桐山和雄&ザ・ヒーロー ◆devil5UFgA
「充――――」
海岸沿いを波が静かに打ち付け、海へと戻っていく。
何かを洗い流すように、しかし、嘲笑うように痕跡を残して。
その中で、艶やかな黒髪をオールバックでまとめた学生服の少年――――
桐山和雄は静止していた。
調度良い岩に腰を掛け、その手に持ったイングラムM10サブマシンガンを眺めながら、呟いた。
「俺は、本当にどっちでもいいと思ったんだよ。
いつも、いつも……」
そして、視線を移す。
ザクロを踏みつぶしたように、ぶにゅぶにゅとした地面を眺める。
それは、数分前まで動いていた物体。
もはや、ただの肉。
幼少時代に、入ったばかりの使用人がぶち撒けた食事を思い出した。
目の前の光景と、過去の記憶の中の光景は、何の変わりもなかった。
ただの物だ。
生命などではない。
重い腰を上げ、空を眺める。
満月が桐山を照らしている。
「パララ……パララ……」
唄うように、先ほど響いた音を口にする。
もっと激しい音かと思った、もっと現実離れした音かと思った。
実際は、ポップコーンの焼きあがる音と何の変わりもなかった。
「パララ……パララ……」
騒音と化したポップコーンを想像しながら、桐山は銃口を眺める。
想像とは違い、全てはもっと現実味のあるものだった。
人が破裂して現れるものは血と肉。
ただ、その血と肉は特別なものではない。
家庭科の調理実習で見るものと、大差ない。
道端に転がる犬猫の市街と、大差ない。
銃口から飛び出る音は、ただの騒音。
劇的な音であるわけがない。
ただ、少しうるさい、ポップコーンの破裂音。
ただ、少し連続する、タイヤのパンク音。
「パララ…………?」
ふと、桐山はおかしなものを見つけた。
それこそ、『現実味のない』ものだった。
包み込むように、空に広がる満月。
その奥に、あるはずのないものがあった。
目を凝らす。
視線の先に、おかしな妖光。
紅い満月が、嘲笑うように、桐山を照らしていた。
◆ ◆ ◆
最初に、母が死んだ。
母は腸を食い破られ、その皮を悪魔に被られ、死んでいた。
その時、心のなかで奇妙な音が聞こえた。
――――今ならわかる、あれは心に藁を乗せる音だったのだ。
そこからは、悪魔との戦いだった。
世界との戦いだった。
己の心との、戦いだった。
神に会えば神を斬り、鬼に会えば鬼を斬った。
その先に、何かがあると信じた。
信じた先に、人々の世界があると信じて、斬った。
神に会えば神と手を取り、鬼に会えば鬼と手を取った。
母を殺した悪魔と手を結ぶことから生まれる、腸を突き破るような怒りを抑え、その先に人が笑えると信じた。
信じた先に、二人の友が笑っていると信じて、天魔と手を取った。
けれど――――その先には、何もなかった。
何も、ありはしなかった。
己すらも、友すらも、ありはしなかった。
その先に、◆◆◆などという少年は。
その先に、■■■などという少年は。
その先に、▲▲▲などという少年は。
どこにも居なかった。
その先にあったのは。
神に捧げられた魂、ロウヒーローと。
それでも、その先に何かがあると信じた。
例え、隣から、何の声も聴こえなくなっても。
心のなかで藁が乗せられる音だけを聴きながら、人々のために奔走した。
己が斬り捨てた熾天使達が降臨する様を眺めても、走り続けた。
己の頭上と背後に熾天使達が微笑んでいる不快感を覚えても、信じ続けた。
ふと、背後を見た。
女性が倒れていた。
起き上がることはなかった。
その名を呼ぼうとし、自分がその女性の名を忘れていることに気づいた。
そこにあるのが当たり前すぎて、その女性の存在すらも忘れていた。
背後から温もりが消えた。
心の奥から聴こえる、藁が重なる音が、大きくなっていることに気づいた。
ついに、少年は自身が何をしたいのかもわからなくなった。
わからないために、少年は人々の声に耳を傾けた。
何も聞こえなかった。
その声は、少年に向けられたものではなかったからだ。
やがて少年は、人々が求めているものが自身でないことに気づいた。
やがて人々も、自身が求めているものが少年でないことに気づいた。
聖地を作る際の落石の事故。
