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ゼロを送り出し、ようやく束の間の時間を得た都庁同盟軍。
しかしそれは断じて平穏な時間ではない。

「ダオスさん、カヲル君達はみんなの弔いに向かうみたいです……」
「……我々以外、残った戦力は全てそちらの護衛に回せ」

沈痛な面持ちの小鳥に対して、ダオスは苦々しげにその言葉を口にする。
なんとか狂信者の三度目の襲撃も、返り討ちにすることはできた。
しかしその犠牲は、あまりにも大きすぎた。

元々世界樹は力有る魔物が取り戻し、弱き魔物を匿う意味もあった。
そんな匿うべき魔物と助けられた少女達は、一人残らず殺されてしまった。
それだけではない。魔物を引っ張ってきた三竜、その最後の一人である氷竜までもが命を落としたのだ。

「ピイィィ……」

狂信者に捕まってしまい、肉盾にされていた魔物……新たな匿うべき存在も増えはした。
しかしその数と犠牲の数は決して釣り合うことはない。
自分達が捕まってしまったばっかりに、魔物の長たちは命を落としたのだとわかるだけに、助けられた彼らの表情も暗い。

遺体を弔うのも時間がかかるし、四度目の襲撃が無いとも限らない。
戦える魔物はいよいよ数が減り、これ以上の犠牲は絶対に避けねばならない。
だからこそダオスは、カヲル達をほぼ全ての戦力を連れた状態で弔いに向かわせざるを得なかった。


「……外は、私と神樹が見張りますわ」
「今度は容赦しねぇ。エリカが危険と判断したなら、躊躇わず黄昏撃ちこんでやるぜ」


確実に、狂信者も減っていることだろう。
そして力のない参加者は、小町の呼びかけで迂闊にはここを攻めない筈。
一時的に外敵排除の任はエリカと神樹に任せ、十数分だけダオスは世界樹の中で生存者達と顔を向きあわせる。


「……残ったのは、我々だけとはな」


ダオスの表情は晴れない。
無理もないだろう。カヲルの護衛についた魔物達、それにアルルーナとウォークライ。
彼らを除いた、人の参加者は……

「今はね! 大丈夫だって、聖帝様もゼロも絶対戻ってくるから!」
「ほむらちゃん達も、だよ」
「……影薄の子達もね」
「ええ、絶対に。でも確かに今は、私達だけなんですね……」

回復の要たるさやか。世界樹の巫女にして予言の一角まどか。自由に動ける最後の戦力レスト。
そして天ぷらに鎮魂歌やオーバーボディに気がつき、縁の下からこれまで同盟軍を支えてきた小鳥。
ダオスを含めても僅か5人。あまりにも、数が減り過ぎた。

仲間を弔いたいというカヲルと魔物達の気持ちはよくわかる。
外の警護、緊急時の長距離移動を考えると神樹とエリカは常に世界樹の傍で気を張らねばならない。
わかっている。わかっているが、たったこれだけの人数で新たに生じた問題を解決できるのか?


「お言葉ですが提督、微力ながら榛名達も」
「て、提督とは私のことか?」
「はい。まどかさんをそう呼んだら、現在のグンマ―勢力を指揮しているのは貴方とお聞きしましたので。
 榛名達艦むすにとって、命を預ける人のことは提督や司令官とお呼びするのが流儀なのです。
 ご、ご迷惑でしたか……?」
「……いや、好きに呼んでくれて構わない。そうだな、お前達もいたのだ。よろしく頼むぞ」


ここで、現代に蘇った古代ミヤザキの巫女、榛名も声をあげる。
追従するように4人の駆逐艦の少女も名乗りをあげた。
これで追加で5人。計10人となった。


「榛名ちゃん、私達が使っていたこのカオスロワちゃんねるも、黒幕の手で操作されているというのは本当なの?」
「はい。テラカオスに関する情報は勿論、サーフにとって不都合な情報は全て自動で消されるようプログラムされています。
 真実を広める、テラカオス誕生の阻害になるような書き込みに対しては、逆探知からの機器爆破までもが可能です」
「ひええぇ……操作ってそこまで根深いんですか!? ダオスさんが前に止めてくれなければ、私も危なかったんです」
天魔王軍の情報操作を、さらに悪辣にした形だな。
 文明にかぶれすぎた人類にとって、情報の発信元を支配するということは半ば世界を支配しているとすら言えてしまう」

榛名の語るカオスロワちゃんねるの真の姿に小鳥は震えあがり、ダオスは忌々しいと吐き捨てる。
一体、どれだけの人間がこのカオスロワちゃんねるに踊らされ、消されてきたのか。もはや数えることは不可能だろう。

「しかし、いくら掲示板を操り電脳世界を掌握しているとはいえ、そこまでのこと。
 サーフとやらは安全地帯に引きこもり、外敵の排除もお前達に任せてきたのだったな?
 ならば我々が今直接見聞きしているような情報は、奴は絶対に持ちえない。掲示板の情報ではやがて不足することだろう」



