SWORD×AX ◆I0g7Cr5wzA



     ◆


一閃。
唸るは剣風、響くは剣戟音。


「お、お前は……!?」

ダイヤを砕き散らすはずだった大戦斧は、遥か天空へと切り払われた。割り込んだ大剣――人剣一体の機体、セレブレイダーによって。
そしてセレブレイドを握るはそびえ立つ巨体。腹にもう一つの顔を持つ誇り高きミケーネの武人、暗黒大将軍。
ダイヤ自身が数刻前に行き逢った、間違いなく敵と言える男。

「フン、よくよく貴様も運がないな。マジンガーに逃がされた先で戦に巻き込まれるとは」
「お前、剣児さんはどうした! なんでお前がここにいるんだ!?」
「剣児……草薙剣児、か。奴は見事な武人であった。この俺をああまで追い詰めた男は、剣鉄也を置いて他におらん」
「ま、まさか……!」
「奴は死んだ」

イルイを抱きかかえるダイヤの顔がくしゃりと歪む。涙を堪えるように――それ以上の怒りで塗り潰すように。
錯覚かどうか、イルイは肌に触れるダイヤの体温が急激に上昇したかのように、ビクリと震える。

「お前……! お前が、剣児さんを殺したのか!?」
「……そうだ。俺がこの手で奴を討った」
「う……うわぁぁぁーっ!」

イルイを下ろし、ダイヤは生身で暗黒大将軍の脚へと殴りかかる。
子どもながらに腰の入った打撃だ。相手が普通の人間だったなら骨まで砕けそうな。
だがもちろん、30mを越える巨体の暗黒大将軍に通じるはずもない。
暗黒大将軍が、軽く脚を振る。腹にめり込む衝撃に、ダイヤは軽々と吹き飛ばされた。

「ダイヤーッ!」

イルイがダイヤを助け起こす。だがダイヤは完全に気を失っていて、イルイの声には応えない。
暗黒大将軍は剣をイルイへと突き付ける。見返す瞳は友を傷つけられた怒りで震えている――それでこそだ。

「その小僧の名、貴様は知っているか?」
「ダイヤ……ツワブキ・ダイヤ!」
「ダイヤ、か。小娘、そやつが目覚めたら伝えるがいい。力を手に入れ、いつでも草薙剣児の仇を取りに来いとな!
 俺は暗黒大将軍、挑まれれば逃げも隠れもせん! たとえ相手が女子どもであろうともだ!」

言い捨て、暗黒大将軍は踵を返す。
その眼光が見据えるのは、状況の推移を計りかねていたディアブロ・オブ・マンデイ。
傍らに突き刺さっていた戦斧を抜き、放り投げる。受け取るディアブロ。
暗黒大将軍自身はセレブレイドを正眼に構え、漲る闘気を解放する。
明らかに人でなき者と相対し、その凄まじいプレッシャーに気圧されるアマンダラだが、それはテッサも同様だった。

「貴様も戦場に在る武人ならば名乗るがいい! 俺は暗黒大将軍、ミケーネ帝国の将よ!」
「ぬう、貴様……私の邪魔をするというのか!」
「弱者を嬲る愚か者など、俺の剣の錆にする価値もない。だがな……!」

振り回されるセレブレイドが大気を切り裂き、烈風を巻き起こす。

「草薙剣児はこやつらを守るために俺と戦った、見事な戦士だった!
 決着を着けられなかったのが心残りでな……あのまま続けていれば俺が勝っていたかどうかわからん。
 だからこそ、奴の同胞であるツワブキ・ダイヤが俺と雌雄を決せねばならんのだ!」
「ダイヤ君と……? そのために私達を助けるというのですか!?」
「勘違いするな、娘。これは草薙剣児への敬意だ。奴が生きておればこうしただろう、ただそれだけの事。
 次に相見えた時は容赦せん! 覚えておけ、いずれ貴様もダイヤと言う小僧も俺が討ち果たす!」

