聖杯のUTSUWA ◆lnFAzee5hE
◇
これは夢……
だったのか……
悪い夢……いや……
いい夢だった……
◇
生きるということは常に戦い続けるということである、特に――日本全国から人が集まる物騒な都市、東京はそうだ。
学生、サラリーマン、自営業主、主婦、いや幼児や老人ですらも、自分がより良い位置へと居座るために、他人を蹴落としあっている。
だが、獣ですら休むというのに――人間が常に気を張って暮らし続けることなど出来ない。
安らぎが必要であった。人によってそれは、家であり恋人であり趣味であり、
そしてここに――『3姉妹』、実の三姉妹が経営するスナックに安らぎを求める男がいた。
――夢を見ているような気がした。
三姉妹のママが歌うカラオケを子守唄代わりに、カウンターに突っ伏して男は眠っていた。
男は鎧を着ていた。
それは比喩表現ではなく、現代の東京に於いては実に奇妙なことであるが、男は黒の西洋鎧を纏っていた。
長女のママが男に毛布を被せようとする。冬の日であった。少なくとも、温もりもなく眠れば風邪を引くような日である。
その時、鎧が――牙を剥いた。
男の精神性を表すかのように、その鎧は尖りすぎていた。
長女の指が切れる。
「姉さま大丈夫でして?」
出血する。傷は浅い、長女は切れた指を口にやり、血を吸う。
「ほんと無駄に尖ってるのよねぇ」
「自分が傷つきたくない奴ほど、人を傷つけるんでしてよ」
「正直どこに向かいたいのか方向性がわからないんだけど」
結果として、三姉妹から毛布だけでなく、辛辣な言葉を掛けられることとなった男は、心の中でそっと呟く。
(味方は……己だけ)
いつの間にか目覚めたのか、あるいは最初から寝ていなかったのかもしれない。
辛く厳しい現実の世界の前に戦うことも出来ず――何も見なかったかのように、ただじつと目を閉じることしか男には出来なかった。
気づかない間に目から涙が溢れていた。
何故、己はこうも上手くいかないのだろう。
新プロジェクトのメンバーには選ばれず、同僚からはどうも避けられている節があり、部下からも舐められているように思える。
(俺が……危険すぎる男だからか)
心の中でまで、嘘をつかなければならなかった。
社内で彼が危険な男と呼ばれている所以は、その尖りすぎる鎧にあり――ほとんど蔑称である。
それでも、誰も並び立てぬ孤高の男であると嘘をつかなければならなかった。
力もなく、それを補う要領の良さもなく、ただ孤独なだけの自分など――誰が認めたいものか。
(力【仲間】が……欲しい)
涙で――視界がぼやける。
三姉妹は店の後片付けのために、カウンターからは引っ込んでいる。
あるいはそれは、彼女たちなりの配慮なのかもしれない。
だが、泣くことなど出来ない。
プライドがあるのだ――王としての。
(……!?今……俺は何を思った?王……俺は何かを……)
涙でぼやけた視界に、紅い満月が映る。
店内に、紅い満月のオブジェは存在しない。
存在するはずのない紅い月を認識すること、それが――この戦争への参加条件。
男は――偽りの記憶の殻を被せられて、この東京で係長として働いていた。
だが、真実の彼はそうではない。
争いの絶えない国――ブリテン、百万人の王、十一人の支配者、外敵、数多くの英雄が覇権を争う国で、彼もまた戦っていた。
王の剣――エクスカリバーに選ばれず、十一人の支配者にも選ばれず、
ただ孤高と孤独を履き違えて戦うしか無かった哀れな王。
十一人の支配者の一人――ロット王と戦って敗れたはずだった。
だが、紅い月は――それを由とはしなかった。
薄れゆく意識の中に、紅い月が輝く。
彼は紅い月に手を伸ばした、何者にもなれなかった己が――今度こそ選ばれるために。
そして、彼は東京に辿り着いた。
聖UTSUWAを手に入れるために。
夢から醒めるように、チャンネルを替えるように、さくり、と記憶は取り戻された。
リエンス係長という偽りの器は今度とも利用することがあるかもしれない、
だが真の自分――リエンス王を取り戻し、偽りのしがらみから解き放たれ、どこか清々しい気分を味わっていた。
「モガママ、勘定は付けといてくれ」
瞬、と立ち上がり、偽りの安らぎを後にする。
二つの意味で、この場所は偽りの安らぎだった、とリエンス王は思う。
そもそもこの場所が偽りであったこと、そして――結局、俺は安らぎなど得てはいない、ということ。
3姉妹を出る。表の看板の明かりは消えていた。魔女の格好をした三姉妹が描かれている。
今ならば理解できる、この看板は――いや、三姉妹のママはブリテンの魔女の三姉妹がモティーフになっていたのだ。
俺の記憶か、あるいは元の世界の記憶か、どちらかはわからないが――それが元になっている。
NPCだから問題はないだろうが、百万人のアーサーや十一人の支配者がいる可能性にも留意しなければならないだろう。
もう電車は無くなっていた、NPC時代の稼ぎが入ったそう厚くもない財布の中身を確認し、タクシーを拾う。
(サーヴァントというのは、俺の家にいるのだろうか)
記憶を認識した時点で、サーヴァントが現れる。
そういうものだと思っていたが、未だロット王の周辺にサーヴァントが現れる気配はない。
ならば、すでに召喚されていて――己には見えなかっただけではないか、その可能性を考えて、運転手に家までの道を急がせる。
