そういう時は、身を隠すんだ! ◆I0g7Cr5wzA


「じゃあ、バニング大尉はあの……シャドウミラー、でしたか。彼らはご存じないと?」
「ああ。俺も連邦に籍を置いて長いが聞いたことはない。まあ、特殊部隊と言うからにはあまり公にされるもんでもないだろうがな」
「地球連邦、ですか。まず私としてはそこが疑問なんですけれど……。
 バニング大尉、ネルガル重工はご存知ですか? 木星蜥蜴でも構いません」
「ネルガル重工……知らんな。木星蜥蜴と言うのも聞いたことがない。何かの組織の名称か?」
「まあ、そのようなものです」

C-4エリア、河に隣接する山地にて向かい合っているのは白と黒の巨人。
金髪に白衣、流麗な美貌を僅かに顰め、イネス・フレサンジュは嘆息した。その背後には白き騎士の名を冠するパーソナルトルーパー、ヴァイスリッター。
そして彼女と白騎士に向かい合うのは漆黒のモビルスーツ。

「デラーズの反乱どころじゃないな、これでは。どこの馬鹿だ全く」

苛ただしげに呟くのは、モビルスーツ――ストライクノワールのシートに座る壮年の男、サウス・バニング。
地球連邦軍トリントン基地所属、現在は特殊任務遂行のためアルビオン隊に出向中の大尉。
齢は既に四十近く身体にガタが来始めているが、鍛えた技量はまだ錆ついてはいないベテランのモビルスーツパイロット。

「このガンダムにしても……アナハイム製とも思えん。どこかの組織が裏についていると見るべきか」
「組織、ですか?」
「如何に特殊部隊と言えど、単独で七十名もの人間を集め機動兵器を支給するなど到底不可能だ。
 ジオンの残党、いやもしかすればアクシズか? ともかく相当巨大な組織であることは間違いないだろうな」
「なるほど……」

イネスとバニングはこうして会話しているが、傍目からは少し様子が違って見えるだろう。
イネスは地上に降りて生身を晒しているが、バニングは機体から降りてはいない。
この会場とやらで目覚めてから、バニングはとりあえず名簿を確認した。

知っている名前は二つ。
ソロモンの悪夢、アナベル・ガトー。
同じくアルビオン隊に所属する部下、コウ・ウラキ。

(俺とウラキはともかくあのアナベル・ガトーまでいるということは、デラーズの連中も一枚噛んでいると見るべきか?)

一年戦争終結以来、連邦の腐敗は目に余るものがある。
この悪趣味な殺し合いは、そういった一部の歪んだ権力者たちがジオンの残党やそれに類する組織と組んで起こしたものではないか。バニングはそう考えていた。
与えられた機体、ストライクノワールはあの『ガンダム』の系譜に連なるものらしいが、その性能はバニングの知る試作一号機を遥かに凌駕するものだった。
大気圏内を単独で飛行し、全身各所に武器を備える。出力はモビルアーマー並み。
現行のモビルスーツの水準を大幅に離脱したこの機体が連邦に配備されていたとすれば、デラーズにああも先手を許すこともなかったはずだとバニングは思う。

(そして、このイネス女史の背後にそびえる白い機体。連邦、ジオン、どちらの色も見えん……新型か?)

なまじシャドウミラーと名乗った者と同じ地球連邦に所属しているために(同一なのは名前だけだが)バニングはあくまでこれを宇宙世紀の出来事と認識していた。
だからこの状況を、ストライクノワールやヴァイスリッターを異質と感じてはいても、異常とは思えない。

「とにかく、だ。同じ連邦の軍人としても、奴らの暴挙を許す訳にはいかん。俺はとりあえず部下……ウラキを探すが、あなたはどうする?」
「私は特に知り合いがいる訳ではありませんわ。それがいいか悪いかはわかりませんが」
「では、俺と共に来るといい。こう言っては何だが、あまり操縦が得意そうにも見えんしな」
「そうさせていただければ助かります。まずはどこへ?」
「そうだな。やはりまずは人の集まるところ、ここからでは西の市街地を目指そう」
「了解です。ですが、バニング大尉、その……ご指摘の通り、私はこんなものの操縦なんてできません。
 動かすくらいならできますが。ですので先導をお願いしても?」
「ああ、構わんよ。俺が前衛を務めよう」
「ありがとうございます」