それきりテッサには目もくれず、暗黒大将軍はディアブロの間合いへと踏み込んでいく。
交差する剣と戦斧。体格に勝るディアブロだが、暗黒大将軍の湧き上がる闘志はその不利を覆す。
一気に押し込まれ体勢の崩れたディアブロへ、セレブレイドから放たれる竜巻がディアブロを天へと弾き飛ばした。

セレブレイダーは本来ブレイドガイナーと合体する事で、本来の力を発揮する。
だが今セレブレイドを握るのはプラズマドライブを持たない暗黒大将軍。必然、その力を十全に振るう事などできない――はずだった。
だが、シャドウミラーの技術力はセレブレイド単体でもヘルスハリケーンを起こせるほどにプラズマドライブを強化していた。
加えて、暗黒大将軍が本来持つ竜巻を放つ力。
二重の竜巻は全てを薙ぎ払う嵐となって顕現し、猛威を振るう。

「砕け散れェェェいッ!」
「おおおおおおおおっ!?」

異なる二つの気流の流れは反発し、時に混じり合い、中にいるディアブロを木の葉のように惑わせる。
今こそ必殺の一刀を。
脚を踏み出した暗黒大将軍。だが狙うべきディアブロのさらに上、煌めく一点の星が見えた。
星は瞬く間に急降下し、ディアブロを掴み暗黒大将軍目がけて蹴り落とす。
とっさに一歩下がった暗黒大将軍。その身体は不意に横手へと吹き飛んだ。

「ぐあああッ!?」

地を滑り、小山へと激突する暗黒大将軍。
代わりに着地したのは雷の化身――大雷鳳と、吊り下げられた銃――R-GUNリヴァーレ。
そして地面に埋まるほどの勢いで胴から叩き付けられたディアブロ。

「五飛さん!」
「無事か、女! ダイヤ達はどうした!?」

大雷鳳、R-GUNリヴァーレ共に全身に傷を負っている。
特に大雷凰はR-GUNリヴァーレを突破するために相当無理をしたらしい。左腕は肩から欠落していた。
R-GUNリヴァーレは全身の装甲至る所に傷があるものの、さして大きい損傷はない。
暗黒大将軍を吹き飛ばしたのはR-GUNリヴァーレの切り札、アキシオン・キャノン。万全の出力ではなかったので威力はさほどでもなかったが。
身を起こす暗黒大将軍。怒りに震える眼光が、新たに現れた二機を射殺さんばかりに睨み据える。

「貴様ら……許さんぞ! この俺に砂を噛ませるとは何たる屈辱!」
「ええい、また新手か!」
「待って五飛さん、その人は!」
「もはや問答無用! ぬおおおおおおッ!」

再度の竜巻が吹き荒れ、辺り一帯を包み込む。
生身のテッサを庇うべくジャイアントロボが膝をつき、その手に包み込んだ。
二本の脚で立っているのは暗黒大将軍、大雷凰、R-GUNリヴァーレ――そして驚くべき頑強さを見せるディアブロ・オブ・マンデイ。

「女! ダイヤ達を連れて逃げろ!」
「五飛さん、あなたは!?」
「言っただろう、やる事があると! こいつらは俺が倒す!」
「そんな、無茶です!」
「早く行け! 巻き込まれればもう助けられん!」

言って大雷鳳はR-GUNリヴァーレへと飛びかかっていく。
R-GUNリヴァーレは剣を構え大雷鳳を迎撃しつつ、ガンスレイヴを放ち暗黒大将軍へ向かわせる。
その逆側からディアブロが斧を振り上げ、暗黒大将軍は鞘に納めていた自身の剣を抜き放ち二刀を構え迎撃する。

大雷鳳の蹴りから放たれたプラズマの刃が、
R-GUNリヴァーレのスレイヴから放たれる光が、
刃の結界を創り出すディアブロと暗黒大将軍の刃が、
絶えることなく吹き荒れる竜巻が、

そこにある全てを裂き、砕き、削り取っていく。

「だ、ダメ……ロボ! ダイヤ君達のところに……!」

介入も観戦もできないと痛感したテッサが、ジャイアントロボをダイヤとイルイの元へ後退させる。
気を失ったらしいダイヤを抱え上げ、三人はジャイアントロボの手の中に収まる。
そうしている間にも烈風は吹き続け、イルイの小柄な体は吹き飛ばされそうだ。

