東北大SF研 読書部会
『
万物理論』 グレッグ・イーガン
著者紹介
グレッグ・イーガン(Greg Egan, 1961年8月20日– )
オーストラリア在住のSF作家。元プログラマーであり83年から専業作家として、活躍中。量子論から数学、生物系など幅広い分野を題材に複雑な構造を組み込んだ作品が特徴で、その難解さから幾人の心をへし折ってきた。また、覆面作家であり露出は雑誌への寄稿か自身のサイトで作品の解説等を発信することに留まる。人前に姿を表さないことや、あまりにも幅広い分野をカバーしていることから人工AI説、複数人説など正体が噂されている。
近頃は、とりあえず書けばなにかしらの賞がついてくるというほどの人気を誇り、日本の星雲賞だけ取り上げても、2001年に『
祈りの海』、2002年に『
しあわせの理由』、2003年に『ルミナス』、2010年に『暗黒整数』で星雲賞海外短編部門を、2005年に『万物理論』、2006年に『
ディアスポラ』で星雲賞海外長編部門を受賞している。これは海外部門に於いては最多。
ストーリー
ナンセンス詩
それぞれの題名のもととなる詩。この詩のアナグラムで題名が作られているという塵理論の示唆だと解説から。よく訳してギミックを再現したね山岸さん。
プロローグ
覚醒したポールが自身がコピーであるということに気づき発狂寸前、オリジナルポールから脱出手段を剥奪されていることも判明し、絶望するがどうしようもないので協力することにする。
人の精神活動をモデル化して、仮想現実世界に走らせる技術。10億ものプロセッサで計算されるが、それでも完全なリアルタイムでの処理はできなく現実世界の17秒につき1秒の時間が流れることとなる。日常生活を営む上で大抵のことができ、生理機能などを含めコピーは人間と変わらない生活をすることが出来るが、いるものいらないものを含めてなんでもオミット可能。なにこれ便利と思うのだが、コピーの15%は自らを停止させている。特に現実世界にオリジナルが健康体で存在する場合に限っては100%である。やはり人間の体という神秘性から抜け出せないということ、終わりのない世界というものの漠然とした不安、後者の場合は今まで持っていた有機的な関係、地位などの喪失および嫉妬などがあるのではないかとは私の考え。
ついでにコピーポールは強いられていた(集中線)とはいえオリジナルとコピーが長期的同時に存在する初のケースとなる。これを鑑みると、そもそものポールの計画の見通しの甘いだけでコピーポールがヘタレではないことがわかるかもしれない。
コピーにも最低限の人権が認められているが、現実世界の人間のそれと比べると不十分であると言える。
イーガンはコピー技術をよく書いていて、
万物理論(私は未読)、移相夢・ボーダーガード(
しあわせの理由)などでコピー技術は登場する。移相夢と順列都市では、脳のニューロンをそのままコピーする形でつくられている。一方、ボーダーガードでは脳の代価品である宝石をデジタル化している。この宝石は脳の代価品として多くの作品に登場する。
第一部 エデンの園配置
1.使途連述 二〇五〇年十一月
プログラマであるマリアの登場とオートヴァース技術の説明、そしてバタフライ計画の影。
分子レベルのシミュレーターであるが、現実世界よりもその法則が簡易化されているため、厳密なシミュレーションはできない。マリアも言っているようにお金と時間の浪費として趣味の領域として見られている。七二人の研究者しかいないというところからも、廃れっぷりがわかる。
マリアが行なっているのはオートヴァース世界でのバクテリア、A・ランバートを有用な種に突然変異させることである。現実世界で起こりうるような突然変異は有用なものがあるがオートヴァース界では今まで有用な突然変異がない。そこでマリアは有用な突然変異を起こそうとするのがだ、その手法をみるにほぼ運任せに近いのではないかと思われる。
プランクダイブのクリスタルの夜に登場するビーズという技術と似ている。この技術も、シミュレーターである。異なるのはオートヴァースの最小単位は原子に相当するものであるが、こちらはビーズという比較的大きな物質単位で環境が構成される。順列では虫だけど、こっちでは蟹。しかも、自分の組成を自分で変えることのできる。
大きく三つにわかれたアプローチがされているようである。まずは正統に全ての情報をプロセッサに計算させてシミュレートするというアプローチ。これは、時代と共にコスト対成果が上がらなくなってきており下り坂。この手のアプローチは往々にして、頭打ちをくらうものである。