言って、イネスが膝をついたヴァイスリッターへと向かっていく。
見送るバニングは西へと機体を転進させる。


瞬間、響く、砲音。


硝煙を上げるのは白騎士の掲げる槍のごときライフル。
その先――射線の先には、抉られた大地。

「殺気が見え見えだ。騙し討ちならもっとうまくやることだ」

一瞬速く機体を上昇させ銃撃を回避したストライクノワール。
バニングは突然発砲してきた敵機――ヴァイスリッターを敵性機として認識する。

「あらら……失敗しちゃったわね。まあ即席の作戦だから当然かしら
「実力で倒します」」

スピーカーが拾ったのは悪びれないイネスともう一人、知らない女性の声。
おそらくはまだ子どもであろう。しかしその声には一片の感情も込められてはいなかった。

「フン。無人と思わせておいて油断したところを撃つ、か。舐められたもんだな」
「倒せるとは思ってなかった。保険をかけただけ」
「実力で倒すとは言ってくれるな、小娘。名前はなんと言うんだ」
「遠見……真矢。覚えてくれなくていい」

真矢と名乗った少女が操る白騎士が舞う。
イネスが駆け去っていくのが見える。おそらく隠していた自分の機体へ向かったのだろう。
時間をかければ二対一、不利になるのはこちらだ。
だからその前に――

「落とさせてもらおう!」
「その前に私が落とす」

空に在るのはただ一つ。唸りを上げて白と黒が交錯した。


     ◆


「やれやれ、ね。やっぱり私はこういうことには向いてないみたい」

自分に与えられた本来の機体の中でイネスは息を吐く。
まあ、考えてみればこの状況で自分から機体を降りているなど自殺行為以外の何物でもない。
問答無用に踏み潰されなかっただけマシなのだろう。そう思うことにした。
気を取り直しモニターに目を向ける。
相棒である少女はその言に違わず確かに手練れだった。あの隙のない軍人と互角に渡り合うほどには。

ヴァイスリッターの放つビームを縫うようにストライクノワールが接近していく。
ノワールの両腕にあるのは拳銃型の兵装、ビームライフルショーティー。威力と射程はないが取り回しと連射性能は抜群だ。
ただかわすだけではなく牽制のビームを織り交ぜることで敵の狙いを絞らせず、結果的に荒くなる砲撃を易々と避ける。
機動性に勝るヴァイスではあるが、狙撃というスタイル上必ず一瞬動きは止まる。
そこを突かれ、中々ノワールを引き離すことができない。
ヴァイスの装甲はスピードを優先したため脆弱だと真矢は言った。だから一撃たりともまともに直撃を受けたらそこで終わりだとも。
証明するようにヴァイスは必死にノワールの攻撃を避け、撃ち落とし、決して被弾するまいと距離を取ろうとする。

「くっ……!」
「スジはいい。が、人間を相手にしているんだ。パターン通りの動きで翻弄できると思うな!」

オープンにしてあった回線から真矢の苦悶とバニングの叱声が聞こえる。
それはそのまま二人の余裕の差を表している。
凌ぐのに必死な真矢、動きを観察し真矢の腕のほどを検分するバニング。
それはまるで教官と生徒のようにも見えなくもない、とイネスは思った。

「……このッ!」

ぐんと近づいた二機の距離を埋めるようにヴァイスが網のようにミサイルを放ち、自身は後退していく。
ミサイルの軌道は個々に違う。どれか一つを回避すれば他に被弾する、あるいはヴァイスの追跡コースから外れる、そんな狙い。
後退するヴァイスがライフルを構えるのが見えた。
おそらくミサイルの網から出たところを狙い撃ちにするのだろう。どこから飛び出してもいいように銃身は小刻みに揺れている。
ノワールの動きが見える前にミサイルが収束し、爆炎が上がる。

