突然だが、トランキライザー学園の修学旅行は特殊だ。
金さえ払えば、本科一年目から、四季によって四回の修学旅行へ毎年参加することができる。
しかも、その内容によって常に多くのポイントが付与されていると在っては、参加しない者などいないだろう。
もちろん、付与ポイントや内容などは引率者の采配だが、これまでもっとも大きなポイントを修学旅行で獲得したのは、当時新設リンクだった【ニュクス】が参加したもので、世界最大のサハラ砂漠に無装備状態で放り出された三名が、伝説のゴールドコースト(黄金海岸)を発見し、サハラで事業を興したときだったと思う。
このときには、夜厳の順位は一気にトップ三十に食い込み、霧戒もトップ五十入りを果たした。
幽那に至っては、一時的に阿頼耶識を凌駕してランキング一位にまで登りつめたほどだ。
「ああ、早速だが、修学旅行先のクジを引いてもらう」
引率担当のアルテ・長島が、面倒臭さを隠しもせずにボックスを指差した。
「クジ?」
「クジってなんだよ? 旅行だろ?」
修学旅行一年目のビギナーには、この時点で動揺が奔ったようだ。
「おやおや、とんだルーキーが混じっているようデスねぇ」
「しかたねぇよ先輩。どんだけピカレスクを気取ったところで、一年目のよちよち歩きなんざ、俺らにしてみりゃベイビーみてぇなもんだ」
「まったく違いない。この程度の超展開でオタつくなど、とんだインディ・ジョーンズもいたものデスよ」
夜厳、勇太郎率いるニュクス&クレイドルオブフィルス+α組は、なんとも黒オーラを放っている。
主に黒いのは、トップの二人だろうが。
「今回の引率を勤める長島だ」
飛行機内の最前列正面、設置されたディスプレイにマイクを持つ長島が映し出された。
正確には、ディスプレイの前に本人が立っている。全員に見える距離にいる筈だが、わざわざ映し出す意味があるのだろうか。
「早速で悪いんだが、この飛行機に乗っている参加者四十三名中四十二名分の航空券しか注文していなかった」
周囲がざわつく。
「つまり、このあたりで誰か一人、降りてもらいたい。いや、本当にすまん。こちらの不手際だ」
嘘だ。不手際を詫びるにしては顔が邪悪に歪み過ぎている。というか、上空二万メートルに到達してから切り出していい話題ではない。
「とりあえず、この場で誰を降ろすか決めたい」
まるでパンにジャムを塗るが如き気安さで告げた。内容自体は、米にジャムを塗るくらい非常識極まっているが。
「誰か、立候補でも推薦でもいい。なにかあるか?」
そんなことを言われて名乗り出る者などいないだろう。ここから帰りの航空費用が自費となれば尚更だ。
「逆襄」
不穏な空気が広がる中、誰かがボソリと呟いた。
「ドMだからそれがむしろ快感」
それに続いて呟かれる言葉たち。なにやら妙な雲行きになってきた。
しかも、最初に呟かれた声は、普段片言の筈の夜の王で、二人目は溝鼠の皇帝閣下の声に類似していた気がするのだが、どうだろう。
「逆襄……そうだよ。逆襄がいる」
だが、機内では何者かの言葉《サブリミナル》に縋るように、なにかを思い出すようにして、英雄と云う名の羊を祭り上げ、口々にその名を紡いだ。
「俺たちには逆襄がいる」
「キングオブインサニティ……」
「狂気の王!」
「経世さん……」
「経世逆襄だよッ!」
「逆襄さん」
「ギャク!」
いつしか、機内の温度は高まり、空気は一つになって、誰もがスタンディングオベーションに至った。
「ギャークージョウ! ギャークージョウ! ギャークージョウ! ギャークージョウ!」
破れんばかりの逆襄コールに満たされる。
「ちょっ待っ! 自分ら洗脳されてんでッ!」
本人はどうしても納得いっていない。
しかし、もはやそんなことは関係がないし、そもそも彼の意見は考慮の範疇外だ。
「そうか、経世が落ちるか、流石は王の称号を持つ男だ。一味も二味も違うな」
長島がニヤリと笑むと、どう考えても押してはいけない赤いボタンに手を掛けた。
「ちょッ! 落ちるって! ここからッ? 上空二万メートルやぞッ!」
「逝ってこい!」