「しっかり掴まってて、イルイちゃん! ここから離脱します!」
「で、でも! あの人は……?」
「五飛さんは……きっと、自分で何とかします! いえ、私達がいれば邪魔になるんです! だから……!」

頼みの綱だったガンバスターも、ダイヤが気絶している現状では使いようがない。
無為にこの場に留まっていれば流れ弾で全滅するかもしれない。だから――

「ここは、逃げるんです……!」

仲間を、五飛を見捨てて、逃げる。
ダイヤが眠っていて良かった。そんな事を思ってしまうテッサ。

ジャイアントロボが飛翔する。未だ戦いの渦中にある五飛を残し、一路東の海へ向かって。
最初は基地に行くことも考えたが、向かっている途中なんと天から光が降り注ぎ基地施設を破壊していく。
攻撃を受けている。おそらくは成層圏からの狙撃だ。
今すぐにでも向かって止めさせたいところだが、宇宙へ上がる手段がない。シャトル発着場一帯は真っ先に攻撃されていた。
何より、テッサには宇宙に上がるという考え自体思い浮かばなかった。普段は潜水艦の館長をしているのだから、当然と言えば当然だが。
地図の端に飛んだところですぐ行き止まりになると思ったが、どういう訳か遥か彼方に陸地が見える。
突き詰めて考える事も出来ず、テッサはただその方向へ向けてロボを移動させることしかできなかった。

しばらく飛んだが、追撃はない。おそらく五飛が押さえてくれているのだろう。
会ったばかりのテッサ達を守るために、自らの命を賭して。

「ゼンガー……助けて、ゼンガー……!」

イルイが祈るように呟く名前。知らない、名簿にも載っていない名前だ。
少女は固く目を瞑り、その人物の名前だけを繰り返し連呼する。

「私は……無力ですね……」

遠くなる戦いの気配。
強く固く握られるイルイの小さな手だけが、テッサの意識を現実へと繋ぎ止めていた。




【一日目 8:40】

【ツワブキ・ダイヤ 搭乗機体:なし(ジャイアント・ロボに同乗中)
 パイロット状態:気絶、疲労(中)
 機体状況:なし
 現在位置:A=4 海上
 第一行動指針:???
 最終行動方針:皆で帰る】

【イルイ(イルイ・ガンエデン) 搭乗機体:なし(ジャイアント・ロボに同乗中)
 パイロット状態:良好、疲労(小)
 機体状況:なし
 現在位置:A=4 海上
 第一行動指針:ダイヤ、テッサと一緒にいる
 第二行動指針:ダイヤに暗黒大将軍の伝言を伝える
 最終行動方針:ゼンガーの元に帰りたい
 備考:第2次αゼンガールート終了後から参加】

【テレサ・テスタロッサ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日)
 パイロット状況:良好、全身に痛み、疲労(小)
 機体状況:全武装の残弾50%、全身の装甲に軽い損傷
 現在位置:A=4 海上
 第一行動方針:安全な場所まで逃げて、ダイヤを介抱する
 第二行動方針:仲間を探し、部隊を形成する
 第三行動方針:首輪を外す
 最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】


     ◆


「がはっ……!」

天から叩き落とされた雷の巨人。
逞しかった体躯は、見るも無残にほぼ全面の装甲を砕かれている。
喉から込み上げてきた液体が、コクピットを濡らす。
張五飛はぼんやりと悟る――ああ、死ぬだろうな、これは。

レイ・ザ・バレルを突破する際に少々無理をしすぎたらしい。
至近距離で炸裂したガンスレイヴは大雷鳳のみならず五飛の肉体をも傷つけていた。
身体を見下ろしても、破片で傷ついていない場所を探す方が困難だ。

だが不思議と身体は動く。軽い、まるで羽のように。

「システムLIOH……。この俺が機械に手助けされるとは……な」

それは実のところ手助けでも何でもなく、ゼロシステムと同様にパイロットの安全を度外視し一個のパーツとして扱う悪魔のシステム。
だが今の五飛には有難い。痛みや苦しみを感じる事なく戦い続けられるのだから。