「回避しなかった? やった……の、かしら」

呆気にとられたように、イネス。おそらく真矢も同じ気持ちだろう。
逃げ場がないと観念したか、あるいは機体を過信したか。いずれにしろミサイルは全弾命中したようだ。
気が抜けたか、ヴァイスがライフルを下ろした。
その瞬間、

「いくら才能があろうと……まだまだヒヨッコだな!」

バニングの気合と共に黒煙を切り裂き、飛び出してきたノワール。
その腕に握るはビームと実体剣の複合対艦刀、フラガラッハ3ビームブレイド
輝く光刃がヴァイスに迫る。

「きゃああああッ!」

咄嗟に残る全てのミサイルを発射、後退する真矢。
しかし一手遅く、斬撃はヴァイスの左腕を切り裂き、機体バランスを失わせる。
そして当のノワールはと言うと、迫るミサイルを恐れる風もなく頭部の機関砲で迎撃。
撃ち漏らした分はなんと片手で振り払った。

「直撃したのに……ミサイルが当たったはずなのに……何なの、あの機体!?」

ノワールの機体サイズはヴァイスとそう変わりない。イネスの知るエステバリスやらと比較すれば相当に大きいが、木蓮の人型ほどではない。
そう、大して装甲が厚いと言う訳ではないのだ。
なのに、多くのミサイルが直撃したあの機体には全く損傷が見られない。

バニングがイネスを警戒し話さなかった自機の性能。これこそがコズミックイラのガンダムが標準的に備える機能。
エネルギーが続く限り実体弾を無効化するフェイズシフト装甲、その強化改良型。一般にヴァリアブルフェイズシフトと呼ばれる装甲だ。
バニングは己の機体の性能を正しく把握していたからこそ、ミサイルの雨に自ら突っ込むという暴挙に出、そして賭けに勝った。

「ベテランの軍人か……甘く見てたわね、私も真矢ちゃんも」

イネスが真矢と会ったのはバニングと出会う二十分ほど前。
バニングにも言われた通り戦闘向きではないイネスは瞬時に少女に征圧され、命を握られた。
死を覚悟したイネスだが、少女の方から協力しようとの申し出があったのだ。
少女、遠見真矢はこの場には知り合いが五人、共に参加させられていると言った。
自分はどうなってもいいから友達を助けたい、そのために協力してくれ――とのことだが、その手段は協調ではなかった。
仲間を害する可能性のある者、全ての排除。真矢が選んだのはその道だ。
もし一人でも欠けたら、優勝を狙わざるを得ない。そう付け加えた真矢の瞳はゾッとするほどに熱を帯びていた。

イネスの知り合い。バニングにはいないと言ったがあれは嘘だ。実際にこの場には二人、知っている者がいる。
まず、ナデシコのオペレーター、ホシノ・ルリ。イネスに取っても馴染みのある彼女は、ある意味イネス以上に戦闘向きではない。
そしてプログラムの解析を得意とする。バニングや真矢とは違った意味での「『力』の持ち主だ。
もう一人はヤマダ・ジロウ。ナデシコのデータの中にあった、『戦死者の』名前。ダイゴウジ・ガイ、と併記されていたが何なのだろう。
最初は同姓同名かと思った。だが真矢と出会い、明らかに自分の知るそれとは別の世界の話を聞かされ疑問に思った。
バニングがネルガルや木星蜥蜴を知らなかったように、イネスもまたフェストゥムや人類軍など知らない。
真矢もまた地球連邦、ネルガル、果ては人類が宇宙にその生活圏を広げていることすらも知らないと言う。

もしかすればここには、違う世界や時間から参加者を集めているのではないか。
自身がボソンジャンプにより時間移動した身であるイネス・フレサンジュだからこそ、その突飛とも言える想像を妄想と切って捨てることはしなかった。
だから、ふとこう思ってしまったのだ。

優勝すれば、全てをなかったことにできる。
あの日火星を襲った戦火も、『あの人』が修羅の道を歩むことになった原因も、全て――

だから、イネスは真矢の誘いに乗った。
もちろんお互い望むことがある身だ、いつかは別れる時が来る。
だがそれは最後の最後。
参加者が片手で数えられるほどになった時か、協力関係が不要になった時までだ。
だからイネスとしては真矢の仲間とやらはできるだけ脱落していてほしかった。
仲間となり得る人材を失うのは痛いが、六人揃ったのでもうあなたは用済みですサヨウナラ、と切り捨てられてはたまったものではない。

