それぞれの事情 ◆0mrn8JnednQ6


この異常な状態の中、ジュドー・アーシタは雪原の上空を、自身に支給された機体を駆り全速力で飛ばしていた。
ネオジオンとの戦いは集結を迎え、ジュドーは木星へと向かう最中だったのだが、気付けばこの場に呼ばれていた。そこで更に彼の精神に衝撃を与えたのは、死んだ筈のエルピー・プルの姿。
忘れもしない、ダカールでの光景。圧倒的なパワーを持つサイコガンダムMk-Ⅱからジュドーを庇い、光の中へと消し飛んだプル。
そのプルがここにいた。彼女だけではない、グレミーの呪縛から解き放たれたプルツーの姿もあった。

「殺し合いだかなんだか知らないけどさ、あいつらをまた戦場に放り出すなんて、許せっこないじゃないの……!」

ジュドーの中には激しい怒りが渦巻いていた。もう、プル達は戦う必要などなかったのだ、だというのに、自らの勝手な都合で殺し合いに呼び込んだ、ヴィンデルと名乗った男が許せなかった。
今度こそ、二人を守ってみせる。その強い意志を胸に、ジュドーはゴッドバード形態に変形させたライディーンを駆る。
早く、一刻も早く二人を見つけねば。焦るジュドーの視界に悪魔の様なガンダムが映るのと、強烈なプレッシャーが感じられたのは、ほぼ同時だった。

悪逆非道。
民間人すら巻き込み、このような馬鹿げた事を起こす人間は到底許せる物ではない。
本来ならば、ああいった外道を倒すために動かなければならないのだろう。
だが、彼には何に変えても成せばならない『大義』があった。
彼は支給された機体のマニュアルに今一度目を通す
悪魔、アスタロトとヤドカリの名を冠するガンダム、アシュタロンハーミットクラブ。変形機構を持つガンダムを目にし、ガトーは内心驚愕する。

「連邦はこの様な機体も作っていたのか、いや、そんな事は今は些末な事、成さねばならぬ事があるのだ、この様な場で止まってなどいられぬ」

彼、アナベル・ガトーはアシュタロンHCを起動させる。
ガトーは実直な軍人だ、民間人を撃つことには抵抗がある。
だが自身の倫理観よりも、成さねば成らぬ大義があるのだ。
ソロモンへの核攻撃には成功はしたが、まだ、肝心の星の屑作戦は成就していない。
その為にはこのような物に時間をかまけている余裕はない。優勝し、一刻も早く茨の園へと帰参しなければ。
そして、この場に共に呼び出された男と決着もつけねばならない。

「ウラキ、よもやこうも早くに貴様との決着をつける日が来ようとはな」

負けるつもりは毛頭ない。実力に裏付けされた自信と大義を背負っている自負がある。
ふと、視界に巨大な鳥のような機体が移った。恐らくは他の参加者だろう。
ならば取る行動は一つ。
「行くぞ、アシュタロン。今はただ、駆け抜けるのみ」

アシュタロンHCは、それに応える様にフワリと浮かび、ライディーンの前に立ちはだかる。
2体が対峙する。不意に、通信が入った。
「こちらジュドー、あんたと戦う気はない。人を探しているんだけど、プルとプルツーって名前の、十歳くらいの女の子を見なかったか?」
(少年の声、いや、その前に幼子までだと……、下種め!)

通信機越しに聞こえる少年の声、そして彼から聞かされた十歳の女の子、その様なか弱い者までこの殺し合いの場に呼ばれていた事に、ガトーは改めてヴィンデル達に憤りを覚える。
だが、それでも彼の大義を曇らせる事はできない。

「私はアナベル・ガトー。先の質問だが、すまないがこの場であったのは君が初めてだ」
「……そうか、ありがとさん。じゃあ俺は余所をあたるから、ガトーさんも二人を見つけたら『ジュドーが探していた』って伝えてくれないか」
「それは、できかねるな」

ガトーの一言で、場の空気が一気に張り詰めた。
不穏な空気、そして増大するプレッシャーを感じ取ったジュドーは唾を飲み込む。

「あんた、こんなふざけた殺し合いに乗ったっていうのか?」
「かつての私であったならば君と志を共にしていただろう。だが、今の私は成さねばならん事がある」
「その為に十歳の女の子も殺すっていうのかよ!?」
「……大義の為だ。尊き犠牲となってもらう」

この問答でジュドーは悟る。目の前にいる男は一切話が通じない事を。
自身が人ではなく、大義という名の化け物と対峙している事を。
その化け物を倒さねば、その凶刃がプルやプルツーに向けられる事を。

