貧乏クジの行方 ◆PfOe5YLrtI


黒き獣が地を走りながら、背負う砲門からビームの光を撃ち放つ。
赤き巨人へと向けられたその光は、しかし巨人の屈強な腕に阻まれ、本体への直撃を許さない。
「邪魔しないでよっ!!」
「って、あれに乗ってんのは子供かよ!?」
獣の中から聞こえるプルの声に、タスクが思い出すのはスクールの少年少女達の話。
あの少女もまた、彼らと同様の訓練や強化・調整を施されているというのだろうか。
操縦は荒ったい、しかし確かにあの獣のような機体を使いこなしている。
少なくとも、年端も行かない普通の女の子に一朝一夕でできる芸当ではない。
「しかもラトゥーニ達よりさらに年下っぽいし……たまったもんじゃねぇな、ったく!」
獣は巨人の周囲をすばしっこく跳び回りながら、ビームを乱射する。
その全てを受けきり、逸らし、やり過ごし……確実に防ぐ巨人。
それは、犬と飼い主のじゃれ合いのようなやり取りに見えなくもなかった。

タスクは特別優秀なパイロットというわけではない。
運動神経は鈍いし、一度はパイロット適正審査の段階で落とされたこともある。
だがそれでも、勘と悪運とそして根性を武器に、DC戦争に始まる幾多の大戦を潜り抜けてきた。
単純に実戦経験に関しては、ここにいるプルよりもタスクのほうが場数を踏んできている。
加えて重装甲の機体の扱いにかけては、ジガンスクードに乗り慣れたタスクに一日の長があった。
武装や格闘性能など、総合的に見ればビッグデュオはむしろジガンより遥かに使い勝手がいいといえよう。
獣――ガイアガンダムの火力は読めた。これなら、隙さえ突かれなければ防ぎきれる。
条件は全てにおいてタスク優位だ。これでヘマをやらかした日には、立場がないというものである。

「もう!ずるいよ、私のガイアにはそんな腕付いてないのに!」
イライラを募らせたプルが、痺れを切らし叫び声をあげた。
ビッグデュオの喉元を噛み千切らんばかりの勢いで飛び掛る。
「うおっと!?」
その際、背面ウイングにビームの光が収縮し、刃を形成しているのをタスクは見逃さない。
飛び込んでくるガイアにタイミングを合わせて……両の手で翼ごと挟みこむ!
「捕まった――!?」
「白羽取りっ!どうよっ!」
白羽取りにしてはスマートさに欠けるが、半ば力任せに機体ごと引っ掴む。斬られ役に甘んじてやる気はない。
ひとまずの動きを封じたことで、タスクは眼下を見回す。
(さっきのあいつは……上手く逃げ切れたみたいだな!)
カズマの姿が完全に見えないことを確認し、タスクは行動に出ることにする。
この取り留めのないじゃれ合いもここまでだ。
「よーし!もういいだろお嬢ちゃん、おイタはそこまでだぜ」
元々シャドウミラーの意のままに殺し合いに乗ってやる意思など、タスクには存在しない。
ましてや相手が幼子となってはなおさらだ。
「よくないよ!早く死んでくれなきゃ、ジュドーのところに帰れないんだから!」
「物騒だなぁオイ……ん?」
プルの口から出た言葉がひっかかった。
名簿だ。参加者一覧の中に、ジュドーという表記があったことを思い出す。
「おい、ちょっと待てって!お前、そのジュドーって奴まで殺しちまうつもりかよ!」
「何わかんないこと言ってんのさ!」 
「わかんないってお前、ジュドーって名前が名簿に……」
「あたしはジュドーの所に帰るんだ!邪魔すると許さないから!」
言っていることがメチャクチャだ。まるで、自分達と敵対していた頃のゼオラを思い出させる。
あの頃の彼女やオウカ・ナギサ同様、施された洗脳や強化が、思考をも破綻させているのか――
シャドウミラーのやりそうなことだと、タスクは舌を打った。
……『前例』の存在が、タスクの目を曇らせていた。
本当はそこまで難しく考えるまでもなく、ただ単に名簿を見ていないだけの話だが。
「沈めぇーっ!!」
砲門にビームが収縮するのを確認し、反射的にビッグデュオはガイアを掴んでいた手を離す。
放たれたビームが空を切る。同時に、空へと跳ぶガイア。
その獣の姿が、別の形――人型へと変わりつつあるのが見えた。
(変形するか!そうはいきますかって!)
元整備兵だったタスクの眼力は伊達ではない。
目の前の機体が何らかの変形機構を秘めていたことは先刻お見通しだ。
接近戦を行いやすい人型となって、体勢を立て直すか。
それを阻止すべく、牽制として巨人の豪腕を大きく振り回した。

