335 :団子と嘘と子キツネ ◆v8ylbfYcWg :2008/09/11(木) 00:17:58 ID:wciDI2rL
第4話
※今回から主人公の表記を森下から隆也に変更します
「ヘレン……か」
手元の「リトルフォックス」の名刺を眺めながら、人知れず隆也は呟いた。ふと、慧が小さく頬を膨らませる
無論、隆也に不埒な気は無く、今後覚えておいても損は無いと思っての独り言である。慧がその真意に気づいているかはさておき
「リトルフォックス」を出た後、二人はここからだいぶ遠いものの、高杜市の名所……と言うより高杜市でもっとも規模の大きいアウトレットモールである
高杜モールに足を進めていた。慧が隆也に高杜モール内の店を紹介したい事と、ちょっとした買い物があるらしい
「でも何買うんだ? 食料品なら近くのスーパーで……」
訝しげに隆也がそう聞くと、慧は周辺に視線を移しながら
「ちょっとね~。ま、気にしないでよ」
と返答した。隆也は微妙に納得がいかない表情を浮かべたが、特にそれ以上追及しない事にした
しかし遠い。何故なら「リトルフォックス」がある
南部住宅街から、高杜市の中心である高杜モールには車でも20分は掛かる
隆也の足腰に、またも足腰の疲れがぶり返してきた。時折立ち止まりながら慧について行く
「どうしたの? 何かえらく億劫そうだけど」
目元をニヤケながら、分かっているような口振りで慧がそう言った。隆也は慧の発言に小さくカチンッとしながらも
「……体力不足だよ。ぶっちゃけ言わせてくれ。タクシーを拾わないか? 時間の節約になるし」
隆也の申し出に、慧はふーんと鼻を鳴らすとすたすたと早歩きしだした。隆也は正に困惑とした表情で
「ちょっお前……俺の話聞いてなかったのか」
と悲痛な音色で言うと、慧は立ち止まり、顔だけを隆也に向け、元気はつらつと言った口調でこう返した
「タクシーなんて駄目だよ。一々拾うのもめんどくさいし、何よりお金がもったいないじゃない」
それから一行に隆也の方を向かずに、慧は歩き出した。慧の反応に隆也は数秒唖然としてしていたが……
「…・・・あぁ、分かったよ」
と言って未だに疲労が残る足腰を無理やり引きずり、慧についていく。隆也が慧の尻に引かれているかは本人同士しかわからない
ひぃひぃ言いながらも、隆也はなかなか歩行スピードが速い慧に微妙に追いつけない程度の距離で付いていく
悠々と歩く女性と、その女性を息吐かせながら必死で追いかける男のツーショットは、傍から見るとなんとも奇妙な光景だった
しばらく歩いたであろうか、隆也の目に大きくカラフルな屋根が見え、人々の活気溢れるざわめきが聞こえた
ふっと、隆也は思い出す。1年前に慧と誠二と来て以来だ、ここに来るのは。確か……何かしたような気がするが思い出せない
「おーい、隆也くーん。なにしてんのー」
慧の声が聞こえ、隆也は我に変える。慧がこっちに向かって手を振っている。何を考えていたのだろう、俺は
隆也は自分の中で沸いたもやもやをを瞬時に振り切り、慧の下へと歩いていった。正直走るにはちょっと無理がある
高杜モールに入ると、実に様々な店が二人を出迎えた。飲食店に洋服店、雑貨店に書店に床屋に……
あまり買い物に対して興味が沸かない隆也であったが、その多様さには目を奪われた。すると慧が右腕を隆也の左腕に絡ませ
「じゃ、そこの雑貨屋入ってみよっか。前から行ってみたかったし」
とにこやかな笑顔を浮かべながら、無理やり引っ張っていく。隆也は特に何も言わず、慧に引っ張られるまま身をまかした
「ほら、これなんかキレイじゃない? 隆也君はどう思う?」
慧がキラキラと光るビーズが数粒、敷き詰められたTシャツを掲げて、隆也に聞いた
「うん・・・・・・まぁ、いいんじゃないか?」
「だよねー、やっぱ隆也君はあれだね、違いが分かってるね」
こういったやり取りが毎回服装だけを変えて30分ほど続いている。服選びに夢中な慧はともかく、隆也は別にどうする事もなく適当に相槌を打つ
「プリズン」という名のその雑貨店は、若者向けの多種多様な雑貨店としてガイドブックに記載されているほどの店だ
今、慧が服を選んでいるB1Fにはアメカジだとかそうゆう所から流通されてきた古着が多い為、都内にいけない若者にも人気らしい
……と、ガイドブックを斜め読みしながら隆也は慧に連れ込まれた店について分析してみた。我ながら何と適当な事か
それから時間が経ち、慧は紙袋一杯分に服を買った。隆也は金銭の事について心配したが、慧は
「バイト代が結構入ったからね~。だいじょーぶだいじょーぶ」
と明るい音色で答えた。隆也としてはそのバイトについて聞きたかったが、疲れが先に来たようだ
「すまない、俺、ちょっと休んでくるよ。何かあったら俺の携帯に電話掛けてくれ」
と言って慧から離れた。慧はこくりと頷くと、軽い足取りでどこかにいってしまった
「……やっぱよく分からんな、あいつ」
指定の喫煙所でタバコを一本取り出し、苦笑しながらそう呟いて、隆也は懐からライターを取り出し、火をつけようとした
「あれ、ここでどうしたの? 久々の再開デート?」
ふっと、聞き覚えのある声がして、隆也はライターを着火させずに止めた。その声の方へと顔を向ける
「へ・・・・・・ヘレンさん?」
続
ども。毎回読んでくれて有難うございます
私情で今度から更新が遅れるかもorz
最終更新:2008年09月14日 22:38