ボタンを押した瞬間、逆襄の下だけ飛行機の床が扉のように開いた。一瞬の暴風の後、逆襄が座席ごと機外へ放り出される。そのさまは、あたかも吹き飛ばされる紙人形さながらだ。実に笑いを誘う情景だが、実際に目撃すれば、さすがに笑ってはいられないだろう。
「覚えとれよッ! 例えオレを捨てたことで辿り着ける楽園が在るとしても、こないな横暴を続けとったら、いずれ第二、第三の逆襄が貴様らおぉおぉぉぉぉおぉぉ」
最後まで語ることを許されず、床の扉は閉じられ、逆襄は上空二万メートルからのロープレスバンジーを強制敢行した。
「さあ、改めて点呼とるぞ。落ちたヤツは基本放置だからな。同じ班で落ちたヤツいねぇか確認しとけ」
「さて、ギャンブルの聖地ラストベガスへ到着だ。だがすまん。実はホテルを予約してない」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「そこで、諸君等には、修学旅行参加者により良い旅行をエンジョイしてもらうべく、まずはホテルの手配を頼みたい」
方々から罵声が飛び交う。それも仕方ないことだ。普段ならば、かの【ジャッジメントペイン】に対しての罵詈雑言、絶対に犯してはならない愚考だが、今回はしっかり代金を払って参加した〝ツアー〟なのだ。
言うなれば、必要な手配を省略化するための代金であり、それを払っている面子がなぜホテルの手配などせねばならないのか、彼らの怒りは正しい。
「上位合格者から順にポイントを割り振り、定員数は参加人数一人につき一部屋、即ち、最大で四十二室、無論、これをすべて一人、或いは一班で調達してきても構わない」
だが、次に発せられた長島の言葉に、周囲は口を閉ざした。
長島の方は、やはり嫌な笑いだ。生徒をしっかりと操作できるという自信だろう。それを理解している何名かの生徒は、軽く舌打する。
「授与ポイントは、最大で四万二千ポイント」
ポイント数を聞いた瞬間、一同が生唾を飲み込み、説明も早々に蜘蛛の子を散らす勢いで街中へ散開した。
ここに、激闘のスクールトラベルは幕を開ける。
金さえ払えば、本科一年目から、四季によって四回の修学旅行へ毎年参加することができる。
しかも、その内容によって常に多くのポイントが付与されていると在っては、参加しない者などいないだろう。
もちろん、付与ポイントや内容などは引率者の采配だが、これまでもっとも大きなポイントを修学旅行で獲得したのは、当時新設リンクだった【ニュクス】が参加したもので、世界最大のサハラ砂漠に無装備状態で放り出された三名が、伝説のゴールドコースト(黄金海岸)を発見し、サハラで事業を興したときだったと思う。
このときには、夜厳の順位は一気にトップ三十に食い込み、霧戒もトップ五十入りを果たした。
幽那に至っては、一時的に阿頼耶識を凌駕してランキング一位にまで登りつめたほどだ。
「ああ、早速だが、修学旅行先のクジを引いてもらう」
引率担当のアルテ・長島が、面倒臭さを隠しもせずにボックスを指差した。
「クジ?」
「クジってなんだよ? 旅行だろ?」
修学旅行一年目のビギナーには、この時点で動揺が奔ったようだ。
「おやおや、とんだルーキーが混じっているようデスねぇ」
「しかたねぇよ先輩。どんだけピカレスクを気取ったところで、一年目のよちよち歩きなんざ、俺らにしてみりゃベイビーみてぇなもんだ」
「まったく違いない。この程度の超展開でオタつくなど、とんだインディ・ジョーンズもいたものデスよ」
夜厳、勇太郎率いるニュクス&クレイドルオブフィルス+α組は、なんとも黒オーラを放っている。
主に黒いのは、トップの二人だろうが。
「今回の引率を勤める長島だ」
飛行機内の最前列正面、設置されたディスプレイにマイクを持つ長島が映し出された。
正確には、ディスプレイの前に本人が立っている。全員に見える距離にいる筈だが、わざわざ映し出す意味があるのだろうか。
「早速で悪いんだが、この飛行機に乗っている参加者四十三名中四十二名分の航空券しか注文していなかった」
周囲がざわつく。
