東北大学SF研究会 短篇部会(2018/10/25)
片腕 川端康成
著者紹介
川端康成(かわばた やすなり)
1899年大阪府大阪市生まれ、茨木市育ち。代表作は『伊豆の踊子』、『雪国』、『眠れる美女』など。
言わずと知れた、日本を代表する文豪のひとり。自身の作品による日本文学への貢献はもちろん、新人発掘の名人としても知られ、三島由紀夫を見出して世に送り出したことはあまりにも有名。
派閥としては横光利一とともに新感覚派に分類され、初期では西洋の前衛文学の手法を取り入れて創作を行った。掌編小説(「掌の小説」)、浅草物(『浅草紅団』)、少女小説(『乙女の港』、中里恒子との合作と推定される)など多様な手法・作風の末に、「日本の美」と「愛」を描く作風へと至った。
68年に「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現し、世界の人々に深い感銘を与えた」としてノーベル文学賞を受賞。受賞記念講演では『美しい日本の私』という題で日本人の死生観と美意識を世界に紹介した。(授賞式では燕尾服を着ることが暗黙の了解とされる中、川端は紋付き袴で出席した)
72年、ガス自殺。ただし、遺書はなく、新作の執筆中に万年筆のキャップを開けたまま死んでいたので、事故死である蓋然性が大きい。(一時的にペンを置く際でも、万年筆のキャップを閉めるのは万年筆の使用者なら常識中の常識。川端ともあろうものがキャップを開けたまま離席して自殺するとは考えにくい)
ちなみに、川端は目利の古美術収集家としても知られており、コレクションには死後国宝や重要文化財に指定される作品が多かった。そのため、川端の旧蔵品は一種のブランド的な価値をもち、古美術の箱書きに川端の署名があるものの価値はない場合と比べて数段も跳ね上がる。(ただし、偽物も非常に多い)
解説
解説しようと思うのだが、新潮文庫版の巻末に収録されている三島由紀夫による解説がすべて語りつくしてしまっているので、作品自体の解説はそちらを読んでいただきたい。
私の方では、私自身がこの作品を読みきっかけになった、筒井康隆による書評を抜粋して紹介したい。
「新感覚派の面目躍如たる発端であろう。だがここまでならファンタジイずれしているぼくにとってさほどの話でもない。感心したのはシュール・リアリズムを日本の感性で書いていることである。また特に驚いたのは、心おどりに上気しながら娘の右腕を雨外套のなかにかくして、もやの垂れこめた夜の町を歩く『私』に、近所の薬やの奥から聞こえてくる以下のラジオの天気予報だった。(引用部略)さすが東京帝國大學文學部、シュール・リアリズムの精神をよくぞここまで日本に写し変えたものだと僕は嘆息した。現実と非現実すれすれのはざまで勝負していて、踏み出し過ぎることがない。」
所感
上述の筒井康隆による書評を読んで、非常に気になったので読んでみた。すると『片腕』がとんでもない名作だったのであった。
名作すぎて周囲の人手当たり次第に話をして多大な迷惑をかけることになった。特に某会長に対しては何度同じ話をしたかわからない。それでも、一度読んでもらえれば、私がそのような奇行に走った理由というのも納得していただけると思う。
この作品自体も素晴らしいが、この作品の評価の半分ほどは、解説の三島由紀夫の文章にあると思う。解説者を知らずにこの解説を読んだ時、「これほど格調高く、適切にこの小説の本質を言い表しているとは、なんという天才だ。これほどの天才批評家がいれば日本文学は安泰だ」と感じて、その天才の名前を確認したら三島由紀夫だった。そりゃそうだというもので、なぜあんなにも早くに死んでしまったのか、残念でならない。
余談
紙面が余ってしまったので、部会主催者の強権を発揮して私のSF短篇ベスト10について記したいと思う。
1位 片腕 川端康成
2位 処刑 星新一
3位 生活維持省 星新一
4位 母子像 筒井康隆
5位 くだんのはは 小松左京
6位
地には平和を 小松左京
7位 殉教 星新一
8位 給水塔の幽霊 筒井康隆
9位 鞄 安部公房
10位
最後にして最初のアイドル 草野原々
どれも傑作だが、特に推したいのは小松左京『くだんのはは』『
地には平和を』、筒井康隆『給水塔の幽霊』。
最終更新:2018年12月06日 13:53