「――労せずに全てを得ようなどと言う愚か者には、いずれ然るべき末路を迎えてもらうとしよう」



誰もが身震いするような殺気を放ちながら、ダオスは打倒黒幕の決意を固める。


「しかし現状、許し難い者であるのは間違いないが、全てにおいて優先すべき事項でもない」
「あれ、そうなの? あたしとしてはそのサーフって奴はぜぇったいにぶっ飛ばしたいんだけど?」
「予言の内容を思い出すのだ。いくら敵がミヤザキの末裔とはいえ、あらかじめ最良の戦士と勇者たるテラカオスは用意できまい。
 我々は黒幕の正体を知った以上、奴を始末するまでは予言の完成を行うことはない。
 ならば残された手段は、奴自身も表舞台に出てきて野球チームと接触するほかないだろう?」

ダオスの言葉に、一同は成程と声を漏らす。
榛名の告発により、少なくともグンマ―の巫女、器、歌は警戒して予言の実行を遅らせる。
サーフ側からすれば、ミヤザキの巫女、器、歌があるため痛くはないように見えるが、
グンマ―側が最良の戦士と勇者を獲得してしまうと、そのまま保護することに繋がる。
こうなるとサーフは野望を達成できず、結果として残る二つは自分で確保しに向かう必要が出てくるわけだ。

「そっか、いくら掲示板を支配しても現実を支配しているわけじゃないから、生きた野球選手たちは自分の足で会いに行かなきゃいけないんだね」
「その通り。たかが電脳世界だけで全てを支配できるなどという甘いことは無い。
 そして勇者を匿うイチリュウチーム。ほむらと合流できれば我らと共に動けるだろう」
「サウザーさんの聖帝軍もですね。あの人のスピードは、多分僕やマーラをも上回っている。拳王なんかに負ける筈がないさ」
「うむ。つまりサーフが野球チームに接触をすれば、やがて我らと接触することにも繋がるということだ。
 よって現時点で優先すべき問題は、その野球チームを脅かしかねない各地の異常事態となる」


黒幕以外の問題。これは黒幕とはまた違う意味で厄介なものしかない。
優先すべき問題であることはわかっていても、どうにも手の出しようがないものばかりなのである。


「まずは千葉方面の大きな魔力だが……」
「実はあたしさ、その魔力ちょっと感じれるんだよね。その……魔女の気配なのよ」
「魔女、ですか?」
「はい。あたし達魔法少女が戦って来て、やがて自分自身もそうなっちゃうみたいですけど……
 ほむらの話じゃ、無茶な魔力の消費や絶望しなければ、すぐには魔女にはならないみたいなんですよ。
 んで、魔法少女と魔女について熟知しているほむらはいきなり魔女化しないだろうから、他の魔法少女がなっちゃったんじゃないかなって」

さやかの言葉に、まどかも頷いて見せる。

「うん、この感じはさやかちゃんの言う通り、魔女だと思う。ほむらちゃんなら、対抗策も思いつくかもしれないけど……」
「魔力の方角的に、ほむらはこれと遭遇した可能性が高い。援軍を送りたいところではあるが……
 対魔女戦においては、ほむらの方が遥かに戦い慣れしている。さらに言えば、おそらく近隣にはイチリュウチームもいる。
 イチローのレーザービームは、私のレーザーと比較しても遜色のない……いや、精密性と瞬間的破壊力は彼の方が上手の筈。
 レーザービームが通用するなら、倒せる相手。通じないのであれば、仮に私が救援に向かったとして無駄になるだろう」

第一の問題。千葉の魔女
しかしこれは正体がわかっても、相手の情報が不足しすぎている。
援軍を送っても勝機は見えず、逆に強敵とはいえ付近にはほむらにイチリュウチームもいる。
犠牲が出る可能性もあるが、勝機も存在する。こうなれば、彼らの勝利を願うしかない。
さらに野球選手を脅かしかねない相手、第二第三の問題としては拳王軍と狂信者がある。
だがこれも、サウザー達と小町達が既に討伐に出発しており、これも彼らにしか成しえないミッションだ。
こちらも下手な援軍は無意味というか、送りたくても送れない。

「黒きフロワロ、ウォークライによると腐食花とのことだが、これは黒き獣を倒さねば滅ぼしきれない。
 現状で取れる手段は防御のみとなるが、ドラゴンハートの力があれば無力化はできる。
 魔女の撃破後、速やかにこの世界樹にイチリュウチームを招くほか手はあるまい」
「さっきの魔女をほむら達が倒せれば、事実上対策はできるわけだね」
「ただ、ドラゴンハートの恩恵を受けられない私のような一般人は……」
「……面倒だけど、最悪は昏倒させて世界樹の地下にでも放り込むしかないかな」

第四の問題、黒きフロワロ
この華は事実上、完全な対策が取れない。
ドラゴンハートか世界樹いずれかの加護で防げるため、何らかの理由でここまで退避させる、
回避策をとることしかできない。モブ参加者達がここをヘルヘイムと誤認している為、彼らの犠牲は覚悟がいるだろう。