ダイヤ達はもう大分前に離脱したのを確認している。彼らを逃がす事だけが目的tだったなら、もう撤退してもいいのだが。
五飛の正義と、自身の身体がそれを許さない。ここで退けばもう二度と悪を屠る好機は巡って来ないだろう――死と言う断絶の前には。
ガンダムパイロットとして幾多の戦場を駆け抜けてきた五飛に、死の恐怖はない。
今度は自分の番だった、ただそれだけの事だ。

だが――だからと言って、死に際に自分を曲げる気などさらさらない。
どこにいようと、どんな時でも、張五飛は強くあらねばならない。
それがガンダムパイロットとしての、『ナタク』を駆る者としての、たった一つの責務。

「お前は……ナタクではない。だが強き者……大雷鳳! お前の正義を見せてみろ……ッ!」

搭乗者それぞれにアジャストされる雷鳳・大雷鳳は、本来これと言った武装やモーションプログラムを持たない。
現在の格闘戦特化の調整はテストパイロットだった一人の青年に合わせた仕様だ。
その最奥――厳重に封印された機動パターンの奥底に、ある一つのプログラムを発見する。

コード・神雷――全てを砕く神の雷。

システムが警告する。少しでも制御をしくじれば、大雷鳳はその瞬間に砕け散ると。それほどに高難度の技――

「……面白い! お前の正義がその技だというのなら、俺の正義で使いこなして見せよう!」

躊躇わず、プログラムを起動させる。
敵は三体。

――誰彼構わず嵐を放ち、二刀を振るう異形の巨人。
――ジョーカーであるレイが駆る、正体不明の機体。
――ある意味この中では一番組みし易い、近接戦用の斧しか持たない機体。

一度に砕けるのは、一つだけ。二度目の攻撃を仕掛ける余裕はない。
レイと斧の機体が組んでいるのは既に知っていた。
異形の巨人は五飛と同じだ。己以外の全てに攻撃を仕掛けている。
では、レイか斧の機体を砕くべきか。そうすれば残るは異形ともう一体、どちらが勝つにせよ片方は落ちるだろう。

そして生き残るのは殺戮者のみ――論外だ。全て倒さねば五飛がこの場に残った意味がない。
誰に切り札を切るか。それを見誤ってはならない――

そして、状況が動く。

「ええい、小賢しいハエどもめ! 一気に片付けてくれる!」

業を煮やした異形が左手のサーベルを鞘に納め、右手の大剣を構える。
震える剣に凄まじいエネルギーが集中するのがわかる。おそらくは、あれが奴の切り札。
対抗するようにレイが距離を取り、胸元から砲身を露出させる。
この戦いの中一度として全力の砲撃を見せられた事はないが、相当威力に自信があるのだろう。
斧の機体に牽制を任せ、自身はチャージに専念している。

「もはや俺は眼中にないという訳か……だが、な!」

地に這っていた大雷鳳が飛び起きる。両腕を無くし、満身創痍となりつつも死地へと踏み込むその足取りに遅滞はない。

「ダイナミック・ライトニング・オーバー……大雷鳳! 行くぞ……ッ!」

大雷鳳の頭部、眼帯状のパーツが開かれる。現れる、千分の一を見通す遥かなる瞳。
背のプラズマコンバーターから莫大なエネルギーが放出され、光の翼――否、光の不死鳥となって大雷鳳を前に進ませる。
気付いたレイが振り向く刹那に、

「チャージなどさせるかああッ!」
「何っ!?」

全力で蹴り上げる。
宙に舞うR-GUNリヴァーレ。だが大雷鳳はその後を追わない。
その時には既に、先行していたディアブロ・オブ・マンデイの背後に現れている。

「もっと速く!」
「ぐおおおおおっ!」

時空すら軋ませるほどに鋭い蹴りが、ディアブロをR-GUNリヴァーレに続かせる。
そして残った暗黒大将軍、その剣が振り下ろされる前に。

「もっと強く!!」
「な……なんという速さだ!」

一瞬にして視界から消えるそのスピード、まさに雷。
セレブレイドが叩き落とされ、腕を押さえた暗黒大将軍の顎を蹴り上げる大雷鳳。
暗黒大将軍の視線の先には、先に行った二機が仲良く衝突している。

