439 :団子と嘘と子キツネ ◆v8ylbfYcWg :2008/09/14(日) 21:19:32 ID:6K8CJHsb
第5話
顔を上げた隆也を、人懐こい笑顔がニィと覗く
後ろに紙袋を持ったヘレンが、背を曲げてタバコを吸おうとした隆也の顔を見てニヤついている
隆也は懐からタバコの箱を取り出し、吸おうとしたタバコとライターを収めると髪を掻く様な動作で俯いた
「……まぁ、そんなもんです」
どことなく気恥ずかしさを込めて、隆也はそう言った。正直アングルに困っている。胸的な意味で
隆也の返答に、ヘレンはニヤニヤしたまま、紙袋を持っていた手を横に回して隆也の横に座った
意外に距離が近い為、隆也はどう反応して良いか困る。と、ヘレンが微かに顔を隆也に向けながら言った
「タバコ吸うんだね~。結構意外。慧の話を聞くと生真面目で健康そうなイメージがあったから」
ヘレンの言い方に妙なシコリを感じながらも、隆也はそうですか? と苦笑交じりに答えた
「うん。まぁ私の勝手なイメージだから気にしないで。スパスパ吸いなよ……ってそんな事言っちゃ駄目か」
ククっと、ヘレンは含み笑いをした。隆也はぼうっとしていたが、釣られる様に苦笑した
しばらく二人で小さく笑いあい、、ふっと隆也はヘレンに聞いた
「それで、ヘレンさんはモールに何の用事で来たんです?」
視線を宙に漂わせながら、ヘレンは淡々と答える
「ちょっとした野暮用だよ。店は近藤に任せてあるからだいじょーぶ」
そう言ってニっとヘレンは笑顔を作った。可愛らしいな、と隆也は思ったが慧に怒られそうなので止めた
そういや慧は何処に行ったのだろう。探しに行こうかなと、隆也はヘレンには悪いが会話を区切ろうとした、矢先
「あ、ごめんごめん、慧を待ってるんだよね。ごめんね、長話させて」
へレンがそう言って腰を上げた。片手で尻をはたき、隆也のほうを向き直って言った
「じゃ、慧に宜しくね。またうちに来てくれると嬉しいな。それじゃ」
隆也に背を向け、小さく手を振りながらヘレンは雑踏の中に消えていく。ヘレンと入れ替わるように、慧の姿が見えた
「ごめんね~。かなり待たせちゃったね」
駆け寄ってきた慧の手には、先ほどの「プリズン」での買い物の紙袋とは別に一つ、買い物袋が増えていた。ビニール袋だ
それほど膨らんではいない為、大した買い物では無さそうだ。隆也はそれに気づくと、息を整えている慧に率直に聞いた
「また、何か買ったのか?」
隆也の質問と目線に気づき、慧は右手に持ったビニール袋を掲げた。何かのキャラクターだろうか?
着物を纏った少女のイラストが、『高杜スマイリー』と言う文字と一緒に印刷されている
「あれ、隆也君ガイドブック読んでるのに知らないの? ここのスーパーって品揃えが良いんだよ」
小さく首をかしげながら、慧が微妙に的外れな答えを返す。慧の用事が一通り済んだ様なので、モールを後にする
タバコは吸えなかったが、それなりに足の疲労が回復したようだ。隆也は慧の歩行スピードにあわせる。結構早い
「今日はお祝いでね、夕食はステーキにしようと思うの。誠二ももう帰ってくるしね」
微笑みながら慧が、隆也にそう言った。ステーキか……隆也は食卓に並ぶそれを思い浮かべた
あっちではインスタントというか簡素な食事ばかりなので、ちゃんとしたご飯は久々かもしれない
それに……ふっと、慧が隆也の顔を見て、ぷっと吹き出した。
「私の顔、そんなにおかしい?」
「え?」
「だって私の顔じっと見てるんだもん。何か勘ぐりたくなるじゃん」
ニコニコしながら慧が、頭に疑問符を浮かべた隆也に言った。隆也は慧が笑っている理由がイマイチわからない
けれど慧の表情がここまで豊かなのかと、隆也は改めて思った。1年足らず傍に入れなかっただけで色々と忘れてしまう物だと、しみじみ感じる
そろそろ隆也、もとい森下家の一軒家がある
南部住宅街が見えてきた。会話を止め、二人は足を速める
「……ごめんな、傍にいてられなくて」
ぼそりと、隆也が慧にそう呟いた。慧は隆也の言葉にううんと小さく首を振る。そして小さく呟く
「そんな事、無いよ」
慧が足を止め、隆也の服の裾をきゅっと掴む。隆也が顔を向けると、慧がどこか神妙な表情で、隆也を見つめている
「ねぇ、隆也君。もし……」
はっきりと、けれどどこか頼りなさげな声で、慧が言った。隆也は黙って聞く
「……ううん、ごめん、何でもないよ、かえろ、お腹すいちゃった」
一転ぱっと満面の笑顔で慧は隆也の前にスキップしながら躍り出た。隆也はその代わり身に、俯いて苦笑した
だが妙な不安も抱いたのもある。慧の憂鬱な表情を見るのはここ数年見なかった。いつも明るい表情ばかりが記憶にある
ふと、頬に冷たい感触を感じた。隆也は空を仰いだ。先ほどまで晴天から、灰色の雲が空を覆っている
「小雨か……土砂降りにならなきゃ良いが」
続
高杜モール内に新スポットを作ってみました
今後物語の中で自由に使ってもらって構いません
高杜スマイリー
高杜モールで経営しているスーパーマーケット。それほど規模は大きくないが、品揃えが良いと市民から好評
毎回趣向を凝らしたセールをしており、特に詰め合わせセールは大好評
ちなみに買い物した際に貰えるビニール袋の絵は、高見神社に伝わる継承、紫阿童子の登場人物、椿姫をモデルとしている・・・・らしい
最終更新:2008年09月14日 22:39