「そして沖縄の黒き獣本体。これは言わずもがな、テラカオス以外では対処ができぬ上、場所も遠い」
「……」
「……つまり、対処せねばならぬ問題はあるが、我らでは解決のしようも無いということになる。
 我らにできることは、各地で戦う仲間達の無事を祈ることと、そしてやがて彼らが戻ってくるこの場所を守り抜くこと。
 魔女及び狂信者の動向を確認しつつ、迫るその時に備えて力を蓄えるのだ」


冷静に戦況をまとめても、分かったのはもはや自分達にはここを守ること以外何もできないということ。
誰もが歯がゆさを覚えるが、ダオスの言う通り拠点の防衛こそが最善手であるということも理解できる。
落ち着いて準備や対談、そしてフロワロの毒にも対抗できるとなると、ここはビッグサイトに並び、地上の最後の拠点の一つでもあるのだ。

「私もそろそろ頂上に戻ろう。榛名達はまどかの護衛に加えて、小鳥に黒幕の情報やビッグサイト内の情報を教えてやってくれ」
「かしこまりました」
「さやかとレスト、それにカヲル達も戻ったら休むように伝えてくれ。疲れは相当の筈だ」
「休んでる場合じゃない! って言いたいけど、話聞いてるとほんとあたしらじゃすぐに対処できないし、仕方ないのかぁ……」
「…………それじゃあ僕は、お風呂にでも入ってきます。アースマイト一族は数秒入るだけで全快できるんで」
「数秒ってカラス以下じゃん! ちゃんと身体洗ってんのあんた!?」
「し、失礼だなさやかは。洗ってるし、確認の為とかいって僕のお風呂覗かないでよね?」
「誰が覗くかぁ!」


各々が、自分に出来ることをするために散開する。
神樹とエリカ、そしてダオスは外敵対策。魔女への注意も怠らない。
まどかは世界樹内部の様子に気を配り、きらり達のような犠牲を二度と出すまいと誓う。
榛名達はそんなまどかを守りつつ、まどかと小鳥にミヤザキの話をする。
さやかは密やかにゼロからの命令を守り、ゼロに関する話以外は彼女の意思で決めて動く。
そしてレストは水魔法と火炎魔法で作った簡素な浴場へと向かう。
さやかへの冗談のつもりなのか、入浴中の札までぶらさげて。

仲間達の勝利を信じて、救援は送らない。
帰るべき場所を守るために、世界樹の人々は戦い続ける。






それに集中していた為か、ダオスが頂上に戻るほんの少し前。
世界樹の枝の一つから、光が昇ったことは神樹も誰も気がつくことはなかった。





  • -
――同刻、日本海ASO-3


「ココさんとメフィラスさんはそろそろ目的地についたかな?」
「おそらくは。我らは、我らの仕事をこなそう」

そこには、数人のストームトルーパーが慌ただしく動いていた。
彼らは主催者陣営の所謂モブ兵士の中でも、特にココ達から信頼されている者達だ。
カオスロワ後の人員の護衛、放送の継続を任されたといえば、その度合いもわかるだろう。

「次の放送、俺がやるよ。うわ、わかっちゃいたけどまだこんなに死人が……」
「震えているが大丈夫か? やはり私が代わりに……」
「いや、大丈夫。放送までに慣れて、ちゃんと動じない主催者らしい放送をしてみせるよ」

誰にも知られることはないが、彼らも自分達にできることをして戦っていた。
現在も日本で戦い生き延びている猛者たちに比べたら、遥かに弱い彼ら。
それがたった50人。どこかの勢力に目をつけられたら、一貫の終わりだ。
それでも彼らは職務をこなす。たとえ自分達がどうなろうと、未来の大災害だけは防がなければならないのだから。


「九州ロボへの連絡パスコード、これであってます?」
「ああ、大丈夫だ。あの獣に動きがあれば、すぐに伝えねば……」


そんな彼らの業務の中には、沖縄の黒き獣の監視もあった。
撒き散らす蒼の影響で至近距離までは近寄れないが、そこは科学班が遺した優れた産物がある。
対象との距離があっても、拡大鮮明化できる小型カメラその他機能を積んだ小型ドローン。
これを用いて、身のすくむような怪物である黒き獣の様子を逐一チェックしているのだ。
九州ロボも人員が減り、魔女との戦いに赴くとなるとそちらに集中する必要がある。
その為、彼らは命令されずとも進んでこの怪物の監視をしているわけである。


「対象、テラカオス・リリカルから受けた傷を再生中の模様」
「くそ、なんて速度だ。これでは彼女達の犠牲が無駄になってしまう!」
「フロワロ、海を渡り既に大阪があった地域まで浸食中!」


兵士達は、誰もが黒き獣を恐れた。
ディーヴァにリリカル、二体のテラカオスを返り討ちにしたばかりか、動かずに日本の生命を刈り取りにくる極悪さ。
果たして、あと何時間でこの獣は本州に向かってしまうのか。それがただただ不安だった。
そんな時だ。
黒き獣を観測している計器の一つが鳴り響く。