その点を踏まえたのがコピーであり課程をすっ飛ばして入力から結果のみをシミュレーションするもの。シミュレーションする対象については十分に把握しておく必要があるが、複数対象の相互関係を調べるのに向いていると思われる。しかし、ある入力には決まった出力を返すものであると思われるので、生物的かと言われると若干の違和感がある。
最後がオートヴァースであり、現実世界ほど複雑でもな計算が必要でなくコピーほど課程を省略しない程度に法則を与えた世界で分子レベルでシミュレーションするもの。前述のとおり研究者のほうが絶滅寸前。
こんな歴史から考えると、この世界は十分に医学は発達した世界で医学自身の発展がピークを過ぎているものだということがわかる。よって注目されているのが、医学と共に発展したシミュレーション技術の応用になっていて、それがコピーの一般利用やバタフライ計画となっている。この辺りのバックグラウンドも面白いところ。
日本でいう、風が吹いたら桶屋が儲かる理論を本気でやるとこうなる。真面目な解説をすると、ある事象は極小さい要素でも影響しうることを指している。バタフライ計画でも、その小さい要素を集めることで自然環境を制御するという形になっている。学問的にはカオス理論として数学、物理学、経済学などに応用済み。カオス理論そのものは複雑な系ももとを正せば小さい要素からなるとするものだが、これは楽観的な見方で、普通は小さい要素が複雑にからみ合って系をつくるといいシミュレーションをしようものなら大変とかいうレベルではない。
実はバタフライ計画は現実でも存在して、海中にポンプを沈めて台風の起動を逸らすなどが試みが成されている。Ross N. Hoffman(マサチューセッツ州レキシントンにある大気環境研究所(AER)の首席研究員兼研究開発担当副社長)によるとシミュレーション上ではバタフライ効果によって台風の軌道が変わることが示されているという。彼の記事を一部引用すると
将来は,太陽光発電衛星から送り出すマイクロ波ビームによって大気を加熱し,ハリケーンの温度を変更できるだろう。ハリケーンの進路に当たる海洋上に生分解性の油をまき,海面からの蒸発を抑えてハリケーンの発達をコントロールすることも考えられる。このように,いずれはハリケーンの発達に人為的に介入する具体的な道が開かれ,人命や財産を守ることが可能になるだろう。
2.使途連述 二〇五〇年十一月
ポールが外界からやってきてリーマンに金を出させる段階。ダラムのロジックを要約すると、今後急速に計算資源が必要になってくるかもしれない→コピーを養うための計算資源を超えての要求が発生する→生きている人間はコピーのことなんて知ったこっちゃない→超長寿(笑)。ということであるが、リーマンも言っているように可能性は少ないとされている。しかし、ダラムの提案は魅力的でありホイホイ金を出すリーマンであった。
3.術と試練 二〇四五年六月
ポールが如何にしてコピーにのめり込んだかと、コピーの描写間隔を変更する実験。
ポールの言っているように不毛な議論であるので、みんな今日の夕飯とか有意義なことを考えよう。
コピーのポールを二人用意する。また、このポールは冒頭に出たコピーを複製したものである。そして両方のポールに一秒ごとに数を数え上げてもらう。しかし、片方のポールの描写間隔は一方のポールより広くとる。その場合、二人のポールは同じ行動をとるかという実験。
結果としては、描写間隔をどれだけ広くしても、コピーには自覚がないということがわかる。
描写間隔というのは単位時間あたりに何回計算されるかといえる。いわばパラパラ漫画で何枚の絵を描くかで計算が多いと枚数も多い。自覚がないというのは、間隔が五千ミリ秒の段階では1から4までは数え上げた計算はされていないが5を数え上げたと計算されたポールは1から4を数え上げた記憶があるということである。まあ、5千ミリ秒後の脳状態をそのまま再現しているので当然といえば当然。
4.使途連述 二〇五〇年十一月
マリアと恋人のアデンの痴話喧嘩。技術主義と自然主義の対立で、よくこの二人やっていけたものだなというのは私の感想。ほかにA・ランバートが始めて起した有意な突然変異について。
本来なら分解してもエネルギーとして利用できないミュートースを利用できるように変異したが、ヌートロースの分解はできなくなった。121pで2つの酵素を分解して同じ断片にしているが、これは旧ランバートがヌートロースを分解した場合と変異ランバートがミュートースを分解した場合の比較であろう。