その瞬間、ガイアの全ての動きが停止した。

「え……!?」
「なっ……!?」

完全に無防備となったガイアに、ビッグデュオの豪腕が炸裂する。
それが決まり手となって、戦いはあっさりと終わりを告げた。
ガイアは、まるで壊れた人形のように地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

「や、やべぇ!まともに入っちまった!!おい、大丈夫か!?」
元々殺す気などなかったこともあり、タスクは慌てて声をかける。
ガイアは変形途中の不恰好な形態のまま、微動だにしない。
(なんてこった……コックピットを潰しちまったのか……!?)
しかし、タスクの心配は杞憂に終わる。
「う、うぅ……いたたた……」
「あ、よかった。生きてたか~」
ガイアの外部スピーカーから少女の声が聞こえ、タスクは胸を撫で下ろす。
声の調子から察するに、大した怪我はないようだ。
やがて、動かなくなったガイアがガチャガチャと動き始める。
「う、うそ!?なんで、どうして動かないの!?」
獣から人へ変わる途中段階の状態のまま、もがくように
タスクは相手の機体の不備を察した。
(もしかして……)
変形機構に異常個所があり、まともに作動しなかったのだろう。
考えられるのは、最初に放った巨大ドッスン落としだ。
相手の行動を封じるつもりで放った一撃だが、なにせこの重量だ。
その際のショックで変形機構がいかれてしまった、と考えるべきか。
そんな状態で無理に変形を試みたがために、動作不能に陥ったと思われる。
機体の動きを止められたという意味では結果オーライ……だろうか。
動作不能で済んだだけマシだ。ビルトラプターのような爆発事故を起こすよりは。
だが、このまま放置しておくわけにもいかない。
少女はこの状態のままでも、無理に機体を動かそうとしている。
下手に動かされて武器を暴発でもされたら、そこから機体の爆発を引き起こしてしまうかもしれない。
「よし、待ってろお嬢ちゃん。すぐそっちに行くからな」
「やだ、近寄らないでよ!!」
歩み寄ろうとするビッグデュオに、プルは怯えを含んだ声を上げ始める。
やはり、まだ年相応の女の子か。
今しがた自分を殴った怖い巨人が迫ってくるのだ、無防備な状態のまま待つのは辛かろう。
「来ないで!ジュドー!!助けて、ジュドー!!」
外部スピーカーを全開にしているせいか、プルの悲鳴が大音量で周囲まで響き渡った。
耳を劈くような甲高い悲鳴に、思わず耳をふさぎたくなる。
「あー、もう!これじゃこっちが悪者みたいじゃねぇかよ!」



そう……確かにその通りだった。

この一場面だけを切り取れば、助けを求める少女を襲っているように見えなくもない。

そして。

何と間の悪いことであろうか。
ものの見事に、これを勘違いした輩がやってきてしまった。



「待て待て待てぇぇぇい!!その悪逆非道、許さぁぁぁぁぁん!!!」



閃光、爆音。燃える森。
他の参加者が、殺し合いを始めてしまった合図だ。
それを見つけながら、黙って立ち去るダイゴウジ・ガイではない。すぐさま現場へ急行する。
そして現場にたどり着いてみれば、響き渡るは助けを求める少女の悲鳴。
少女が乗るのは、傷つき倒れた獣のような小さな機体。
そんな無力な少女に今にも襲い掛からんとする、赤く禍々しい巨人。
一目瞭然。正義と悪との識別完了。
「悪党め!!このダイゴウジ・ガイが相手になってやるぜ!!!」
ガイは少女を救うために、巨人に戦いを挑む。立ち上がれ、ゲキ・ガンガー3!
先手必勝、赤い巨人に攻撃を仕掛けた。これで少しでも自分に注意を向けられれば儲けものだ。