「な、なんだ!?」
「た、対象の上空に超エネルギー反応! これは――宇宙、いや、成層圏から猛スピードで迫っています!?」
「エネルギー体捕捉! こ、これはそんな、馬鹿な!?」






「「だ、第三真竜ニアラ!?!?」」







「むっ!?」


休息していた黒き獣シャドウは、すぐにその異変を察知した。
遥か上空から、自分を狙った『何か』が迫ってきている。
シャドウがその場から大きく飛びのいた、次の瞬間。



竜の嘶きと眩い閃光、そして大爆発。沖縄の大地はフロワロと共にさらに酷く消し飛ぶこととなった。



「こ、これはまさか、真竜メテオ……!? 馬鹿な、ディーヴァの中に既に多すぎるくらいに存在するというのに!?」



『クァハ……』

『キサマか。我らを喰らい、力を奪い、食物連鎖の頂点に達したと自惚れている痴れ者は……』



それをやってみせたのは、左右非対称の翼を持つ金色の巨竜。
既にディーヴァに敗れ、そして今やシャドウに取り込まれている筈の真竜ニアラその人であった。

「9体目だと……どうなっているんだ一体。だがしかし、所詮は第三真竜……今の私の敵ではない!」

少しだけ驚愕の表情を浮かべるシャドウではあるが、ディーヴァ越しに取り込んだニアラ達の醜態は知っている。
この真竜は力はあるが、傲慢中の傲慢。感情を持たぬ者を忌み嫌い、感情豊かな人間に執着し続けた結果が悲惨な末路。
メテオの奇襲も回避できた以上、ここから10体目以降が現れてもなんら問題ない。

「行け、我が尖兵よ!」

適当な死者が、シャドウの傀儡として蘇る。
ニアラ程度なら、これで十分だ。

「や、やった! よし、今度こそ活躍してイチロー選手と『去ネィ!』

しかしシャドウの尖兵は、喋りきる前にニアラの左翼から放たれた威光に貫かれ、爆発四散した。


【斎藤佑樹@現実?】 消滅確認
※シャドウの尖兵の為、放送で呼ばれませんしキルスコアにもなりません


「馬鹿な!? いくら適当とはいえ、私の力を授かった死者がこうも容易く……ならば、私自ら、第七真竜の力で葬ってくれる!」
『……マガイモノの力、試してみるか?』


「――プリズマティックストリームッ!」
『――真竜ブレスッ!』


シャドウの口から、VFDの力である虹色のブレスが吐き出される。最強の真竜の放つ、開幕の全体攻撃。第三のブレスなどとはものが違う。


――直後、ニアラの口からも放たれた虹色のブレスが、VFDの虹を貫いた。



「な、なんだ!? 何が起きているんだ!?」
「わからない! わからないが、一つだけ確かなことはある! 第三真竜ニアラが、黒き獣を押しているんだ!」


映像で見ていた兵士達は皆が混乱状態。
無理もないだろう。
突然、黒き獣めがけて降ってきた謎のエネルギー。
何かと思えば、まさかの9体目の真竜ニアラ。
一瞬感じた希望は絶望に早変わり、頼むからこれ以上黒き獣に力を与えないでくれと願わずにはいられない。
かと思えば、ニアラは黒い尖兵を一撃で爆砕し、さらには黒き獣のブレスすら打ち破って見せたのだ。
明らかに、優勢。あのニアラが。
これで混乱しない者がいるなら見てみたい。

「し、信じられん。蒼を纏う黒き獣が測定できないのはわかるが、ニアラの能力まで測定不可能域だ!」
「しかし一体どうやって? テラカオスでなければ、ダークザギクラスでも戦場に立てるのは十数秒が限界の筈なのに」

測定不可能。人智を超えた域、まさしく神の如き領域の戦闘能力。
何体ものニアラが降臨しているこの世界だが、この9体目はその全てを遥かに凌駕していた。
とはいえ兵士の言う通り、超理不尽……それこそこの世界の上位存在でさえ、蒼には抗えない。
彼らは知らないが、第二真竜が耐えきれないものを格下の第三が耐えきれるわけがないのである。


そんな兵士達の疑問に答えたのは……



『……なるほど、そういうことか』


「っ! 黒き獣、ブレスを返されましたが無傷です!」
「ニアラのブレスも黒き獣のブレスで削られている。纏う蒼の壁までは貫けなかったということか」
「しかしこの口ぶり、黒き獣は異様なニアラの強さの理由がわかったのか?」


『クァハ……流石に、この一撃で頭を吹き飛ばさせてはくれぬか。だが、我の力がこの程度だと……』
『茶番に付き合うつもりはない』
『なに?』
『今のブレスの威力、到底本来のニアラには真似できまい。姿を現せ、マガイモノ』
『……ふん』