「ふざけるな……」

怒りに震えた声でジュドーが呟く。

「ふざけてなどいない、私はいたって本気だ」
「それがふざけるなって言ってんだよ! そんな大人の勝手な理屈であいつらを殺させてたまるか!」
「君はまだ子供だ、我々の大義を理解してもらえるとは思えんし、できるとも思えん。だが! 三年も待った我らが悲願、ここで潰えさせる訳にはいかんのだ!」
「大人の都合に子供を巻き込むなァッ!」

会話の決裂と同時にアシュタロンHCから放たれたマシンキャノンを、ジュドーはライディーンを変形させ、右腕のゴッドブロックを展開する事により防ぐ。
お返しとばかりにゴッドミサイルが放たれるが、それはマシンキャノンで撃ち落とされる。

「可変機か!」
「んなろーっ!!」

間髪いれずに、ジュドーはゴッドゴーガンを放つ、光の矢は狙い過たずにアシュタロンHCと飛んで行くが、その矢が当たる瞬間、アシュタロンHCは蟹を思わせるMA形態に変形し、すんでのところで避けられた。

「あっちも可変機!?」
「沈めぇっ!」

MA形態となってギガンティックシザースを展開し、ライディーンに一気に肉迫するアシュタロンHCに対し、ジュドーは上空へと上昇する事でギガンティックシザースを回避する。

「そっちが変形するならこっちも変形だ!」

ゴットバード形態へと変形したライディーンが、旋回し、こちらへと向かってくる下方のアシュタロンHCと相対する。
突撃してくるライディーンに向かい、アシュタロンHCはマシンキャノンを放つがムートロン金属で出来たライディーンに決定打を与える事は出来ない

「その程度の攻撃じゃこっちは止まらないよ! このまま突っ込ませてもらう!」
「チィッ、大した装甲だな、だが!」

2つの機体が激突する刹那、アシュタロンHCは人型へと変形し、バーニアを吹かして急上昇をかけた。
ガトーを強烈なGが襲うが、それを代償として急上昇したアシュタロンHCはライディーンとの衝突を免れる。
そして反転し、突撃の勢いを殺し切れないライディーン目掛けて両方のギガンティックシザーズを振り下ろす。
流石のムートロン金属の装甲と50Mの巨体も、重MSクラウダの装甲を軽々と引きちぎる馬力と強度を持つギガンティックシザーズの直撃、そして突撃の際の勢いが災いし、雪原へと叩きつけられた。
高熱を発するライディーンのボディが周囲の雪を溶かし、水蒸気が辺りに立ち込める
「水蒸気? 視界が遮られては面倒だ。そうそうに勝負をつけさせてもらう」

それだけを呟くと、ガトーはビームサーベルを手にしたアシュタロンHCを走らせる。
対するライディーンはゴッドバード形態で地面に激突したせいもあり殆ど身動きがとれない

「自慢の装甲も光学兵器の前には役に立つまい!」
(駄目だ、ここでやられたら誰が2人を守るんだ……、俺が、俺が2人を守らなきゃ……)
「恨んでくれて構わん。とうに覚悟はできている」
(ごめんよ、プル、プルツー。俺はお前達を助けられそうにない。ルー、リィナ。そっちには帰れそうに……)

ジュドーの脳裏に守ろうとした者、置いてきてしまった者が浮かんでは消えていく。
万事休す。ジュドーの心を諦めが支配する。
だが、最後の瞬間が来ることは無かった。

「ロックオンアラート!?」

コクピットに鳴り響くロックオンアラートに、警報が出ている方向を向くと、こちらに向かって一直線にミサイル弾が飛んでくる。
直撃コース、舌打ちをしながらガトーはそれを回避する。
何が起こったのか、突然の出来事に驚愕する二人。そんな中、通信が入った。

「あー、何だ。間違ってたらすまねえ。取りあえず蟹もどきの方は殺し合いに乗ってて、そっちの鳥もどきの方は殺し合いには乗ってない。で、合ってるか?
オープンチャンネルだったからあんたらの会話は丸聞こえなんだが、一応念の為にな 」

どこか暢気な声を上げながら、現れた漆黒の戦闘機は人型へと変形を遂げる。その機体の名はステルバー
新手の出現にガトーは顔をしかめる。今までの言動から乱入者は十中八九殺し合いには乗っていないだろう。
ジュドーの殺害に失敗した今、ライディーンとステルバー、両方の機体と同時にやりあう愚をガトーはおかしたくなかった。
故にそこからのガトーの動きは迅速であった。
ビーム砲とマシンキヤノンを雪原に発射、実弾とビームの弾幕に晒された雪原は吹き飛ぶか蒸発し、周囲を白へと染める。即興の煙幕だ。