記憶を取り戻した今となっては、溜息の一つもつきたくなるようなアパートの前に辿り着く、
城で暮らしていた俺が、こんな豚小屋に――と文句の一つも言いたくなる。
階段を昇る。
まるで空気が粘性を持ったかのような圧力を、自室に近づくに連れてリエンス王は感じていた。
間違いなく、サーヴァントは自室にいる。
そして、巨大な力を持っている。
俺が持ち得なかった力だ。
なんとも形容しがたい、UTSUWAと呼べるものだ。
今更、退けるものか。
アーサーにも、
ロット王にも勝てなかったから、俺は聖杯を取りに来たのだ。
自室に入る。
小部屋が、まるで迷宮のように思えた。
ここにサーヴァントがいる。
とてつもなく恐ろしい気配がする。
ここにとどまりますか。
何かに聞かれたような気がした。
だから、リエンス王は叫んだ。
「お前が……俺のサーヴァントか!名を名乗るが良い!」
「ダッジャール……真名は、
カオスヒーローだ、本名は忘れた」
◇ ◇ ◇
聖杯 獲らなきゃ 帰れねぇ
うた:リエンス&ダッジャール
聖杯 欲しさに 来たぜ 東京
私 欲しくて たまらない
なんで 聖杯 が 欲しいんだ
なんか 他に やること 無いのか
元の 世界じゃ 殺された
一発逆転 狙うには
聖杯 獲らなきゃ 帰れねぇ
聖杯 じゃなきゃ ダメなのか
悪魔合体とか いいんじゃない?
私の 願いは ただ 一つ
認められたい それだけさ
聖杯 じゃなきゃ 帰れねぇ
悪魔の力じゃ みんな ドン引きだ
聖杯 獲らなきゃ 帰れねぇ
聖杯 よりも 愛が 欲しい
◇
「わかった……リエンス、どうせ暇人だ。お前が聖杯を獲りたいっていうなら、協力しても良い」
「本当か」
まるで花開くかのように、リエンス王が笑った。と、同時にダッジャールもまた、嗤った。
忍び装束を着て、急所部分の防御のために、紅い鉄鋼を纏った男である。
まるで闇と血の化身を思わせる男である、邪悪な――そしてどこか、自嘲を思わせた。
「お前は……いや、お前も……」
今まで偽りの環境の中にいた、そしてこれからは仮初の主従関係の中に身を投じることとなる。
ならば、不用意に関係性を揺らがせるべきではない。
しかし、リエンス王は――王だった。
支配者として意地を通そうとするのならば、聞かなけれならない。
「俺を侮っているのか」
「当たり前だろ」
ダッジャールが言葉を返した瞬間、リエンス王に宿った令呪が鈍く――輝く。
支配者であるが故に、例え孤独になっても、卑屈になることだけは出来なかった。
だからこそ、ロット王と戦うことになったのだ。
命よりも惜しい物があったのだ。
「令呪を以て命じる――」
「だから、お前は……」
ダッジャールは抗う様子を見せなかった、ただ嘲りの表情を浮かべ、言った。
「王の器じゃないんだ」
令呪から光が失われる。
何も言わず、リエンス王は部屋の隅のベッドへと向かう。
出来たはずだった、令呪を以て――ダッジャールを従わせることが。
それでも、やはり――リエンス王の――王としてのプライドが、それを許さない。
「畜生、どいつも……こいつも……」
願わずにはいられない、力が欲しいと。
エクスカリバーにも、十一人の支配者にも、いやブリテンの大地そのものに、己を認めさせる力が欲しかった。
だが、今の己はどうだ。
従者【サーヴァント】にしか侮られる程度の、王の器でしかない。
「畜生……」
ただ、ベッドで打ち震える。
王とは器だけじゃない、そのはずなのに。
◇
リエンス王は、まるで己を見るようだった。
そうだ、力が欲しかったのだ。
ダッジャール――いや、カオスヒーローも。
神の戦地と化した東京で、混沌の英雄として戦う以前の彼は弱者だった。
不良グループに虐げられ、常に力を欲していた。
力を求めて、仲間と共に戦った。
いや、今思えば彼らは仲間ではなく――人生で最初で最後の親友だったのかもしれない。
悪魔と戦い、天使と戦い、成長する度に思った、もっと力を。
そして――かつて彼を虐げた男に敗北し、彼は決意する。
力を――悪魔との合体を。
そして彼は、成ったのだ。
混沌の救世主【カオスヒーロー】に、悪魔を率いて、神を討つ者に。
だが、力を手に入れれば手に入れる程に、視界は広がり、上には上がいることを知った。
魔王、天魔、大天使、魔神――魔人である己ですら未だ届かぬ高み。
戦い、敗北した。
救世主は強く、己は弱かった。
そして、負けたが故に――偽救世主、反救世主のクラス、ダッジャールとして召喚された。
だが、後悔はなかった。
まるで、夢の様な日々だった。
いや、もしかしたら本当に夢だったのかもしれない、目を開ければ、今までのように何でもない自分がいるのかもしれない。
ただウジウジと力を求め地を這いずるだけの己がいるのかもしれない。
それでも、良かった。
良い夢だった。
本当に、良い夢だった。
ただ、不安があった。
俺は良かった。全ては夢、それで良かった。
だが、勝者である救世主は、どこへ行き着くのだろう。
ただ進み続けた先に、何が待ち受けていたのだろう。
聖杯にかける願いは無い、だが、もし許されるのならば。
「お前は……自分を救えたのか……?」
それが、知りたかった。
◇
予告譚
聖杯戦争に挑まんとするリエンス王、しかし彼のサーヴァント、ダッジャールはあからさまに彼を見下していた。
このままでは不味い、己の王のUTSUWAを示さなければならない。
そんな時、彼が出会ったのはこの魔法のネックレス!