少なくとも、歴史上では、そんな馬鹿な記述で、ザ・ヒーローの物語は終わりを告げた。
だが、本当はそうではない。
ザ・ヒーローの物語を終わらせたのは、その少し前のこと。
ザ・ヒーローが息の根を止める、ほんの少し前のこと。
人類全てのための聖なる工事の際中なのに、周囲に誰も居なかったことが。
落石の際に見た、遠くで嘲笑う人々が。
――――ザ・ヒーローの心に乗った『最後の藁』だった。
◆ ◆ ◆
桐山和雄が、世界の事実を思い出したのは映画館を見ていた時だった。
劇的なことではなかった。
ちょっとした、店員の失敗だった。
店員がぶち撒けたケチャップ。
販売コーナーの奥で回るポップコーン。
そして、自らに人懐こく話しかける、沼井充。
一週間前の朝食を連想するような気軽さで、桐山和雄は記憶を取り戻した。
「……紅い満月か」
「あれ、ボスどうしたんですか?」
「充、俺は帰る」
そう言い捨て、桐山は映画館を抜け出た。
当然、沼井は困惑し、すぐに桐山の背中を負った。
桐山と沼井充では役者が違う。
もし、『神の子』とでも呼ぶべき天才が居るとしたら、桐山和雄がそうだ。
多くの捧げられる魂ではなく、数少ない選ばれた魂。
それが、桐山和雄という存在だ。
桐山は裏通りへと向かう。
何かの確証があったわけではない。
ただ、不自然に空に輝く紅い満月の光を追って、裏通りに入ったのだ。
そこには、一人の少年が居た。
翠緑の服を着た、少年が存在した。
服、と言っても桐山のそれとは異なる。
タイトな、ボディースーツのようなその服の上に軽鎧を身につけている。
腰元には銃、背には刀を背負い、左腕には手首全てを覆うハンドベルドコンピュータが付けられている。
あまりにも若いその容姿とは裏腹な、戦士の姿だった。
「――――」
「サーヴァントというものか」
桐山はその存在を知っていた。
聖杯から魂にダウンロードされた情報。
心的な抵抗が少ないこともあって、桐山は聖杯戦争についての知識を既に有していた。
目を凝らすような心持ちで少年を見つめる。
ステータスが、脳に流れ込んだ。
つい数日前までは出来るはずのなかった行動にも、不可思議な気持ちを抱かない。
桐山和雄とはそういう少年だった。
あるいは、そう言った感情を、幼少の事故で母とともに奪われた少年だった。
「ザ・ヒーロー……エクストラクラス」
誰に伝えるわけでもない言葉。
己の状況を確かめるだけの言葉。
「――――」
ザ・ヒーローは何も口にしなかった。
バーサーカーではない以上、口をきけないわけではない。
ただ、何かを拒絶するように口を開こうとしなかった。
桐山は不快と思うわけではなく、少々の時間思案する。
しばらくすると、ポケットに手を突っ込み、何かをつかみとった。
「コインの」
桐山の指から弾かれた『何か』を、ザ・ヒーローは包み込むように優しく掴んだ。
そして、ゆっくりと指を開く。
変哲もない、ただのゲームコインだった。
「コインの、表と裏だ」
桐山は感情もなく口にする。
自ら決めても良かったが、判断をザ・ヒーローへと委ねることにした。
何しろ、桐山は『どちらでも良い』と思ったのだ。
故に、無責任なまでに選択をザ・ヒーローへと委ねた。
「お前が他者を救いたければ、そのコインの表を見せろ。
お前が他者を殺したければ、そのコインの裏を見せろ」
ザ・ヒーローは、しばしコインと桐山の顔を見比べ。
鋭く、コインを弾いた。
桐山の考えに、怒りを覚えたわけではない。
結局は同じだったからだ。
もはや、ザ・ヒーローもまた『どちらでも良かった』のだ。
くるくる、と。
くるくる、と。
くるくる、と。
綺麗にコインが中空を舞う。
桐山とザ・ヒーローの空虚な二つの視線が、重なる。
そして、ザ・ヒーローの手の甲にコインが乗る。
ザ・ヒーローはそのまま、桐山へと手を突き出した。
コインは、『裏』を向いていた。
――――今も、コロシアムの英雄像は涙を流し続けていた。
【クラス】
ザ・ヒーロー
【真名】
ザ・ヒーロー
【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具A+
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