「煙幕!? 逃げるのか!」
「ジュドー少年、そしてそこの少年も覚えておけ。我らが大義を邪魔する者は、いずれ必ず私が討つ!」

追おうとしても視界が遮られ、ジュドー、そしてステルバーも動けないでいた。
そして煙幕が晴れた頃、そこにはアシュタロンHCの姿は影も形も無くなっていた。
「まんまと逃げられちまったな」
「何暢気に言ってんだよ! 早く追わなきゃあいつが関係ない奴を襲うかもしれないだろ!?」
「落ち着けって、頭に血が登ってたら勝てるもんも勝てなくなるぜ? あんただって俺が来なかったらやられてただろ?」

その言葉にジュドーは詰まる。
実際に、ガトーは強かった。戦闘経験の豊富なジュドーであっても手玉にとられた様な物である。おまけに、援軍が来なければあのまま無念の死を遂げていた。
二人がかりでも勝てるかはわからない。それがジュドーの正直な感想であった。

「そういや、お礼を言ってなかったな。俺はジュドー、さっきは助かったよ」
「どういたしまして、俺はディアッカ・エルスマンだ。よろしくな。あいつを追わなきゃいけないってのもわかるが、お互いの知り合いについて確認したい。構わないか?」
「ああ、俺もどんな人がいるか知りたいしな。取りあえず手近な町に降りよう」

そう言って雪原の中の町に向かうライディーンを見て、ディアッカは安堵の溜め息をついた。

(取りあえず、信頼は得られたかな?)

ジュドーはディアッカにこの殺し合いに乗っているか否かを聞いていなかった。いや、正確には自身を助けてくれた上に協力的だったから、殺し合いには乗っていないのだと思ってしまった。
確かにディアッカはジュドーを助けた、だからといって、徹頭徹尾殺し合わないかといえば、必ずしもそうだとは限らない。

(まあ、進んで殺し合うつもりはないけどよ、クルーゼ隊長もいるし、分が悪すぎる。このままいいもんのフリをして、殺し合わずに帰れたら万々歳、乗る状況としては……)

ディアッカは自身の首についている首輪をなぞる。

(この首輪を外す方法が見つからず、かつ、隊長とさっきのガトーって奴が脱落したあたりが乗り頃かな)
「と言ってもジュドーの乗ってる様な機体が相手じゃ、こいつでどこまで行けるかわかんないんだ。極力そんな真似はしたくねぇよなぁ」

通信を切ったコクピットの中溜め息混じりにディアッカが愚痴る。
厄介な事に巻き込まれた物だと、ここに飛ばされる直前、アークエンジェル襲撃中に戦闘機に落とされた事を思い出す。
戻った所で捕虜になる可能性が高いのはあれだが、見知らぬ場所で死ぬよりはマシだと自身に言い聞かせる。
そう、死ぬ事に比べれば数倍はマシ。それでも、ディアッカは現状の不運を呪いたくなった。

「退くも地獄、退かぬも地獄、まったくツイてないぜ。非グゥレイトってやつだな」

【一日目 6:30】

【アナベル・ガトー 搭乗機体:ガンダムアシュタロンHC(機動新世紀ガンダムX)】
パイロット状況:良好
機体状況:良好、エネルギー&マシンキャノン少量消費
現在位置:D-6 雪原
最終行動目標:優勝し、一刻も早くデラーズの元に帰還する。

【ジュドー・アーシタ ライディーン(勇者ライディーン)】
パイロット状況:良好、若干の焦り
機体状況:良好、エネルギー少量消費
現在位置:D-6 町
第一行動目標:プル、プルツーと合流、二人を守る
第二行動目標:ディアッカとの情報交換
第三行動目標:ガトーを倒す
最終行動目標:殺し合いの打倒

【ディアッカ・エルスマン ステルバー(真!ゲッターロボ~世界最後の日~)】
パイロット状況:グゥレイト!
機体状況:グゥレイト! ミサイル少量消費
現在位置:D-6 町
第一行動目標:当面殺し合いには乗らない
第二行動目標:脱出が無理と判断した場合、頃合を見て殺し合いに乗る
第三行動目標:ジュドーと情報交換


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登場キャラ NEXT
アナベル・ガトー 039:野性を縛る理性はいらない
ジュドー・アーシタ 058:命題『貴方の戦う理由は何ですか?』
ディアッカ・エルスマン 058:命題『貴方の戦う理由は何ですか?』



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最終更新:2010年04月02日 23:03