどに呪った。
そして思い返すのはとある世界での出来事。
暗雲に閉ざされた未来。
当時の彼が選んだのは、武力による全体の意思統一だった。
しかし今とるべき道は――――



高台の頂上で息をつき、感覚を研ぎ澄まさせる。
不用意に姿を現すのは好ましくないが、そうすれば何かが起こると彼の予知能力――或いは勘が告げたのだ。
吉と出るか凶と出るか? それは彼にもわからない。
そして見渡すと、遠方に黒い機体が見えた。こちらに接近してくる。
「分の悪い賭けは嫌いじゃない、か」
その本来の乗り手の口癖を真似て、ギリアムは“巨人”を動かした。



少年――真壁一騎は必死で頭を整理しようとしていた。
状況は勿論、クロッシングで総士がいないのがどことなく不安だ。
狩谷先生に連れられマークエルフで島を飛び出したはずなのに。
いつの間にか“殺し合い”の宴――バトルロワイアルに参加させられることになっていた。
もしかすると竜宮島の外ではこんなことが普通にあるのかもしれない。
本当に、あの島だけが楽園だったのだ、と。
しかしそれにしては、真矢や総士まで呼ばれていたようだった。
そして――翔子や甲洋も。
羽佐間翔子はもういない。それは確かだ。
春日井甲洋も同化現象によりアルヴィスの奥深くで眠り続けているはずだ。
優勝者の願いは全て叶えると言ったが、翔子をもし生き返らせられるのなら、それも可能と思えた。

しかし今は、少しでも長生きすることを考えた方が良さそうだった。

殺しあいの、ゲーム。
……殺しあわなくてはならないのか。
――――遠見や総士とまでも。

ピピッ。

その瞬間レーダーが発信音を出した。
熱源反応。ちょうど高台のあたりだ。
カメラが対象を拡大する。
「赤いカブトムシ……?」
その印象を裏切る、彼の乗機の何倍もあろうかという巨体。
しかもこちらを待ち構えていたようだった。

逃げるか!?

戸惑った瞬間、通信が入り込んできた。
『聞こえるか? こちらはギリアム・イェーガーという』
「……真壁一騎です」
通信機に映ったのは、片目を髪で隠した、どこか謎めいた男性だった。
しかし語調が案じたより優しく、恐る恐る返答した。
『直球で聞こう。君はこの殺し合いに乗っているか?』
「ま、まさか!」
――そう。明確な殺意を抱いていたわけではない。
飽くまで可能性の話として思考を過ぎっただけだ。
『では……主催に反抗するという意思は?』
「そんな……! 出来るのか!?」
『私や君独りでは無理だろうな。だが、出来るはずだ』
「手を組もうってわけか……」
『そうしてくれるとありがたい。どうかね?』
「……俺の友達を助けてくれ。皆こんなゲームに放り込まれて混乱しているはずなんだ!」
『このフィールドで会えるかは運次第だが、なるべく保障しよう。私にも巻き込まれた仲間がいる』

そしてギリアムのアルトアイゼン・リーゼと接触し、相手が機体から出たのを確認してから一騎も降り立った。

「……正気ですか、主催を倒すなんて」
「元々は我々にとっての敵だ。部外者の君たちにまで危害が加わって、申し訳なく思っている」
「でも、どうやって?」
「たとえばこの首輪だが、嵌めることが出来る以上外すことも出来るはずだ。そうすればこのふざけたルールに縛られる必要はなくなる。私にも多少の知識があるし、他にも知識や技術を持った者がいるはずだ」
「…………わかりました。」
しかし一騎には引っかかっていることがあった。
「俺が殺し合いに乗った奴だったらどうするつもりだったんですか?」
「討っていたさ」
何の躊躇いもなく、ギリアムは宣言した。



その調子に、総士のことを思い出した。



――――――――ファフナーと俺たち、お前にとってどっちが大切なんだ?
…………ファフナーだ――――――――



脱走の原因になった、心の楔。
総士なら首輪の解析にも才能を発揮しそうだが、脱走した自分を許してくれるだろうか。
いや、いっそ許してもらわない方がいい。
昔からそうだった。大怪我をさせたのは自分なのに、自分で転んだと嘘までついて。


――――総士、俺は……


「ところでその機体は?」
「あ、えーっと」
マニュアルの中身を慌てて思い出す。
「高機動戦闘におけるワープやフィールドバリアが使えるみたいです。名前は……ブラックサレナ」
「了解した。では行くぞ、一騎君」

未だ暗雲が立ち込めて見ることの適わない未来。
死と混沌の気配が迫り来る感覚。
とるべき道は――希望を絶対に見失わないこと。


【ギリアム・イェーガー 搭乗機体:アルトアイゼン・リーゼ(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:B-4 高台周辺
 第1行動方針:仲間を集める(知り合い優先)
 第2行動方針:首輪をどうにかする
 第3行動方針:分の悪い賭けは嫌いじゃない
 最終行動方針:バトルロワイアルを壊し主催者を倒す】

【真壁一騎 搭乗機体:ブラックサレナ(機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:B-4 高台周辺
 第1行動方針:仲間を集める(知り合い優先)
 第2行動方針:総士と顔を合わせるのが怖い
 最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】

【一日目 06:30】


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010:この拳は最後の武器だ 時系列順 023:それぞれの事情

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ギリアム・イェーガー 047:大人目線
真壁一騎 047:大人目線

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最終更新:2010年01月24日 23:15