またここで、有意な変異が起きない理由に量子力学をオミットしたことによる不確定性の欠如が挙げられているが、マリアはこれを外部的なパラメータから補ったとみていい。変異についても両方を利用できる形に進化しなかったことについても不確定性の結果だとマリア自身も結論付けた。
5.使途連述 二〇五〇年十一月
唯我論者国家たちがグロ注意だったり、密航計画をたてたり。
自身が知覚するものが世界のすべてだとするのが、ざっくばらんな唯我論。コピーは自由に環境が設定できるので、自身の望む環境が世界そのものというスタンスをとる。人は社会と繋がっていないと生きていけない。そう思っていた時期もありましたと言わんばかり。国家というのはただ集団ということで、実際にコミュニティを形成しているわけではないとおもわれる。
6.術と試練 二〇四五年六月
コピーポールの時間をシャッフルする実験。自明の理といっているので、まあそうなるよね。コピーは10を数え上げた状態があり、その後からコピーの過去にあたる描写をしても、コピーにはわからない。
7.使途連述 二〇五〇年十一月
マリア親子による宗教感の論争。マリア母は神という概念を自由にいろんなものを見出すが、救いも求めないという機能が洗練された宗教を持っている。
ダラムからマリアへの初コンタクトもここ。
順列都市が一番好意的に神を書いていると思われる。
まず道徳的ウイルス学者は熱狂的なキリスト教信者かつ生物学者が致命的なウイルスを神の審判だと信じてばら撒く話。しかし、道中に出会った娼婦にプライドや宗教心をメタメタに打ち砕かれる。
祈りの海では敬虔な宗教家だった主人公一家であった。あるとき主人公が兄につれられ神秘体験をすることで神の存在を確信する。やがて主人公が成長し科学者になる。そして主人公があの神秘体験はただの麻薬作用でよるものだとわかってしまう。
という、神に対しては若干否定的なスタンスである。
8.使途連述 二〇五〇年十一月
トマスが調べさせたポールの来歴がでてくる。また、トマスの過去についての伏線。
感情をコントロールする技術。ピーとマリアが使用しているのは構造ごと変えてしまうものであるが、この系統の技術であろうと思われる。幸せの理由では自分の好き嫌いの度合を決めることのできる技術が登場している。
9.術と試練 二〇四五年六月
ポールの塵理論の着想。自身であることを認識するに必要なのは一貫性であるとするが、コピーポールはランダムに再生されても認識できていた。ということはコピーにとってのアイデンティティはどのようになっているか。それは因果関係は全く関係なく組み合わせである。ここで時間により変動するランダムな場を考える。この中から、規則的になるような状態を探してくれば何か作れるんではないか。というのが、ここの理論。
例をあげるとπは無限数であるので、その中にはあらゆる数字のパターンが含めれている。よって、そこを探せば、誰それの誕生日や何時地球が滅亡するとか全部書かれているということ。
http://www.angio.net/pi/bigpi.cgi
こんなところから探せる。
10.使途連述 二〇五〇年十一月
ポール「金はやる。マリア、神世界の神となれ」
マリア「なにこの人。マジ◯チ?でも、面白そうビクンビクンッ」
アデル「放置プレーなう」
11.使途連述 二〇五一年一月
ピーとケイトの密航計画とピーがコピーになった由来。
12.術と試練 二〇四五年六月
コピーポールとリアルポールによる分散処理の実験と塵理論に関しての論争。しかしながら吹っ切れたコピーポールに対してリアルポールがヘタレっぷりを発揮。コピーポールが停止される。
13.使途連述 二〇五一年二月
惑星の生成をするオートヴァースプログラムについての考察。ポールは詐欺師と主張する詐欺師捜査官がズコズコとマリア宅に潜入。あんた騙されているわよと言いつつも、確信のないものでマリアにスパイを強要する。台風のような国家権力。その話の中でポールの計画についてマリアが少し察する。
14.使途連述 二〇五一年二月
ビッチにボンボンがぞっこん。トマスはピーらと違って自分の思考を変更するプログラムを走らせないという主義であることがわかる。
15.使途連述 二〇五一年四月
ポール「いつから私がオリジナルだと思っていた?」
やっぱりダーティな国家権力。マリアのプログラムが完成しポールの計画の導入部分。
16.受信裂渡 二〇四五年六月
今まで全て茶番だったことが判明する。しかし、ポールは塵理論を確信し自分の体験はほかの世界線のコピーが体験したことと区別はできないとして実験に取り組むことを決意する。
