「未来からのホットライン」"Thrice upon a time"
ジェイムズ.P.ホーガン by ちゃあしう



作者について

Wikipediaから抜粋
イングランドのロンドンで生まれ、その西部のポートベッロ・ロードのあたりで育った。16歳で学校を卒業して職を転々としていたが、奨学金を得てロイヤル・エアクラフト・エスタブリッシュメントの工業専門学校で5年間、電気工学、電子工学、機械工学を学んだ。20歳のとき最初の結婚を経験し、後にさらに3回結婚することになる。子供は全部で6人もうけた。
いくつかの企業で設計技術者として働き、1960年代には販売部門に移り、ハネウェルのセールスエンジニアとしてヨーロッパ中を渡り歩いた。1970年代にはDECに転職して Laboratory Data Processing Group で働くようになり、1977年にはマサチューセッツ州ボストンに移住し、DECのセールス訓練プログラムの運営を担当した。1977年、仕事の傍ら書き上げたハードSF『星を継ぐもの』(Inherit the Stars)でデビュー。1979年、DECを辞めて作家専業となり、フロリダ州オーランドに移住した。そこで3人目の妻となるジャッキーと出会った。その後間もなく、カリフォルニア州ソノーラに移住した。晩年はアイルランドで暮らした。
ハードSFの巨匠として、日本では3度にわたって星雲賞を受賞したほどの人気を誇る。
1986年に吹田市で第25回日本SF大会(DAICON5)が開かれた際には、ハリー・ハリスン、トーレン・スミスとともに海外ゲストとして参加した。
2010年7月12日、アイルランドにある自宅で心不全で69歳で死去。

代表作

  • 『巨人たちの星』シリーズ
  • クロニアン三部作(絶筆)
    • 『揺籃の星』
    • 『黎明の星』
    • (未完)
  • 創世記機械
  • 『未来の二つの顔』
  • 『未来からのホットライン』...本レジュメ
  • 造物主(ライフメーカー)』シリーズ
    • 『造物主の掟』
    • 『造物主の選択』
  • 『断絶への航海』
  • 『プロテウス・オペレーション』
  • 『終局のエニグマ』
  • 『ミラー・メイズ』
  • 『インフィニティ・リミテッド』
  • 『マルチプレックス・マン』
  • 『時間泥棒』
  • 『仮想空間計画』
  • 『量子宇宙干渉機』
  • 『ミクロ・パーク』

登場人物

マードック・ロス 数理物理学者 今はプラズマ技術のコンサルタントアドバイザー
リー・ウォーカー コンピューター技師 マードックのコンビ
チャールズ・ロス マードックの祖父でノーベル物理学受賞者
テッド・カートランド 王立空軍退役大佐 チャールズの助手役
エリザベス・ミューア バーグヘッド核融合私設の物理主任
ラルフ・コートニー 同専務取締役
アン・パタースン 同女医 マードックとはマクスウェルのイタズラが縁で知り合う
ジャイルズ・フェニモア イギリス政府医学法令顧問
グレアム・カスリー イギリス王立先進科学技術大臣
ケネス・ランシング イギリス現首相
マックスウェル チャールズの飼い猫。顎が黒くて白のまだら模様
名前は電磁気学の祖マクスウェルから。
スコットランドの名家の名前でもあるとか




あらすじ

プラズマ系の技術コンサルタントを開いている主人公、マードックは、スコットランドの湖上に隠居してるノーベル物理学受賞者の祖父へ突然呼び出される。パートナーとともにイギリスに向かった二人が見たものは、白の屋敷に設置された巨大コンピューターと怪しい装置。なんでも祖父は誰の手も借りずにタウ波理論の拡張でタイムマシンを作ったと主張しているのだ。いぶかしみつつも実験に協力し始めた彼らは、やがて世界を巻き込む大騒動のまっただなかに。

タイムトラベルなど荒唐無稽、といいながらもSF作家たるもの一度は時間テーマをやらねばなるまい、とホーガンが奮起して書き上げた時間もの長編。
ホーガンは他にも、ナチスに支配されたパラレルワールドでケネディ大統領が立案した過去改変作戦を扱った時間改変SF『プロテウス・オペレーション』を書いている。また、『時間泥棒』も広義の時間テーマ作品かもしれない。


