歪む運命 ◆PfOe5YLrtI


――目覚めよ、選ばれし強者達よ……

うーん……うるせぇな……あと5分だけ寝かせてくれよ……

――戦え! 最後の一人になるまで!

なんか頭にワカメ乗せたおっさんが喋ってる……なんだこりゃ?
いい具合に眠ってるんだから静かにしてくれよ、ったく……

――バトル・ロワイアル――争覇の宴を、始めよう。

よくわからん夢だなぁ……ま、どうでもいいか……


 * * * * * * * * * * *


「ふぁぁあ~……っと」
大きな欠伸を一つして、車弁慶は大きく背を伸ばした。
結構な時間、眠っていたようだ。
「……あれ?どこだ?ここ」
目の前には見慣れない機器が並んでいる。
戸惑いながらも、ベンケイは無意識のうちに手を動かし、そのシステムを起動させた。
モニターに、見たことのない景色が映し出された。戦闘機か何かのコックピットだろうか?
「何だこれ……ん?俺、いつ着替えたっけ……?」
自分の体を見れば、馴染み深い野球部のキャッチャーのプロテクターが着せられていた。
「おっかしいなぁ……どうしちまったんだ、いったい?」
ここはどこなのか、どうして自分はこんな所にいるのか。
ベンケイは自分の記憶を掘り返す――


ひょんなことから、とある少年のラジコンを壊してしまったベンケイ。
ラジコンを直すため、彼は少年に連れられて――早乙女研究所へとやってきた。
少年の名前は早乙女元気。ゲッター線の研究家である早乙女博士の息子だった。
ベンケイは研究所で元気の家族と、その友人達に出会う。
早乙女ミチル、早乙女博士。そして、流竜馬と神隼人――

そう……思い出す。彼はゲッターロボの耐Gシミュレーターに乗りこんだのだ。
リョウとハヤトが乗っていたのを、ただ面白そうだという軽い理由で。
ベンケイにとっては遊園地のムーンロケットか何かみたいなもの、程度の認識でしかなかった。

「ぐるぐる回るだけで、意外と迫力ないなー」
退屈げに呟く。ベンケイにとっては刺激が足りなかったらしい。
この耐Gシミュレーター、新型ゲッターロボに合わせかなりハードな調整がなされているはずなのだ。
ゲッターロボを駆り恐竜帝国と戦い抜いたリョウとハヤトですらも音を上げるほどに。
肝が据わっているのか、単に図太いだけなのか。
あるいは……優秀なジェット機パイロットの父親を持つ彼には、先天的な素質があったのかもしれない。
「つまんねぇな……眠くなってきちまったぜ……ふぁぁ~……」
襲ってきた眠気に身を任せ、彼の意識は深い眠りに落ちていった――
その後、ワカメみたいな髪のおっさんが戦えだの何だのとノリノリで演説する変な夢を見て。
そして目が覚めて、現在に至る――

そう。事もあろうにこの車弁慶という男、ヴィンデルが熱弁を奮っている間、眠りこけていたらしい。
ユーゼスの無惨な死も、ロムの啖呵も、彼は全く気付いていなかったようである。
なんとも、いろいろな意味でヒドイ話ではある。誰でもいいから周囲の誰かが起こしてや。
そんな余裕のある状況ではなかったこともまた事実ではあるが。

しかし、だ。このことが、ベンケイの運命を大きく狂わせる結果となる――


「おかしいなぁ。さっきまで乗ってたロケットと全然違うし。何か変な首輪が付いてて外れないし。
 俺が寝ちまってる間に、別の場所に連れてこられちまったのか?」
寝ぼけ眼を擦りつつ、ベンケイは機体の通信機を起動させる。
「早乙女博士ー!聞こえますかー?
 リョウ、ハヤト!元気君、ミチルさん!!誰か返事してくれー!!」
外にいるはずの彼らに伝えるべく、マイクに向けて呼びかける。しかし返ってくるのは沈黙だけ。
……そこまできて、ベンケイは奇妙な違和感に気付く。
「……あれ?なんで俺、動かし方わかったんだろ?」
今、彼は何の疑いもなく、ごく自然に通信機を作動させた。いや、通信機だけではない。
まるで最初から知っていたかのように、自然と手が動き、このシステムを起ち上げたのだ。
自分にあるはずのない知識、それに導かれるままに、手はさらに動く。
右横のスイッチに触れると、モニターに機体の概要が映し出された。
機体の全身と各種武装、そして名前が表示される。