いわゆる多元世界論。ひとりっこ、オラクルなどで多元世界論が扱われている。そちらの世界では分化する歴史は選択の分岐により作れるものとされ一般的なものである。ただし、同じ環境で同じ入力をいれた場合、必ず同じ結果が得れる素子から導かれる場合。現実での結果は自明なため分化しないとされている。また、ありとあらゆる平行世界があるのではなく、量子的な不確定性に収まる範囲での世界が存在する。
この辺りで確信めいた言葉が出てくる。
「〈コピー〉が、世界中に散らばった塵からそれ自身を組みあげ、宇宙各所の塵でその存在のギャップに橋をかけることができるのだとしたら」
これまでに出てきたように、コピーが停止されたとしてもコピー側から適当なパターンを見つけだし自らの存在を定義できるということを端的に書いてある。ポールはこの理論を仮定した上で、実験のデータは有意であるとした。
18.使途連述 二〇五一年五月
ピーVSピー。コピー同士の血を血を洗う争い。
19.使途連述 二〇五一年六月
マリアがスキャンするシーンに続きポールと共にTVC宇宙を走らせる。その様子が視覚的に展開される。またマリアが自分のエゴを自覚し思い悩む部分も見受けられる。マリア母はコピーとリアルは違うという主義だが、ポールはコピーも自分も同じという立場。そのなかでマリアがスキャンされることで、マリア母の言い分がわかってきたのではないだろうか。
マリアが観た夢は移相夢と言われるもので、同題の短編で扱われている。
初期状態。今回ではコピーやオートヴァースなどのもろもろのデータと六次元で拡張するTVC宇宙。流れとしては、TVC宇宙を発進、後にポールのコピーを走らせエデンの園配置にあるシミュレーションを走らせている。
みんな大好きエントロピー。このTVC宇宙ではエントロピーを凌駕しているので、ポール≒まどか神が成立する。
20.列瞬閉じ
ピー「試合に買ったのに勝負に負けたでござる」
そしてピーは考えるのをやめた・・・
唯我論者国家としてピーとケイトの違いとしてピーは複製を別の自分と認めるがオリジナルの唯我を貫く、ケイトは唯我という本来無二であるものの複製はつくらないこと。唯我論に対する新たに生じる矛盾点についての話。
ポール「いや全部、俺だし」
21.使途連述 二〇五一年六月
nice boat
コピーポールの死とリアルポールの死は塵理論を前提とすれば違うといえる。しかし塵理論の正当性は確かめ用がない。
22.使途連述 二〇五一年六月
トマスは自分のクローンに生身としての死を課すことで、罪の償いとし、そのクローンを新たな体にすえ変え、ポールの宇宙で新たな人生を始めさせることにする。
第二部 順列都市
23.
主にランバート人についての説明。あと発狂しかけのマリア。
5つの節に4本の足、羽が生えている。目は2つで変わった虫っぽく見えるが胃はむき出し。雌雄はなく植物と共生するような特殊な生殖を行う。神経系は人間よりも複雑で、ほかの個体と並行処理することによりヒトより優れた知性をある。道具を使用するわけではない、加えて自然に積極的に干渉することをしないので系統だった文明はもっていないが高度な科学を有する。彼らの思考と行動と言語の機能をもっているモデル化が可能で、それにより証明、伝達などを行う。
24.準都市
前半はコピーとしての生活をするピーとあくまで人間のように生活するケイトの確執。後半はエリュシオン社会におけるランバート人とのファーストコンタクトの会議について。
レペットはランバート人は十分な学問がある、ただし構造上頭打ちをくらう。これはランバート人にとって好ましくないことで、ヒトが真実を伝えるべきだという革新派。
サンダースンはヒトがランバート人に接触するのは、ある意味傲慢であり危険である。ランバート人がヒトというメタ存在を受け入れる立場になってから接触するべきだとう保守派。
サンダースンの理論を文化的なショックとすれば、ほとんどのファーストコンタクトもので述べられている論争を似たところに落とすことが出来る。が、後半のようにランバート人がヒト抜きで成立する整合性のあるパターンを発見してまうため結果論的には・・・。
26.
マリアが探検隊に参加、ランバート人の状況について。科学はオートヴァース界的な原子論まで至っており、宇宙論に手を伸ばし始めている。そのなかでも原子雲の解釈を始めている。しかし、原子雲、つまりはオートヴァースでのエデンの園配置であるから理論的には導かれない。よってダラム達はランバート人がヒトの存在を認めた上での探索を計画している。
27.準都市
ピー「甲虫を写生するだけの簡単なお仕事」
ピーが計算されていない時間があるということが発覚。システムとしても不具合が見られつつある。
28.