「な、なんだぁ……うおっ!?」
新手の乱入に戸惑う余裕も与えてくれず。いきなり放たれたビームに、被弾するビッグデュオ。
「くそ、殺し合いに乗った奴か!?やべぇ!」
ビーム砲によるダメージはさほどではない。
ビッグデュオの機体性能を生かせば、新たな敵機と渡り合うことも可能だろう。
だが問題はガイアだ。動かなくなったガイアは格好の的でしかない。
タスクはプルを庇うために、機体を盾にするべく巨人をガイアのもとへと移動させる。

が、その行動もまた新たな誤解を呼ぶことになった。

「あーっ!?てめぇぇ、少しは空気を読まないかぁぁぁ!!」
どこまでも非道なその振る舞いに、ガイは叫んだ。
自分を無視して、あくまでも少女を殺さんとする悪しき巨人……どこまでも許し難い。
ゲキ・ガンガー3のスピードを全開にして、ガイもまた少女の下へと駆けた。
しかし、これはまずい。距離が離れすぎている。
この距離では、自分のゲキ・ガンガーより先に巨人が少女のもとにたどり着いてしまう。
それを許せば、終わりだ。
心無き殺人者により、あの機体諸共少女の命が失われることになる。
あのヴィンデルにより首を爆破された、仮面の男のように。
「くっそぉぉ!!間に合えぇぇぇぇぇぇ!!!」
さすがのガイにも、焦りを表情に滲ませずにはいられなかった。
唯一の飛び道具を巨人に向けて撃ちまくるも、非力なビーム砲では巨人の足止めすら叶わない。
だがそれでも、たとえ悪足掻きに見えようとも、ガイは諦めることはない。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!届け、ゲキ・ガンガー!!!
 ゲキガン・パァァァァァァァァンチ!!!!!」

無我夢中で、機体の拳を前へと突き出す。

その時、不思議なことが起こった――!

ガイの、ゲキ・ガンガーを信じる愚直なまでに純粋な魂の叫びに応えたのか。
ゲキ・ガンガー……否、ソーラーアクエリオンの新たな力が解き放たれる。
突き出された右腕に、奇跡の力が宿った。

腕が――伸びたッ!!

「ウソやっ!?」
その変化に、タスクは我が目を疑った。
アクエリオンの腕に新たな関節が凄まじい勢いで次々と増殖していく。
その拳は真っ直ぐに、ビッグデュオのいる場所へと迫ってくる。
ありえない光景に、一瞬、タスクは防御を忘れた。
だがこのタイミングで、隙を見せることは致命的――

「が……っ……!?」
コックピット内部に、激しい衝撃が襲い掛かる。
アクエリオンの拳が、ストレートにビッグデュオの胸部を捉えていた。

しかし、それだけには留まらない。
「そのまま……いぃぃぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
腕はさらに際限なく伸び続ける。
その拳に巨人を捉えたまま、真っ直ぐに伸び続ける。
腕の関節が無尽蔵に増殖を繰り返し、猛烈な勢いで。
ビッグデュオ諸共、ただひたすらに拳は飛んでいく。
どこまでも、どこまでも、どこまでも――

「ぐああぁぁぁあぁああああああばばばばばばばばばばばばばばばっっっ!!!!」

既にビッグデュオはバランスを崩し、その身の全てをアクエリオンの拳に任せていた。
放たれる拳の勢いのままに大地を抉りながら、ただひたすら猛烈な勢いで後ろに押し流されていく。
無論、それに伴いコックピット内に響く衝撃は、半端なものではない。
(どこまで!?どこまで伸びるんだ、こりゃあ!?)
このまま世界の果てまで押し出されそうな錯覚すら覚えた。
それに抗うべく、揺れるコックピットの中で操縦桿に手を伸ばす。
視界が、焦点が定まらない。それでも、懸命に手を伸ばす。
そして、ようやく操縦桿に届いた、その時。