『――思ったより、早くばれたね。ウォークライから聞いただけじゃ、真似しきれなかったかな?
 風鳴翼に姿は似ているけどその禍々しさ、お前が黒き獣だな……!』
『ただの獣ではない。我が名は黒き獣シャドウ!
 今の姿はお前達の禁術、エーテルリンクか。都庁で死んだニアラの一部を取り込んで化け奇襲を仕掛けてくるとはな……』


ニアラの姿が光に包まれたかと思えば、次の瞬間には真竜の姿は消えていた。
代わりに黒き獣と対峙しているのは女装男――都庁のレストであった。

「なっ……ニアラでは無く、ニアラに化けていた都庁軍の!?」
「成程、中身が奴ならばさっきの測定器の振り切りも納得できるが……なんでまたニアラなんかに?」
「皆、馬鹿にしがちではあるがニアラもまた宇宙を駆ける真竜の一員だ。
 奴は宇宙空間まで瞬間的に飛翔し、そこから正確に敵対象目がけての超急降下爆撃が可能。彼はそれを利用し、沖縄の黒き獣を狙ったのだろう」

兵士達はなんとか戦況を理解しようと、必死に頭を回転させる。
そして黒き獣の言葉もあり、おおよその見当はついた。
レストが用いるエーテルリンクは身体の一部を誰かに模したものであったが、それはテラカオス化進行に際して手に入れた能力。
人型を維持し身体の部位をそれぞれ違った魔物に変化させる……より応用の効く万能性を得る前、本来の術はどうであったかと言えば答えは簡単。
取り込んだパーツの持ち主と、全身全く同じ姿になる。つまり今回は、ニアラそのものに変化したのだ。
そして兵士の言う通り、宇宙空間からでも獲物を捕捉しピンポイント爆撃できるニアラの能力を使用した。
しかし汚染された宇宙までは飛び立てず成層圏止まり、メテオが不完全な威力であり黒き獣への打撃にはならなかった。
ここまでは推理できたが、それでも兵士達の疑念は尽きない。
むしろ正体がわかったからこそ、余計に混乱してしまう。

「しかし、結局最大の謎がわからんぞ! どうして彼は、蒼の空間を耐えきれている!?」
「奴はわざわざ黒き獣を……そもそも、どうして黒き獣という名称を知っているのだ!?」
「黒き獣は先程、自らをシャドウと名乗っていました。状況整理の為、このままシャドウの観測を続けます!」

兵士達は、理解が追いつかない戦いの観測を続ける。
それが、きっと後の世の為になると信じて。




「ふむ、何故お前がここにいるのか、何故まだ無事でいられるのかはわからんが……お前が馬鹿なことだけはわかるぞ?」
「なんだって?」
「全ての根源たる蒼、TCの前には完全な属性耐性、バステ耐性、防御無視耐性、即死耐性を持つお前であってもまるで意味をなさない。
 もしお前がテラカオスとなった状態で我が前に立ち塞がっていれば、私を倒す可能性は数パーセントはあっただろうがな」
「……僕の耐性、エーテルリンクの知識、テラカオスになりかけたこと、全部知っているんだね」
「ああ。……お前のその格好、未練がましくしがみついているサクヤの魂を取り込ませてもらったからな」
「っ……!!!」
「あれも実に愚かな娘だ。お前をテラカオスにさせていれば、私を倒せたかもしれないというのに。
 挙句、取るに足らない魂を庇いこうして私に取り込まれるのだからな」


にたりと黒い笑みを浮かべるシャドウに対して、レストは奥歯を噛みしめる。
確かにテラカオス化できていれば、シャドウも倒せたのかもしれない。
だがあの状態の自分がテラカオスとなっていれば、確実に世界樹の仲間達も襲い殺めていただろう。
既に血に塗れた道を歩んできた自分を正してくれた少女の行動を愚かとされるのは、我慢ができなかった。


「悔しいか? だがお前には何もできんさ。お前は何も出来ぬまま、自らの力を過信して、ここで朽ち果てる。
 いや、むしろ喜ぶべきだろう。お前達の祖先のグンマ―の民は、蒼によって滅ぶことを望んでいたのだから」
「悪いけど僕は、この災害が起きる前から生命の理を捻じ曲げることを街ぐるみでやったこともある異端者だよ?
 過去のグンマ―なんて知るか。僕は僕の意思で抗う!
 小町さんにほむら、サウザーさん、みんなはきっと乗り越えてくれる。だから予言完成最後の障害のお前は……」



「――死者を狙い、フロワロを撒くお前は! この場で僕が倒すっ!」


「あはははははははは! 自惚れが過ぎるぞ、グンマ―の盾風情が!」



高笑いをしつつ、しかしシャドウは恐ろしいまでの殺気を放つ。

レストは知る由も無いが、シャドウは少し前にテラカオス・リリカルに痛手を負わされている。
そしてダークザギの献身により、リリカルを取り込むことにも失敗した。
表面上の傷は回復しているが、完治はしておらず能力も吸収できていない。
目の前の自惚れた男を消すことは容易いが、新たなテラカオスに襲撃されては危ないという認識もシャドウの中にはある。
面に出さない苛立ちと焦燥。
蒼の前では無意味だが、逆に蒼以外にはリリカル以上の耐性と能力を持つこの男の魂を、絶対に取り込んでやろうという強い意志があった。


