3+14=?? ◆s2SStITHHc





自分が殺したはずの渚カヲルが生きていた。
碇シンジにとってそれはそう喜ばしいことではない。
後ろめたさもあるし、そもそも渚は人類の敵……最後の使徒だ。

「またカヲル君を殺さないといけないなんて……畜生!」

彼らしくもない罵声を上げながら、コクピット内で地団太を踏む。
シンジが渚を殺したのは、彼が人間を滅ぼすサード・インパクトを起こそうとしたからだ。
人間であるシンジは、渚との友情と人類の存亡を天秤に掛け、結果渚の首を落とした。

「でも、僕は間違ったことはしてないはずだ。カヲル君だって抵抗しなかったじゃないか!
 僕達が生き残るべきだって言ってくれた! 僕は……ランスさんみたいにはなりたくないよ……!」

全く持って不愉快だが、今一度エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして渚を殺さなくては。
シンジの混乱する思考は殺人への忌避を次第に除外して前回と同じ結論を導き出し、操縦桿を強く握らせる。
彼の思考の推移には、二人殺さなければ十六時間後に首輪が爆発することへの恐怖感も混ざっていただろう。
実際に渚と対峙した時に彼を使徒として認識し、躊躇なく殺害できるかというと……頷きかねる。

「……でもこのロボット、エヴァじゃない……よな……?」

自分が乗っている機体は操縦自体はエヴァと全く同じ感覚で行えるが、LCLが満ちていない。
更に言えば、エントリープラグの内壁が何かおかしい。うねうねと脈打っていて、まるで生物の体内だ。

「外の映像は……海? これじゃ現在位置なんてわからないよ」

視界は見渡すかぎりの水、水水……。地図と照らし合わせても、周囲に目印になりそうな物など何も確認できない。
シンジは幾瞬の躊躇の後、機体を動かして湖底を進む。外部の映像に、紙切れのような腕が揺れて映る。
エヴァを歩かせる時に自分の足に感じる、地面を踏みしめるような反動が来ない。まるでホバー移動だ。

「……ま、まさか」

念じて、腕を動かす。モニターに映し出されるみょーんと伸びる触腕。
シンジの脳裏に、うっすらとスクリームのような顔と男の戦いが浮かび上がる。



「使徒だこれーーーーー!!!」



『そうだ、そのまさかだ』

「!?」


その声は坐臥するシンジの上方――前述の通りここはエントリープラグ内だ――から聞こえた。
機械音風の声が聞こえた、とシンジが見上げると同時に、声の主が現れる。
肉壁風のエントリープラグの装甲が開き、触手に両腕を掴まれた少女がシンジの腰の上辺りにガイナ立ちしたのだ。
触手が少女の腕を放し、その全体重がシンジにかかった。あまりの事態に目を白黒させるシンジ。
少女の顔は、シンジの良く知る人物、綾波レイに酷似していた。だが、雰囲気が絶望的に違う。
組んだ両腕を離し、シンジを上から目線で睨み倒す少女に、恐る恐る話しかける。

「き、君は一体……」

『私は第十四使徒ゼルエルの魂の代替。本来人間が乗る事が不可能なこの存在を改造する過程で産み出された物。
 シャドウミラー内部では失われた"W14"の名で呼ばれている。よろしくお願いしちゃったりしますのですよ……む?』

背中から羽を生やし、カラフルなプラグスーツを着込む桃髪赤眼の少女は、自らをW14と名乗った。
シンジは唖然としたままで、まじまじと彼女の容貌を眺める。先ほど彼の脳裏に浮かんだ使徒の姿がフラッシュバック。

『……何をそんなに見ている。お前はエヴァンゲリオンのパイロットだろう? 自分の乗る機体の特性を知らんのか。
 EVAシリーズを起動させ、制御する為には人間の魂が内部に宿っていなければならない。
 そして、エヴァと使徒はほぼ同一の存在……無論、このゼルエルを人間の手で制御する為にも魂が必要だった。
 そこで支給機体として用意されたエヴァに入れられていた魂を分割し、ゼルエルに注入したのだ。
 いわば、レモン様の技術力とネルフの科学力のハイブリッド……ベリーバッドクロスオーバー!
 誰が乗ってもゼルエルを自在に動かせるように創造されたのがこの私……W14なのであるってこっちゃでありんす!』