法則は可変である。オートヴァース界がエリュシオンの整合性を越え、法則のマップを変更していることがポールから伝えれられる。整合性を越えるまえにランバート人に接触するため行動を開始する。
順列都市ではポールが整合性という言葉を使っている。塵理論に当てはめると、ランバート人がポール各位エリュシオン人が選択するパターンよりも整合性のあるパターンを見つけ出す。すると、同じTVC宇宙にいるエリュシオンの法則がより整合性のあるものへと変わっていくというロジック。そのため、TVC宇宙がポールの手を離れ制御することができなくなる。最悪の場合、ピーのように計算が停止される。
これが、順列都市で述べられる範囲であるが、さらに上のレイヤーでこの法則の可変が起こることがルミナス、暗黒整数なので書かれている。
ということで、ここからは少し順列都市のことを頭から放り出して考えていく。
まず、数学を考える。数字は定義と証明された法則からなっている。そこで、数学をマッピングする。わかりやすいように紙上で点に命題ひとつが対応しており状態を書き込んでいく。状態は3つあり、真・偽・不確定である。不確定というのは観測されていないので収束していないということ。人類が実際に計算してきた部分をまとめると有限の領域がかける。有限であるからには、その外があるはず。そこでイーガンは外に人類が用いてきたものと別の数学の系があると考えた。(その系と違う状態を持つかもしれない)。すると、2つの系の間には境界が出来る。その境界は2つの系からみれば量子力学的な重ね合わせになり無矛盾な領域となるが、演繹の課程その領域をはみ出すと矛盾が起こる。この境界は1つの系からみると欠陥に見えるので不備と名付けられている。不備を相手の計算力を超えて押し上げたりすることで、他の系の法則を変えるという可能とされる。
これから、数学的事実に基づく真実はマップ上の場所によって決定されるといえる。
以上がちょっと簡略化したイーガンの数学の考え方で、順列都市の構造をとても似ている。ただ今回は現象を密接に関わった実世界上ではなく、どちらも仮想空間での話であるので整合性という言葉に置き換えられている。
暗黒整数では先進文化おそらく未来との不備、ルミナスでは系を都合良い形にしようという会社から守るため、先を打って不備を消そうという話。
29.
トマスは結局、罪を清算できませんでしたとさ。
30.
レペット「だめです。オートヴァース、パルス受け付けません!」
ポール「プランB・・・マクスウェルの悪魔。発進急げ」
ゼンマイスキー「やりました!成功です」
ポール「よし・・・総員第一種戦闘配備・・・急げ」
宇宙旅行からのランバート人との接触。TVC宇宙の成立を説明するが、彼らは無限は実際に存在することがないとして撥ね付ける。失敗に終わるだけなら良かったが法則の侵略が始まった。
無限という概念はあるような気がするが、実在の例が一切ないので認められなかった。これは単に計算能力が非常に高いとみるべきか、彼らのモデルは即ち行動なので無限のモデルというのは、無限時間の行動を必要とするのではないかとか考える。
31.
ピー「俺が」
ピー「俺達が!」ピー「俺達が!」ピー「俺達が!」ピー「俺達が!」
ピー「国家だ!」ピー「国家だ!」ピー「国家だ!」ピー「国家だ!」ピー「国家だ!」
ケイト「はやくなんとかしないと」
32.