登場する理論と応用

「タウ波理論」

ハドロンのクォーク崩壊現象から予測される出力エネルギーが実際のエネルギーの観測量と違うことから、そのエネルギーの出て行った場所を探っていたチャールズは、このエネルギーが過去に移動したという仮説を立てそれを実証した。

高エネルギー密度での電子-陽電子間の対消滅などの現象から、正時間方向に発生するエネルギー(おもにガンマ線)と逆に、タウ粒子パルス波が「逆時間方向」に発生する。そしてエネルギー密度に応じてタウ粒子は過去で物質化する。物質化したパルス波を検出する装置を用意しておくことで、未来から過去へ向けて送ったパルス波を受信することが可能となる。

ただし、パルス波の強度・受信機の精度・地球の絶対速度という3つの要素で受信状態は決まる。地球は自転し、太陽の周りを公転、さらに太陽は銀河系で大きな回転運動の途上にある。このため、送信した時点での絶対座標と受信する時点での絶対座標には大きな開きがあり、それだけ離れても受信できるかどうかがマシンの遡行能力の限界を決める。

参考
タイムトラベルが実現不可能だと言う理由を端的に説明する画像
http://naglly.com/archives/2010/05/timetravel-impossible.php

ホーガンは本編で背景放射のドップラーシフトから地球の移動距離を一日2100万マイル(3300万km)移動すると示しているが、これが絶対的な指標になるかは不明。最近の計測結果(秒速600km)を使うと5100万kmぐらいになる。これらは地球の公転などの影響を含まない。だいたい地球と金星の最接近距離ぐらいか。

後半に示されるが、この未来と過去両方へのエネルギーの放出・投影は自然現象としても起きており、宇宙末期の崩壊(ビッグクランチ)で放出された過去方向のタウ波は宇宙の誕生時点のビッグバンのエネルギーとして検出されるとしている

この「タウ波理論」に関してはホーガンが考えた架空の部分が多いが、ディラックの量子理論のファインマンの拡張では、陽電子のような反粒子を時間に逆行して存在するものとして扱う変わった仮説が立てられている。流石に自分はそういう分野の専門家ではないので、より詳しい説明を参照されたい。

時間逆行通信とそのしくみ

マシン内では48本に分かれたビームがそれぞれタウ波を伝えるが、そのうち36本がそれぞれ6ビットで1文字を現すため、一度に送信できるのは6文字となる。おそらく最初の12本は補正信号か何かだろう。
マシンでは、一度の通信文で6文字の送信が可能。これを何度か繰り返して文章を送信する。また、遡行できる限界は最終的に24時間まで伸びた。

宇宙の構造

「直列宇宙」

宇宙に時間軸は一本しかなく、起きる出来事というのは同じレールの上にある。なので、「未来から通信文が来た」場合、送信という出来事が未来の時間上で必ず発生する。
取り消す事は出来ず、過去を改変する事は出来ない。改変されているように見えても実際には歴史のレールに沿った行動をしているだけである。

マードックらは当初こちらが宇宙のモデルと考えていたが、自分たちが送信していない通信を受信するという出来事が相次いだ

「並列宇宙」

パラルワールドの存在を許容。通信を受け取った事により、過去が改変されると通信文を送った世界とは繋がらなくなることがある。この場合、新しい宇宙ができ、この世界では通信そのものは(つじつまを合わせようとしない限り)送られない。

当初マードックらは、それではあらゆる分岐がありうる→あらゆる内容が通信に含まれる→通信として意味をなさないため、並列宇宙ではありえないと考えた。だが、「花瓶を割った 注意せよ」という通信文が全ての認識をひっくり返してしまう。

新しい考え方

過去の通信を送り、何かを変える。すると宇宙はまるごとその因果が及ぶ範囲で無矛盾に「再構築」される。ゆえに、通信を送った世界は存在するとも言えるし、消えて無くなったともいえる。

理解する分には、「過去に通信を送って何かを変えると、新しい時間軸が生まれる」という解釈で一応問題はない。

世界の救いかた

最大で24時間前にしか送信できないという致命的欠陥を持つこのマシン。だが、連続使用を行う事で少なくともマシンが24時間まで受信できるようになった時点まで通信文を送る事が可能。

まず通信文を用意(「バーグヘッドで事故が起こるから気をつけろ」etc)それにブートストラップ(起動時に読みこまれるコード)をつけて送信する。
具体的内容はこうなる
「ループ回数=n」
「ループ回数を1ひく」
「ループ回数が残っている場合、本通信文の内容全てを24時間『前』に伝送せよ」
「通信文本文」
「通信終了」
となる。