そんなシャドウが身構えるより先に、レストが動く。
鞄に手を入れた彼は、4つの竜の一部を取り出す。
それは大災害前からずっと持ち続けた、今となっては大切な友達の形見。
そして万が一ダオスに何かあった時の為にとずっと隠しておいた、切り札でもあった。


「――エーテルリンク・地幻竜プロテグリードッ!」


叫びと閃光、今度は金色のニアラではなく、四幻竜の一角たる巨大な紫竜にその姿を変えるレスト。
嘶き、天を仰げば辺り一帯に無数の雷撃が降り注ぎ、宙からは隕石までもが次々に襲い来る。


「――エーテルリンク・火幻竜フレクザィードッ!」


天からの暴力が止まぬ中、素早く変身を解除しすぐさま次の鱗を取りこむ。
今度はカヲルも知る、この殺し合いの中で命を落とした紅蓮の竜へと変化する。
羽ばたき一つで辺りは焦熱地獄と化し、その口からはシャドウの体躯の十数倍はあろう大火球が連続して放たれる。


「――エーテルリンク・水幻竜アクナビートッ!」


三度目。ニアラも含め、使用された四幻竜の鱗はレストの身体から排出されると同時に粉々に崩れ去っていく。
たった一部分だけで、その全身を元の竜以上に変化させ人の身に余る攻撃をしているのだ。素材にも術者にも多大な負担がかかる。
長大な尾を持つ水竜はその場で一度回転すると同時に、全てを呑みこむ濁流と4機のビットを同時にシャドウ目がけて叩きつけた。


「っ……エーテルリンク! 風幻竜セルザウィードォッ!!!」


最後は、かつての一番の友。竜と結婚できる世界であれば、もしかしたかもしれない大切な存在。
彼女から貰った、その身の一部を使った大切なお守り。今となってはまさしく形見そのものであるそれも、取り込まれてやがて消える。
あの時と同じように。守りたいものを守る為、意を決しての最後のエーテルリンク。


『神の力、思い知れっ!』


風幻竜そのものの声と共に、周囲に暴風が吹き荒れる。
これまでの三幻竜の攻撃も止み切っていない状態で、もはやシャドウの姿はどこにも見えない。
そして駄目押しと言わんばかりに、竜の口から神の息吹が吐き出される。



「うおぉぉぉ……」


戦況を見ていた兵士の一人は感嘆の声をあげた。
撮影された映像には、まさしく天変地異と呼ぶに相応しい光景が広がっている。
圧倒的な戦闘力を持つが、多数の敵や広範囲攻撃を苦手としていた男の奥の手。
素体の戦闘力に、竜の殲滅力が加わった超理不尽な怒涛の天災。

「さっきのニアラのブレスでシャドウを上回れたんだ。これならもしかして……!?」

理由はわからないが、ニアラのブレスはシャドウのブレスを打ち破っている。
明らかにそれを遥かに上回るこの天変地異ならば、シャドウとてただでは済まないだろう。
兵士達もにわかに活気づく。

「恐ろしく、そして頼もしい攻撃だが、さっきのやりとりは……」
「ん、どうしたんすか先輩?」
「先程彼は、こう言った。予言の最後の障害と。まさか、都庁の者達は……」



『――この程度が切り札とは、笑えるぞグンマ―の遺物よ?』


沸き立つ兵士達の耳に、拾われたシャドウの冷たい声が届く。


次の瞬間、災害の波の中から黄金の一閃が放たれる。
シャドウの持つ聖約・運命の神槍の一撃は、的確に風幻竜の頭部を狙っていた。


『くっ!?』


ぎりぎりのところで解除される結合。
レストは元の人間サイズになり、黄金の光は対象を失って虚空を貫く。
一手遅れていれば、レストは致命傷を負っていただろう。
テラカオス化によらない通常のエーテルリンクは全身変化の代償もとてつもない。
莫大な魔力の消耗、強化変化されてなお多大なダメージを負えば、身体は灰になって崩れさってしまうのだ。



「嘘だろ……」


映し出された光景に、兵士達は誰もが絶望する。
文句なく完璧な攻撃だった。
それだというのに、未だ荒れ狂う天災の中からはゆったりと無傷のシャドウが歩み出てきたのだ。




「くそ、やっぱり……」

息を荒げつつも、レストはシャドウを睨む。
手の中で砕け散る風幻竜のお守り。もう同じ攻撃は二度と使えない。
それでなくとも、無茶苦茶な短時間での5連続エーテルリンクによる攻撃はレストの体内魔力を半分以上持っていった。
仮に素材が無事であったとしても使えず、そもそもシャドウの様子からして何度今の天変地異を引き起こしても無駄なのは明らかだ。