虚偽の英雄:A
生前の思想を捻じ曲げられ、人々に祀り上げられた英雄。
人在らざる者と相対する時、スキルを含めた全てのステータスが1ランク上昇する。
しかし、真っ当なる『人間』と相対する時、スキルを含めた全てのステータスが1ランク下降する。
選民の秩序も荒廃の混沌も望まなかった、そんな少年の想いを捻じ曲げた者は、天使でも悪魔でもない人間だった。
カリスマ(偽):C
軍団を指揮する才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマ(偽)は、人々に『そうであれ』と願われて初めて生まれる、呪いじみた栄光。
【保有スキル】
戦闘続行:A+
休むことを許されない。
霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
対話:-
あらゆる生命体と対話する術を持つ。
しかし、『人類種の英雄』であることを押し付けられたことで、少年の中からこのスキルは消滅した。
人間:-
友が魔と融合しようとも、友が神の使徒になろうとも、それでも彼は人間で在り続けた。
虚偽の英雄スキルによって、このスキルは失われている。
天使と悪魔と人間に全てを奪われた少年は、ただの『人間』であることすら許されなかった。
【宝具】
『悪魔召喚プログラム(デジタル・デビル・プログラム)』
ランク:A+ 種別:対魔宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:十二柱
それは、その名のとおり、悪魔を呼び出すためのプログラム。
無数の時間を重ねて生み出された、あらゆる『魔』に属する者を統べる術を、電子プログラムに詰め込んだ電子仕掛けののソロモンの指輪。
悪魔召喚プログラム自体には特別な力が宿っている訳ではなく、要するに魔方陣の構築をオートプログラムでやってくれるだけの機械にすぎない。
現代、悪魔が要求するものは生贄や魂ではなく、より合理的なマグネタイトの現物支給を要求する。
一種の貨幣経済が生まれたことにより、初めてこの宝具が成立した。
そのため、悪魔そのものをプログラム化するのではなく、悪魔を呼び出すための"呪文"をテキストファイルとしてメモリーするのである。
縋るものなく生きられない人間が生み出した、究極の紛い物の神器。
賢者の結晶であり、愚者の末路。
【weapon】
無銘の剣とイングラムM10サブマシンガン。
セイバークラスでないために神剣を所持しておらず、アーチャークラスでないために魔銃を所持していない。
また、悪魔に連なる特殊弾を所有しておらず、通常弾のみの攻撃となる。
【人物背景】
かつて、三人の少年が居た。
三人の少年は、悪魔に踊らされた。
三人は二人になり、二人は一人になった。
残った一人は消えた一人を殺し、さらに消えたもう一人を殺した。
背中を支える女性も、いつの間にか消えていた。
少年の眼下には、人々の見上げる視線があった。
もう、どこからも声は聞こえない。
【サーヴァントとしての願い】
少年は、自身のためだけの願いすらも奪われた。
【マスター】
桐山和雄@バトルロワイアル(漫画)
【マスターとしての願い】
少年は願いを持たない。
【weapon】
イングラムM10サブマシンガン。
【能力・技能】
天賦の才としか言いようのない、短期間であらゆる術を治めることができる。
そこに指導は必要とせず、技術書の類だけでおおよその仕組みを理解できる。
まさしく、神の子。
【人物背景】
城岩中学校 男子出席番号6番
3年B組男子不良グループ『桐山ファミリー(沼井充の命名)』のリーダー。
襟足が長いオールバックの髪型が特徴。
中国四国地方トップクラスの財閥の御曹司で、容姿端麗、成績優秀かつ運動神経も抜群。
芸術的なセンスも高く、絵画や音楽でも高い才能を持つ。
喧嘩の強さや独特のカリスマ性から仲間からはボスと呼ばれて崇拝されている。
幼少時代に交通事故で実母と感情を司る脳細胞の一部を失い、かつての優しい性格を失った。
【方針】
皆殺し
最終更新:2015年02月05日 03:23