これを付けた時から、女性にはモテモテ、仕事はバッチリで、ギャンブルも絶好調、あとサーヴァントは憧れの眼差しで見るようになりましたし、
あとドミノ倒し出来るぐらいに聖杯が集まりましたね。
今までの人生が嘘のように上向きになる リエンス王だったが!
「アナタねぇ……約束を破りましたね、魔法のネックレスを使ってる時は令呪を使っちゃいけないって」
「いや、悪かった……でも、一回だけだ、もうしないよ、約束する」
「いいえ、もうアナタに次はありません、アナタには罰が下ります」
魔法のネックレスをリエンス王に授けたセールスマンの示談の条件とは!?
次回 『聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚』!
「しまるネックレス」!
いえいえお代は一銭もいただきません。
【クラス】
ダッジャール
【真名】
カオスヒーロー@真・女神転生Ⅰ
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A
【属性】
混沌・中康
【クラススキル】
救世主(偽):A
新たな神話の時代の敗者である彼は、高ランクの偽救世主である。
彼はその逸話から属性が秩序のサーヴァントと戦う際に全パラメーターが1ランク上昇し、
中立のサーヴァントと戦う際に全パラメーターが1ランク下降する。
敗者に口なし:C
敗れた英雄たる彼は歴史の中に埋没した存在である、
故に相手が真名を看破するスキル・宝具を発動した際、その効果を防ぐことが出来る。
【保有スキル】
自己改造:A
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
悪魔と合体した彼はまさに偽の英雄である。
魔術:C+
このランクは、彼がレベルの上昇によって習得し得る魔術を一通り修得していることを表す。
また、ガーディアンとしての彼の逸話から、本来ならば使用することが出来ない、ペンパトラ、アギダイン、マハラギダインの使用が可能である。
【宝具】
『偽りの救世主の末路(デビルリング)』
ランク:A 種別:対魔宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
ダッジャールでなければ存在し得ない、平行世界の彼の宝具。
装着することで、ダッジャールの全パラメータが2ランク上昇する。
ただし、1ターン後にダッジャールはデビルリングから供給される過剰な力に抗えず死亡する。
『偽りの救世主の末路(バイバイエンジェル)』
ランク:E 種別:対神宝具 レンジ:10 最大補足:1人
ダッジャールでなければ存在し得ない、平行世界の彼の宝具。
本来の救世主を差し置いて、偽りの英雄を撃破した逸話から生じた宝具。
相手の属性が秩序、あるいは神に仕える者であった場合に発動できる。
相手の全パラメータを1ランクダウンし、ダッジャールにスキル狂化:Dを付与する。
この状態は5ターンは継続する。
『偽りの救世主の末路( そして 夢は 終わる )』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:6人
固有結界。
彼が討ち倒された場所、カテドラル下層、及びその場にいた悪魔達を再現する。
その際、彼は打倒されるべき偽りの英雄として幸運が2ランクダウンし、
引きずり込んだ敵サーヴァントの全パラメーターは1ランクアップする。
【weapon】
無銘の剣
【人物背景】
かつて、三人の少年が居た。
三人の少年は、悪魔に踊らされた。
三人は二人になり、二人は一人になった。
残った一人は真の救世主で。
消えた二人は偽の救世主だった。
だとしても。
それは良い夢だった。
【サーヴァントとしての願い】
救世主が自分を救えたかを知りたい
【マスター】
リエンス王@実在性ミリオンアーサー
【マスターとしての願い】
聖杯に選ばれたい
【weapon】
無銘の剣
尖りすぎる鎧
【能力・技能】
それなりの剣技、あと歌が上手い。
【人物背景】
選ばれて下さい それしかないの
惨めな 惨めな 手を使っても
選ばれて下さい でなきゃダメなの
選ばれない事より 惨めはないから
【方針】
未定
最終更新:2015年02月05日 03:35