「もっと熱く……!!」
「があっ!」

当然、暗黒大将軍もまた続く形で打ち上げられる。
激突。痛みはそれほどでもないが、小賢しくも斧の機体に殴りつけられ離脱のタイミングを逃してしまう。
R-GUNリヴァーレはアキシオン・バスターのチャージを緊急停止させた事により、短時間の行動不能に陥っていた。
一塊になって、身動きの取れない状態――格好の的だ。

腕のない大雷鳳が脚を叩き付け、地を震わせる。
凄まじい噴射炎が地表をめくり返す。
相当に強力な一撃が来る。それが、この瞬間三者に共通する思考。

「俺の正義に応えろ……大雷鳳! うおおおあああああああああッ!」

そして、発進――それはまさに地上から昇り上がる隕石。
雷光が視界を埋め尽くす。
もはや回避は不可能と見た暗黒大将軍は、斧の機体の頭をそれぞれ掴み、前に押し出す。
避けられないのなら耐え抜くのみ。
当然斧の機体は抵抗したが、不意に周囲に現れた紫色の何かが至近距離でその顔面へ光弾を放ち動きを止める。
どういうつもりだ、と訝しんだその一瞬に、衝撃は来た。


「砕け散れええええええええええええええええええええええッ!!」


五体全てがバラバラになるような痛み。
回る、周る、廻る――遥か天へと吹き飛ばされている。
見えるのはただ、雷光と砕け散った鋼鉄の破片のみ。
視界が反転する。今度はどうやら落ちているようだ。


天地を引き裂く轟天の蹴りが、荒野の迅雷となって駆け抜けた。


     ◆


「名も知らぬ戦士よ。貴様もまた、強敵と呼ぶに相応しい男であった」

更地となった荒野に立つは、ミケーネ帝国の武人。
張五飛渾身の一蹴りは、暗黒大将軍を討つ事は叶わなかった。
その強敵は今、暗黒大将軍の目前で塵と化した。暗黒大将軍をして戦慄成さしめる力、その対価を払ったのだ。
ひどく、身体が痛む。どこと言うところはない、全てが痛む。
鮮やかに閃き消えた雷光の、ただ一つ残る存在の証。

「俺はこの痛みを忘れん。この戦いを、生涯を通し誇り続けよう」

手向ける言葉は称賛だ。
剣鉄也、兜甲児。そして草薙剣児。
この地には彼らに勝るとも劣らない戦士が集められているらしい。

「死力を尽くした戦いこそ武人の誉れ。剣鉄也……奴との来たるべき決戦の前にこうも強敵と巡り合うとはな」

剣を手に振り向く。
そこには胴から真っ二つになった斧の機体、ディアブロ・オブ・マンデイが転がっている。

「だが、そんな奴ほど早死にし、貴様らのような腑抜けばかりが生き残る。嘆かわしい事よ」
「それは済まないな。だが、俺にも俺の都合というものがある」

応えたのはアマンダラ・カマンダラ――ではなく、レイ・ザ・バレルだ。
暗黒大将軍の間合い、そのギリギリ外にR-GUNリヴァーレは滞空している。
その手にはディアブロの大斧を握り締めていた。

「貴様、そやつとは同胞であったのではないのか?」
「いいや。必要に迫られたから手を組んだだけだ。要らなくなれば切って捨てる――そんなものだろう」
「フン、礼節を知らぬ愚か者め。降りて来い、相手をしてやる」
「遠慮しておく。俺も大分消耗した……お前とやり合って負けるとは思わないが、確実に勝てる確信もないからな。この場は退かせてもらおう」
「俺から逃げられると思うのか?」
「彼の相手をしてやってくれ。お前をご指名のようだ」

