東北大学SF研読書会
      「紫色のクオリア」
                                担当:刺身

作者 うえお久光

  2000年度に行われた第8回電撃ゲーム小説大賞に『みークルズサジェスチョン/ポリッシュアップルズ』を応募、〈銀賞〉を受賞する。2002年2月、同作品は『悪魔のミカタ 魔法カメラ』と改題されて電撃文庫より出版され、小説家デビューを果たした。 2005年7月からは新シリーズ『シフト』を単行本(ハードカバー)にて発表している(後に電撃文庫に移籍)。

イラスト 綱島志朗

代表作は「ジンキ」シリーズ。「オリハルコン・レイカル」。
ジンキシリーズはアニメ化しているほどの人気シリーズ。しかし連載誌が月刊ガンガンWING→月刊コミックブレイド→月刊コミック電撃大王→月刊ドラゴンエイジ、と流浪するなど苦労が絶えなさそうな人

登場人物

  • 波濤マナブ
  主人公。特に変哲のない女の子だったがゆかりと出会い、事件に巻き込まれ、左手が「左手でありながら携帯電話でもある」なんてことに。そして友達になってみたり母親になってみたり魔法少女になってみたりして最終的には人外に。ゆかりの目には周辺機器が多そうでスーパー系的デザインに見える。換装によって汎用性最強。きっとF90(こいつはリアル系だけども)のようにジョイント部がいっぱいあるのだろう。

  • 毬井ゆかり
  ヒロイン。ニンゲンがロボットに見える目を持っている。その人のパーツを見ることで相手が得意としていることがわかる。趣味はプラモデル作り。また機械の修理も得意。さらには人を「修理」することもできる。

  • 天条七美
  ツンデレ。作中に出てくる用語の多くはこの子の仕入れてきた情報。小さいころにゆかりに体をジャングルジムで修理されたことでゆかりに恐怖心を持ち、何かと突っかかっている。

  • アリス・フォイル
  ロリ担当。ゆかりを連れて行くためにジョウントから送られてきた留学生。マナブに脅されたり篭絡されたり束縛されたり何気に一番ひどい目にあってる気がする。数式が「絵」として見える目を持っている。そうした力を持たない人間のことを凡人と言って蔑している。

  • 加則智典
 モブ担当。リアル系の見た目なのに漢のロマン、ドリルをもっている。お前のドリルで天を貫け!ある世界ではマナブと付き合ったり、別な世界では七美と付き合ったり、ゆかりにも好かれていたりと、きっとこいつを主人公にしたらギャルゲーができるに違いない。名前が「かそくちてん」と読める。

あらすじ

第1章 毬井についてのエトセトラ
主人公、マナブの友達であるゆかりはニンゲンがロボットに見えるという不思議な目を持っていた。ゆかりを目の敵にしている天条七美と知り合いになったり、ゆかりの意外な一面を知ったりしながら日々をすごしていた。だがそんなある日、マナブは「東京バラバラ殺人」事件の犯人にゆかりに対する人質として誘拐されてしまう。

第2章 1/1,000,000,000のキス
マナブとゆかりの衝撃的な出会い、七美との小難しい話、そしてアリスの留学。アリスの目的は「天才」であるゆかりを『ジョウント』へと連れて行くことだった。しかしゆかりはジョウントで不審な死を遂げる。ゆかりの死の真相を知るため他の世界の自分と協力してアリスを追うマナブ。無限の可能性の世界を経てアリスへとたどり着いたマナブは過去を変えられることに気づく。

第3章 If
アリスが三年生になっても留学を続ける世界。マナブは「左手」の「通話機能」を封印してもらうのだった。

用語

  • クオリア 心的生活のうち、内観によって知られうる現象的側面のこと、とりわけそれを構成する個々の質感のことをいう。日本語では感覚質と訳される。→コウモリであるとはどのようなことか

  • 逆転クオリア 同等の物理現象に対して、異質のクオリアが伴なっている可能性を考える思考実験。同じ波長の光を受け取っている異なる人間が、異なる「赤さ」または「青さ」を経験するパターンがよく議論される。

  • 平行世界
  • 一般的な解釈(コペンハーゲン解釈)  
シュレーディンガーの猫は観測者が観測するまで(観測者にとって)、「生きている猫」と「死んでいる猫」の重ね合わせの状態にある。観測者が観測する過程で(観測者にとって)、猫の状態はどちらか一方に定まる。これがいわゆる波動関数の収束である。

  • パイロット解釈
「パイロット波」なる未知の波が粒子の運動に影響を与えているとして、量子力学を古典力学の枠内で説明しようとする試みであり、シュレーディンガーの猫の 問題は完全に解決できる。一時は成功したかのように見えたが、二個以上の粒子の運動を想定すると古典力学にない非局所的長距離相関が強く現れることが分か り、現在では完全な下火となっている。

  • エヴェレットの多世界解釈
シュレーディンガーの猫のいる世界は、「猫が生きている世界」と「猫が死んでい世界」に分かれる。当然、「猫が生きている世界」にいった観測者は猫が生 きていと観測し、「猫が死んでいる世界」にいった観測者は猫が死んでいると観測する。もちろん、観測者は、猫を観測するまで自分がどちらの世界にいたのか知ることは出来ない。

自然界に存在する4つの力、すなわち電磁気力・弱い力・強い力・重力を統一的に記述する理論(統一場理論)の試みである。この理論が完成すれば、素粒子のあらゆる性質が説明できるばかりか、宇宙(=時間と空間)が誕生し、消滅する様子さえも理解できる、究極の物理理論になると期待されている。ただし、心の哲学の世界の研究者たちからは意識の主観的な側面(専門的には現象的意識、クオリアなどと呼ばれる)が説明から抜け落ちることになるだろう、と考えている

感想

 1章を読み終わったあたりで、次はまた何か事件に巻き込まれて、それを解決するためにマナブにパーツくっつけたりして、という話になるのだろうと思っていた。(羽着けて空を飛ぶとか、とか思ってたらあとがきマンガでやってたね・・・)ところがいきなりゆかりが死んだとかまったく考えていなかった展開になって、と思えばマナブのほうは無限の世界を旅し始めて・・・と想像もしなかった方向に話がぶっとんでいって非常におもしろかった。そしていい加減トラトラ読まんとなぁ・・・

補足

  • ジョウント→アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」におけるテレポーテーションの呼び名、フォイル→同上、主人公の名前
  • 万物理論→グレッグ・イーガン「万物理論

余談1:ドラゴンマガジン11月号にてこの作品を楽しむために読むといいよ!ってな作品として次のものが挙げられてる→玩具修理者(小林泰三〔おそらくこれに収録されている、酔歩する男〕)、虎よ、虎よ!、万物理論、あなたの人生の物語(テッド・チャン)

余談2:ラ管連(ライトノベルサイト管理人連合)が行った読書会の結果、「結論: 紫色のクオリアは、ラブプラスだ」、だそうで・・・

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最終更新:2009年11月03日 20:07