ZGMF-X42Sデスティニー。

「なんだこりゃ……こいつ、もしかしてロボットなのか!?」
ここで初めてベンケイは把握した。
今自分が乗っているものが、このデスティニーと呼ばれるロボットであると。

バトルロワイアルの始まる直前、ヴィンデルは参加者達に一定の睡眠学習を施していた。
とは言っても、それはあくまで見ず知らずの機体を起動し多少動かせる程度。
ゲームスタートをスムーズに行えるだけの、最低限の知識のみ。満足に戦闘できる状態からは程遠い。
ただ何も知らない素人には、この手の知識は十分に違和感を抱き、また驚くべき内容ではある。

「早乙女博士ー!!どうなってるんですか、こいつは!?」
幾度となく通信機に向けて叫んでみるが、当然ながら返るのは沈黙のみ。
やがて埒が明かずと悟ったか、ベンケイは諦めシートに背を預ける。
続いて、大きな腹の虫の音が鳴り響いた。
「うぅ、腹減ったなぁ。何か食べる物はないのかな?」
シートの周囲を見回すと、袋が一つ。空腹を満たす物を求めて、袋の中身を漁り出す。
中には得体の知れない地図や名簿……さらにその奥には、水と食料が入っていた。
「おっ、食い物あるじゃねぇか!」
食料袋の中にはおにぎりが入っていた。さっそくそれを取り出し、その口に放り込む。
食べながら、ベンケイは考える。
(そういや、あれ確かゲッターロボとかいうロボットのシミュレーターなんだっけか……
 ロボットの、か……よくわかんねぇけど、もしかしてこいつもそうなのか……?)

そんなことを考えながら、二個目のおにぎりを手に取り、食べようとした時――

「……へ?」

ベンケイは閃光が走るのを視認し――

次の瞬間、爆発がデスティニーを包み込んだ。

「呆気ないものだね。まあ素人、いや……地球人には過ぎた玩具だ」

型式番号JMF-1336R――ライジングガンダム。
ビームボウを構えたままの耐性で、デスティニーを包む爆発を見届けていた。
「……なるほど、大体機体性能はわかった。
 まったく……こういう技術にかけてだけは、地球人も大したもんだ」
ライジングに乗っているのは、見た目は年端もいかない少年そのもの。
その実体は、文明監査官を名乗るインスペクターの首領――名を、ウェンドロという。
「モビルトレースシステムか……いささか扱い辛いけど、文句を言っても仕方ないか。
 未開の野蛮人どもの機体としては、ある意味適しているのかもしれないけどね」
この殺し合いという状況下においてなお、彼はその思考を改める気配を見せなかった。
精神面が未熟なくせに、敵を殺すための技術だけは無駄に発達した野蛮な地球人。
その強すぎる力は、地球にとっても宇宙全体にとっても癌でしかない。
そんな病原菌と馴れ合う選択肢など、彼の頭には存在しなかった。
現に、自分が『飼って』やっていたシャドウミラーは、無断でこんな馬鹿げたゲームを開催した。
何が目的かなど知ったことではない。自分を巻き込み、自分に牙を剥いた……その事実だけで十分だ。
元々彼らの転移装置のみが目当てだったとはいえ、対応が甘かったのかもしれない。
やはりこの危険極まりない種族は滅ぼし尽くさなければならない。一切の躊躇なく、だ。
(さて……こんなゲームに、害虫どもと一緒になって付き合ってやる義理などない。
 早い所アギーハと合流して、さっさとこのゲームを切り上げる算段を練らなくちゃね。
 僕達の裁きはまだ始まってすらいない……)
当然ながら、裁きの対象はシャドウミラーも含まれていた。
愚かしいほどに偏見に凝り固まった思考と共に、その場を立ち去ろうとするウェンドロ。



しかし。



「ん……!?」
レーダーが反応を示した。先程ビームボウで射た場所からだ。
「外れた?仕留め損ねてたのか……」
振り返ると、先の爆煙の中に影が見えた。標的――デスティニーの姿だ。
あの機体の一挙一動は、割と早い段階から観察していた。あれに乗っているのは明らかに素人だ。
大して利用価値もなさそうだと判断したウェンドロは、即刻害虫駆除と称して攻撃した。だが……
「あの不意打ちをかわすとはね……やはり彼らに根付いた異常な闘争本能は侮るべきではない、か」
忌々しげに呟くウェンドロ。
それと同時に、ライジングはビームナギナタを構え、デスティニーめがけて駆け出した。
「ま、わざわざ見逃す道理はないけどね。後々の面倒になる前に、潰させて貰うよ」