「つまり、このあたりで誰か一人、降りてもらいたい。いや、本当にすまん。こちらの不手際だ」
嘘だ。不手際を詫びるにしては顔が邪悪に歪み過ぎている。というか、上空二万メートルに到達してから切り出していい話題ではない。
「とりあえず、この場で誰を降ろすか決めたい」
まるでパンにジャムを塗るが如き気安さで告げた。内容自体は、米にジャムを塗るくらい非常識極まっているが。
「誰か、立候補でも推薦でもいい。なにかあるか?」
そんなことを言われて名乗り出る者などいないだろう。ここから帰りの航空費用が自費となれば尚更だ。
「逆襄」
不穏な空気が広がる中、誰かがボソリと呟いた。
「ドMだからそれがむしろ快感」
それに続いて呟かれる言葉たち。なにやら妙な雲行きになってきた。
しかも、最初に呟かれた声は、普段片言の筈の夜の王で、二人目は溝鼠の皇帝閣下の声に類似していた気がするのだが、どうだろう。
「逆襄……そうだよ。逆襄がいる」
だが、機内では何者かの言葉《サブリミナル》に縋るように、なにかを思い出すようにして、英雄と云う名の羊を祭り上げ、口々にその名を紡いだ。
「俺たちには逆襄がいる」
「キングオブインサニティ……」
「狂気の王!」
「経世さん……」
「経世逆襄だよッ!」
「逆襄さん」
「ギャク!」
いつしか、機内の温度は高まり、空気は一つになって、誰もがスタンディングオベーションに至った。
「ギャークージョウ! ギャークージョウ! ギャークージョウ! ギャークージョウ!」
破れんばかりの逆襄コールに満たされる。
「ちょっ待っ! 自分ら洗脳されてんでッ!」
本人はどうしても納得いっていない。
しかし、もはやそんなことは関係がないし、そもそも彼の意見は考慮の範疇外だ。
「そうか、経世が落ちるか、流石は王の称号を持つ男だ。一味も二味も違うな」
長島がニヤリと笑むと、どう考えても押してはいけない赤いボタンに手を掛けた。
「ちょッ! 落ちるって! ここからッ? 上空二万メートルやぞッ!」
「逝ってこい!」
ボタンを押した瞬間、逆襄の下だけ飛行機の床が扉のように開いた。一瞬の暴風の後、逆襄が座席ごと機外へ放り出される。そのさまは、あたかも吹き飛ばされる紙人形さながらだ。実に笑いを誘う情景だが、実際に目撃すれば、さすがに笑ってはいられないだろう。
「覚えとれよッ! 例えオレを捨てたことで辿り着ける楽園が在るとしても、こないな横暴を続けとったら、いずれ第二、第三の逆襄が貴様らおぉおぉぉぉぉおぉぉ」
最後まで語ることを許されず、床の扉は閉じられ、逆襄は上空二万メートルからのロープレスバンジーを強制敢行した。
「さあ、改めて点呼とるぞ。落ちたヤツは基本放置だからな。同じ班で落ちたヤツいねぇか確認しとけ」
「さて、ギャンブルの聖地ラストベガスへ到着だ。だがすまん。実はホテルを予約してない」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「そこで、諸君等には、修学旅行参加者により良い旅行をエンジョイしてもらうべく、まずはホテルの手配を頼みたい」
方々から罵声が飛び交う。それも仕方ないことだ。普段ならば、かの【ジャッジメントペイン】に対しての罵詈雑言、絶対に犯してはならない愚考だが、今回はしっかり代金を払って参加した〝ツアー〟なのだ。
言うなれば、必要な手配を省略化するための代金であり、それを払っている面子がなぜホテルの手配などせねばならないのか、彼らの怒りは正しい。
「上位合格者から順にポイントを割り振り、定員数は参加人数一人につき一部屋、即ち、最大で四十二室、無論、これをすべて一人、或いは一班で調達してきても構わない」
だが、次に発せられた長島の言葉に、周囲は口を閉ざした。
長島の方は、やはり嫌な笑いだ。生徒をしっかりと操作できるという自信だろう。それを理解している何名かの生徒は、軽く舌打する。
「授与ポイントは、最大で四万二千ポイント」
ポイント数を聞いた瞬間、一同が生唾を飲み込み、説明も早々に蜘蛛の子を散らす勢いで街中へ散開した。
ここに、激闘のスクールトラベルは幕を開ける。