一際大きな衝撃が、ビッグデュオに襲い掛かった。

「がはぁっ!!」

タスクの視界が暗転した。
身体が一瞬宙に浮き、上下感覚がなくなる。
直後、コックピットがひしゃげるような轟音が鳴り渡り。
全身がバラバラになるかのような振動が響いて――

――静寂が訪れた。
コックピット内の振動も止まった。
そこで、タスクは後退がようやく収まったことを知る。
朦朧とする意識の中で、タスクは見た。
巨人の胸に突き刺さっていた拳が離れ、伸びた腕がそのまま逆戻りしていくのを。

 * * * * * * * * * * *

「おぉ……す、すげぇ……」

伸びた腕が帰ってくる。やがて腕は元の長さまで戻り、何事もなかったかのように元の鞘へと収まった。
ソーラーアクエリオンの腕に起きた突然の変化には、ガイ自身も呆気に取られるほかなかった。
まるでマンガだ。常識で考えられることではない。
「すげぇ……腕が伸びやがった!すげぇぞゲキ・ガンガー!」
もっとも、彼はそんな細かいことにとらわれる人間でもないが。
テレビで見ていた本物のゲキ・ガンガーとは毛色こそ違うものの、これは間違いなくゲキ・ガンガーだ。
彼が憧れ、待ち望み、求めていたスーパーロボットに他ならなかった。
否応なしに、興奮が彼の身体を駆け巡る。だが、それに浸っている場合ではない。
倒れた、黒い獣のような人のような機体――ガイアガンダムに、視線を移した。

「助けて……くれたの……?」
アクエリオンを見上げながら、プルは呟いた。
「なんで……?みんな殺さなきゃいけないのに……ジュドーにだって、会えない……」
「心配するな!君はそんなことをする必要はない!全ては俺に任せておけ!!」
呆然と呟く少女に、ガイははっきりと言ってみせた。
根拠のない自信と言動、だがそれも時として頼もしさとなることもある。
「このバトルロワイアルなんて、俺がぶっ潰してやる!
 そして君も、そのジュドーって奴に会わせてやるさ!」
「ジュドー……に……?」
特に、こういう殺し合いの場では。死の恐怖を経験した直後の、幼子の場合には。
「俺はガイ……ダイゴウジ・ガイだ。君は俺が守ってやる!」
「ガ……イ……」
その言葉を最後に、少女は気絶したようだった。緊張の糸が切れたのだろう。
(大した怪我もないようだし、しばらく寝かせておいてやるか)

少女を襲っていた赤い巨人は、ゲキガンパンチで遠くまでぶっ飛ばした。だが、倒したという確証はない。
もし生きていたなら……それを放置しておくわけにはいかないだろう。
助けを求める無力な少女を、容赦なく殺しにかかるような外道だ。新たな犠牲者が出る可能性は否定できない。
「心無き悪党め……しかぁしっ!!このダイゴウジ・ガイがいる限り、お前の好きにはさせん!」
巨人を吹っ飛ばした方角に向けて、ビシッと指をさし宣言する。
続いてその指を空へと向け、この状況を見て楽しんでいるであろう諸悪の根源へと叫んだ。
「そして見ていろヴィンデル・マウザー!!お前達の思い通りにはならん!!
 悪の野望は俺とゲキ・ガンガーが打ち砕いてやるッッ!!!」

朝日をバックに、勝利を誓う男。なんと頼もしい姿だろう。
眠る少女の近くで大声出すのはどうかとは思うが、それは抜きにして。
弱きを助け、悪党どもを挫く。これこそまさしくヒーローの姿。

実は殺し合いに乗っていたのはプルで、最初に仕掛けたのも彼女で。
タスクはそれにも関わらず、彼女を助けようと頑張っていたわけだが……
そんなことはガイが知る由もなかった。
世の中は無情である。