「私はテラカオス・ディーヴァ……お前も知っている風鳴翼の各属性耐性を奪っている。加えて、この蒼の力もある。
 故に、私を倒せる者はテラカオス、かつ私を上回れる接近戦技能を持ち、このフロワロの猛毒に耐えきれる者のみ。
 もっとも、私にはジョン・フレミングが遺した格闘術もあるがな?」


言葉通り、一切の傷を負っていないシャドウは口の端を僅かに吊り上げる。
テラカオス・リリカルはまさに類稀なる戦闘技能、そして防御力を誇っていた。
しかし彼女はフロワロの猛毒への耐性を持たなかった為に敗れてしまった。
レストも属性攻撃だけでなく接近戦は得意とするところであり、猛毒を含むあらゆるバステを受け付けない。
だがテラカオスでない以上、蒼をその身に纏うシャドウを攻撃することはできない。

テラカオス以外を殺す蒼に、テラカオスすら殺せる猛毒。
この反則とも言える能力の組み合わせにより、シャドウはまさしく不滅の存在であった。
第三のテラカオス・サーシェスならば可能性はあったかもしれないが、
彼の能力は周囲の情報を取り込んでの環境適応。ホルスの黒炎に間に合わなかった点からして猛毒へ間に合ったかは怪しい。
勝算があったのは安倍総理かもしれないが、彼は既にその魂を砕かれている。

「やはり警戒すべきは、あの者のみだが……お前が我が尖兵となれば、魂を破壊できる確率は飛躍的に上昇する」

過去のテラカオスでは、シャドウを倒せない。
しかしディーヴァが抵抗し、遠方で勇者として覚醒した『ツバサ』であれば、どうなるかわからない。
彼女もまだ道半ばの存在。今はシャドウの勝ちでも今後どうなるかはわからない。
だから、抹殺する。唯一の不穏因子は、絶対に排除しなくてはならない。
ディケイド達は敗れたが、目の前のこの男を尖兵にできたならば、たとえ護衛がいようと、葬れる可能性が非常に高い。

死者スレはカルナ達の抵抗により、まだ上質な死者の入手が困難な状況。
そんな時にまさか、垂涎物の尖兵素材が向こうからやって来ようとは、まさに嬉しい誤算だ。


「お前は私に敗れはしたが、その力が酔ってしまう程強いことも認めよう。その力、私が存分に活用してくれる」



「――誰が、敗れただって……!?」

「む、まだ立ち上がれるか? だが、お前のつまらぬ災害程度では――」



「ルーンアビリティ、鋼身之構・瞬迅! エーテルリンク火竜の猛攻! 飲食無敵の秘薬ゥ!」


しかしシャドウにとっての極上の得物は、まだ諦めずに抵抗を続ける。

鋼身之構、マーラやハクメンにも使用した鋼体付与。
瞬迅、攻撃に限らずあらゆる行動速度を倍増させる。
火竜の猛攻、亡き偉大なる赤竜の力。攻撃力を倍増させる。
無敵の秘薬。誇張した名前だが、体力攻守全てのステータスを倍増させる最終調合薬。

「無駄だ。いくら私に全ての攻撃が通用しないから、自己強化ならどうにかなるとでも?」

「まだだっ! 右手にグングニル、アビリティ、アクセルディザスター! 武器種とアビリティの適合!」

シャドウの言葉を意に介さず、レストは己が持ちうる全ての手段を講じて自己強化を続ける。

「瞬迅の速度増加で2倍! 火竜の猛攻で2倍! 秘薬で2倍! アクセルディザスターの回転で3倍! 適合ボーナスで1.5倍っ!」
「愚かな! まさかお前、強引に倍率の暴力で私の蒼を破ろうというのかっ!?」

身体を捻り、パワーを36倍まで引き上げたレストの姿を見てシャドウの顔が若干引きつる。
超理論、そして攻撃動作。間違いなく、命知らずなこの男は自爆特攻をしかけてくるつもりなのだ。
絶対の蒼が破られるわけがないと思っていても、それでもこの気迫には恐れ入る。


「『四幻』は無駄じゃない!――彗光『四源』の舞っ! サクヤの力でさらに40倍だっ!」
「き、貴様っ!?」


そしてその言葉を聞いた瞬間、初めてシャドウは焦りの色を浮かべる。
先程の四幻竜の攻撃は、これの補助。サクヤの能力を発動させる為に使われた布石。
効かないからと、蒼で直接打ち払うことをしなかった。結果、四幻の力はまだ周囲に残ったまま。
ダークザギの例があるように、強大な力は蒼の中でもしばらく残り続ける。
普通の魔法の乱射では使えなかったであろう四源の力を四幻が可能とした。
グングニルに宿るは、かつてハクメンが危険を感じ取った光の遥か上を行く破壊力。

2×2×2×3×1.5×40= 1 4 4 0 倍 ! ! !


