4月30日読書会レジュメ
Ⅰ.作者略歴
「編・役者あとがき」以上のものは見つからなかったので、p430あたりを参考のこと。
Ⅱ.作品について
「適切な愛」
自身の夫を出産してみるとどうなるだろう、という思考実験。正確には、脳を子宮に入れたわけです。果たして自分の出産した脳は、自らの「子供」なのか、それとも元の持ち主である「夫」なのか。
作者の回答としては、p40にある様に「人間性を失った」と言っており、インセスト・タブーを犯しているという意識が「あたし」に芽生えているということだろうと思われます。
「闇の中へ」
イマイチ具体的なイメージは湧いてこないです。これと似たような本に、「SF量子論入門」(作:大槻義彦)という本来の意味での「トンデモ本」があります。ここは、読んでいれば霊夢さんに任せます。
「愛撫」
Fernand Khnopffについては、実在の画家です。興味のある方はググッて下さい。
リンドクイスト主義に関して言うと、江戸川乱歩や澁澤龍彦あたりと繋げてみたいです。サドでもいいんですけど、西洋の金持ちは凄いです。「象徴主義」の中に「さかしま」が含まれています。ハード・ボイルドな文体や主人公の「教育」され方などは、比較的どうでもいいです。
「道徳的ウィルス学者」
ショウクロスの様な人物に対抗し得るロジックが「科学」だと思うのですが…。規律訓練から環境統治へ、という話でしょうか。因みに「ミトコンドリア・イヴ」という似た様な短編があります。
「位相夢」
単に幻想小説といっても通りそうです。解説にもあるとおり、「
順列都市」にも通じる様な、「ヒト」から「コピー」への移行についての考察。このネタ、イーガンは大好きですね。
「チェルノブイリの聖母」
これも「愛撫」に通じる美術もの。p244のISDNという単語に時代を感じます。ホメオパシーについては、調べてみるとそれなりに面白いです。未だにnatureなどで議論されています。
「情報」と「形あるもの」という二項対立で読み解くといいのかもしれません。その辺りは「イーガン印」ですね。
「ボーダー・ガード」
これも、量子力学の話。
あと、「宝石」の中にいる人間というアイディアも繰り返し出てくるアイディア。
「血をわけた姉妹」
これに出てくるRCTの「倫理性」については、確かに議論のある所です。一応反論しておくと、そのお陰で分かった薬の有害作用などもあります。それから、現在の所「倫理」の問題については、「大学の倫理委員会」の承認を得ていればOK、ということになっています。
「しあわせの理由」
自分としては、この短編集の中で一番の出来だと思います。
個人にとっての「しあわせ」は流動的だし、何を好きになるのかは、結構偶発的。更に、それを「思い込み」で変化させられるとなると、人間が「選択」を行う根拠って何なんでしょうか?
言い換えると、新皮質で辺縁系を完全に制御することってどうなの、ということ。
あと、厳密に言うと、脳の可塑性はシナプスのつながり方だけではなく、そこに発現するレセプターや、神経伝達物質の分泌具合などによっても決定されますので、電顕写真だけでは分からない様に思います。
最終更新:2019年02月24日 12:18