「……(綾波に似た顔で変な事言うのやめてくれないかな……)」

『言語機能の調子がおかしいのは気にするな。私は気にしている』

シンジはW14の説明を全く理解していなかった。ショッキングな事件が続いたのでエヴァの仕組みなど覚えていない。
とりあえず彼女が参加者ではなくシャドウミラーの一派だと言う事は理解したらしく、あからさまに不審な視線を送る。

「でも、エヴァの中には君みたいな子はいなかったよ!」

『使徒とエヴァでは勝手が違う。大体ここではオペレーターもいないのだ、インターフェースは必須だろう?
 更に言えば、私はジョーカーであるお前へのサービスでもある。戦闘のサポートからカウンセリングまでフルおk』

「大体、この使徒は初号機に倒されてS2機関を食われちゃったじゃないか! どうして動いているの!?」

『レモン様が直した』

「ま、まさかカヲル君も……?」

『レモン様が直した』

淡々と答えるW14に、次第に気力を失い始めるシンジ。
混乱を抑さえるという意味では、なるほどW14にはカウンセリングの才があると言えよう。
W14はシンジが喋らなくなったと確認すると、もう自室に戻ってもいいか? と問い掛ける。自室があるらしい。

「……要するに君は僕が戦う時、ミサトさん達みたいにサポートしてくれるって事で、いいの?」

『そうだが。お前に危害を加える事はないから安心していい。しかしシンジよ、これだけは言っておこう。
 ゼルエルが死んだらたぶん私も死ぬので、お前は全力で生き残らねばならないとW14はW14は笑顔で脅迫した』

(……この機体、ホントに当たりなのかな……)

シンジが疑問を消化しきる前に、W14はもう話すことはないとばかりに再びガイナ立ちした。
同時に、エントリープラグの上部装甲が開き、触手が舞い降りる。
触手はW14を掴むと、ゆっくりとその華奢な身体を持ち上げ、やがて姿を消す。
ぽかんと見上げるシンジだったが、しばらくして気を取り直し、これからどうしようと考え込む。

「こんな使徒で会場をふらふらしてたら殺し合いどころじゃないよ……目の敵にされて集中砲火に決まってる。
 人を殺すことを前提に動くならそれでもいいけど、積極的に人殺しなんてできるもんか!」

頭を抱え込むシンジに、ふと一つの案が浮かぶ。

「そうだ……しばらくここでじっとしてて、それから陸に上がって戦闘で傷ついている人たちを助けよう!
 この殺し合いに嬉々として参加するような人が弱っていたら、その人は殺せばいいんだ! よし! これが一番だ!」

パッと表情を明るくして、良心と生存本能を同時に満たす結論を出すシンジ。
どうやって善人と悪人を見分けるかなど、細かいことは何も考えていない。
それを誤魔化すために、ハイテンションを保って次々とまくしたてる。

「よし! あまりのんびりしてもいられないから、六時間! 六時間、ここで休む! それから上陸しよう!」

ゼルエルの操縦を放棄し、敵機が近づいてきた場合の対策として海底のたくましいワカメ群に機体を隠蔽する。
と、エントリープラグの上部がちょっと開き、水筒と毛布と紙切れが落ちてくる。
シンジは紙切れを受け取り、そこに文字が書いてあることを見取った。

『シンジへ 温かくして寝なさいね 何かあったら起こします W14より』

水筒の中にはホットミルクが入っていた。
シンジは狭いエントリープラグの中で20分ほどのストレッチをしてからそれを飲み――――眠りについた。


【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
パイロット状況:熟睡
機体状況:ゼルエル=良好 W14=良好
現在位置:D-4 海底 ワカメゾーン
第一行動方針:六時間くらい寝る
第二行動方針:起きた後、善人を探して助ける。悪人は殺す、人類の敵である渚カヲルはもう一度殺す……?
最終行動目標:生き残る】
※カヲル殺害後から参戦です。

【W14(ゼルエルXX)について】
  • 外見はこれ:ttp://ecx.images-amazon.com/images/I/410GG2X6CNL.jpg
  • 中身は碇ユイ(初号機に内蔵された魂)と何かが混ざった感じ。詳細は後の書き手さんにお任せします。
  • 実体はあるが、ゼルエルから降りると多分死ぬ。ゼルエルが大破しても多分死ぬ。詳細は後の書き手さんにお任(ry
  • 本来のW14とは当然別物、名前を借りてるだけ。ウォーダン・ユミル(W15)との面識などは後の書き手さん(ry。

【一日目 8:00】


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最終更新:2010年01月22日 22:50