そんな希薄な信用の上に成り立つ同盟関係ではあったものの、さすがにこの段階で失う訳にはいかない。
何より真矢が敗れれば次にバニングはイネスを狙うだろう。この機体は強力ではあるが、パイロットの腕の差は如何ともしがたい。
始まったばかりで脱落は御免だ。
モニターの中でノワールが手と足からアンカーらしきものを射出し、ヴァイスを絡め捕った。
さすがにあれではもう真矢だけでは勝ち目がない。
イネスは自らも打って出る覚悟を決めた。


     ◆


「ふうっ、何とかなったか。俺もまだまだ若い者に後れは取らんということだ」

ノワールの中でバニングが汗を拭う。
拘束した敵機は完全に沈黙している。おそらく、激突の衝撃でパイロットが気絶したのだろうとバニングは踏んだ。
しかし際どかった。フェイズシフトのおかげで勝ちを拾えたようなものだ。
真矢という少女、射撃の腕は大したものだった。そこだけに限定すればバニングをも遥かに上回るほどの。
おそらく十四、五の歳で戦闘慣れしているのは驚きだった。しかしどうしたことか、少しフェイントを織り交ぜてやると面白いように引っかかる。
バニングはその矛盾を、おそらく人相手に戦った経験があまりないのだろうと読んだ。
回避しないシミュレーターか何かで研鑽を積んだのか。それにしては引き金を引くその行為に躊躇いを感じなかったが。
いずれにしろ、異質な存在であることは疑いない。バニングがかつて受け持った新米、そのどれにも似たタイプがいないほどには。
止めを刺さないのはさすがに気が咎めたからだ。
連邦に属する者が発端の殺し合いで、同じく連邦の軍人であるバニングが巻き込まれただけであろう少女の命を奪うのは。

「まあ、いい。コクピットから叩き出して腕立て伏せ百回でもさせてやれば殺し合おうなんて気もなくなるだろうさ」

そしてもう一つ付け加えるなら。
今まで数多くのパイロットを育ててきたバニングだが、こう思わなかったと言えば嘘になる。


――――ウラキ以上に、この娘は伸びるかもしれん。


ダイヤの原石を自らの手で磨いてみたいという教育者としての欲。
地上へとヴァイスリッターを下ろし、その手からライフルを奪う。適当なところに隠すか、とノワールが飛翔したとき。

「……何だ!?」

ゴゴゴゴ、と地響き。空にあってなお感じられるそれは、地震などではなく、もっと近いものだ。
そして唐突にレーダーに反応。位置は――ノワールの真下!

岩盤を突き破り、巨大なドリルが――そう、ドリルが天を衝かんと咆哮する。
現れたのは船主に超大型の回転衝角を備える戦艦だった。

イネス・フレサンジュに与えられた機体――戦艦。
スペースノア級参番艦、名をクロガネ。
軍に囚われず己の信ずる道を往く男たちによって操られた、漆黒の超弩級戦艦。

呆気にとられたバニングに構わず、地中すらも掘り進むほどの推力が全開に。
ノワールの全長をも遥かに超えるその回転衝角が迫り来る。

「イネス……フレサンジュか!」

もう一人いたことを失念していた。
気が緩んでいたのか、思ったより疲労していたか……とにかく、バニングはイネスに先手を取られた。
ライフルを放り出して自前のビームライフルを、リニアキャノンを乱射するが、猛回転し突き進む回転衝角に煩わしいと言わんばかりに弾かれる。

(回避――間に合わんッ! くそッ……!)