【ヤマダ・ジロウ 搭乗機体:ソーラーアクエリオン(創聖のアクエリオン) 
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:良好。エネルギー少量消費
 現在地:E-2
 第一行動方針:目の前の女の子を助ける。
 第二行動方針:仲間になってくれる参加者を探す。
 第三行動方針:女の子をジュドーとかいう奴に会わせてやる
 最終行動方針:打倒ヴィンデル!
 備考1:アクエリオンをゲキ・ガンガー3と名付けた。
 備考2:エレメントシステムについての説明はちゃんと目を通していない
 備考3:タスク(ビッグデュオ)を危険人物と認識しました】

【エルピー・プル 搭乗機体:ガイアガンダム(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 パイロット状態:気絶
 機体状態:変形途中形態のまま一時的な行動不能。多少の損壊。
 現在地:E-2
 第一行動方針:……(気絶中)
 最終行動方針:なんでもいいのでおうちに帰る(正直帰れれば何でもいい)
 備考:名簿は見てなく、ジュドーがこちらにいることに気づいてません】

【1日目 07:30】




さっきのあの子、今頃あのロボットにやられちまってるだろうか。
そう考えるだけで、俺の端正な顔が悔しさに歪む。
助けてやれなかったどころか、今じゃ自分の命の危機ときた。情けないったらない。
でも、だからと言ってこのまま燻ってる場合じゃねぇ。
全身に響く痛みに耐えつつ、俺は状況確認のために機体を操作していた。
コックピットを中心にダメージこそあれど、ビッグデュオは問題なく動くようだ。頑丈なこった。
ただ機体は平気でも、中にいる俺自身のダメージは無視できるもんじゃなかった。
あばらが完全にいっちまってるのは間違いない。他にも身体を動かすたびに、各所から悲鳴が上がる。
頭からも軽く出血してるみたいだし……こいつは少し動いただけでも結構な苦痛だ。
まだ始まったばかりだってのに、いきなりなんてザマだ。

モニターにマップが映し出され、現在位置が表示される。
どうやら今いる場所はD-1……ちょうど灯台の真下にいるようだ。
無限に続くかと思われたあのズームパンチが止まったのは、灯台にぶつかったせいだろう。
……ってちょっと待て。D-1って何だ、俺がさっきまで戦ってたのはE-2だったはずだぞ。
この地図を見る限り、1エリアの対角線に近い距離を押し出されたことになるわけだが。
……。
待て待て待て。おかしいだろ、これ!一体どんなトリックだ!?
1キロ2キロの距離じゃないんだぞ!?そんな長い距離を腕が伸びたってのか!?
どういう構造してるんだ、さっきのロボットは。ラージじゃないが、解体してみたい衝動に駆られる。
あるいはマシンセルのようなナノマシンの類か?いや、斬艦刀だってあそこまでメチャクチャじゃないぞ。
それとも修行したらロボットでもここまで伸ばせるものなのか。帰ったらラーダさんに聞いてみよう。
今までいろんな非常識を見てきたし、滅多なことでは驚くまいと思ってたが……ありゃあ規格外だぜ。

苦笑いしながら、シートに深く背を倒す。
正直、よく生きていられたもんだと思った。この悪運、キョウスケ中尉とタメ張れるかもな。
だがその悪運も、後に続かなければ消え失せるだけだ。
もしこの後、さっきの腕が伸びるロボットの追撃を受ければ。
そうでなくても、殺し合いに乗った奴に見つかれば……それで俺は終わりだ。
または、このまま誰にも見つからず放置されて、このエリアを禁止エリア指定された日には……
畜生、ネガティブなこと考えてるうちにだんだん眠くなってきやがった。

――あれ?嘘だろ?意識が沈んでいく。
死ぬのか?まさかこのまま、死んじまうのか?俺は。
俺の人生、こんなので終わりだってのか?冗談じゃねぇぞ。
こんなわけのわからない所でわけのわからないままわけのわからない攻撃で殺されてたまるか。
まだやり残したことが山ほどあるんだ。
だってのに、身体にろくに力が入らない。
ちくしょう……目の前が霞んできやがった――

