236 :ensemble ◆NN1orQGDus :2008/09/06(土) 23:41:24 ID:JaXXTxaX

#3

「ちょっとびっくりだよね。由良ちゃんと遠矢君が付き合うだなんて」
「いきなりってのが、いかにもって感じだけどね」
「まあね。それでも少しは悩んだんだよ」
 小柄というよりは幼児体型に近い少女――江藤陸海と葉菜子、そして話題の主の由良は喫茶店『マクガフィン』に寄り道をしていた。
 マクガフィンは高杜駅前の高杜モールの一角にあり、美味しい紅茶と泥水みたいなコーヒーを飲ませてくれる店として有名だ。
 スウィーツもなかなか凝っていて、自家製のパウンドケーキとスコーンは高杜学園の生徒にも人気である。
 店内はやや暗めで落ち着いた大人びたムードがあり、三人は窓辺の席に陣取って、ゆっくりと時が流れる雰囲気を楽しんでいる。
 注文したものは陸海がロシアンティーとドライフルーツたっぷりのパウンドケーキで葉菜子はミルクティーとスコーン。
 由良は拘りがあるのか、コーヒーとフィッシュ&チップスだ。
「アンタねえ、そういう食べ方やめない?」
 素手で魚のフライを食べる由良を見かねて葉菜子が口を挟む。が、由良は気にせずに油で指を汚しながら食べる手を止めない。
「しょうがないでしょ。フィッシュ&チップスは上品に食べるものじゃないんだから」
 でもさ、と反論する葉菜子に由良は声を被せる。
「だいたいさ、フィッシュ&チップスを食べるのに作法なんてないんだよ。堅苦しいのはこの味に相応しくないし」
 そう言い切ると由良は一息にコーヒーを飲み干した。
「……でも、遠矢君が見たらどう思うかな」
 由良の様子を伺いながら、陸海は小さい声で問いかける。
 しかし、問われた由良が答える前に葉菜子は溜め息を吐きながら横槍をいれた。
「どうにも思わないわよ。遠矢ってあまりそう言うの気にする人じゃないし」
「気にする人なら付き合わないよ。遠矢は一緒にいても変に気負わないから付き合うんだし。……アイツって空気みたいなんだよね」
 反論しようとする二人を由良は手で制して言葉を続ける。
「遠矢と一緒にいると私は気を使わないでいられる。私にとってかけがえのない空気なんだよね、遠矢は」
「ごちそうさま」
「で、そのかけがえのない空気様は今はどちらへ?」
 由良は退屈そうに窓の外を見る。外には下校途中の小学生の姿も見える。

「ヤスと先輩にに連行されたよ」
「げっ。あんのバカ……」

「ごめんね、由良ちゃん」
「ま、別に良いけどね。遠矢には釘を刺してあるから変な事は言わないだろうし」
 ウエイトレスが空き皿を片付けに来ると、由良は沈黙して少し間を置く。そして、ウエイトレスが去るとおもむろに口を開いた。
「今日は気分が良いから私が払っとく」
 伝票を取ると、由良はそのまま会計をすまして店を飛び出した。
 今なら間だ間に合う。さっき見た小学生に混じっていた学生服は遠矢だ。
 一緒に帰ったってバチはあたる筈はない。
 女同士の友情よりも好きな人と過ごす時間を優先したい気持ちは彼女だけのものではない。
 由良は見慣れた小さい背中を求めて走り出した。

――To be continued on the next time.





238 :ensemble ◆NN1orQGDus :2008/09/06(土) 23:45:18 ID:JaXXTxaX
投下終了。
やっと主要キャラクターを全員だせた…

ああ、トリバレしてたのでトリップ変えました




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最終更新:2008年09月07日 20:59