モニターいっぱいに拡大されたドリルの先端が後退するノワールに追いつく。



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」



その瞬間、横合いから伸びてきたワイヤー――ノワールのそれと同じように先端にアンカーがついている――が、ノワールの脚部を掴み、引き落とす。
バニングは一瞬の判断でバーニアを全て上方へ向け、推進ベクトルを下降に回す。
謎のアンカーの引きと相まって、コマ落としのようにノワールの姿がクロガネの進路上から消失。
直後、轟音と共に戦艦が行き過ぎる。

落下したノワールが一瞬で体勢を整え、アンカーの先へと剣を向ける。
そこにいたのは、

「ガンダム……だと!?」

河を割って現れたのは、まるで中世の海を荒らし回った海賊のような機体。
骨を二本合わせたようなバーニアスラスターを背負い、しかし頭部は紛れもなくガンダムフェイス。

クロスボーンガンダムX3。

新生クロスボーン・バンガードの旗印。クロスボーンの系譜に連なる最新の機体。
数々の新武装をありったけ詰め込んだ、小さな、しかし強力なモビルスーツ。

ノワールより一回り小さいそのガンダムから、警戒するバニングに向けてアンカーを伝い直接通信。

「無事か!? 話は後だ、離脱するぞ!」

若い男の声。もちろんバニングは知らない声だ。
だが、今は出自を問うている時ではない。
クロガネが転進し、その砲塔が全てこちらへと照準されているからだ。
バニングの知識から完全に逸脱したあの戦艦、火力も並大抵のものではないはずだ。
苦汁を押し殺し、叫ぶ。

「くっ……了解だ! 撤退する!」

示し合わせた訳ではないが、ノワールとクロスボーンガンダムX3は同時に水面へとビームを乱射。
一気に蒸発した水が壁となって視界を遮る。
その隙に、バニングは機体を後退させる。ガンダムを操る何某も遅滞なくついてきた。

(真矢やイネスとは違う。こいつ、相当できる……!)

バニングと同じ行動を取ったことや、迷いなく撤退を選ぶ判断力。
今は頼もしいと、バニングは無心でこの場から離れることだけを考えることにした。


     ◆


「ふう……退いてくれたか。助かった、と言うべきかしらね」

戦艦クロガネのブリッジにてイネスは強張った身体を抱きすくめる。
不意を打った一撃。あわよくば仕留められると思ったのだが、思わぬ横槍が入った。

おそらくあの河の中から様子を窺っていたのだろう。
バニングと真矢の戦いに手を出さなかったのは、どちらが殺し合いに乗ったのかを見極めようとしていたためか。
真矢を殺さず捕獲したことで、第三の人物はこちらを敵と判断したのだろう。実に憎らしいタイミングだった。

このクロガネ、あるいはナデシコと比肩しうるほどに強力な戦艦である。何より地中に自由に潜れるというのがいい。
もちろんずっと地中に隠れられては殺し合いにならないから、主催者が手を加えたのだろう。
一時間地中に潜れば、一時間は地上でのインターバルが必要。
少しでも時間をオーバーすれば首輪は爆発する。ご丁寧なことだ。

モニターの中、真矢が意識を回復させたらしくライフルを手にこちらに近づいてくる。
まずはこれからの行動を詰めなければならない。少なくとも二人の参加者に、イネスと真矢が危険人物と知られてしまった。
損傷した真矢の機体にも戦闘力にも不安が残る。
ヴァイスは遠距離戦が主体のようなので、せめてもう一機、前衛を担当する機体が必要だ。

「クロガネの価値は戦闘力だけではない……空母としても活用できる。その線で勧誘していこうかしら……」

また、真矢とももっと突き詰めて話さねばならないだろう。
彼女と最初に会った時、表情に張り詰めた物はあったがまだ普通と言える少女だった。
付け加えるなら仲間の名前、特に翔子、甲洋という参加者の名を話すとき彼女は大いに動揺していた。
だが接近するバニングの機体を感知しヴァイスに乗った瞬間、人が変わったように冷静に、無表情になったのだ。
戦闘の恐怖心を抑制するための自己暗示、だろうか。
とにかくまだお互い、目的以外は何も知り合えてはいない。
いずれ手を切るとはいえ、それなりに信頼を育んでおくのは悪手ではないはずだ。