俺が死んじまっちゃぁ……

あいつ、泣いちまうんだろうなぁ。

ちくしょう。

俺は、まだ、あいつに――

レオ――ナ――


「聞こえる!?これに乗っている人、生きているなら返事をなさい!」

……っとと。聞き覚えのある声が、突然耳に届いた。
どうやら、俺の悪運はまだ消えていないらしい。
モニターに、見慣れない機体が映っていた。だが、俺の中に不安はない。
見つけてくれた。それも、何より心強い仲間に、だ――
「あ……ヴィレッタ姐さんじゃないスか」
「その声……タスクなのね!?」
安堵の溜息が思わず漏れた。自分の中の緊張の糸がプチプチと切れていくのがわかった。
この人が見つけてくれるとは、本当についている。
「ハハ……すいません、ちょっと自分でろくに動けない状態でして」
「大丈夫!?すぐそっちに向かうわ!」
「お手間かけるッス」
それだけ言って、もう一度シートに身を任せた。
安堵に任せて、徐々に意識が遠ざかっていく。
程なくして、ハッチが開いた。そこから、ヴィレッタ隊長が入ってくる。
「タスク!」
「へへ、助かりましたよ姐……さ……!?!?」



驚愕の光景が、俺の目に飛び込んできた。


何が凄いって――姐さんの格好だ。


これは何だろう、水着かボンテージか。
露出度が異常に高いそのスーツは、透き通るような白い柔肌を惜しげもなく晒し、
モデル並みに整ったボディラインをこれ以上ないほどに魅せていた。
この上黒い色がまた、何ともいえぬ大人の妖艶な雰囲気を醸し出している。
引き締まったウェストにヒップ……そして豊満で且つ形の整ったバストは、
それを支える下着を着けていないのか、挑発的なまでに揺れていた。
ついでに言うなら、少し赤みのかかったコックピット内の明かりが、
その艶かしいボディをさらに妖しく引き立てていた……


う……

うわぁ。

こ、これは、なんというか……ものすごいものを見てしまった。

いや、つーか……何やってんスか、姐さん。
一体何考えてそんな格好を。
言葉が出てこない。
頭が真っ白というか、真っピンクというか――あれ――?

意識が遠ざかっていく。

待て、もう少し耐えろ俺の意識よ!
まだ全然堪能してねぇ!あと少し、あと少しだけ持ってくれ俺の命!!
こんな素晴らしい光景を前にして、俺は何もできずに死ぬっていうのか!?

くっ……

無念……

タスク・シングウジ、一生の……ふか……く――




実に幸せそうな表情のまま、タスクの意識は闇に堕ちていった。


――ところで、本人はもっともらしくシリアスを気取っていたようだが。
彼の怪我は確かに軽くはないが、別に 命 に 別 状 は な い ことだけ付け加えておく。

【タスク・シングウジ 搭乗機体:ビッグデュオ(THE BIG・O)
 パイロット状態:気絶。全身強打、あばら骨数本骨折、頭部より出血
 機体状態:コックピット周辺部にダメージ
 現在位置:D-1 灯台下
 第一行動方針:姐さんの姿を……もう一度……ッ(気絶中)
 第二行動方針:仲間になってくれる参加者を探す。
 最終行動方針:殺し合いには乗らず、仲間と合流して主催者を打倒する】


ヴィレッタ・バディムは、かつて地球とエアロゲイダーの二重スパイとして活動していた過去がある。
スパイは、的確な状況分析力と判断力を要する。目先の感情だけで動くなど論外。
刻一刻と変化する状況を正確に掴み、立ち回る。でなければ、自らの身に危機が降りかかる。
そうした彼女の能力はスパイ活動のみならず、SRXチームの隊長職においても遺憾なく発揮されていた。
……では、そんな優秀な彼女の視点から見て、このバトルロワイアルはどうだろうか。
最後の一人になるまで殺し合えと言われた。
しかも自分には、二回目の放送までに二人殺さなければ死、というさらなる枷が加えられている。
そして嵌められた死の首輪。
果たして、この状況下まともでいられる人間がどれだけいるだろうか。
恐怖に駆られ、暴走する者も出るであろう事は、想像に難くない。

――それは、ヴィレッタ自身にも当然、同じことが言える。

殺し合いに乗った相手を潰せれば、それに越したことはない。
だが、この厳しい現実を考えれば、理想でしかないことは確かだ。
本気で自分が生き延びるならば……その手を血に染める覚悟はしなければならない。
そして、彼女にはその覚悟はあった。

――では、仲間を殺す覚悟はあるのか?