「つ・ら・ぬ・けえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「だが、四源の力が使えるのは私も同じこと! 迎えうて、聖約・運命の神槍よっ!!!」


回転しながら自らを槍としたレストの神槍の一撃に、シャドウも四源の力を神槍に宿して迎撃する。
リリカルにも見せた、シャドウの最高火力状態。
互いの右腕が握る神槍に、より一層の力が籠る。


そして……


互いの槍は激しくぶつかり合い、やがて粉々に砕け散った。


シャドウはリリカル戦での経験もあり、押し負けることを理解している。
だから、神槍と頭部、心臓部。武器と致命傷を負わされる可能性のある場所に特に重点的な蒼の壁を張っていた。
グングニルは聖約・運命の神槍を瞬間的に破壊するも、突き進んだシャドウの心臓を守る蒼に触れて砕け散った。

(馬鹿な、蒼で覆ったラインハルトの槍が……!?)

決死の特攻を受けてもシャドウは無傷。
しかし、自分にまでは届かずとも蒼の力を得た神槍は破壊されたという事実。
絶対の蒼が確かに『貫かれた』という受け入れ難い事実。


それは、一瞬の隙だった。


「――そしていつもの正拳突きで、4倍だああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


見落としていた。何故、この男の左腕に装備されていた筈の盾が無くなっているのか。
装備を槍に持ち替えた時にしまった。一体何故か?決まっている。左手でも攻撃をしかけるためだ。

繰り出されるは、レストの必殺の一撃。
対象の防御を貫通する破壊の拳。
生み出される衝撃波と拳、二段階の一点集中突破攻撃の威力は1440のさらに4倍


 5 7 6 0 倍


「っ、ここだああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「がっ!?」


咄嗟に弱点部分を更に蒼で守るシャドウ。
しかしレストが狙ったのは、意外な場所。
他に回したが故に守りが薄くなった、シャドウの右肩の付け根であった。









――絶対の存在の右腕が、ばらばらに千切れ飛んだ。

「――――――――ッッッ!!!!!!」



絶叫が双方の口からあがる。
まさか自分が『破壊』されるとは夢にも思っていなかったシャドウの叫びは当然のこと。
そして、いくら蒼を力づくで破る程の常軌を逸した強化を施したとはいえ、その拳は蒼の塊を殴り抜けたのだ。
さしものフォレスト・セルの蒼抗体もこれは許容限界。
全身に蒼の汚染が広がることこそ防いでいるが、直接シャドウの体内に触れたレストの左肘から先は砕け散ってしまう。

(蒼に、僕の腕という存在を歪められたか……! 僕の腕は、今も昔も『最初から存在しない』から、再生のしようもない……!)

かつて右腕を吹き飛ばされたが、今度は左腕。同じように治療できるかと言えばそうもいかない。
蒼に直接触れる暴挙を犯した左腕は存在そのもの抹消された。いわば部分的な魂の抹消ともいえる。
どんな回復魔法を使おうが、どんな宝具を使おうが、二度と蘇ることはないのだ。

とはいえ、お互いが片腕を吹き飛ばしあった。
激しい痛み分け……いや、テラカオスでないものが黒き獣にこれだけの打撃を与えたのだ。むしろ勝利したとも言えるだろう。
もはや言葉も発せずにただ遠方から見守っていた兵士達は、そう考えていた。




「――やって、くれる……! グンマ―の遺物如きが、滅びに抗うなど、許されない!」



観測していたストームトルーパーも。
腕を永久に失う痛みを食いしばっていたレストも。
確かにその声と姿を捉えた。


「我が名は黒き獣シャドウ! テラカオス以外に、私は、蒼は、自然の摂理は倒せない……!」


そこには、憤怒の形相のシャドウがいた。
神槍こそ持っていないが、砕かれた筈の右腕は確かにそこにあった。

真竜ニアラと同じように、混沌のエネルギー……凝縮された蒼そのもので形作られた新たな右腕が。

(く、そ……真竜7匹分の、外見を犠牲にした超速再生……竜殺剣が、あれば……)

実はレストも、この光景は可能性の一つとして考慮していた。自分自身、ニアラの力を借りたのだから。
歪に、しかし通常使用には影響がでない右腕の再生。まさしくニアラと、真竜と同じ。
背にも真竜の翼を生やしている以上、作り上げた竜殺剣・天羽々斬ならばシャドウを倒せたかもしれない。
だが、ニアラの力を使わなければ沖縄のシャドウに奇襲はできなかった。天羽々斬を持っていてはニアラの力が使えない。
両方の力を持って挑むことは、不可能。決死の覚悟で臨んだが、一手届かなかった。

(だけど、これでいい……僕の目的は達せられた。あとは、みんなが……)

自分はシャドウに負けた。自分の持つ全ての技能を使って勝てなかった。
エスケープで撤退し、シャドウの情報くらいは持ち帰りたい。
だが通常の破壊では無く、蒼による抹消はレストも初めて経験する激痛と虚無感。
意識が混濁し、魔力消費をしないエスケープの発動さえ時間を要しそうだ。
だがその僅かな時間の間に、自分は今度こそ本当の蒼を受けて死ぬ。


(……みんな、ごめん
最終更新:2020年05月15日 08:28