ひとまずは身を隠すか。ここでは目立ちすぎしまった。
まだ潜行時間は三十分ほど残っている。
着艦するヴァイスリッターを眺めつつ、イネスはこれからの道行きに不安を覚えるのだった。




【一日目 6:30】


【遠見真矢 搭乗機体:ヴァイスリッター@スーパーロボット大戦OGシリーズ
 パイロット状況:良好、ややショック状態、感情の希薄化(ファフナー搭乗時と同じ)
 機体状況:左腕欠落、ミサイル半分ほど消費、EN90%
 現在位置:C-4
 第1行動方針:一騎、総士、翔子、甲洋、カノンと合流し、守る
 第2行動方針:五人を傷つける可能性のある者(他の参加者全て)を率先して排除する
 第3行動方針:しばらくはイネスと共に行動する
 最終行動方針:仲間を生き残らせる。誰かが欠けた場合は優勝も視野に入れる】

【イネス・フレサンジュ 搭乗機体:クロガネ@スーパーロボット大戦OGシリーズ
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:C-4 地中
 第1行動方針:真矢と話し、これからどうするか決める
 第2行動方針:ルリ、ガイと合流
 第3行動方針:しばらくは真矢と共に行動するが、対抗策を用意したい
 最終行動方針:とりあえず優勝を目指してみる
 備考1:地中に潜れるのは最大一時間まで。それ以上は地上で一時間の間を開けなければ首輪が爆発します
 備考2:クロガネは改造され、一人でも操艦できます】


     ◆


「助かった……礼を言わせてもらう。俺は地球連邦軍大尉、サウス・バニングだ」
「地球連邦軍!? じゃあまさかあなたはシャドウミラーの……!」
「待て、違う。奴らとは別口だ」
「それを信用しろと?」
「まあ、出来んだろうな。だが俺に含むところはない。信用できないのならこのまま行ってくれ。追いはせん」
「…………」

睨み合う二機のガンダム。場所は荒野、岩陰に機体を隠し。
C-4から撤退ししばらく移動したのち、バニングはようやくこの乱入者とコンタクトを取った。
だがやはりその声は緊張に満ちている。地球連邦所属、と言ったのはまずかったか。
しかしその言通り、バニングは何一つ己に恥じることはしていない確信がある。
また窮地を救われたこの男に嘘はつきたくなかった。だから偽らずに告げたのだ。

ノワールは武器を手にしていない。だが目前のガンダムは銃をこちらに向けている。
撃つか――じんわりと、バニングの掌に汗がにじむ。
痛いほどの静寂が数分続き、

「……俺はショウ・ザマ。あなたからは邪気が感じられない――信じますよ」

ヘルメットを脱ぎ、男――ショウは素顔を見せた。
これまた若い。せいぜい十八かそこら、ウラキよりも年下か? と当たりを付けた。

「信じてくれて感謝する……ショウ・ザマ」

ノワールの腕を伸ばす。
拳を開き、ガンダムへ。

「こちらこそ。よろしくお願いします、バニング大尉」

意を読み取ったショウもまたマニピュレーターを前へ。

陽光の元。
二機のガンダム、二人の男は固く手を取り合った。




【一日目 6:45】


【サウス・バニング 搭乗機体:ストライクノワール@機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 EN70%
 現在位置:B-5
 第1行動方針:ショウと情報を交換する
 第2行動方針:コウ・ウラキを捜索する
 第3行動方針:アナベル・ガトー、イネス・フレサンジュ、遠見真矢を警戒
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】

【ショウ・ザマ 搭乗機体:クロスボーンガンダムX3@機動戦士クロスボーン・ガンダム
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:B-5
 第1行動方針:バニングと情報を交換する
 第2行動方針:邪気に呑まれた者、戦闘に乗った者を倒す
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】


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026:マスカレード・ダーク 投下順 028:俺たちの野生
014:オルドナ・ポセイダルの悪夢 時系列順 013:巨人と獣と人間と

登場キャラ NEXT
遠見真矢 047:大人目線
イネス・フレサンジュ 047:大人目線
サウス・バニング 052:強さの在処、心の在処
ショウ・ザマ 052:強さの在処、心の在処

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最終更新:2010年01月17日 18:55