24時間前の世界ではマシンは自動で本文を受信。
「ループ回数=n-1」
「ループ回数を1ひく」
「ループ回数が残っている場合、本通信文の内容全てを24時間『前』に伝送せよ」
「通信文本文」
「通信終了」
その後、ブートストラップの指示に従ってループの数字を1減じた後、全文を24時間前へ送る。以下繰り返し。
(それゆえ、他の多くの世界は踏み台にされたのだ…)
最後の世界で、ループ回数が0になると再送信は終了。通信文本文が示されることになる。

劇中の事件とその解決

核融合施設での「バゴファント」事故

高速で粒子やレーザーを衝突させて核融合を引き起こす「慣性核融合」の一種、重イオン慣性核融合を使うバーグヘッド核融合施設で事故が発生。漏れ出た余剰エネルギーから生成されたマイクロブラックホールが地球のあちこちに虫食い穴を作り始めた。タウ波送信実験に干渉していたノイズの原因はこれ。
「象(エレファント)ほどの質量をした虫(バグ)サイズの物体」からマスコミが「バゴファント」と呼称し始める。

→マードックたちは核融合施設稼働開始の時点に通信を送り、欠陥問題を解決するまで起動しないように要請する

現在慣性核融合の手法としてもっとも研究が進んでいるのはレーザー核融合。重イオン核融合はまだハードルが高いといわれる。
また、マイクロブラックホールと言えばヨーロッパ原子物理研究機関CERNの重ハドロン衝突加速器「LHC」の実験で発生して地球が滅亡する!なんて予想していた人もいた。今のところそういったことは起こっていない。

バイオハザード事故

流星群と衝突した極秘バイオテクノロジー研究衛星が地球に落下し、バイオハザード事故が発生。しかも、対策のために急遽配布されたワクチンは欠陥品でワクチンによる死者が続出した
衛星軌道で遺伝子操作を行って隔離する話はホーガンの別作品『未来の二つの顔』にも登場する。地球への影響を避けるため、人工知能とスペースコロニーで戦うというアイデアの元になった。

→イギリス王立科学院あてに、直接対策のための長文を送信。

感想&まとめ

部会をする機会など無かったが、好きな作品なのに解説が少ないようなので書かせていただく。某氏と同じく反省はするが後悔はしない。

ホーガンが初めて時間SFに挑戦した一本。時間テーマとしては比較的地味な「通信」に焦点を置き、手堅くまとめた感がある時間SFである。しかし神の視点を持って、分岐するタイムパラドックスと時間線を処理する大技もいまでこそお馴染みだが当時は衝撃的だったかもしれない。ちょっと翻訳の関係で硬くて読みづらいという人もいるかも。
人物に関してはいつもの通り と言った気もするが、そこは悪戯好きのマクスウェル君でなんとか補完。でも、異動・転職でさまざまな人を見て来たホーガンの実経験がマードックとリーのキャラには反映されているのかもしれない。
中盤からとてつもない大事件を起こしてどう処理してくるかと思ったら、こちらもまた独特のアイデアで解決してくれるあたりが秀逸。そして、全ての分岐点が「あの瞬間」であり、そして出来事と経過自体は「当然の成り行き」というのも時間テーマ作品というものを分かっててくれてシビれる。
ラストの「空き容量50MB」ってのは今から見ると... いや、これは時代が時代なので突っ込まないで...


しかしまぁ、これが巡り巡って30年後に日本でゲームの元ネタになるなんて誰が想像しただろうか。 ってこの話はまた別の話。

...送信できる文章が「6文字単位」で区切れてるとか結構露骨なのでもちっとPRしてもよかったんではないかと。
そんなんだから星○賞を逃すんだぞー!! …そんなんで人気も上がらないからいりませんかそうですか
 本作と「かのゲーム」の「さりげない」関連性についてはこちらなどが詳しいので参考までに。
  • 『我が征くは肥沃な荒野』 小説:『未来からのホットライン』


そして、『星を継ぐもの』含む巨人たちの星シリーズ三部作を漫画化した星野之宣氏が2012年現在漫画版をビッグコミックスに連載中!今度はどんな新境地を見せてくれるのか。期待。
…個人的には「プロテウス」コラボとかやってほしいなー(無茶


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最終更新:2011年03月02日 02:39