「あーびっくりした。一体なんだってんだよ、おい」
大きく息を吐いて、ベンケイは機体のカメラを通じ周囲を見回す。
モニター左前方に、影が見えた。
影――ライジングガンダムが、手にしたナギナタでこちらに振り被ってくるではないか。
「うおわっ!!」
反射的に操縦桿を引き、デスティニーを背後へと跳ばす。
直後、ナギナタはデスティニーのいた場所に叩きつけられた。
「危ねぇなぁ。当たったらどうするんだ」
相変わらずのほほんとした口調で相手に話しかけるベンケイ。
そんなことはお構い無しとばかりに、ライジングはさらに斬りかかってくる。
それをなんとか回避しつつ、ベンケイは続けた。
「あのさ、そーいうのやめねぇか?俺にどんな恨みがあるか知らないけどよ、
 そんな風にカッカしてちゃ健康によくないぜ……っとぉ!?」
ビームの刃が装甲を掠める。ライジングの攻撃は激しくなる一方だった。
ナギナタに加え頭部から発射されるバルカンも加わって、デスティニーを追い詰めていく。
「なんでもかんでも暴力に走るもんじゃないぜ、野蛮じゃないか」
その時――ライジングの右手が輝きだした。
高エネルギーが右掌に凝縮され、敵を砕く必殺の一撃となって掴みかかってくる。
レイン・ミカムラの手では結局使われることのなかった幻の技・ライジングフィンガーだ。
「うお危ねっ!」
掴まれる直前にバーニアを全開にし、デスティニーは空へと舞い上がる。
「あちゃあ、こりゃダメだ」
話が通じないと判断し、デスティニーはライジングに背を向け逃亡を計った。
追いかけてくるライジング。地上からビームボウで狙撃してくる。
それを的確に回避するデスティニー。機体の機動性能に助けられている点も大きいが、
野球部で鍛えた動体視力が、思いがけず役に立っていた。
「あーもう、勘弁してくれよ」


「くっ!ちょこまかと……!」
ビームボウではろくに連射が利かない。ある程度訓練されたガンダムファイターならともかく、
極端に身体能力が優れているわけでもないウェンドロでは、その武装を満足に使いこなせなかった。
焦れば焦るほど、命中率も落ちていく。
「野蛮人風情が……この僕が野蛮だって?戯言を……!」
変わらない笑みの中に苛立ちを隠そうともせず、ウェンドロは吐き捨てる。
ベンケイの平和主義的な発言は、結果的に彼を挑発する形となったらしい。
本来ならば、ウェンドロは安易な挑発に乗るほど闘争心に溢れてはいない。
ただこの時、彼はなんとしても敵を倒さねばならないという無意識の強迫観念に駆られていた。
ここで敵――デスティニーを取り逃がせば、後々面倒な事態になる。
いやそれ以上に。一番の原因は彼の中の『焦り』にあった。
(くそ……っ!こんなはずは……!)
次第に息が切れてくる。彼が使いこなせていないのは武器のみならず、機体のシステムもだ。
搭乗者の動きを機体に伝えるこのモビルトレースシステムは、その分搭乗者への負担も大きい。
そもそもファイターとして満足に鍛えられてもいない子供の体力で、長時間使えるものではないのだ。
「こんなことがあってたまるものか……!」
焦りが、偏見が、凝り固まったプライドが、彼の中から理性を削り取っていた。
彼はディカステスという『圧倒的な力』を持って、常に地球人を下等生物として見下していた。
そこから『圧倒的な力』をマイナスしたら。傲慢さをそのままに、地球人と同等の条件を課したら。
この無様さは、あるいはその結果なのかもしれない。
「しつっこいったらないなぁ、全く」
それにしても、ベンケイのこの余裕は明らかに異常だった。
ここにいる車弁慶は、初めて早乙女研究所を訪れた時間軸から召還されている。
つまり、まだゲッターロボに触れたことも、その目で見たことすらもない。
そもそもこういった機械すら満足に触れたことのない、ど素人以前の状態だといっていい。
にも拘らず、自らの命の危機を前にこうまで平然と構えていられるものだろうか。
これは肝が据わっている、程度で済まされるようなことではない。
「こういうのは趣味じゃないってのによ……きりがねぇや」
気だるげにぼやく。まるで、ゲームのお邪魔キャラを鬱陶しがるかのように。
いや……事実、彼はそういう感覚で戦っていた。
「しょうがねぇ……わかったよ、要するにあいつをぶっ倒しゃあいいんだろ!?」
自分の中で何かを納得したかのように、ベンケイは腹をくくる。
逃げ続けるのをやめ、デスティニーはライジングへと向き直り、身構える。
「いわゆる訓練だかシミュレーションだか知らねぇけど、容赦しねぇからな~!」