目の前に、タスクが倒れている。随分と幸せそうな寝顔だ。
見た限り、命には別状はないようだ。しばらく入院でもすれば、すぐに復帰できる程度の怪我だろう。
だがそれは満足な医療施設が整っている環境にあっての話だ。
少なくとも、この過酷な状況の中で三日やそこらで治るような浅い傷でもない。
これから先の戦い。そう、シャドウミラーを相手に共に戦うにしても。
怪我の具合から考えて、戦力として数えるのはあまりに厳しいものがある。
酷なようだが、今後は彼は戦力外……足手まといとなる可能性が高いと言わざるを得ない。

――逆に言えば、今の彼なら容易に殺すことができる。

(――ッ!?)
自らの思考の中にチラチラと混じるノイズを振り払う。
だが、彼女は冷静な判断力を兼ね備えていた。
だからこそ、彼女の思考はある一つの選択肢へと導かれる。

早く人を二人殺さなければ、自分の命はない。
そして、目の前には、容易に殺せそうな命が一つ。

そこから導き出される選択肢は――

――チャンスは逃すな。そうそう、訪れるものではない。

(私は……何を馬鹿なことを……!?)

断っておくが、別に彼女は薄情なわけでも、命惜しさに心が屈しかけているわけでもなんでもない。
ただ、情報分析を冷徹に行える彼女だからこそ、その選択肢に辿り着いた。
あくまで現在の状況を正確に踏まえた上で挙げられた、数ある手段の一つにすぎない。
当然のように、その選択肢をすぐに却下した。
元より、彼女はそんな選択肢など選ぶつもりはない。
死ぬ気などないが、かといってかけがえのない仲間を殺して自分だけ生き延びようなどとは思わない。

――そこまでの覚悟もない。

かつて仲間を欺き続けてきたことに対する負い目は、彼女の心の奥底に、今なお燻っているのだから。

だが、しかし――?

バトルロワイアル。残酷な殺人ゲームは、絆を破壊し、人を狂わせる。
ヴィレッタとて、それは決して例外ではない。

「……疲れているのかしら、ね……」

首の薄皮一枚を隔てて伝わってくる死の感触は、酷く冷たかった。
すぐには、慣れそうにない。

【ヴィレッタ・バディム 搭乗機体:ガルムレイド・ブレイズ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:DFCスーツ着用、ちょっと恥ずかしい
 機体状況:良好
 現在位置:D-1 灯台下
 第一行動方針:タスクの救助
 第二行動方針:ギリアムを探し、シャドウミラーについての情報を得る。
 第三行動方針:出来る限り戦闘は避け、情報を集める。戦いが不可避であれば容赦はしない。
 第四行動方針:ノルマのために誰かを殺害することも考えておく。
 第五行動方針:そう、誰かを……?
 最終行動目標:生き残って元の世界へ帰還する】
 ※参戦時期はOG外伝終了後。

【1日目 07:40】


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042:破滅を望む者、破滅を呼ぶ物 投下順 044:3+14=??
041:サバイブ 時系列順 034:さらなる迷走

BACK 登場キャラ NEXT
003:レッツゴー! アクエリオン! ヤマダ・ジロウ 074:The Hero
013:巨人と獣と人間と エルピー・プル 074:The Hero
013:巨人と獣と人間と タスク・シングウジ 066:儚くも永久のカナシ
031:JOKER 7 ヴィレッタ・バディム 066:儚くも永久のカナシ

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最終更新:2010年02月21日 17:52