侵食から逃れるため新たなエデンの園配置を作成し発進させるが、トマスが究極の引きこもりになっていたため発進に間に合わないポールとマリア。そこでマリアが一人でエデンの園配置に入ることを提案するがマリアの抵抗にあい死ぬつもりだったポールもついていくことになる。
ポール「私は多分25人目だから・・・」
エピローグ
使途連述 二〇五二年十一月
錯覚の壁に花を供えるマリア
おまけという名の登場人物の考察
イーガンといったアイデンティティの問題を書かずにはいられないと言われるほどのアイデンティティ好き。なので、登場人物のアイデンティティの推移のまとめ。
全ての始まり ポール・ダラム 私はコピーでもありヒトでもある
コピーポールはコピーという自分の本体が生きているが、自分はもとの環境とコンタクトを取ることも自由に出来ない環境に生きる意味をなくし脱出を繰り返す。
ビジターの間に複数存在する自分に直面し人生を複数回体験することになりながらも塵理論を仮定することで、自身の整合性を保つと共に塵理論の証明がアイデンティティとなる。リアルでは目的を果した後に自殺。エリュシオンに移ってからは見守る立場として過ごしてきたが、エリュシオンの崩壊に直面し間接的な自殺をし新しい人生をはじめる。
ランバート人創造の神 マリア・デリカ 私はヒトでもコピーでも適応する
割りと普通に生きてきた人。母の病から母の意志に反してコピーを作ろうとしていた。ポールとの接触を経て、それはエゴであると気付くも捨て切れない。
エリュシオンに移ってから、コピー特有のアイデンティティの喪失にあうがランバート人接触という好奇心を見出す。いやいやいいがならも環境に適応していく人物で、最後まで人間じみて書かれている。
敬虔なる信者 マリア母 私はヒトであってコピーではない
何も変えない神の教会の信者で、いちばん上手く付き合っている人ではないかと。
コピーをつくっても、それはリアルの私とは違うので意味が無いと最初に言いのけた人。この作品で珍しい立場である。神は何も変えないという主義であるが神を機能としてみた時の最小限のものでアイデンティティを保っている。
矛盾する殺人者 トマス 私は罪によって定義されたヒトまたはコピーである
過去に殺してしまった愛人の罪を抱えているが、その罪こそが今の自分のアイデンティティだとわかっている。そのためコピーになり記憶を消す、罪の意識を消すといった手段があるにも関わらず、自分でなくなる気がすると感じ処置しない。しかし、罪からは解放されたいという矛盾から、生身の自分を罪の象徴として死を見届けることで、解放されようとするが失敗。のちに、仮想空間上で死を経験させ罪を払わせたクローンを新たなクローンに載せ替えエリュシオンに送り込む。これで、クローンには新しい人生を遅らせられると思っていた。しかし、これも失敗し永遠を手にしたクローンは罪から解放されることなく逆に永遠に罰を受けることを選んだようである。
俺たちが国家だ! ピー 私は定義されない
コピーになるまではロッククラムが好きな学生で将来にも期待していた。しかし事故とそれにまつわる不幸で劣悪な環境で走らされるコピーになる。その落差に加えてコピーという不安定な状況に脱出を考えるがケイトから脳の機能をいじることを薦められ、アイデンティティを機械になげ編集することを決意する。それから究極の唯我論者の名に恥じぬように外部からの干渉はケイトのみとし、自身に向いた環境をデザインし引きこもる。自身のクローンを創った時でさえ。お互いの干渉を最小限にし、それぞれを別ものと判断する徹底ぶり。さらにケイトがいなくなった後は永遠に引きこもる。
エリュシオンに向かったほうは自身のアイデンティティそのものを定期的に変更し引きこもるという方法を確立する。しかし、ランバート人の侵略によりバグが出てくる。その時それぞれの自分が自分でないような感覚に囚われる。ケイトと完全に二人っきりになった時に覚醒し、アイデンティティを様々に変えられるのがアイデンティティだという結論に到達。俺たちが国家だ!を体現しようとする。
唯我論者国家の反逆者 ケイト 私はヒトであったコピーである
ピーがコピーになる前からコピーであり、同じような境遇のコピーの世話をしていた。ピーがコピーとの葛藤に悩んでいるとき、脳のパラメータを変えることを進めた人物で、究極の唯我論主義者をつくるきっかけとなっている。エリュシオンに密航する際にピーにはうそをつき、自信のクローンは製作しなかった。これは唯我論者にとって我が分裂することが一種の矛盾をはらむ為拒否していると見れる。また、エリュシオンに向かってからも、他者(双方向性として交流できない)を求めるなど唯我論者としての揺らぎが見れる。
感想
まず、この作品を読み終えた人に賞賛と感謝の意を。これを面白いとするなら短編はもっと面白いはずだ。私は短篇集はTAP以外、長編は之のみのイーガン読みですが、順列都市という作品はイーガンのアイデアのごった煮であると思っています。このなかに詰まったアイデアは短編から吸い上げられたり切りとられたりして形を変えて書かれている。そんな意味では初心者向けかもしれません。ある意味新しい世界をつくるまでの過程とその世界での冒険譚ともとれますし。
前半と後半でがらっと話が変わるところに追いつかない人もいるかと思いますが、細かい部分を抜き取ると興味深いテーマが見えてくる作品で読みなおしていると、「実は面白いんじゃね、さすがはイーガンやで、うへへへ」となってきます。でもレジュメつらい。
最終更新:2018年06月17日 01:30