彼はこれが実戦であることを、自分の置かれている現実を把握していなかった。
少なくとも、自分が殺し合いをしているなど夢にも思っていないことは間違いない。

「えーと、武器は、武器は、と……」
先程モニターに映し出された機体の概要を、思い出そうとする。
しかしその時間を、相手は待ってはくれない。
「何があったっけな……うおっととと!?」
ライジングの頭部から発射されたバルカン砲が、デスティニーの左肩に当たる。
PS装甲ゆえにダメージは皆無だが、それはベンケイの反撃のきっかけを与える。
「そ、そうだっ!頭に鉄砲が付いてるんだったな!」
武装の一つを思い出す。しかしそれをどうやって発射するかまでは思い出せない。
半ばやけくそに、ベンケイは目の前に並んだスイッチの一つを押した。
「ええい、このスイッチだ!ポチッとな!」

砲撃は、全くの見当外れの場所から放たれた。
撃ち出された場所は頭部からではなく右の掌。弾丸の代わりに、ビームが発射された。
掌部ビーム砲――パルマフィオキーナだ。

「あ、あれ!?違うのか!?」
放たれたビームは、意図せずしてライジングに向かっていく。
そのすぐ足元の地面に当たり、爆発。その余波でライジングが転倒した。
それはベンケイにとって、思いもよらぬ最大の好機が訪れたことを示す。
「ええい、この際これでいいや!」
エンジン全開。
デスティニーは右手を掲げながら、フルスピードでライジングめがけて急接近する。
彼が脳裏に思い描くは、ライジングの見せたライジングフィンガー。
「さっきあいつがやったみたいな感じで……どりゃああぁぁぁっ!!!」


「かはっ!……く、くそっ、こんなばかなことが……!」
転倒したまま、立ち上がれないライジング。既にウェンドロの体力は限界に来ていた。
そして彼は自分が選択を誤ったことを悟る。
システムを甘く見ていた。敵を深追いすべきではなかったと。
だがウェンドロは、もっと根本的な部分で誤った選択をしてしまっていたことに気付かない。
全ては、己の偏見とプライドを固持し続けたがゆえに導き出された結果だ。
「ぐっ……」
かろうじて面を上げる。視界に、デスティニーの姿が映った。
突き出した右手を光り輝かせながら、真っ直ぐに自分のもとへと飛び込んでくる。
ウェンドロは、もはや自分の死が避けられないものであることを悟った。
「は……はははっ……」
自滅同然の、無様な死。こんな素人同然の相手に、自分は殺されるのか。
それも仕方がないのか……この連中は、どこまでも他者を傷つけ殺すことしか能がない。
根本の部分から腐りきった、宇宙の癌なのだから。
「はは……やはりこの種族だけは、どこまでも救いようがない――」
言葉が最後まで紡がれることはない。
頭を握り潰されたような感覚、それを最後にウェンドロの意識は飛んだ。


輝く右手の一撃で頭は完全に潰れ、ライジングの抵抗がなくなる。
「とどめだぁぁぁっ!!!」
気合一発。
デスティニーの拳が、ライジングの腹――コックピットをぶち抜いた。


 * * * * * * * * * * *


今、自分の置かれているこの状況。
これはゲッターロボのパイロットとしての訓練かシミュレーションではないかと、ベンケイは解釈した。
眠っている間に強引に参加させられたのだろうか。
(ったく、ひでぇ話もあったもんだ)
正直なところ、いささか強引な解釈かもしれないことは、ベンケイも承知の上だった。
だが、少なくとも今のベンケイにはそれ以外に納得のいきそうな解釈は思いつかなかった。
自分が殺し合いに参加させられているなど、彼は夢にも思わないだろう。
あの早乙女研究所の人々がそんな残虐な真似をするわけがないと思っているし、事実そんな人々ではない。

身も蓋もないが、自分のいる世界とは別の世界の見ず知らずのおっさんに異世界に拉致同然に
召還されて、見たこともないロボット兵器を支給されて殺し合いを強要されるなどという、
そんなピンポイントに特殊なシチュエーションに比べれば、多分遥かに現実的だ。