レイが示す先には、倒れ伏すガンバスターによじ登る老人の姿があった。
老人――生体電流システムをカットされ、急速に老いていくアマンダラ・カマンダラの姿が。

「ああなってはもはや手を組んでいるメリットもない。お前が始末を着けてやってくれ」
「小僧……貴様、戦士の誇りはないのか!」
「あいにく俺は軍人なのでな。では、失礼させてもらう」

ガンスレイヴが迫る。
暗黒大将軍が剣を一閃させた時、もうR-GUNリヴァーレはどこにも見えなくなっていた。
そしてガンバスターが起動する。暗黒大将軍を遥かに超える巨体が、ゆっくりと立ち上がった。

「貴様ら……許さん、許さんぞ……! この私を誰だと思っている……!」
「利用され、ボロ屑のように捨てられる。哀れなものだ……。よかろう、俺が貴様を冥府へと送ってやる!」

ガンバスターは操縦者の動きをトレースする機体。
ダイヤや健康であった時のアマンダラならいざ知らず、腰が曲がり髪も全て白く染まった老人に活かし切れるはずもない。
立ち上がったまま、微動だにしないガンバスター。
その中枢、アマンダラが乗り込んで行ったコクピットを見据え、暗黒大将軍がセレブレイドを構える。
プラズマドライブ、起動。
そして暗黒大将軍自身の技である竜巻を剣身に纏わせる。
先ほどの拡散放射ではない、一点集中の必殺戦技。

「喰らえいッ!」

放たれた竜巻が200mを越える巨体を包み込み、締め上げる。
力無きアマンダラの身体が翻弄される。だが、巨体の頑強さ故に倒れることも許されない。
竜巻の中心、無風空間の只中を駆け抜ける黒の烈風。

風を越え、音を越え――光をも超える。

これこそが暗黒大将軍とセレブレイド、正義と悪の合一した最強の一撃――


「ぬううううおおおおおああああああああああああッ!!」


――デスストラッシュが、ガンバスターのコクピットを貫いた。



「チッ、人間もこんな物を作るに至ったか。地上制圧を急がねばならんな」

静寂に包まれた戦場。
未だその原形を保つガンバスターを見上げ、暗黒大将軍は呟く。
全力全開、渾身の一撃を持ってしてもこの巨神を破壊する事はできなかった。
サイズの違いもあるが、尋常ではなく厚い装甲。一点を突破するのが精一杯だ。

「破壊しておきたいところだが……これ以上消耗するのは得策ではない。
 今はどこかで休息を取る方が先決だな」

こんな状態で剣鉄也と出会えば苦戦は必至だ。
逃げるくらいなら戦わない方がまだ良い。全力を出せず敗れるなど武人の風上にも置けない無様。

剣を収め、暗黒大将軍は歩き出す。
激戦の傷跡、強き戦士の魂をその身に刻んで。
往くはただ、修羅の道のみ。


【一日目 8:40】


【暗黒大将軍 支給機体:セレブレイダー(神魂合体ゴーダンナー!! SECOND SEASON)
 パイロット状況:全身に大きなダメージ、激しい怒り、疲労(大)
 機体状況:良好、ENを60%程消費、セレブレイドに変形中
 現在位置:F-4
 第一行動方針:剣鉄也に勝利する
 第二行動方針:マジンガーとの戦いに横槍を入れた者を成敗する
 第三行動方針:ダイヤが現れたのなら決着を着ける
 第四行動方針:余裕ができたらガンバスターを破壊する
 最終行動方針:ミケーネ帝国の敵を全て排除する
 備考1:セレブレイドは搭乗者無しでも使い手側の意思でプラズマドライブが機動できるようになってます
    無論、搭乗者が普通に機体を使う事も可能です】


     ◆


「ジョーカーが一人脱落、だが俺のカウントは増えず終い……か。失態だな」

疲労も色濃い声で呟くレイ・ザ・バレル。
何とかあの戦いを切り抜けたものの、得た物は皆無に等しい。幾許かの情報と引き換えに、大きく消耗しただけだ。

「いや、だが……そう悲観する事もないか。これでわかった、いくらジョーカーとはいえ俺が一人で勝ち残るのは難しい……」

特別な機体を与えられたとはいえ、それ以上に強力な力はいくらでもあるようだ。
張五飛の機体を別にすれば、あの暗黒大将軍という化け物に200mはあったであろう機体。とても一人では殺し尽くせない。
そこでレイは他の参加者と協力する事を考えつく。もちろん勝ち残る事が狙いなので、最終的に裏切るのが前提だが。