とりあえず彼は、ワカメのおっさんのノリノリの演説を、起きて聞いておくべきだったことは確かだ。
そうでなければ、彼はこんなおかしな事態に陥ることなどなかったのだ。


「この武器、パルマなんたら……だっけ?やたら小難しいネーミングだったな、確か。
 もっと単純に、デスティニーフィンガーとかでいいと思うけどな」
爆発四散するライジングを尻目に、ベンケイは額の汗を拭きながら、シートに深く腰を倒した。
「ふぃ~……なんとかなるもんだ。しっかし、こいつは意外とハードだなぁ」
リョウとハヤトも、こんな感じの訓練をしていたのだろうか。
だとすれば、二人が音を上げるのも頷けるというものだ。
後半、相手の動きが鈍くならなければ危なかっただろう。
正直な所、これ以上は勘弁して貰いたいというのが本音だ。ロボットのパイロットなど興味はない。。
「博士ー!もういいからこれ、止めてくださいよ!」
再び大声で呼びかけるも、この場にいない研究所の人達の応答などあるはずがない。
「やっぱダメか。ったく、しょうがねぇなぁ……」
自分に断りもなくこんなことに巻き込んだ博士達に、文句の一つも言いたい気分ではある。
だがその声が博士達に届かない以上、こうなっては自分でなんとかするしかない。

手元のマニュアルに書かれた、このバトルロワイアルとかいうもののルールに目を通す。
やたら大層な表現で物騒なことが書かれていた。博士達の趣味を疑うが、ルールは大雑把に理解できた。
ベンケイは考える。どうすればこのシミュレーションが終わるのか。
要するに他の機体を全部やっつけるか、あるいは自分が撃墜されたら終わりらしい。
終わらせるだけなら後者の選択が早いだろうが、ベンケイもそれなりに負けず嫌いではある。
このままやられて帰るというのも癪というものだ。
となれば、残るは前者。全員ぶっ倒して帰るだけ。
別にやられたらやられたで、それはそれでよし。
どうせこれはただのシミュレーション、ゲームみたいなものだろう?
それならば、ちょいと元気君にいい所見せて帰るのも悪くない。
そうと決まれば、まずはこのロボットに慣れることから始めなければならない。
武器もちゃんと確認して。機体も、自分の手足のように動かせるくらいにならなくては。
「よーし……いっちょ、やれるだけやってみるか!」
車弁慶。本来ならば、彼は後にポセイドン号のパイロットとしてゲッターロボに乗り込み、
仲間達と共に百鬼帝国と死闘を繰り広げ、人類の平和を守ることになる。
だが今の彼にとっては、それらは全て未来の話。ここにいる車弁慶は、素人である。
このゲームに参加した人間の中でもほぼ唯一の、完全な一般人であることは間違いない。
故に、彼は戦士としてはあまりに未熟だ。
ウェンドロとの戦闘も、度重なる偶然と強運、相手の自滅で勝利が転がり込んだだけと言っていい。
そんな素人にがこのバトルロワイアルで優勝などと、あまりにも無謀と言わざるを得ない。
ただその一方で、彼の可能性にはまだ一切の癖も手垢も付いてはいない。
加えて支給された機体は、本来彼が乗るはずだったゲッターポセイドンとは全く違うタイプ。
努力型のムサシとは違い、マイペースな天才肌の側面すら持つ彼の可能性は、未知数だった。

この先、彼は如何なる運命をたどるのか。
彼の内に眠った可能性が芽を出す時は来るのか。
気付かぬ内に犯している罪に気付く時は来るのか。
それに気付いた時、誰よりも平和を愛する彼は、どんな感情を抱くのか。
それとも、全てに気付くことなくその命を散らすことになるのか。
今、確実に言えることは一つ。

彼の運命は、既に修復不能な形へと歪められていることだけである。
歪められた運命を、彼は突き進む。運命の名を冠したガンダムと共に――



【車弁慶 搭乗機体:デスティニーガンダム(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 参戦時期:第一話、シミュレーターに搭乗した直後
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好。若干のかすり傷
 現在位置:B-3 平原
 第一行動方針:まずは機体に慣れる
 第二行動方針:見つけた敵機は撃破
 最終行動方針:優勝して帰る。やられても帰れればそれでいい。
 備考:冒頭のゲームの説明を丸々聞き逃しています。
    バトルロワイアルをゲッターの訓練かシミュレーターと勘違いしています】

【ウェンドロ 搭乗機体:ライジングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【一日目 7:00】


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登場キャラ NEXT
車弁慶 045:運命の戦士
ウェンドロ



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最終更新:2010年01月17日 18:46