アマンダラと組んだのは、彼から共闘を持ちかけられたため。レイと出会う前に強敵と交戦したらしく、仲間を求めていたのだ。
薄々と感じてはいたが、その関係は長続きしなかった。向こうも向こうでレイを盾にする事を考えていただろう。
信用できる、少なくとも当面は裏切らない仲間が必要だ。
名簿をめくり、目に留まった名前は二つ。

「シン・アスカ。そして……ラウ・ル・クルーゼ」

シン・アスカ。
レイのたった一人の友と呼べる男。たとえその関係が欺瞞に満ちたものだったとしても。
崩れゆくメサイアで聞いた、彼の最後の声。
彼が愛した少女を理由に使い、自分の命が長くない事も加えて新世界の守護者にさせようとした少年の、声。

「生きろと……俺に生きろと、お前は言ってくれたな、シン」

だが、今のレイを見れば彼はどう思うだろうか。
生きるために他者を殺そうとするレイを、守るために剣を取ったシンが見れば――

「これ以上、お前に嘘はつきたくない……。だからシン、お前が立ち塞がるなら、俺は……」

また共に歩めるかどうか、それはわからない。だが彼にだけは嘘はつけない。
たとえその結果、銃を向け合う事になったとしても。


そしてもう一人。こちらはもう一人のレイともいえる存在。

「ラウ。あなたも俺と同様に、死の淵からここに呼び出されたというのか?」

だとしたら、彼は今のレイを知らないだろう。
レイが体験した戦いも、想いも。
もはやレイがクルーゼとは違う一個の人間として、ここにいるという事を。

「あなたの事だ。この場でもあなたらしく生きているんだろうな」

すなわち、世界の破滅。それを成すために、最後の一人になろうとしているはず。
こんなところでも似るものか――と、レイは苦笑する。

「だが――。だがラウ、俺は俺だ。俺の命はもう、俺の物なんだ……だから」

決意はできている。
シンと同じだ。立ち塞がるなら、誰であろうと排除するのみ。
たとえそれが兄であり父であり自分でもある男であっても。
もう選んでしまった。引き金を引いてしまった。

そう。
だから。



「俺は、俺の道を往く……!」





【一日目 8:40】

【レイ・ザ・バレル 搭乗機体:R-GUNリヴァーレ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:疲労(中)
 機体状況:EN残り50%、装甲各部位に損傷(再生中)、ガンスレイヴ一基破壊(再生中)、ディアブロ・オブ・マンデイの大斧を所持
 現在位置:E-4
 第一行動方針:生き残るために戦う
 第二行動方針:シンを探す。協力を要請するが、場合によっては敵対も辞さない
 第三行動方針:ラウは……
 最終行動目標:優勝狙い
 備考1:メサイア爆発直後から参戦
 備考2:原作には特殊能力EN回復(大)がありますが、エネルギーはポイントで補給しなければ回復しません】



【アマンダラ・カマンダラ(重戦機エルガイム) 死亡】
【張五飛(新機動戦記ガンダムW) 死亡】

【ボスボロット(グレートマジンガー) 大破】
【大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α) 大破】
【ディアブロ・オブ・マンデイ(ガン×ソード ) 大破】

※ガンバスターはF-4に放置されています。
※ガンバスターはバスターマシン一号機のコクピットに該当する部位を完全に破壊されました。


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053:GUN×KICK ツワブキ・ダイヤ 073:未来を繋げる為に、強く生きる為に
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053:GUN×KICK テレサ・テスタロッサ 073:未来を繋げる為に、強く生きる為に
053:GUN×KICK 暗黒大将軍 063:強さの理由
053:GUN×KICK レイ・ザ・バレル 065:家族
053:GUN×KICK アマンダラ・カマンダラ
053:GUN×KICK 張五飛

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最終更新:2010年02月21日 17:57